(先生の現代文授業ノート)室生犀星「小景異情」
left★板書(+補足)★
「現代文授業ノート」(普通クラス)
   室生犀星「小景異情」

〈出典〉
 ・初出 大正2年(1913)(作者24歳)
     北原白秋の主宰する「ザンボア」
 ・後に 大正7年(1918)詩集「抒情小曲集」
     冒頭に収められた六編連作の一つ

〈作者〉
 ・明治22年(1889)〜昭和37年(1962)
 ・石川県金沢出身の詩人・小説家
 ・詩集 「愛の詩集」「抒情小曲集」
  小説 「性に目覚める頃」「杏っ子」

〈表現〉
 ・文語自由詩七五調が基調のリズム(→音楽性)
 ・平仮名表記の「ふるさと」「みやこ」
  →柔らかく温かい感じがして、自分を疎外せずに
   受け入れてくれる所を意味する
 ・最後リフレイン2回
 ・大袈裟な表現と哀愁→詩の魅力
 ・平仮名を用いた表記

〈概要→主題〉
 ・帰りたいが帰れない故郷と、帰りたくないが帰る
  しかない都の疎外と葛藤を、東京で詠んだ詩

right★発問☆解説ノート★
(詩)2014年10月(2020年10月改)

・小景=故郷の何気ない景色
・異情=(それに)まつわる様々な心情
・犀=(故郷)金沢を流れる犀川

懐かしい故郷と馴染めない都という図式で、故郷と
 都を対比的に描く(複雑な心情)
・幼年時代の故郷の情景とそれにまつわる甘く切ない
 感覚が、叙情的に描かれる







・堅苦しい漢字と対比的










left★板書(+補足)★
〈全体の構成〉    (←時系列・場面・心情)

【一】(前半)<故郷に対する葛藤>
      (故郷への複雑で屈折した郷愁・心理)
  ・帰りたいが、帰れない「ふるさと」
    ↓
  ・遠くで懐かしむだけのもの

【二】(後半)<都に対する葛藤と決意>
      (疎外される都で生きようとする決意)
  ・自分を疎外する異郷だが、他に帰る所がない
     ↓
  ・帰りたくないが、帰るしかない「みやこ」

  << 都 >> << 故郷 >>
     ↑↓      ↑↓
   葛藤↑↓疎外  葛藤↑↓疎外
    <<   作者   >>
          ↓
        都で生きる

right★発問☆解説ノート★
〈教材〉

    小景異情            室生犀星

【一】(前半)
ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの

よしや
うらぶれて異土(イド)の乞食(カタヰ)となるとても
帰るところにあるまじや

【二】(後半)
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ

そのこころもて
遠きみやこにかえらばや
遠きみやこにかえらばや


left★板書(+補足)★
〈授業の展開〉

【一】(前半)<故郷に対する葛藤>
         (故郷への複雑で屈折した郷愁)
<ふるさと>は 遠きにありて 思ふもの
  ・<(帰りたいが、帰れない)「ふるさと」>
   遠くにいて懐かしむだけのものだ
そして悲しく うたふもの
  ・そして、哀しく思い出して詠うだけのものだ

よしや(=たとい・仮に)
うらぶれて(=落ちぶれて・心が萎れて)
  ・(そんな故郷から上京して)
   仮に(事が上手く行かずに)落ちぶれて
異土(=異郷)の乞食と なるとても
帰るところに あるまじや(=あるべきでないなあ)
  ・異郷の乞食となったとしても、
   (故郷は自分を受け入れはしないのだから)
   帰る所であるべきでないなあ

▼〈まとめ〉
故郷は懐かしくてたまらないが、仮に落ちぶれて乞食
となるほどのことがあったとしても、自分を疎外する
故郷は、決して帰るべき所ではない

right★発問☆解説ノート★



☆故郷は、自分が生まれ育った懐かしい心の拠り所で
 ある。だが、作者は生い立ちも幸せでなく、自分を
 疎外
するものだった。そんな彼は、現実とは異なる
 幻想の故郷を胸に抱き、心の支えとしたのだろう。
・詠ふ=和歌や詩などで表現する
・大袈裟な表現と哀愁→詩の魅力→人気ある詩に

・七五調のリズムと異なる→疎外された屈折・葛藤




・…に(断定「なり」連用)…まじ(打消推量or意思)
 や(詠嘆=…あるものか・ないものだろうなあ
★@故郷からの疎外 A上京して都で生きるという志







left★板書(+補足)★
【二】(後半)<都に対する葛藤と決意>
      (疎外される都で生きようとする決意)
ひとり<都>の ゆふぐれに
ふるさとおもひ 涙ぐむ
  ・(上京しても、自分を受け入れてくれず)
   一人寂しい「都」の片隅で、夕暮れ時、
   懐かしい「ふるさと」を偲んで涙ぐむのだ

そのこころもて(=気概を持って)
  ・何があろうと帰郷しないとの気概を持って
遠き<みやこ>に かえらばや(帰ろう)
遠きみやこに かえらばや
  ・(疎外される異郷だが、他に帰る所はなく)
  <帰りたくないが、「みやこ」に帰るしかない>
   (遠い存在である、この「みやこ」に帰ろう)
▼〈まとめ〉
一人寂しい都で故郷が懐かしく涙ぐむことがあるが、
何があろうと帰郷はしないとの気概を忘れず、自分を
疎外する異郷でも他に帰る所はない、この都に帰って
生きていこうと思う

right★発問☆解説ノート★


☆都=東京→漢字(疎外)・平仮名(生きる所)?





☆異郷である都で懸命に生きていこうとする決意

☆遠い→心理的に遠い存在(帰りたくない)
・…ばや=…したい・よう(願望の終助詞)
☆都で生きる決意→「みやこ」=帰って生きて行く所
 →故郷・都の両方から疎外された作者の選択した道
 →幻想の故郷を心の支えとして、自分を疎外する都
  懸命に生きていく





left★板書(+補足)★
〈主題〉
故郷にも都にも疎外された若者の、故郷を思いながら も、都で懸命に生きようとする思い。
    ↑
東京と金沢を行き来する若者の、不安定な放浪と退廃 の中での疎外と葛藤を詠った詩

right★発問☆解説ノート★







left★板書(+補足)★
〈補足1…平仮名表記と漢字表記〉
憧憬(平仮名表記)   (幻想を抱く)
 〇ふるさと←郷愁を覚え、心惹かれる所
 〇みやこ ←帰って生きて行くべき所
    ↓↑
現実(漢字表記)
 ×故郷   ←疎外・葛藤
 ×都(異郷)←疎外・葛藤

〈補足2…故郷と都の疎外と葛藤〉
@故郷からの疎外
  受け入れてくれるべき故郷が、自分を疎外する
    ↓
A故郷への葛藤
  故郷に帰りたいが、帰れない
    ↓
B都からの疎外
  故郷から上京した自分を、受け入れてくれない
    ↓
C都への葛藤
  都に帰りたくないが、帰るしかない

〈補足3…場所の特定〉
諸説あり(実際は、東京で詠む)
?1.東京にて
    故郷の金沢=「みやこ」へ帰ろう
◎2.東京にて
    東京=「みやこ」へ帰ろう(=生きよう)
      都で懸命に生きる思いを、都で詠む
△3.故郷の金沢にて
    東京=「みやこ」へ帰ろう
      故郷に帰ったが、受け入れられず東京へ

right★発問☆解説ノート★
〈補足4…作者年譜〉
明治22年(1889)石川県金沢生まれ
     女中奉公していた人との間の非嫡出子で、
     生後すぐに、住職に引き取られ、暫くして
     養子となり、室生姓を名のる(7歳)
     両親の顔も知らず、血の繋がらない兄弟と
     共に、厳しい養母の元で過酷な生活。
明治35年(1902)13才の時、学校を中退し、裁判所の
     給仕として働かされるが、この間に俳句を
     習い、文学に親しむ。
     生い立ち・幼年時代は不遇だった。
明治43年(1910)詩人として立つため、上京(20才)
     しかし、生活の窮乏により帰郷。以後、
     東京・金沢を行き来する不安定な生活で、
     放浪と退廃の中で試作を続け、やがて北原
     白秋の引き立てで詩壇に登場。
大正2年(1913)萩原朔太郎を知る。
大正7年(1918)「愛の詩集」「抒情小曲集」刊行。
     萩原朔太郎と共に、大正詩壇で最も有望な
     詩人として注目される。青少年期の哀愁や
     孤独を純粋素朴に詠った抒情詩は、詩壇に      大きな影響を与えた。

※犀星の名は、金沢に流れる犀川から取った









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