(先生の現代文授業ノート)夏目漱石「こころ」
left★板書(+補足)★
「現代文授業ノート」(普通クラス)
   夏目漱石 「こころ」

〈作品〉
大正3年(1914) 「朝日新聞」に連載開始

〈作者〉慶応3(1867)〜大正5年(1916)
<近代文学を確立した文豪>
  ・愛媛県松山中学教諭(明治28年)
  ・正岡子規と俳句に熱中
  ・イギリス留学(明治33〜36年)

〈作風の変化など〉
○処女作     『吾輩は猫である』(明治38年)
               (文明・社会批評)
         『坊っちゃん』(明治39年)
○<前期三部作> 『三四郎』『それから』『門』

○<後期三部作> 『彼岸過迄』『行人』『こころ』
                (大正3=47才)
○最後の作品   『明暗』(絶筆・未完)
          →晩年の境地「則天去私」
          (自然にのっとり
           自分のエゴを捨てて生きる
○評論で有名な作品
  ・『日本文明の開化』『私の個人主義』

〈概要〉               (→主題)
「私」はエゴイズムから友人のKを裏切ってしまう。
事情を知ったKの超然とした態度に、「私」は良心
痛みを感じてKに謝罪しようと思うが、ついに世間体
を忘れることができないで悩むうちに、Kは自殺して
しまった。

right★発問☆解説ノート★
(小説)2013年1月(2020年9月改)



・47歳→自然主義文学(明40〜)に反対の立場

・慶応で江戸が終わり、明治が始まる(〜49歳)
・漱石=頑固者の意、本名は金之介→占いで名付ける
・英文学者として出発

・森鴎外はドイツ留学


・1905年、雑誌「ホトトギス」に載り、文壇に登場

余裕ある態度で社会を風刺
倫理観と反社会的な行為
 →急激に変化する社会・流れについていけない人間
<エゴイズム>(利己主義)・個人主義を追求
         (人間の自己本位で身勝手な心)
    ↓
乗り越える道を追求
 =「天」(自然の摂理)に従い、
  「私」(自分)の小さな考えを捨てる

・講演内容のまとめ (自由には責任がついている)

          ← 信頼 ← ←
      <私> → 恋 →   ↑
      嫉↓↑      ↓  ↑
      妬↓↑信←好意←<嬢><奥>        ↓↑頼     ↑
      <K> → 恋 →

left★板書(+補足)★
〈文学史的な位置づけ〉
自然主義(明治40年〜)     (→私小説)
 ・人間のあるがままの姿(醜い面)を描写
 ・島崎藤村『破戒』・田山花袋『蒲団』
    ↓↑
<反自然主義>
 ・<余裕派・高踏派>
   ・自然主義に対し、広い視野を持つ
   ・夏目漱石『こころ』・森鴎外『高瀬舟』など
 ・白樺派
   ・志賀直哉・有島武郎・武者小路実篤
 ・耽美派
   ・谷崎潤一郎

right★発問☆解説ノート★

・2007年〜
・現実を描く→暗い
・『夜明け前』(藤村)


      現実を   一歩高い所から
      他とは違う 余裕ある視点で 見る
             ↓<余裕派・高踏派>
             ↓
  <自然主義>→→<<現 実>>



left★板書(+補足)★
〈小説全体の枠組み〉
○「上 先生と私」「中 両親と私」は
   「先生」亡き後の
   「私」の回想としての手記の形式
〇「下 先生と遺書」は
   「先生」が「私」に宛てた遺書の形式、をとる



right★発問☆解説ノート★

 「私」……………学生(23才位)鎌倉の海水浴場で
  ↓      先生と出会う 「上 先生と私」
  ↓      卒業後、帰郷 「中 両親と私」
 先生(35才位)…郷里にいる「私」に遺書を送る
               ↓「下 先生と遺書」
     <先生が自分の学生時代を回想した内容>
     →「私」(23才位)とは、学生時代の先生

left★板書(+補足)★
〈「上中下」三部 全体の粗筋〉
○「上 先生と私」
  大学生の「私」が、鎌倉の海水浴場で先生と知り
  合い、その人柄に惹かれて家に通う。
  先生は、大学を出ながら職も持たず、美しい奥さ
  ん
を愛しながら、人間を信用できない。そして、
  毎月一人で友人の墓参りをする。
○「中 両親と私」
  「私」は大学を卒業して帰省する。病後の父が再
  び倒れた前後、明治天皇の崩御と乃木大将の殉死
  が報じられ、先生から分厚い遺書が届き、「私」
  は直ちに上京する
〇「下 <先生と遺書>
  遺書の内容で、<先生の過去(学生時代)と、
  自殺を決行するに至る心境>(罪悪感・孤独)が
  綴られる。
  <「私」とは、「上」・「中」の「先生」>
  のことである。

right★発問☆解説ノート★
・先生(35才位)=「下」では「私」
         (23才位、学生)
・鎌倉→漱石は『門』『彼岸過迄』『行人』で
    鎌倉を舞台として使い、また、別荘を借りて
    家族を避暑に行かせ、自分も海で泳いでいる
・友人=「下」ではK(23才位、学生)

・当時の大学は、入学式は九月、卒業式は六月
 →「私」=23歳(12歳+中5・高3・大3年=23歳)
・明治四十五年(1912)
・殉死=主君の死に寄り添って死ぬ
 →森鴎外は殉死を批判→『阿部一族』
・高等中学校が高等学校と称されるようになったのは
 明治二十七年
(東京では一高だけ)。
 従って「先生」の上京はそれ以後、
 学生時代は明治三十年代となる(27+3+3=33年)
恋(学生)〜Kの死〜(「私」=先生)自殺


left★板書(+補足)★
〈舞台設定〉   (「下 先生と遺書」採録部分)
○時代設定(背景)
  ・<明治30年代(先生の学生時代…23才位)>
     〜明治45年(先生の自殺…35才位)
       (明治天皇の崩御と乃木大将の殉死)
○場所
  ・東京帝国大学・上野公園および周辺
  ・軍人未亡人の奥さんとお嬢さんがいる下宿
○人物の設定
  @主人公「私」
    ・思いやりのある優しい心を持つ性格
    ・東京帝国大学の学生
    ・お嬢さんへの恋心を抱く     →嫉妬
  A親友「K」          (信念)
    ・<道のために生きることを第一信条>
     として生きる強固な性格
    ・寺に生まれた
     →意思強固で勉強家。
      頑なに孤独に生きようとする
     →「恋」「愛」は信条を妨げるもの
  B下宿のお嬢さん
  C下宿の奥さん
  ※下宿の「私」・K・お嬢さん・奥さんの4人
   によって、ストーリーは展開


right★発問☆解説ノート★
・1897(明30)〜1912年(明45)
・先生が大学3年(23歳)だったのは、明治33年位?
→明27=高1=17歳→大3=22〜23歳→明45=35歳
→明30=高1=17歳→大3=22〜23歳→明45=32歳
        (第一高等学校は明治27年に開校)



・両親が病死、叔父が遺産の管理でごまかし、
 人間不信に陥り、厭世的になる
・上京して、…下宿から大学に通う
 →奥さん(軍人の未亡人)・お嬢さんの家族同様の
  世話のため、心がほぐれて恋愛感情も生じ始める
・同居したKがお嬢さんと親しそうで、嫉妬を覚える

・同郷の幼馴染で、真宗の寺の次男
・医者の家に養子にやられるが、勝手に別の科に進み
 養家から離縁・実家から勘当され、窮乏していた
 →夜学の教師などをして、過労・神経衰弱
「私」の援助で同居(「私」が下宿代を負担)






left★板書(+補足)★
<小説の舞台設定…5W1H>
 (いつ)  明治33年(23歳)頃の2月頃(?)
 (どこで) 軍人未亡人とお嬢さんがいる下宿で
 (誰が)  同居している「私」の友人Kが
 (何を)  道に外れた自分を断罪すべく(?)
 (どうした)自殺した
   ↑
 (なぜ)  自分の生き方に寂しさを覚えて
       耐えられないものがあった(?)から

right★発問☆解説ノート★
<小説の枠組>

                ↑
                ↑
              <時代>
        ←←<場所>【人物】<場所>→→
              <時代>
                ↓
                ↓

left★板書(+補足)★
〈主題〉(「下 先生と遺書」教科書の採録部分)
良心を忘れて友人を裏切ってしまった、エゴイズムと
良心との相克(葛藤)を描いている。
(構成としては、恋愛と友情との相克を描いた前半と
エゴイズムと良心との葛藤を描いた後半、から成る)
(世間体)(自然)


right★発問☆解説ノート★
★<作者はこの小説で何を描こうとしたのか→討論>
誰の心にも潜むエゴイズムを問題としている。しかも
その罪を断罪(罪を裁く)しているのではない。
エゴイズムを抱きながら生きるとはどのようなことか
も追究しているのである。
 →良心を持った人間も免れることのできない(?)
  裏切り・世間体(挿入句での批判)・良心の復活

left★板書(+補足)★
〈授業の展開〉

【一】(起)嫉妬を自覚する「私」
                    (導入)
<十一月、寒い雨の降る日>

〇下宿に帰宅
  ・Kの部屋は火鉢に火 (誰もいない…温かい)
    →「私」のはそうでない
    ↓
     急に不愉快・不思議
    ↓
〇往来に出る(散歩)
    ↓
  ・初冬の寒さと侘しさ (が体に食い込む感じ)
   空は冷たい鉛のように重く    (見えた)
    ↓
〇往来のぬかるみで、
 <Kがお嬢さんと連れ立って帰宅>するのに遭遇
  ・不意に自分の前が塞がった
    →Kが恋の前途を塞ぎ嫉妬の対象となる伏線
  ・いつもの通り、ふんという調子
    →Kの性格がわかる描写
             (感情を表さず不愛想

    ↓
○どこに行っても面白くないような心持
       ぬかるみの中をやけにどしどし歩いた

○帰宅しKに尋ねると、
  ・偶然出会ったから(一緒だった)と言う
  ・お嬢さんにも同じ問いを…
    →お嬢さんは嫌いな例の笑い方をする
        (若い女に共通な嫌いな所もある)


    ↓
  ・Kがうちへ来てから
   …目に付きだした

    ↓
  ・<嫉妬を自覚する「私」>
    ↓
 ・(ほとんど)取るに足りない些事
  この感情(嫉妬)が…    (湧きおこった)
          →<愛>の裏面にこの感情が…
           <嫉妬>は愛の半面…
<自分の心を相手の胸へ>たたきつけようか
    →奥さんにお嬢さんとの結婚を申し込もうか
    ↓           (談判を開こう)
 〈しかし〉断行の日を延ばす
  1.(奥さんは)<財産目当て>ではないか
  2.お嬢さんがKの方に意が(という疑念)
      ↑
   「私」の恋愛観
    1.極めて高尚な愛の理想家
                →相思相愛を理想
    2.最も迂遠(遠回り)な愛の実際家
      →一度もらえばどうにか落ち着くでは
       承知できないくらい熱していた
       (情熱があるのに行動を起こせない
<お嬢さんに直接「私」を打ち明ける>機会も
    ↓
 〈しかし〉
  ・<日本の習慣>として…許されていない
         →明治三〇年代の一般的な習慣
          両親の倫理観
         →日本人の若い女…勇気に乏しい

▼〈まとめ〉
同じ下宿に同居することになった友人Kとお嬢さんが
親しげに見え、「私」は嫉妬を自覚したが、自分の心
を伝えられないかと思いながら、何も行動できないで
いた

right★発問☆解説ノート★




※明治30年代(当時の大学は入学9月、卒業6月)
 「私」とKは大学3年(23歳)→翌春にKは自殺


・Kよりもないがしろにされたと感じた
・その日もKは遅れて帰る時間割だった
        →火鉢に火があるので不思議に思う



・情景描写→人物の内面を暗示
・泥…後生大事に=一所懸命つとめ、大事に


・「ちょっとそこまで」と…不愛想。しかし、今回は
 同じようなKの態度に嫉妬を覚える
・少なからず驚いた
 →不愛想なKが、お嬢さんと…帰宅したので、
  理由がわからず困惑
・その時分の束髪は今と違って…
      髪を束ねて結う西洋風の女性の髪形だが
      お嬢さんは額の上で廂を出していない。
Kに対する嫉妬から、二人のことが気になって仕方  なくて落ち着かず、やり場のない自暴自棄な気持ち

・真砂町で…→距離からすると、
 Kとお嬢さんが偶然連れ立ったのは十五分程度?
・他にも、「Kとお嬢さんしか家にいない所に帰宅
 した「私」が、奥さん不在の理由を「何か急用でも
 できたのか」と聞くと、お嬢さんはただ笑っている
 のです。……若い女に共通な点と云えばそれ迄かも
 しれませんが、お嬢さんもくだらない事によく笑い
 たがる女でした」とある。
☆お嬢さんの嫌いな所が目に付きだした原因を、
 Kに対する「私」の嫉妬に当てはめる。
・帰す=罪や責任をあるものに当てはめて
    そのせいにする

☆「私」の質問に、お嬢さんが嫌いな笑い方をして
 正面から取り合わないこと。





・他の手に乗るのが嫌だという我慢が、抑えつけて
 動けなくした
 →財産目当てで娘と結婚させようと奥さんは考えて   いるのではないか、という疑いも抱いていた。
・自分がいくら思っても相手が他の人に愛の眼を注い
 でいたら、一緒になるのは嫌(相思相愛を理想)
 →信仰に近い愛であって、お嬢さんの事を考えると
  気高い気分が自分に乗り移ってくるように思った
・一度もらってしまえばどうにか落ち着く位の哲理
 (本質にかかわる深い道理)では承知できない位
 熱していた

・日本の習慣として…許されていないのだという自覚
 があった       (恋愛という問題の提示)
 →「私は倫理的に生まれた男です」と遺書の冒頭に
  あり、明治三〇年代の一般的な習慣を踏まえる。
  二十歳前に両親を亡くし一人きりになった「私」
  は、その倫理観を胸にして生きる支えとしていた








left★板書(+補足)★
【二】(承)Kの告白と「私」の悔恨
                   (展開@)
〇こんな訳で       (…立ちすくんでいた)
 <どちらの方面へも進めず>
      =(お嬢さんとの結婚を望みながら)
       奥さんにもお嬢さんにもKにも
       打ち明けることができず

<正月、かるたと「私」の嫉妬>

〇お嬢さんがKの加勢
  ・苛立つ「私」(嫉妬)
  ・Kの態度は変わらず      (無関心?)

<2・3日後、Kの告白と「私」の衝撃>(下宿)

○Kが仕切りの襖を開けて、
 いつもに似合わない話
    ↓
○なかなか奥さんとお嬢さんの話を止めず
  ・「私」は不思議に思う
      →他人には無関心
      →調子が変わっている
  ・なぜ今日に限ってそんな事ばかりと尋ねると
   Kは突然黙る       (…奥と嬢の話)
    ↓
<Kがお嬢さんへの恋を「私」に告白>
    ↓     (重々しい口から切ない恋を)
   打ち明けられ驚いた「私」は
   彼の魔法棒のために一度に<化石された>
    =「私」は恐ろしさ・苦しさの塊 になった
    ↓
   一瞬の後(人間らしさを回復し)
 <しまった、先を越された>     と思う
    ↓  →後れをとって不利な立場に置かれる
〇(私)どうしようという分別がまるでない
 (K)重い口調でぽつりぽつり と心を打ち明ける
    ↓  ・同じ調子で考えて話す
    ↓  ・重くて鈍い代わり、とても容易には
    ↓   動かせない
感じを与え強く胸に響く
 (私)苦しくてたまらず
   相手は自分より強いという恐怖の念  が兆す
    ↑
 (K)自分のことに一切を集中   しているから
    「私」の苦しさには気づいていない
   =「その苦しさは…大きな広告塔のように…」
             (漱石の比喩の面白さ)
○(Kの話が済んだ時)
 「私」はただ<何事も言えず>
      →何かを言い返しておけばいいのだが…
       あの時こうしておけばこうなのに…
○(昼飯のとき…Kと向かい合わせに座り)
 (いつにない)まずい飯     (を済ませた)
      ・食事も咽喉を通らない状況

<昼食後、「私」の悔恨>(部屋〜往来で)
          (Kの告白に動揺する「私」)
(昼食後)
〇めいめいの部屋で、二人は静か
    ↓     (「私」もじっと考えていた)
〇「私」は心を<Kに打ち明けるべきだが>
 <時機が遅れ、悔恨>  に頭がぐらぐら
        ・なぜさっきKの言葉を遮って
         こっちから逆襲しなかったのか
                   →手抜かり
        ・Kの自白に一段落がついた
         今となっては<不自然>
〇(Kが仕切りの襖を開けて現れるのを待ち)
 午前に失ったものを今度は取り戻そう
           (という下心を持っていた)
      ・さっきはまるで不意打ちも同じ
      ・しかし、Kは永久に静か(→苦悩?)
○(…頭はかき乱されるが、働きかけられる)
 <時機を待つほかない>
    ↓ ・言いそびれて、自分からは何もできず
○(じっとしておられず)正月の町を歩き回るが
          (Kのことで頭がいっぱいで)
 彼の姿を咀嚼   (していた)
    ↓
<Kが解しがたい>男に見え、
 一首の魔物のように思えた。
   =相手にするのが変に気味が悪く
    彼を動かすことはとうていできない
      @どうして突然「私」に告白したのか
      A 〃  恋が募ったのか
      B平生の彼はどこに吹き飛ばされたのか
           →Kは強い(←知っている)
   永久に彼に祟られたのではないか
○(疲れて)帰宅すると
 <Kは依然として静か>

<夕飯〜夜、そっけないK>

○間もなく…俥の音が     (門前で止まった)
(夕飯の時)
〇二人とも寡言           (だったが)
      (お嬢さんに声を掛けられて)
 Kは顔が薄赤くなった
(その晩十時ごろ)
〇…Kはまだ起きていた
      ・奥さんが蕎麦湯を持ってきてくれた
      ・Kの…ランプの光が部屋に差し込んだ
(深夜暗い中で)Kが何をしているかと
      (私)「おい」と声を掛けると
      (K)向こうからも返事が返ってきた
      一時二十分、ランプを吹き消す音が
      して真っ暗でしんと静まった……
      また襖越しに
      (私)「今朝の事でもっと詳しい話を」          と声をかけたが
      (K)「そうだなあ」と低い声で渋る
      (私)またはっと思わせられた
      (K)応じない

<「私」の内心の動揺>     (後悔と焦燥)

(翌々日も)
〇(例の問題について)Kの生返事
    ↓         (態度に現れていて)
   「私」は変にいらいら
   折があれば自分から口を切ろうと決心
<しかし>          (観察したところ)
〇(奥さんもお嬢さんも変わった点がなく)
 Kの<自白は「私」だけに限られたもの>と考え
    ↓
   少し安心
 =Kの動かない様子・奥さんとお嬢さんの言語動作
    ↓            (を観察して)
 ようやくここに落ち着いた
    =<例の問題にはしばらく手をつけずに>
     そっとおくことにした
    ↓↑
   人間の胸の…指し得るものだろうか
    =人間の複雑な心の中が、様子や言語動作に
     偽りなく現れるものだろうか(?)

<学校が始まったある日、往来でKに肉薄>

(学校がまた始まったある日)    (1月末?)
〇往来でKに肉薄
 @(私)自白が「私」だけに限られているか聞いた
  (K)彼は誰にも打ち明けていないと明言
  (私)内心嬉しがった
 A(私)恋をどう取り扱うつもりか
     実際的の効果も収める気なのかと尋ねた
     =お嬢さんとの<恋を成就>させるのか
  (K)何も答えず、黙って下を向く
  (私)すべて思った通りを話してくれと頼む
     =Kの答え次第で「私」の取るべき態度を
      決めなければならないと思った
  (K)何も隠す必要はないと断言
    ↓
  それなりにしてしまう

〈まとめ〉
年が明けた正月のある日、Kがお嬢さんへの恋を突然
「私」に告白したが、「私」は驚きと苦しさのあまり
何も言えなかった。自分もKにお嬢さんへの恋を打ち
明けるべきだが、事が一段落した今は時機を待つほか
ないものの、Kの動向が気になってならなかった。

right★発問☆解説ノート★


財産目当て・恋愛観・日本の習慣
・奥さんにも承諾を申し入れることができず
 お嬢さんにも直接打ち明けることができず
 Kにもお嬢さんへの愛を明言できずにいる
      (結婚意思)

・年が暮れて春になり、ある日かるたをする
 →Kは来て一年近く経ち、下宿で初めて新春を
  迎えるが、自殺
。「私」は二年前から住んで
  いて、この年(6月)に大学を卒業
・…Kの加勢をし、喧嘩を始めたかもしれなかった



★仕切りの襖=<二人の心や関係を仕切るもの>
☆奥さんとお嬢さんの話




・元来無口なKは、いったん口を開くと
 普通の人よりも倍の強い力がある。
  (「私」の心情を表す箇所をチェック
  →小説の読解では、場面ごとの心理描写に注意)


驚きのあまり全く身動きできず、何も言い出せない
 ほど<固まってしまった>    (比喩・強調)
 →口をもぐもぐさせる働きさえなくなってしまった
 →頭から足の先まで急に固くなり呼吸さえできない
  ほどだった
「私」もお嬢さんへの恋を告白すべきだ

・余裕がなく、気味の悪い汗…




☆性格的な強さ(一種の恐ろしさ)に気おされして、
 Kには勝てないという畏敬の念・コンプレックス
 抱くようになる


☆顔面にはっきりと分かるような苦しさが表れている

★何事も言えない理由
 @あまりの驚き・恐怖・苦痛のため、身動きできず
 A後れをとって不利な立場に置かれた
 B相手は自分より強いという恐怖の念があった
















★(お嬢さんへの恋の告白でKに先を越されたが)
 自分もお嬢さんへの愛をKに明言しておこう
         (結婚意思)




☆時機を逸して不自然、Kに対するコンプレックス


・咀嚼=口の中で食べ物をよくかみ砕き、味わう。
 言葉や文章などの意味・内容をよく考えて理解する




※後の伏線
 こうと信じたら一人で進んで行く度胸も勇気もあり
 恋愛など道の妨げと軽蔑している












☆Kが告白した日の晩



・「私」は遅くまで暗い中で考えていて、半ば無意識
 に声を掛けた →隣のKがひどく気になる




☆今朝、Kが「私」にお嬢さんへの恋を告白した

☆Kはお嬢さんへの恋を成就しようとしているのでは
 ないかと思った



・この三日間、懐疑・安心・不安の交錯
自分も心の内をKに明言しておこうと思いながら
 何も言えなかったのは…    (→悔恨・動揺)
 @Kの突然の自白への驚き・恐怖で、身動きできず
 B相手は自分より強いとのコンプレックスがあった
 A後れをとって不利な立場に置かれた
 C時機を逸して不自然で、待つしかなかった




・同じ事をこうも取り、ああも取り、Kの告白事件に
 ついて、K・奥さん・お嬢さんの様子を観察して、
 心の中であれこれ考えた
☆お嬢さんへの恋の自白については、何もせずにKの
 様子を見ながら、時機を待つ








・肉薄=相手に迫る、厳しく問い詰める

・疑い深い「私」も、Kが横着で度胸にもかなわない
 との自覚があったが、一方では妙に彼を信じていた


☆奥さんやお嬢さんにも告白する気か















left★板書(+補足)★
【三】(転)苦悩するKと「私」の葛藤
                   (展開A)
@<Kの迷いにつけ込む「私」>
           (Kの苦悩と「私」の逆襲)
<ある日、図書館〜上野公園で苦悩するK>

(ある日)
〇学校の図書館で(外国雑誌の)調べ物…
 突然Kに名を呼ばれ、
 彼の所作に一種変な心持ちがした。
   =「私」を待つ<Kの胸に一物あり>
      ・談判でもしに来られたように思われる
      ・恋に関する計略がある
      ↑
   Kを恋敵として見るようになってしまったため
   Kの一挙一動に<疑心暗鬼>になっていたから
〇(二人で)図書館を出て上野公園で散歩
   「私」を散歩に連れ出したKの意図は
   例の事件について「私」に相談するため
    ↓   (Kがお嬢さんへの恋を自白した)
 Kはまだ
 実際的の方面へ向かってちっとも進んでいず
 「私」の批判を求めたいようだった
    ↓       恋愛の淵に陥った彼を
    ↓      「私」がどんな目で眺めるか
   Kの平生と異なる
      (「私」に公平な批判を求める
       よりほかに仕方がないとKは言った)
 <しかし>
<その時の「私」は違っていた>
 (K)いつもに似ない悄然とした口調で
   「自分が弱い人間であるのが恥ずかしい」
   「進んでいいか退いていいか」(恋か断念か)
   「迷っている」(自分を見失っている)
 (私)「退こうと思えば退けるのか
              (Kに諦めさせたい)

<打ち倒そうとする「私」>

<「私」は他流試合でもする人のように>
              Kを注意して見ていた
   =Kを打ち倒すべき敵と捉えている心中の比喩
      ・(私)五分の隙間もないように用意
      ・(K)穴だらけ・開け放し・無用心
        ↓
   要塞の地図をゆっくり眺められた… (暗喩)
    ↓
〇Kは<理想と現実の間に彷徨>
  ・理想→<道のためにはすべてを犠牲>にすべし
    ↑ という第一信条に従って
    ↓ 求道一筋に生きる
  ・現実→道の妨げとなるお嬢さんへの恋慕の情
      とらわれてしまっている
    ↓
〇「私」は彼の虚につけ込んだ
    ↓ (無防備な状態・心の迷い)
  @急に厳粛な改まった態度     (=策略
  A【精神的に向上心のない者はばかだ】
    ↓            (この言葉は)
  復讐以上に残酷な意味
  =第一信条を貫かせる事により、恋を諦めさせる
       →Kを窮地に追い込む、最も辛い言葉
       (理想に反する恋に陥る矛盾を指摘
    ↑
〇「私」の<利己心の発現> (エゴから出た言葉)
  @せっかく積み上げた過去を蹴散らしたのでなく
  A「私」の利害と衝突するのを恐れた

〇「私」は同じ言葉を繰り返し
            (Kへの影響を見つめた)
 (K)「僕はばかだ」と繰り返し
             立ち止まったままである
 (私)居直り強盗のごとく感ぜられた  (直喩)
    思わずぎょっとする
    ↓
    しかし、Kの声がいかにも力に乏しい

<Kの「覚悟」と「私」の認識>
           (「私」のKに対する認識)
〇「私」はKと並んで足を運ばせながら
 次の言葉を暗に待ち受けた
      Kの善良さに敬意を払うどころか
      そこに付け込み
 彼を打ち倒そうとした        (→比喩)
 =<狼のごとき心を、罪のない羊に>向けた
 =狼がすきを見て、罪の咽喉笛へ食らいつくように
    ↓
 (K)「その話を止めるよう」と言ったが
 (私)追い打ちをかけるように覚悟という言葉を…
   「それを止めるだけの覚悟がないと
    平生の主張はどうするつもりなのか」
        彼の様子を見てようやく安心したが
 (K)卒然【覚悟ならないこともない】
               と独り言のように…
     (Kの「覚悟」とは?)
      第一信条である求道的な生き方に背き
      恋に陥った自分を自ら否定して断罪する
    ↓             (罪を裁く)
    夢の中の言葉のようだった
〇(二人は…話を切り上げ、帰途に…)
 寒さが背中へ    (かじついたような心持…)
〇(下宿へ帰ってから…無口なKはいつもより)
 (なお)黙っていた

〈まとめ〉
ある日、Kがお嬢さんの事で「私」に相談してきた。
理想に反する恋に陥る矛盾に苦悩して、批評を求めて
きたのだが、そんなKの迷いにつけ込んで、「私」は
「精神的に向上心のない者はばかだ」と指摘し、更に
「覚悟」を求めた。Kは「覚悟ならないこともない」
とつぶやいたが、「私」は利己心からKの恋の行く手
を塞ごうとしたのであって、恋愛と友情との葛藤で友
を裏切ったという後ろめたい気持ちがした。

right★発問☆解説ノート★
・ぼぼ直接話法→Kの行動や心情について、「私」が
 詳細に解説     (当時を振り返っての解説)






・上半身を机の前に折り曲げるようにして
 顔を「私」に近づけた。…前に座り「私」を待つ
・胸に一物あり=心に何か謀り事・企みを抱く
・「私」が不安だから、Kがいつもと様子が違う
 ように感じる。普通なら何も思わない



・「私」も、課題よりもお嬢さんとの事が気になり
 気が散って急に雑誌が読めなくなる



☆お嬢さんへの恋を成就するための具体的な言動を
 示していなかった
・「どう思う」と聞く
・Kの天性は人の思わくをはばかるほど弱くはなく
 こうと信じたら一人でどんどん進んでゆくだけの
 度胸と勇気のある男


恋愛と友情との相克(葛藤)→エゴイズム
・悄然=しょんぼりして元気がない










☆Kを<敵対視>して倒そうとばかり考えている
☆いつもは優しいが、お嬢さんがらみだと利己主義
友人を信用しての相談
・要塞=敵から身を守る砦
☆敵である相手の心の中を自分の手中にしていた

・彷徨=目的もなくさまよう
精神的に向上して、天に達するような道を歩む
 生き方をする          (道を究める)
    ↓
<精進>→摂欲や禁欲はむろん
      欲を離れた恋そのものも道の妨げになる

・ただ一打ちで倒すことができるだろう
               (←劣等感・敵意)
☆後ろめたさを隠し、信憑性を高める
 →真剣すぎて自分に滑稽・羞恥を感ずる余裕はない

☆この言葉を「私」の発した意図
 ・Kの前に横たわる恋の行く手を塞ぐ→諦めさせる
 ・Kの積み上げてきた過去を、今まで通り積み重ね
  て行かせる→道を究める本来の生き方に戻らせる

・遺書を書いている「現在」の視点からの考察
☆第一信条を守り精神的に向上することを求めてきた  過去→生き方に誇りを持ち厳しく自己を律してきた
☆お嬢さんへの恋の成就


<第一信条に基づいて生きるべきだった>
☆どうせ恋に落ちた馬鹿者なら、いっそのこと落ちる
 所まで落ちようと開き直り、精神的に向上する心を
 捨てて、否定していたはずのお嬢さんへの恋に進む
 のではないか、と感じられた
       →疑心暗鬼から来る言葉の捉え間違い



・待ち伏せ・だまし討ち→敵対意識
 →自分の卑怯さに、はっと我に立ち返ったら
  赤面しただろう  (「現在」の視点での考察)
☆友を信頼する、(正直・単純)善良なKの性格を
 利用して、彼を打ち倒そうとした
★「私」の利己心にとらわれた卑怯な心を、
 Kの善良な性格に向け(て打ち倒そうとし)た



★「私」→お嬢さんへの<恋を断念する>覚悟


☆人一倍の正直者だったから、自分の矛盾などを
 非難される場合は決して平気でいられない
★覚悟→<今までの生き方との矛盾を清算>
   =<自己否定>→(×自己処罰?→後の伏線)
           (×漠然と死を意識?)
   =自己を反省し今まで以上に厳しく道を究める
☆まだ考えが彷徨している弱々しい覚悟
☆「私」の良心からして
 利己心により友を裏切った後ろめたい気持ち
・強い意志があるのに、道の妨げに彷徨している
 ことで自分を責めている
 →(×)覚悟を決めているから落ち着いている










left★板書(+補足)★
A<Kを出し抜く「私」>
          (「私」の最後の決断と求婚)
<覚悟…安静から不審へ>     (…黒い影)

〇(その頃覚醒とか新しい生活とかいう文字が
 まだない時分だったが…)
 現代人の考え(がKに欠けていた訳ではなかった)
   =個我(個人としての自我)・近代的自我
      (→大学の知識人・インテリゲンチャ)
    ↓
〇(「私」はKの心を)
 双方の点において見抜いていた (つもりだった)
   @(投げ出すことのできないほど)
    尊い過去があった
   A(現代人の持たない)
    強情と我慢があった
    ↓
   <過去が指し示す道を、今まで通り>
         (Kは…歩かなければならない)
上野から帰った晩
〇(「私」にとって)安静な夜だった。
〇(穏やかな眠りに落ちた「私」は)
 Kに呼ばれた
 間の襖が開いて<Kの黒い影>
            (=影法師が立っている)
   不思議な言動
          「もう寝たのか」
          「たいした用でもない」
          「まだ起きているかと思って」
   <自殺の伏線>
(翌朝)
〇(昨夜の言動について尋ねると)
 (K)はっきりした返事はなく   (かえって)
    「近頃は熟睡できるのか」と向こうから問う
 (私)変に感じた
(一緒に家を出た通学途中)
〇(昨夜の事が気になり)
 (私)Kを追及すると
 (K)あの事件について話すつもりではなかった
    と強い調子で言った
 (私)突然「覚悟」という言葉が
            妙な力で頭を押さえ始め…
    <再び不安に>
    ↓
〇「私」は一般を心得た上で、例外の場合を捕まえた
 つもりで得意だった
  ・一般→平生のKの<果断に富んだ性格>
      求道的な生き方に向かっていること
  ・例外→恋愛(お嬢さんへの恋)の場合には
      優柔であること
 <ところが>
 <Kの「覚悟」という言葉を咀嚼>するうちに
    ↓  …「私」の得意はぐらぐら動き始めた
   この場合も例外ではない (のかもしれない)
   …そうした新しい光で…眺め返してみた
      =恋愛も果断に富んだ性格が発揮される
       例外ではない、という新しい考え方

    ↓  Kの「覚悟」の真意を捉え直した
   (全ての疑惑・煩悶・懊悩を一度に解決する)
 <最後の手段>がKの胸中にあるのではないか
  →Kがお嬢さんへの恋に進んでいくと思い込んだ

<「私」の最後の決断>

〇「私」も<最後の決断が必要だ>
          (という声を心の耳で聞いた)
   =Kを出し抜いてお嬢さんに求婚すべきだ
(しかし、奥さんへの談判の機会がなかなか訪れず)
(一週間後)
〇仮病を使い、機会を得た
     ・言葉の上でいい加減にうろつき回った
      Kが近頃何か言いはしなかったか聞いた
     ・Kの打ち明け話を奥さんに伝える気の
      なかった「私」は「いいえ」と言った後
      自分の嘘を快からず感じた
<「私」の突然の結婚申し入れ>   (に対し)
 奥さんは快く承諾        (してくれた)
     ※奥さんの人となり
      ・軍人の未亡人として家を守ってきた
      ・決断があり、気風がいい
      ・形式にこだわらない
      ・本人が不承知…やるはずがありません
   落ち着いていられないような気もする
              (「私」は表へ出た所
   何も知らないお嬢さん   (に行き合った)
    ↓
未来の運命は定められた (…全てを新たにした)
     =心理的な混迷の状態にあったが
      <将来への希望>が開けることとなった
      …しかし、<一時的な安堵>でしかない

▼〈まとめ〉
「僕はばかだ…覚悟ならないこともない」というKの
言葉で、上野から帰った晩は安静だったが、真夜中に
襖が開いてKの黒い影が立ち、不思議な言動をした。
Kの「覚悟」とは恋に進むことではないかと再び不安
になって、最後の決断をした「私」は、一週間後Kを
出し抜いてお嬢さんとの結婚の承諾を奥さんから得、
未来の運命が定められたと思った。

right★発問☆解説ノート★
・次々と新たに思い込みが重なってゆく様子が
 後悔の中で語られる


☆その頃→明治三十年代
 =封建的な家父長制の「家」の時代
  →国に対する「忠」・家に対する「孝」
個人の自由(という考え)


★Kは、現代人の考え(近代的自我)が欠けていた訳
 でないのに、お嬢さんへの恋を断念した
のは、恋は
 道を究めるという理想に反する矛盾があったからだ
          →「私」はそれを見抜いていた



☆また第一信条に基づいた生き方に戻り
 お嬢さんへの恋を断念する

・何をしてもKに及ばなかった「私」もKを倒した
 勝利を確信した           (…覚悟)

・二人の心や関係を仕切るもの→信頼して?心を開く

・彼の声は普段よりもかえって落ち着いていた
 →道の妨げに彷徨する自分を責め、恋に陥った
  自分を否定する覚悟を決めつつあるから
 →唯一の友を信頼しようと思うから(?)









・鋭い自尊心を持った男→一度決めたら動かない
 道の妨げに陥った自分を否定する覚悟を決めている
☆「私」の思っているKの「覚悟」の内容は
 合っているのか、再び不安に陥る
       →疑心暗鬼から来る言葉の捉え間違い





・理想とする第一信条に反するから

Kの「覚悟」の真意は何か? 恋の告白で一度Kに
 先を越され、今また実行に移す時にも先を越される
 かもしれない、という恐怖感に似た不安を持つ
☆恋愛の場合も例外ではなく、Kの果断に富んだ性格
 が発揮される




・もう一ぺん公平に見回したらば、まだよかったかも
 しれない



Kより先に、Kの知らない間に、事を運ぶ覚悟を
 決めた→奥さんに談判
・告白で「先を越された」という手痛い思い・焦燥感
・好都合が出てきてくれず、いらいらする
・上野から帰った晩(Kの黒い影)から一週間後

☆用件とはかけ離れた無駄話をした
☆Kのお嬢さんに対する恋
「私」の嘘に気付かず、心配してくれる奥さん
 なかなか話を切り出せず
☆Kを出し抜こうとする一方、良心の呵責も感じる

・大変心持ちよく話のできる
 →話は簡単でかつ明瞭に片付いてしまった

・男のようにはきはきした所のある
 →「私」の方が形式に拘泥するくらい
お嬢さんも「私」に好意を抱いている→暗示




・「こころ」の時代は明治→恋心よりも立場が大事
 →Kが申し込んでも、受けてもらえなかったかも
  しれない=「私」の援助を受け、立場が低い
★Kは<最も信頼>していた「私」に話したが、
 「私」はKを<出し抜いた(裏切った)>









left★板書(+補足)★
B<Kへの謝罪にためらう「私」>
           〈エゴイズムと良心の葛藤〉
<「私」の良心の復活>

〇散歩に出た (ものの絶えずうちのことを考え…)
 この二つのもので      (…歩かせられた)
   =@さっきの奥さんの記憶
    Aお嬢さんのうちに帰ってからの想像
 <しかし>
 <Kのことをほとんど考えなかった>
           (…ただ不思議に思うだけ)
〇(散歩から戻り)
 Kの部屋を抜けようとした瞬間  (Kに対する)
 <良心が復活>した
    ↓
    衝動=Kの前に手をついて、謝りたくなった
 <しかし>
 「私」の自然はすぐ<食い止められた>
     =良心の命令に従って
      Kに<謝罪したいという衝動>
    ↓
 永久に復活しなかった

〇夕飯の時、Kとまた顔を合わせた
 <鉛のような飯>を食った
           ・すべてを知っている「私」
           ・何も知らないK
           ・何も知らない奥さん
           ・ただ今と答えるお嬢さん
事の成り行きを推察       (していたが)
 奥さんが話すのではないか  (と冷や冷やした)
    ↓             (幸いにも)
   恐れを抱いている点までは
    ↓         (話を進めなかった)
   (ほっとして部屋に戻る)
 <しかし>
 <Kに対して取るべき態度>
    ↓     (考えずにはいられなかった)
   (卑怯な「私」は)
   <Kに説明するのが嫌>    (になった)

<立ちすくむ「私」と奥さんの爆弾発言>

(二・三日の間)
<Kに対する不安>  (が絶えず胸を重くした)
   =奥さんとお嬢さんの様子や言葉から
    「私」とお嬢さんの婚約(Kへの裏切り)が
    Kにばれるのではないかという不安
   =更に、その裏切りが奥さんやお嬢さんにも
    知られる
のではないかという不安
    ↓
 (お嬢さんとの婚約を)
 奥さんを介してKに知らせることも(考えるが…)
             (それもできずにいた)
          →面目のないのに変わりはない

<「私」は正直な道を歩くつもりで
  つい足を滑らし、窮地に陥った>
    ↓ =自分の恋に忠実に生きようとして
    ↓  友人を裏切る結果になってしまった
   ・隠したい
    ↓↑     (エゴイズムと良心の葛藤)
   ・前に出ずにはいられない
   →この間に挟まって<立ちすくむ>
(五・六日後)
〇(私とお嬢さんの婚約について)
 <奥さんがKに話したことを知る>
  (K)<最後の打撃を、最も落ち着いた驚き>
  (私)胸が塞がるような苦しさを覚えた
(裏切りを知らされた後も)
〇Kは<超然とした態度>    (を保っていた)
    ↓     (敬服すべき…立派に見えた)
   策略で勝っても、人間として負けた
    ↓
   ・Kが軽蔑しているだろうと思う
   <しかし
   ・Kの前で恥をかかせられるのは
    自尊心にとって大いに苦痛だった

▼〈まとめ〉
友を裏切ってのお嬢さんとの婚約が、周囲に知られは
しないかという不安が胸を重くした。一方で、Kへの
謝罪の衝動が募るが、世間体を気にして立ちすくんで
いた。5・6日後に、「私」は奥さんからKに事情を
話したことを知って、その時の超然としたKの様子に
人間として負けたと思う。

right★発問☆解説ノート★




散歩の道筋などが不必要なまでに詳細に語られる
 →高揚した気分が間接的に表現
・もうあの話をしているだろう
・もうあの話が済んだ頃だ

・Kのことを忘れるくらいに一方に緊張
 →「私」の良心が許すはずはなかったのだから

・Kに病気を気遣われた→Kの純粋な心

・衝撃の大きさ→続く衝撃が破滅を予感
・奥には人がいる  (自分の立場を守ろうとする)
 →世間体を気にする思い・自尊心が勝った
 →周囲の状況から謝罪の衝動を抑え込む

 <利己心>←→<良心>
      葛藤



☆「私」の良心からの
 周囲の人々を欺いているという辛い気持ち
・Kを出し抜いて、お嬢さんと婚約(=裏切り)
・Kもお嬢さんに恋心→Kを裏切って婚約
・皆と食卓に並ばない←決まりの悪さ
☆「私」の求婚を、奥さんがお嬢さんに伝えたか


☆Kのいる所で、婚約を話題にする



・色々な弁護をこしらえたが
 Kに対しては不十分だった






・Kに済まない→Kの正直や信頼を裏切った、という
 人としてしてはいけない事をしてしまった
 →「私」とこの家族との間に成り立った
  新しい関係を<Kに知らせなければならない>
 →しかし、倫理的に弱点を持っている「私」には
  至難のことに感ぜられた


自分の弱点を、自分の愛人とその母親の前にさらけ
 出さなければならない。結婚する前から恋人の信用
 を失うのは、堪えられない不幸のように見えた

☆滑ったこと(裏切り)を、周囲の人に
 知られなければならない→「私」の良心
 →気の付いているのは、天と「私」だけ



立ち直って、もう一歩前へ踏み出そう


・奥さんからの詰問


・「私」の裏切りが、Kを自殺に追いやることになる
・奥さんがKに(婚約)話をしてから二日後、
 Kは少しも以前と異なった様子を見せない
                  (自己抑制)
策略でお嬢さんとの恋を成就できたとしても、
 人間として自分の方が劣っている
               (劣等感・敗北感)

          天涯孤独
           ↑↑
       ×<実家><養家>×
      << 外   界  >>
        ↑      
   唯一の <私>   <嬢> 一筋の
   つながり ↑     ↓  光明
        ←←<K>→→

自分一人の閉塞的・観念的な世界で生きるK

left★板書(+補足)★
【四】(結)Kの自殺と「私」の運命
                    (結び)
<Kの自殺>

(土曜日の晩)
〇「私」が進もうかよそうかと考えた末
 明くる日まで待とうと決心した土曜日の晩
 <Kは自殺>した

<発見時の「私」の反応・心理(運命)>

仕切りの襖が(この間と同じくらい)開いている
 (しかし)Kの黒い影はない
   (私)暗示を受けた人のように…
      突っ伏したKに声をかけるが
   (K)返事はなく、動きもしない
    ↓
〇(直後の「私」の受け止め方)
1.<恐怖>
    ・「私」の目は…能力を失った
    ・棒立ちに…立ちすくむ
2.<罪の意識・暗い運命の予感>
  ・(また)ああしまった
  ・もう取り返しがつかないという黒い光が
              …一瞬間に全生涯を…
     =Kに謝罪する機会を永遠に失い
      生涯重い罪の意識を背負って
      いかなければならなくなった
      という不吉な予感     (←良心)
<それでも>↓↑ (葛藤)
3.<捨てきれない利己心>
  ・「私」を忘れることができなかった
    ↓
   Kの遺書に気づき(慌てて)、それを開封した
    ↓
  @「私」に不都合な内容が書かれていない
   ことを確認すると
   <まず助かった、と思う>
        (遺書を読んだ者は
         Kの自殺と「私」との関係を疑う
         ことがないだろう、と考えた)
  Aわざとみんなの目につくように置いた


<Kの遺書の内容>

1.「薄志弱行で、行き先の望みがない
  ・全てを犠牲にして求道に精進して生きることを
   第一信条として生きてきたが、その妨げとなる
   恋に陥り
、今まで通りの生き方が続けられるか
   分からなくなった、という自責の念、 つまり
   理想と現実との衝突が、自殺の<直接の原因
                 (×自己処罰)
      (自己矛盾を「私」に激しく責められて
       自尊心の強いKは耐えられなかった)
  ・更に、唯一の友の裏切りと失恋を知り、
   寂しさに耐えきれない孤独と絶望に陥り
   生き方の全て(理想・友・恋…)において
   将来に望みが持てなくなった
               自殺の<きっかけ
2.「お嬢さんの名前は回避
  ・書かないことで、鮮明に意識して死んでいった
   ことが分かる
  ・Kのお嬢さんへの真剣だった恋は、「私」との
   婚約の成立で失恋に終わったことになる
           (失恋が自殺の原因の一つ
  ×独りよがりの恋をして自己中心的な相談をした
   ことで、親友を追い詰めて裏切り行為をさせて
   しまった、という自責の念(から自殺した)
3.「もっと早く死ぬべきだったのに、なぜ今まで
   生きていたのだろう」と最後に墨の余りで…
    (Kの冷静さの仮面が剥がれ、抑えていた
     激情が顔をのぞかせ、最も痛切に感じた)
  ・天涯孤独のKにとって唯一の友だった「私」に
   裏切られた、驚き・孤独感・絶望感・寂しさで
   <生きる望みが絶たれた>ことから、死を決意
  ・自殺が遅れた   (→いつ死を決意したか)
    ×「覚悟ならないことはない」
    ×上野に行った晩の黒い影の不思議な言動
    〇<「私」とお嬢さんの婚約を知った時>
    ↓
<Kの自殺の原因>

 ・第一信条である求道的な生き方の妨げになる恋に
  陥ってしまった、という自責の念
      (直接の原因、但し自己処罰ではない)
 ・失恋して自分の恋を断たれた絶望感?
   (恋を断念せざるを得ない生き方の寂しさ?)
 ・唯一の友に裏切られた寂しさ・孤独感・絶望感
 ×相談したことで友に裏切り行為をさせた自責の念
    ↓
 〇<「私」とお嬢さんの婚約>を知ってしまって
  生きる望みが絶たれた<寂しさ>から、死を決意

〇<後年の「私」の解釈…Kの死について>(53章)
 ・失恋のため      (裏切りはきっかけ?)
    ↓
 ・理想と現実との衝突(観念的・思想的な悩み)
    ↓
 ・「私」のように、<たった一人で淋しくて>
  仕方がなくなった結果、急に所決したのでは
  なかろうか    (孤独の実感に耐えきれず)

▼〈まとめ〉
友の裏切りとお嬢さんの婚約を知らされた後も超然と
した様子のKに、人間として負けたと思う「私」は、
全てを打ち明け謝罪しようと思うが、自尊心のために
出来ないでいた。葛藤の末に、明日まで待とうと決心
した土曜日の晩、Kは自殺してしまった。それを発見
した際、また一瞬恐怖と苦痛で固まり、全生涯を黒い
光が照らし出したように感じた。しかし、非常事態の
中にあって自殺の原因は自分にあると受け止めながら
も、世間体を取り繕おうとする利己心を捨てきれない
「私」は、Kの遺書の内容を確かめて、まず助かった
と思った。

right★発問☆解説ノート★





☆Kに全てを打ち明けて謝罪するか
 このままでやり過ごすか、迷っていた→<葛藤>
  謝罪 ←→謝罪せず
 <良心>←→<自尊心・利己心・エゴイズム>


☆Kは「私」に、無言だが何かを訴えたかった(?)
・偶然西枕に…なんかの因縁…
           枕元から吹き込む寒い風で…
   (西方浄土=西に死んだ人の行く場所がある)
             (北枕=死を意味する)



★@(恐怖で)体が硬直するほど強い衝撃を受けた
 →Kから突然恋の自白を聞かされた時とほぼ同じ
            (驚き・恐怖・苦痛の塊)


・絶望的な後悔…がたがた震える
★A謝罪する機会を永遠に失ったと思う
 →生涯罪の意識を背負わねばならず
 =Kの死が「私」の未来を不吉なものにすると直感
    (暗い人生・運命の恐ろしさを感じた)


☆自らの罪におののく一方、自分の立場を守るために
 自己の利害を冷静に判断した    (→世間体)
自殺の原因は自分にあって、お嬢さんの名前がない
 ことから、失恋も原因の一つと受け止めた
★B机上の手紙には、抽象的な事ばかりが書かれいて
 予期した辛い文句はなく、まず助かった、と思う
 (「私」の裏切りを責める言葉はなかった)
 →自分のせいで死んだのに、利己心を捨てきれない
  =非常事態の中にあっても、世間体を取り繕おう
   とするエゴ

☆自分の非難についてのみ気にしていて、
 周囲に気が向かないくらい遺書に集中していたが、
 安心したら、周囲を見ることができるようになった





☆Kは「道」のために全てを犠牲にして精進すること
 を第一信条として生きてきたが、その信条に反して
 お嬢さんに恋をしてしまった。その上、その矛盾を
 友に激しく責められ、自尊心の強いKは自己矛盾に
 耐えられなかった





















☆天涯孤独なKが、ただ一人で全てを犠牲にして求道
 に精進して生きることは、人間として可能か?
 恋愛も友情も全てが妨げとなる生き方をした人間が
 果たして歴史上に存在したのか?






自分一人の閉塞的・観念的な世界で生きるK

          天涯孤独
           ↑↑
       ×<実家><養家>×
      << 外   界  >>
        ↑      
   唯一の <私>   <嬢> 一筋の
   つながり ↑     ↓  光明
        ←←<K>→→





















left★板書(+補足)★
【※】補足…その後(粗筋と先生の死)
                    (補足)
〇<その後の粗筋>
 ・Kの遺骸の後始末→雑司ヶ谷の墓地に埋葬
  毎月墓を訪れて懺悔
 ・大学を卒業
  お嬢さんと結婚
    ↓
 ・暗い影が付きまとう
   =Kのことを忘れることができず、常に不安
    自分も身勝手な人間だと考えると、
    他人どころか、自分さえ信じられなくなる
    ↓
 ・書物や酒に不安を紛らそうとするが
                   解消されず
    ↓
 ・罪の意識を抱きながら
  <死んだつもりで生きていこう>(と決心する)
   =心の中は苦しい闘いの連続
    「死の道」(自殺)だけが
    未来に開けているのを自覚
          (表面は何の波乱も曲折もない
           単調な生活)
    ↓
 ・明治天皇が崩御し、「明治の精神」が
  (天皇に始まって天皇に)終わった気がする
    ↓
  乃木大将の殉死を知り
  <「明治の精神に殉死する」つもり>
  自殺を決意

〇先生(=「私」)の死について
      (「下 先生と遺書」における「私」)
             (恋の成就)
 @友人の信頼を裏切ってまで我執を貫き、
  友人を自殺に追いやったことを
  倫理的に許せなかった、<自責の念>
 Aお嬢さんと結婚し、一旦は幸福を味わうが、
  妻が中間に立って、Kと「私」を結びつける
    ↓   (妻を見ていると、
    ↓    その向こうに死んだKが見える)
  妻を避ける→孤独感・<疎外感>(→酒・書物)
 B自分もあの叔父と同じだという思い
           (人間不信・<自己不信>
 CKの死によって暗示された<不吉な運命>
 ▼<たった一人で淋しくて仕方がない>
    ↓
    死
    ↑
 E乃木大将の殉死大義名分(名目)
    西南戦争の際、連隊旗を奪取された(遺書)
    日露戦争の時、多くの戦死者を出した
    ↑
    鴎外→殉死を扱った作品「阿部一族」
      (漱石も)
    白樺派→批判的

▼〈まとめ〉
Kの遺骸を雑司ヶ谷の墓地に埋葬し、毎月墓を訪れて 懺悔していた「私」は、大学を卒業してからお嬢さん
と結婚した。一旦は幸福を味わうが、自己不信の思い
と罪悪感・疎外感に苛まれた。書物や酒に紛らそうと
するが解消されることはなく、たった一人で淋しくて
仕方がなかった。死んだつもりで生きていこうと暗い
日々を送っていたところ、明治天皇が崩御して、乃木
大将が殉死した。その事を知った「私」は。「明治の
精神に殉死する」つもりで自殺を決意した。

right★発問☆解説ノート★






・奥さんの唯一の誇りとも見られるお嬢さんの卒業
            →活け花・琴・高等女学校




























































left★板書(+補足)★
〈全体の構成…起承転結〉  (教科書の採録部分)

【一】(起)嫉妬を自覚する「私」
  ・十一月の寒い雨の降る日(散歩中)
                    (導入)
【二】(承)Kの告白と「私」の悔恨
  ・正月、かるたと「私」の嫉妬
  ・二・三日後、Kの告白と「私」の衝撃
  ・昼食後の部屋〜往来で、「私」の悔恨
  ・夕飯〜夜、そっけないK(「私」の内心動揺)
  ・学校が始まったある日、往来でKに肉薄
                   (展開@)
【三】(転)苦悩するKと「私」の葛藤
                   (展開A)
 @<Kの迷いにつけ込む「私」>
  ・ある日、図書館〜上野公園で、苦悩するK
  ・打ち倒そうとする「私」
  ・Kの「覚悟」と「私」の認識
 A<Kを出し抜く「私」>
  ・安心から不審へ(覚悟…黒い影…)
  ・「私」の最後の決断
 B<Kへの謝罪にためらう「私」>
  ・「私」の良心の復活
  ・立ちすくむ「私」と奥さんの爆弾発言
【四】(結)Kの自殺と「私」の運命
                    (結び)
  ・Kの自殺
  ・発見時の「私」の反応・心理(運命)
  ・Kの遺書の内容
  ・Kの自殺の原因
















【※】補足…その後(粗筋と先生の死)
                    (補足)
 @<その後の粗筋>
 A<先生(=「私」)の死について>
      (「下 先生と遺書」における「私」)
 ※<「先生」が「私」に手紙を書いたのは>
  ・「ただあなただけに、私の過去を物語りたいの
   です。……あなたは真面目に人生そのものから
   生きた教訓を得たいと言ったから」
  ・「私の鼓動が停まった時、あなたの胸に新しい
   命が宿る
事が出来るなら満足です」

right★発問☆解説ノート★
〈全体の構成…起承転結U〉 (採録部分の詳細版)

【一】(起)嫉妬を自覚する「私」
▼11月、寒い雨の降る日(散歩中)
  →Kがお嬢さんと連れ立って帰宅するのに遭遇
  →嫉妬を自覚する「私」
                    (導入)
【二】(承)Kの告白と「私」の悔恨
▼正月、かるたと「私」の嫉妬(下宿)
  →かるたでお嬢さんがKに加勢→苛立つ「私」
▼2・3日後、<Kの告白>と「私」の衝撃(下宿)
  →Kがお嬢さんへの恋を「私」に告白
  →一瞬固くなった後、先を越されたと思う「私」
▼昼食後、「私」の悔恨(部屋〜往来)
▼夕飯〜夜、そっけないK
  →「私」の内心の動揺(後悔と焦燥)
▼学校が始まったある日、往来でKに肉薄
                   (展開@)
【三】(転)苦悩するKと「私」の葛藤
@<Kの迷いにつけ込む「私」>
▼ある日、苦悩するK(図書館〜上野公園)
▼打ち倒そうとする「私」
  →散歩中、批評を求めるKに
  「精神的に向上心のない者はばかだ」と指摘し
   Kに「覚悟」を求めると
   Kは「覚悟ならないこともない」とつぶやく
  →「私」はKの恋の行く手を塞ごうとした
▼Kの「覚悟」と「私」の認識
A<Kを出し抜く「私」>
▼その夜、安心から不審へ(覚悟…黒い影、下宿)
  →真夜中に襖が開いてKの黒い影が立つ
  →翌朝、Kの「覚悟」の意味を解釈し直す
▼1週間後、「私」の最後の決断(下宿)
  →Kの不在時に、
   お嬢さんとの結婚の承諾を奥さんに得る
  →「私」は未来の運命が定められたと思う
B<Kへの謝罪にためらう「私」>
▼その晩、「私」の<良心の復活>(下宿)
  →夕食時、事情を知らない三人の中で苦しむ
  →Kへの謝罪の思いが募る「私」
▼5・6日後、立ちすくむ「私」と奥さんの爆弾発言(下宿)
  →奥さんがKに事情を話したことと
   その時のKの様子を知る
  →超然としたKに人間として負けたと思う「私」
                   (展開A)
【四】(結)Kの自殺と「私」の運命
▼その晩、<Kの自殺>(下宿)
  →Kの自殺を発見し、Kの遺書の内容を確かめる
▼発見時の「私」の反応・心理(運命)
  →再び一瞬固まり、黒い光が全生涯をを照らし出
   出したが、遺書を読み助かったと思う「私」
▼Kの遺書の内容
▼Kの自殺の原因
                    (結び)
【※】補足…その後(粗筋と先生の死)
                    (補足)

left★板書(+補足)★
〈鑑賞…Kの位置づけ・人物像〉
(1)天涯孤独なK
「私」と同郷の幼馴染であるKは、真宗の寺の次男で
あった。医者の家に養子にやられたが、勝手に別の科
に進んで養家から離縁され、実家からも勘当されて、
天涯孤独の身であった。
ここにKの原点の全てがある。誰も頼らず強く生きて
行こうとしたのだろう。窮乏して、夜学の教師などを
して過労・神経衰弱だったが、「私」の援助で下宿に
同居することになった。「私」が畏敬の念を抱くほど
意思強固な勉強家のKは、他人に無関心で頑なに孤独
に生きようとしていた。唯一の友「私」を通してのみ
外界とつながっている有様だった。

(2)「道」という自分だけの世界
Kは、「道」のために全てを犠牲にして「精進」する
ことを第一信条としていた。自分が精神的に向上して
天に達するような道を究める、ということだろうか。
欲を離れた恋も道の妨げになるというものであった。
厳しく自分を律して精進する日々を積み上げて行き、
尊い過去を振り返ってはその指し示す道を将来も歩み
続けようとするのだ。そんな過去から未来につながる
自分だけの閉塞的で観念的な世界に一人生きるKは、
自分のことだけを考えている利己主義者と言えよう。
また度胸と勇気、強情と我慢がある果断に富んだ性格
でもあった。それに対し、叔父に裏切られてから人間
不信に陥り、他人の心ばかり気にしながら生きている
「私」は対照的で、Kは強くて何をしても及ばないというような屈折した思い を抱いていた。

(3)人の心とKの人間らしさ
しかし、天涯孤独な身で全てを犠牲にして求道に精進
して生きることは、人間として可能だろうか。恋愛も
友情も妨げとなる生き方など有り得ないはずだ。Kも
人の心や愛と全く無縁に生きることはできなかった
下宿での「私」の存在、奥さんやお嬢さんの家族同様
の世話が、Kの心を次第にほぐしたようだ。
ある日、自分だけの閉塞的で観念的な世界に、一筋の
光明が射し込んで来た
。お嬢さんへの恋だ。初めての
経験であり、これは何だという戸惑いを覚えたに違い
ない。求道的な生き方に背くものでもある。
理想との矛盾に彷徨する苦悩を、唯一の友の「私」に
自白・相談した。Kは、恋をし、自分から心を開いて
他者の世界を受け入れようとする人間らしさ
があった
のである。「精神的向上心がない……」と激しく指摘
された夜、黒い影となって不思議な言動をしたのも、
仕切りの襖を開けて自殺した晩も、そうだった。信用
する友に心を求めていたのだ。裏切りを知らなかった
Kは、仮病だった友を気遣う言葉もかけている。
思いやりがあり優しい性格のような、正直な道を歩く
つもりでつい足を滑らし、友人を裏切る結果になった
「私」とは違う。純粋で正直な心の持ち主であって、
友を信頼する善良な青年だったのだ。

(4)決して強くはないK
また、一度決めたら動くことはない意志強固なKは、
決して強くはなかった

理想との矛盾に苦悩するKは、「私」にそんな強くは
ない自分を曝け出さずにはおれなかった。矛盾を友に
指摘され、「僕はばかだ…覚悟ならないことはない」
という夢の中のような言葉も弱々しい。自尊心の強い
Kは、過去の言動との矛盾に耐えられない自己否定
思いがあったのだろう。自分から心を開いて受け入れ
ようとした唯一の友の言葉でもあったからだ。
「私」の裏切りを知った「最後の打撃」は、最も落ち
着いた驚きで、超然とした態度を保っていたが、実際
の心の中は
どうだったろうか。次々と人間関係を断ち
切られ
、初めて経験する恋も永遠に失う絶望の中で、
唯一の友「私」を通してのみ外界と繋がっていたが、
その友も自分を裏切っていたのだ。理想も友も恋も、
自分を支えてくれるものは何もないのだ。
人間であるKは、決して強くはなかった。自分を超越
して天に達するなどいうことはないのである。

right★発問☆解説ノート★
(5)利己主義者ではない善良な青年K
Kは、自分だけの世界で自分のことだけを考えている
意志強固な利己主義者
のように思える。自分の信念に
生きる人間で、他者の世界を認めはせずに、一方的に
自分の世界に相手を巻き込む所があるように見える。
しかし、そうではない。実は、天涯孤独で、閉塞的な
世界で自足しているのではない。心の奥底では人の心
や愛を求めている
、正直で純粋な心の持ち主で優しく
思いやりのある、善良な青年なのだ。自尊心が強くて それを見せないだけなのである。




〈鑑賞…Kの自殺の理由〉
天涯孤独のKは、精神的に向上して天に達する「道」
を究める、という自分だけの閉塞的で観念的な世界で
頑なに一人で生きようとしていた。唯一の友「私」を
通してのみ外界とつながっていたと言える。しかし、
その「道」のために全てを犠牲にする生き方が無理な
ことは自明である。

そんな自分だけの世界に、外界から光明が射し込んで
来た。お嬢さんへの恋で、初めてのことに戸惑った。
自己矛盾であり理想の挫折である。他者である「私」
に、自分から心を開いて自白・相談したが、利己心で
しか答えてくれず、裏切られてしまった。

失恋して自分の恋を断たれ、唯一の友にも裏切られた
ことを知って絶望したKは、更に真っ暗闇の孤独の底
へと突き落とされてしまった。生きる望みが絶たれた
寂しさから、Kは死を決意したのである。

  <外 界>→→
    ↓    ↓一
    ↓    ↓筋
  < 私 > <光>=<お嬢さん>
  信↑↓↓裏  ↓
  頼↓↓↓切  ↓
  < K >→→
   孤 独








〈雑感…人間の心〉
利己心が心を支配した
    ↓
 思いがけず、人を殺してしまった
    ↓
人間の心のあり方   (『こころ』の大切な部分)
 ・自分<一人>だけなら<良心>を持つ
            (純粋なまま)
  しかし、人は人と関わらないといけない(常に)
    ↓
 ・<他者>と関わることによって
  良心にズレが生じて、<利己心>が生まれる
 (自分をガードしてしまう)(エゴイズム)
    ↓ (悩む)
 ・二つの間で<葛藤>・相克する
    ↓    (精神の成長は葛藤があるから)
 ・他人と関わる中で、
  どれだけ<則天去私>に近づくかが大切
       (→いかに状況に沿って生きられるか
         しかし、則天去私はできない)
 ・明治=思想がしっかりした時代
   →天皇が死ぬことで、そういう思いもなくなる
NHK漱石「こころ」解説
NHK鴎外「舞姫」解説

貴方は人目の訪問者です。