left★原文・現代語訳★  
「古典現代語訳ノート」(普通クラス)
   (漢詩) 白居易

〈出典=『唐詩選』〉
・明の李攀竜(1514〜1570)の編
・唐代の詩465首を詩体別に集めた書物

〈作者〉
・772〜846年 中唐の代表詩人、字は楽天
・詩句は平易流暢を第一とする
・著作 『白氏文集』(詩文)「長恨歌」(詩)
 →我が国の平安文学にも大きな影響を与える

right★補足・文法★        
(漢詩)2022年1月



・『唐詩選』は李白・杜甫を初め
 初唐・盛唐の詩を重んずる

〈作者…補足〉
・字=成人してから付けた名
・800 年、進士に及第。翰林学士などの後、江州司馬  に左遷された。後に中央に復帰し、刑部尚書で退官
・晩年は詩と酒を友として、自適の生活を送った

left★原文・現代語訳★  
〈漢詩の基礎〉
〇漢詩(近体詩)の形式
 ・絶句(四句) 五言絶句 (五字の句×四句)
         七言絶句 (七字の句×四句)
 ・律詩(八句) 五言律詩 (五字の句×八句)
         七言律詩 (七字の句×八句)
〇漢詩の構成
 ・絶句(四句) 起・承・転・結
 ・律詩(八句) 首聯・頷聯・頸聯・尾聯

押印(韻を踏む)
 =句末に同じ響きの語を置き、リズム音楽性を出す
 ・五言詩→偶数句末
 ・七言詩→偶数句末と第一句末(但し、例外あり)

対句(表現)
 2つの句・文などで
 ・文法構造・字数が同じ ・内容・語感が対応
 ※律詩では頷聯(第三・四句)と頸聯(第五・六句)

right★補足・文法★        
〈参考〉…唐詩の歴史区分
初唐 唐成立 (618年)〜    (7世紀)
盛唐 玄宗皇帝〜安史の乱    (8世紀前半)
中唐 安史の乱〜  (8世紀後半〜9世紀初頭)
晩唐 〜唐滅亡 (907年)    (9世紀)


全体の構成 @(首聯=起) A(頷聯=承)
B(頸聯=転) C(尾聯=結)
left★原文・現代語訳★
  八月十五日夜、禁中独直、対月憶元九  白居易
   八月十五日の夜、禁中に独り直(トノイ)し、
   月に対して元九を憶(オモ)ふ
   =八月十五日の夜、宮中で独り宿直をして、
    月を眺めながら旧友の元九のことを思う

(首聯)
銀台金闕夕沈沈  独宿相思在翰林
   銀台金闕夕(べ)沈沈(たり)
   独り宿し相思ひて翰林に在り
   =煌びやかな(宮中の)銀台門や宮殿は
    夜がしんしんとして(静まり更けていく)
    (私は)独り宿直して、君のことを思いながら
    翰林院にいる。

(頷聯)

三五夜中新月色  二千里外故人心 (対句)
   三五夜中新月の色
   二千里外(ガイ)故人の心
   =十五夜(の今夜)の空に、昇ったばかりの
    月の(美しく輝く)光を(眺めながら)
    (遥か)二千里も(遠く)離れた所にいる
    旧友(の君)の心は(どういう思いで眺めて
    いるであろうか、と思う)


(頸聯)

渚宮東面煙波冷  浴殿西頭鐘漏深 (対句)
   渚宮(ショキュウ)の東面は煙波冷ややかに
   浴殿の西頭は鐘漏(ショウロウ)深し
   =(友がいる江陵の)水辺の宮殿の東側は
    靄の立ち込める水面が冷たく
    (月の光を映していることだろう)
    (私がいる長安の宮中の)浴殿の西の辺りは
    (時を告げる)鐘や水時計(の音)が深々と
    (響いて、夜が更けていく)。

(尾聯)

猶恐清光不同見  江陵卑湿足秋陰
   猶ほ恐る清光同じくは見ざらんことを
   江陵は卑湿にして秋陰足る
   =(それでも)やはり気がかりなのは、清らかな     (この月の)光を(私がここで眺めているのと)     同じように(君は)眺められないのではないか     と(いうことだ)。
    (なぜなら、君のいる)江陵は、地が低く湿気     も多く、秋は曇りの日が多い(というから)。


right★補足・文法★        
・禁中=宮中。ここでは、長安の大明宮を指す
・直=宿直する。(とのい=夜間の警備の仕事)
・元九=親友の元?(779〜831)。中唐のの詩人。
    九は排行(一族の同世代の男子の出生順序)
    当時、広陵に左遷されていた

・銀台=銀台門(白居易がいる翰林院の傍にある)
・金闕=宮殿の総称(「金」は美称)
(台=高殿。闕=門→煌びやかな宮中の高殿や門)
・夕沈沈=夜がしんしんと更けていく
(夕=ここでは夕方ではなく、夜。沈沈=深き貌)
・相思=相手を思う(相=対象。互いに、ではない)
・翰林院=天子の詔勅などを司る役所。
     この時白居易は翰林学士の職にあった
(詔勅=詔書・勅書など天皇の意思を表示する文書)

・三五夜=十五夜。陰暦八月十五日・中秋の名月の夜
    (3×5=15に由来)
・新月=(空に)昇ったばかりの月
・二千里外=遥か二千里も遠く離れた
     (長安と江陵の距離を指す)
・故人=旧友。亡くなった人ではない →元九を指す




・渚宮=水辺の宮殿。春秋時代の楚の王宮の一つで、
    元九がいる江陵(湖北省)に古跡があった
・煙波=靄の立ち込める水面
・浴殿=白居易がいる翰林院の東にある宮殿(浴室)
・西頭=西のあたり(頭=ほとり、辺り)
・鐘漏=時刻を告げる鐘と水時計(漏刻)(の音)
・深=夜が更けていくことを表す



・猶=それでもやはり/ なお(再読文字ではない)
・恐=気がかりである、心配する
・清光=清らかな月の光
・不同=同じように…とは限らない(部分否定)
・江陵=元九が左遷されていた湖北省江陵(荊州)
・卑湿=地が低く、湿気が多い
(当時、南の方は暑くて湿気が多いと思われていた)
・秋陰=秋の曇りの日(陰=曇り)   ・足=多い
☆押韻の関係で、「秋陰足」を「足秋陰」とする
★白居易が長安で見ている月は、江陵にいる元九には  同じように美しく見えないだろう

left★原文・現代語訳★
〈要約〉
▼十五夜の名月の夜に、宮中で独り宿直して月を眺め  ながら、遥か二千里も離れた江陵に左遷された旧友  の元九はこの月をどのように見ているだろうか、と  思いやった時のことを詠んだ詩である。

〈概要・表現〉
七言律詩(七字の句×八句)
押韻→沈・林・心・深・陰
対句→首聯・頷聯・頸聯・尾聯のうち
    頷聯・頸聯が対句となっている

〈鑑賞〉
・八月十五夜、中秋の名月は、唐の都・長安の壮大な  宮殿を煌びやかに照らしていた。その中の翰林院と  いう建物で、白居易は独り宿直をしていた。そして  皓皓と光る月を眺めながら、遥か彼方の江陵に左遷  された旧友の元九のことを思っていた。この同じ月  を親友はどのような心で見ているかと、思いやって  いたのだ。時を告げる鐘の音が響き、夜がしんしん  と更けていく。江陵は都とは違うのだから、やはり  旧友は、自分と同じような月を見ることは出来ない  のではないか、と白居易は思った。
・銀台と金闕、三五と二千、中と外、新月と故人、色  と心、渚宮と浴殿、東面と西頭など、対句が随所で  効果的に用いられ、都長安の情景と友を思う心情が  想像される、古来より評価の高い詩である。
・自分が月を見ていれば、この同じ月を遥か彼方の友  や家族も見ているだろうと思うのも、定型的な発想  の一つで、この詩句は古来日本でも非常に有名で、  『源氏物語』においても、須磨に流された光源氏が  月を眺めて都に残してきた紫上を偲ぶ場面がある。

right★補足・文法★    

白居易「八月十五日…」(YouTube 解説)
〈参考…大明宮〉
唐の都・長安の北東にあった宮城。
太宗が父の高祖のため 634年に建て、高宗が 663年に 太極宮から朝政を移し、以降 904年までの 240余年に わたり17人の歴代の皇帝が起居して、国政事務を処理 し、唐王朝の政治と文化の中心地となった。
太極宮、興慶宮と共に長安の「三大内」を成す

コレルリ「ソナタト短調」
ヘンデル「協奏曲ト短調」

写真は、ネット上のものを無断で借用しているものも あります。どうぞ宜しくお願い致します。

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