left★原文・現代語訳★
「古文現代語訳ノート」(普通クラス)
   兼好法師『徒然草(第236段)
         /丹波に出雲といふ所あり』


〈作品=『徒然草』〉
三大随筆の一つ
 ・清少納言『枕草子』(1001年頃→平安中期)
 ・鴨 長明『方丈記』(1210年頃→鎌倉初期)
 ・兼好法師『徒然草』(1330年頃→鎌倉末期)
鎌倉時代末期1330年頃成立
〇作者=兼好法師
〇内容
 ・処世・趣味・自然・有職故実・仏教など
  →人生経験に基づいた人間・社会に対する省察
  →『枕草子』からの影響
 ・隠者文学→(仏教的)無常観の思想
 ・240余段
〇表現→・漢文訓読調・王朝的な流麗な和文

〈概要〉
高僧が思い込みにより失敗する滑稽な様を語る
                   (→要旨)

〈全体の構成〉         (→要約→要旨)

【一】<出雲神社で信仰心を起こす人々>

丹波に出雲と云ふ所あり。大社(おほやしろ)を移し て、めでたく造れり
=丹波に出雲という所(が)ある。出雲大社の神様を
 移し祭って、立派に造っている。

しだの某(なにがし)とかやしる所なれば、秋の頃、 聖海上人、その他(ほか)も、人あまた誘ひて、 「いざ給へ、出雲拝みに。かいもちひ召させん。」と て、具しもて行きたるに、
=しだの某とかいう者が治めている所なので、秋頃、
 (しだの某が)聖海上人やその他も人を多く誘って
 「さあいらっしゃい、出雲神社を拝みに。ぼた餅を
 ご馳走しましょう」と言って連れて行ったところ、

各々拝みて、ゆゆしく信起したり
=それぞれ拝んで、たいそう信仰心を起こした。

▼(段落まとめ)
丹波の出雲神社に参詣した人々は、その立派さにたい そう信仰心を起こした。

【二】<獅子と狛犬の立ち方に感動する聖海上人>

御前なる獅子・狛犬、背きて、後さまに立ちたりけれ ば、上人、いみじく感じて
=(社殿の)御前にある獅子と狛犬が、(互いに)背
 を向けて後ろ向きに(背中合わせに)立っていたの
 で、上人はとても感動して、

「あなめでたや。この獅子の立ちやう、いとめづらし 。深きゆゑあらん。」と涙ぐみて
=「ああ素晴らしいことだ。この獅子の立ち方は大変
 珍しい。深い理由があるのだろう」と涙ぐんで、

「いかに殿原、殊勝の事は御覧じ咎めずや。無下なり 。」言へば、
=「なんと皆さん、(こんな)素晴らしい事にご注目
 なさらないのですか。あんまりです」言うので、

各々怪しみて、「まことに他に異なりけり。都のつと に語らん。」など言ふに、
=それぞれ不思議に思って、「本当に他と異なってい
 るよ。都への土産話に話そう」などと言うと、

▼(段落まとめ)
聖海上人は、通常と異なる獅子と狛犬の立ち方に感動 して、特別の深い理由があると思い込む。

【三】<特別の由緒などはない単なる思い込み>

上人、なほゆかしがりて、おとなしく物知りぬべき顔 したる神官を呼びて、
=上人は更に(その言われを)知りたがって、年配で
 思慮深くいかにも物を知っていそうな顔をした神主
 を呼んで、

「この御社(みやしろ)の獅子の立てられやう、定め て習ひある事に侍らん。ちと承らばや。」と言はれけ れば、
=「この神社の獅子のお立てになられようは、きっと
 しきたり(由緒)のある事でございましょう。ちょ
 っと伺いたいものです」と仰ったところ、

「そのことに候(さふら)ふ。さがなき童(わらは) べどもの仕(つかまつ)りける、奇怪(きかい)に候 ふことなり。」とて、さし寄りて、据(す)ゑ直して 、往(い)にければ、
=(神主が)「その事でございます。いたずらな子供
 たちが致しました(事で、)けしからん事でござい
 ます」と言って、(獅子の傍に)近寄って(元通り
 に)据ゑ直して、行ってしまったので、

▼(段落まとめ)
聖海上人は神主を呼んで尋ねたが、単なる子供の悪戯 で特別の由緒はなく、思い込みである事が分かった。

【四】<無駄になった上人の感動の涙>

上人の感涙(かんるい)いたづらになりにけり。
=上人の感動の涙は無駄になってしまった。

▼(段落まとめ)
聖海上人の感動の涙は、単なる思い込みによるもので 全く意味の持たないものである事が明らかになった。



〈各段落まとめ〉
    ↓
〈160字要約〉
丹波の出雲神社に参詣し、その立派さに人々は信仰心 を起こし、聖海上人は更に通常とは異なる獅子と狛犬 の置き方に特別の深い理由があると感動し涙を流す。 しかし、呼んで尋ねた神主からは単なる子供の悪戯と 相手にされず、感動の涙は単なる思い込みによるもの で全く意味の持たないものである事が明らかになり、 何とも間の悪いものがあった。
right★補足・文法・参考★
(随筆)2018年9月



〈作者について補足〉
・伝記未詳
・歌人として活躍
 →「和歌四天王」の一人



〈参考→丹波の出雲神社〉
・京都府亀岡市千歳町出雲
最も歴史ある出雲大社の神を移し祀っている
神々しく立派な神社→参詣者に感動を与える
 →何でもない事も特別なものと思い込ませる
・所領する者の招待がないと簡単には行けない(?)
・余暇を利用した行楽として参詣される観光地(?)








・丹波=京都府中部と兵庫県東部
・大社=島根県の出雲大社
・移して=神仏を、本来祭られている神社以外の地で
     祭ること→神霊は無限に分祀できるという
・めでたく(立派に)造れ(已然形)り(存続)

・…(と)か(係助詞=疑問)や(間投助詞=詠嘆)
 =…とかいうことだ(不確実・伝聞)
・上人=知徳や慈悲心を備えた高僧(の敬称)
・いざ給へ=いざ(来)給へ・いざ(ものし)給へ
・召さ(「食ふ」の尊敬語)せ(使役)ん(意思)
 =召し上がらせましょう
★「誘ひ…具しもて行く」の主語は、「しだの某」


最も歴史ある出雲大社の神を移し祀った出雲神社の
 立派さ・神々しさに信仰心を起こす







・御前なる獅子・狛犬=社殿の前にある一対の像。
 獣をかたどり、魔除けとして置かれた。
 →…なる(存在=…にある)
・立ち()たり(存続)けれ(過去)ば(順接)


・あな(感動詞)めでた(形容詞・語幹)や(間投助
 詞=詠嘆)…涙      →聖海上人も興奮気味
☆社殿の立派さ・神々しさ+通常とは異なる置き方


・いかに=(副詞)どのように・どんなに・どうして
     (感=呼びかけ)なんと・おい・もしもし
・殿ばら=方々・皆さん→身分ある男性達への尊敬語
・殊勝なり=格別に優れている・感心だ・神妙だ
・御覧じ咎む=「見咎めむ」(下二段)の尊敬語
 →咎む=気にする・注意を払う
・無下なり=ひどい・あんまりだ
☆一目置く上人の発見に同意
★聖海上人の人柄
 ・真面目な高僧→人から尊敬され一目置かれる存在
 ・感激しやすく、独り善がりな所がある
 ・自分の学識に自信があり、勿体ぶった所がある
  →見識の高さの証明して更に周囲の尊敬を得たい



・ゆかしがる=知りたがる
・知り()ぬ(強意)べき(推量)
☆信仰心に由来する探究心と、見識の高さへの自負心
 →自分の発見に得意になって、更に人々から称賛を
  受けて認められたい思い(?)

・立て(下二・未)られ(尊敬・用)やう(接尾語)
・侍ら(丁寧語=あります・ございます)ん(推量)
・承ら(謙譲語)ばや(願望=…たい)
・言は()れ(尊敬)けれ(過去)ば()



・…に(断定「なり」用)候ふ(丁寧・補助動詞)
・さがなし=悪戯だ
・仕る=(「す」の謙譲語)致す
・奇怪なり=(形容動詞)不都合な(咎むべき)事だ










・いたづらなり=(形容動詞)無駄だ
単なる思い込み感動して涙を流したのであって、
 全く意味のないものだったと分かったから
 →最初から何も期待すべき対象など存在しなかった
  事が判明し、一体何の為に涙まで流して感動した
  のか分からなくなった、何とも間の抜けた状態
話の面白さ(←淡々と描く筆者のコメント)
 皆から尊敬される高僧が、自分の見識の高さを自信
 たっぷりと示そうとしたが、大恥をかいてしまう



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