left★板書(+補足)★
「現代文授業ノート」(普通クラス)
   高階秀爾『実体の美と状況の美』

〈作品〉
〇美学・美術史論(文化論)
西洋美術史家の観点から
 日本美術における美意識を論述    (→要旨)

〈概要〉
〇季節ごとの自然と一体となった情景のような「状況
 の美」を愛する、日本人の美意識について述べる
                (→要約→要旨)

right★発問☆解説ノート★
(評論)2020年8月


〈筆者〉
・日本の代表的な近代西洋美術史家
・芸術と精神風土との関係を追及
 →日本の伝統美術への造詣も深い
・著書 『ルネッサンスの光と闇』
    『日本近代美術史論』
    『日本人にとって美しさとは何か』など

※真・善・美→人間にとっての基本的な価値概念

left★板書(+補足)★
〈全体の構成〉

【一】<日米の美意識の違いに興味>
              (序論…話題の提示)
【二】<秩序が美を表現すると考える西欧世界>
             (本論@…理由・考察)
【三】<日本人の美意識>
 @<「状況の美」を愛する日本人の美意識>
 A<季節や自然と結びついた美意識>
 B<美が季節や自然と結びついた具体例>
           (本論A…理由・考察・例)
【四】<今日の絵葉書にも表れる日本人の美意識>
           (結論…考察・主張の確認)

right★発問☆解説ノート★


★話題の提示
    ↓↑
 問題提起(筆者の考察・主張・確認)

★キー・センテンス(日本人の美意識)
 (美しい四季・豊かな自然)
    ↓
 ・季節の移り変わりと時間の流れなど、自然の営み
  と密接に結びついた(日本人にとっての美)
 ・季節ごとの自然と一つになった情景
 ・「状況の美」を愛する日本人の美意識

left★板書(+補足)★
〈授業の展開〉

【一】<日米の美意識の違いに興味>
              (序論…話題の提示)
○農学のある先生の話
    ・人間の動物観を研究する計画
      ↓      (留学中、アメリカで)
    ・「一番美しい動物は何か」という質問調査
○うまく行かない日米比較文化論
    ・日本でも同じ調査→日米比較文化論になる
      ↓<ところが>
    ・うまく行かない       (→苦笑)
       「馬」「ライオン」 (…アメリカ)
        ↓        (…日本では)
       「夕焼け…小鳥たち…飛び立って…」
日本人とアメリカ人の<美意識の違い>をよく示す
   (動物観の差異以上…私は興味深いと思った)

▼〈段落まとめ〉
人間の動物観を研究しようとしていた農学のある先生
の話を聞いて、日本人とアメリカ人の美意識の違い
興味を抱いた

right★発問☆解説ノート★





・project=研究・仕事における計画
・enquete=テーマについての質問調査




実体物として美を捉えるという考え方は、日本人の
 美意識には殆どないから

・実体(本体、実際のそのもの自体)の美
・状況(季節・時間・自然)の(と結びついた)美








left★板書(+補足)★
【二】<秩序が美を表現すると考える西欧世界>
             (本論@…理由・考察)
○西欧の考え方(秩序が美を生み出す)
  ・<「美」は明確な秩序がある中に表現される>
     →西欧世界では古代ギリシャ以来の考え方
     →左右相称性・部分と全体との比例関係・
      基本的な幾何学的形態との類縁性
  =客観的な<原理に基づく秩序>が美を生み出す
    ↓
〇典型的な例
  ・八頭身の美学
      =頭部と身長が一対八の比例関係
       にあるとき最も美しいという考え方
      (前4Cギリシャで成立した美の原理
  ・このような原理を「カノン(基準)」と呼ぶ
    ↓   →場合・時代によっては変わり得る
  ・ある原理が美を生み出すという思想
   は変わらない
    ↓
  ・ギリシャ彫刻の魅力はこの美学に由来する
    ↓<もっとも>
〇現存するのは大部分ローマ時代のコピー
        ・ほとんど失われて残っていない
    ↓<しかし>
  ・不完全な模刻作品もあるが、
   原作の姿をかなりの程度うかがうことができる
    ↑
  ・美の原理である「カノン」が実現
   されているから
      →原理に基づいて制作されている以上
       彫刻作品そのものがまさしく「美」
       を表すものとなるのである
実体物として美を捉える考え方

▼〈段落まとめ〉
西欧では、古代ギリシャ以来、客観的な原理に基づく
秩序が美を生み出す、という考え方が強い

right★発問☆解説ノート★



・秩序=望ましい状態の為の順序・筋道・決まり
・相称=左右または上下が互いに釣り合い対称である

・原理=事物・事象が依拠する根本法則、基本法則
☆重要事項は、叙述の繰り返し
               (原理→秩序→美





☆「八頭身の美学」のような美の原理
☆前5Cは七頭身が基準とされた
☆重要事項の繰り返し3回目
          (美の原理=基準→秩序→美

☆ある原理が美を生み出すという美学
・由来=物事がそれを起源とする所



・模刻=元になるものとそっくりに彫刻する


美の原理である「カノン」→秩序→美
           →重要事項の繰り返し4回目
☆元々あった本来の彫刻作品の美とは
 異なる「美」である

☆実体物にある秩序が美を表現するという考え方





left★板書(+補足)★
【三】<日本人の美意識>
   @<「状況の美」を愛する日本人の美意識>
         (本論A…理由・考察・具体例)
<だが>
〇このような実体物として美を捉えるという考え方は
 日本(人の美意識)には殆どない
    ↓           (に対する)
 =<日本人の美意識は「状況の美」>に対する感性
  を働かせるものだ     (→遠い昔から…)
      ・西欧→「実体の美」
       ↓↑(何が美であるか)
      ・日本→「状況の美」
         (どんな場合に美が生まれるか)
    ↓
<具体例>
○芭蕉の句…「古池や 蛙飛びこむ 水の音」
        ・「古池・蛙・音」を美とは言わず
  ・一瞬に生じる緊張感を孕んだ深い静寂の世界
   新しい美を見出だす
    ↓
  ・そこには何の実体物もなく
   あるのは状況だけ
なのである
〇『枕草子』冒頭の段
        ・日本人のこのような美意識を
         最もよく示す例
  ・春夏秋冬それぞれの最も美しい姿を捉えた
   「状況の美」の世界である
    ↓
  ・現代人の美意識につながる感覚
       (日本人の感覚は、千年の時を隔ても
        変わらずに生き続けている)

▼〈段落まとめ〉
実体物として美を捉えるという西欧の考え方に対し、
日本人の美意識はどんな場合に美が生まれるかという
「状況の美」に感性を働かせるものであった

right★発問☆解説ノート★




☆秩序が美を表現するという西欧の考え方のような






☆時間(季節)・自然→状況








☆芭蕉が新しい美を見出だした世界


☆どんな場合に美が生まれるかという「状況の美」に
 感性を働かせて来た美意識
☆四季の移り変わる、その折々の自然の姿


・鋭敏=感覚や才知が鋭くさとい(素早い)








left★板書(+補足)★
【三】A<季節や自然と結びついた美意識>
         (本論A…理由・考察・具体例)
〇「実体の美」はそのもの自体が美を現しているから  状況がどう変わろうと、普遍的な「美」であり得る
  <例>《ミロのビーナス》
        ・前1C制作だが
         21Cも美しさに変わりはない
    ↓↑          →「美」を主張
<だが>
〇「状況の美」は、状況が変われば消えてしまう
    ↓        →敏感に反応する日本人
  ・美とは     (万古不易のものではなく)
   移ろいやすく、はかないものである故に
   いっそう貴重で、愛すべきものという感覚
        ↓       (を育てて来た)
      ・春の花見・秋の月見
          (季節ごとの美の鑑賞を好む)
    ↓          (日本人にとって)
  =美は <季節の移り変わりや時間の流れなど
   自然の営み>と密接に結びついている

             (→清少納言・名所絵)

▼〈段落まとめ〉
「状況の美」は、状況が変われば消えてしまうものだ
が、日本人には美は季節の移り変わりや自然の営み
密接に結びついており、移ろいやすく儚いものである
故に、貴重で愛すべきものだという感覚があった

right★発問☆解説ノート★


・「実」際のそのもの自「体」の「美」
☆「状況の美」と異なる対照的な「美」を強調





  (中世「方丈記」「徒然草」の根底にある思想)
全ては定めなく無常であるとする「無常観」
 に通じる考え方 →それ故に全ては素晴らしいのだ
・万古不易=永遠に変わることがない
美しい四季の移り変わりと豊かな自然(への愛)
    ↓
 (美は)移ろいやすく、はかない
 →それ故、いっそう貴重で愛すべき(という感覚)
    ↓
 季節の移り変わりや時間の流れなど、自然の営みと
 美は密接に結びつく
永遠なる時の流れの中で、移り行く自然の姿に美を
 見出だす        (無常観+自然観)
 =時が流れる中で、移り行く季節ごとの自然と一体
  となった情景に美を見出だした




left★板書(+補足)★
【三】B<美が季節や自然と結びついた具体例>
           (本論A…理由・考察・例)
〇(そのことは…)江戸期の名所絵
               (を見ればわかる)
  ・各地の見るべき場所を描き出したものだが
   単なる場所(情景)ではない
    ↓
<具体例>
〇広重《名所江戸百景》
  ・<季節ごとの自然と一体となった情景>
   が描き出されている
         →雪晴れの日本橋・花の飛鳥山…
      ・(春夏秋冬の四部)四季に分類
        ↓
       「名所」が、季節の風物や年中行事と
       結びついていたので、
       自ずから分類が成り立った
   ↑    ↓
  <つまり>
   (美)   (場所=情景)(状況=自然
   名所そのものが、江戸の町と自然との結びつき
   によって生まれて来たのであある

▼〈段落まとめ〉
例えば、江戸期の広重の名所絵も、季節ごとの自然と
一つになった情景
を描き出していて、日本人には美は
季節の移り変わりや自然の営みと結びついているもの
であることがわかる

right★発問☆解説ノート★


☆日本人には、美が季節や自然と結びついていたこと
・浮世絵文化において重要な主題
         →風光明媚=自然の景色が美しい
☆実体物として美を捉えるのでなく、季節ごとの自然
 と一体となった場所の情景を描いたものである

・広重=風景を描いた木版画で大人気の画家となり、
 ゴッホやモネなどの西洋の画家にも影響を与えた
☆季節や自然と美(場所)が結びついた例

・広重118+追加分1+扉絵4+表紙2=計125
・風物=風景(眺めとして目に入るもの)
    その季節やその土地に特有のもの
   −−−−−−−
  << 自然 >>
  <<  +  >>
 << 江戸の町  >>⇒⇒⇒名所(美)
  <<     >>
   −−−−−−−
(時が流れていく中で移り行く自然と一体となった)
移り行く季節ごとの自然と一体となった情景
 美を見出だした





left★板書★
【四】<今日の絵葉書にも表れる日本人の美意識>
           (結論…考察・主張の確認)
○今日でも…観光絵葉書
  ・パリやローマでは
   代表的なモニュメントをそのまま捉えたものだ
      (実体の美)→ノートルダム大聖堂
             凱旋門・エッフェル塔…
<だが>↓↑ 
○日本の観光絵葉書
  ・季節の装いをこらしたもの(が圧倒的に多い)
            →満開の桜の下の清水寺
             雪に覆われた金閣寺…
            →それ自体見事な建築だが
    =自然の変化を組み合わせる(ことを好む)
    ↓
  ・<「状況の美」を愛する日本人の美意識>
                 (の表れ)

▼〈段落まとめ〉
今日でも日本の観光絵葉書は、季節の装いをこらして
自然の変化を組み合わせたもの
が多い。これも「状況
の美」を愛する日本人の美意識の表れであろう。

right★補足・発問★



・モニュメント=記念建造物。記念碑・記念像
☆客観的な原理に基づく秩序が表現された実体物その
 ものに、美を捉えたものだ


※自然観の相違
 ・西欧=自然は<支配・征服>すべき対象であって
   ↑ そうする事が文化・文明と考える
   ↓(人間主体・合理主義・左右対称幾何学的)
 ・日本=自然は<調和・共生>すべきもの
    (余情余韻・幽玄美・自然を模した庭)

時の流れの中で、移り行く季節ごとの自然と一体
 となった情景
に美を見出だした
               (日本人の美意識)





left★板書★
〈要約300字=24×12〉
日本人とアメリカ人の美意識の違いについて、興味を
抱いた。▼西欧では古代ギリシャ以来、実体物が持つ
秩序が美を表現するという考え方が強い。▼それに対
して日本人の美意識は、どんな場合に美が生まれるか
という「状況の美」に感性を働かせるものであった。
▼日本人には、美は季節の移り変わりや自然の営みと
密接に結びついており、移ろいやすいものである故に
愛すべきものという感覚があった。▼例えば、江戸期
の名所絵も季節ごとの自然と一つになった情景を描い
ている。▼今日も、日本の絵葉書は季節の装いをこら
して自然の変化を組み合わせたものが多いが、これも
「状況の美」を愛する日本人の美意識の表れであろう
                   (→要旨)

right★補足・発問★
×〈要約100字=24×4〉(参考資料)

< 学習の手引き>(→参考資料)












 

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