left★板書★
「古典現代語訳ノート」(普通クラス)
(漢詩) 許渾「咸陽城東楼」
〈出典=『三体詩』〉(さんていし)
・1250年頃成立、周弼の編
・(中国)南宋の唐詩選集
〈作者〉
・787?〜854?年 晩唐の詩人
・進士に合格して県令・司馬を経て監察御史となり、
各地の刺史(地方官)も歴任したという
〈概要〉
・七言律詩。(押韻)愁・州・楼・秋・流
〇秦の始皇帝の都であった咸陽の古城の東楼に上って
の情景を叙し、都があった往時を偲ぶ (→主題)
咸陽城東楼 許渾(きょこん)
咸陽城の東楼
=咸陽の町を取り囲む東の城壁上に建てられた
高楼にて
【一】(起)
一上高城 萬里愁
一たび高城に上(のぼ)れば万里の愁ひ
=一たび咸陽城の東の高楼に上ってみると、
万里の彼方まで見渡せ、堪らなく悲しくなる。
蒹葭楊柳 似汀洲
蒹葭(けんか) 楊柳(ようりう)
汀洲(ていしゆう)に似たり
=川辺にはオギやアシ、そして柳が茂っていて、
あたかも川の中州のよう(寂れた様)である。
【二】(承)
溪雲初起 日沈閣
溪雲初めて起こり日閣(かく)に沈み
=谷間から雲が今しも湧き起こって来て、
太陽は高い建物の向こうに沈んでいき、
山雨欲来 風満楼
山雨来たらんと欲して風楼に満つ
=山の方から雨が降り出して来そうで、
風がこの東楼いっぱいに吹きつけて来る。
【三】(転)
鳥下緑蕪 秦苑夕
鳥は緑蕪(りよくぶ)に下る
秦苑(しんゑん)の夕(ゆふべ)
=鳥が青々と茂る雑草の上に舞い降りる。
(かつて栄えた)秦の宮殿があった(この)広大な
庭園に訪れる夕暮れ時に。
蝉鳴黄葉 漢宮秋
蝉は黄葉に鳴く漢宮の秋
=蝉が黄色く色づいた葉陰で鳴いている。
(渭水の対岸に見える、かつて栄えた)漢の(長安
の)宮殿(跡)にも気配が忍び寄る秋に。
【四】(結)
行人莫問 当年事
行人問ふ莫(な)かれ当年の事を
=道行く旅人よ、
往時のことを問うてくれるな。
故国東来 渭水流
故国(より)東来(して)渭水(いすい)流る
=(秦は滅びたが、都があった)故地から東へと、
今も渭水は流れ(続け)ている。
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right★補足・発問★
(漢詩)2019年5月
・唐詩のうち、七言絶句・七言律詩・五言律詩の3つ
の詩体の作品から選び、唐詩を学ぶ基準とされる
・『唐詩選』が初唐・盛唐の詩を重んずるのに対し、
李白・杜甫はなく、許渾・杜牧など中唐・晩唐の詩
を多く採る
☆悠久の自然に対して、秦・漢の栄えた昔ぶ
懐旧の情を吟ずる
・咸陽=秦王朝(前221〜前206)の都として栄えたが
唐代には荒れ果てていた。長安の西北に位置
・城=城壁で囲まれた町全体を指す
・東楼=咸陽の町を取り囲む東の城壁上に建てられた
高楼(高い建物)
・「万里愁ふ」
・万里の彼方まで悲しみに満ちている
果てしない愁いに襲われる (←参考資料)
・蒹葭=川辺に茂る(生える)オギやアシ
・楊(川柳)柳(枝垂れ柳)=柳の総称
・汀洲=水辺の平らな砂地・川の中州
・(故事成語)山雨来らんと欲して風楼に満つ
=山雨が降り出そうとする前に先ず風が高楼に吹き
つけてくる。 転じて、
変事の前の情勢の穏やかでない様をたとえていう
・緑蕪=緑の雑草の茂る荒地
→蕪=生い茂った雑草
・秦苑=(かつての)秦代の宮殿の広大な庭園
・夕=日が暮れていく・夕暮れ
・鳥が青々と雑草の茂る荒地の上に舞い降りる。
(かつて)秦の宮殿があった(この)広大な庭園に
夕暮が訪れようとしている。
・漢宮=(かつての)漢代の宮殿
渭水を隔てた長安にあった
・秋=秋の気配が忍び寄る
・(かつて栄えた)漢の宮殿(の跡)に
秋の気配が忍び寄っている。
・行人=(道行く)旅人
・当年事=当時の事
→秦・漢が栄えていた頃
・故国=古い都(国都)
→秦(・漢)の古都があった咸陽(や長安)の辺り
・東来=東に向かって
・渭水=咸陽と長安との間を
東流して黄河に流入する川(の名)
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