(先生の現代文授業ノート)吉野 弘「I was born」  
left★板書(+補足)★   
「現代文授業ノート」(普通クラス)
   吉野 弘「I was born」

〈出典〉
 ・初出 昭和27年(1952)作者26歳
     第二次大戦(1939〜45)が終わって7年後
 ・投稿した「詩学」に載る

〈作者〉
 ・大正13年(1926)〜平成26年(2014)
  山形県生まれ
 ・人間の生について、平易な語り口で抒情的に表現
 ・詩集 『消息』『感傷旅行』
 ・詩画集 『10ワットの太陽』

〈表現〉
 ・口語 散文詩
 ・ドラマ仕立ての構成(起承転結
 ・最初の「白い女」のイメージが、
  最後の母の胸をふさぐ「白い僕の肉体」と照応

〈概要→主題〉
 ・(略)

right★発問☆解説ノート★   
(詩)2015年10月(2022年11月改)





・鮎川信夫・木原孝一らの推奨

・身重の白い女
    ↓
    蜉蝣(の話)
    母(の死)
    ↓
  生死の悲しみのイメージ
         (母の胸をふさぐ白い僕の肉体)

全体の構成 【一】(起)身重の白い女…生の不思議 【二】(承)生の受身形の発見
【三】(転)父の語る蜉蝣の話と母の死 【四】(結)生死の悲しみの具体的なイメージ化
left★板書(+補足)★   
〈授業の展開〉

【第一連】<身重の白い女…生の不思議>

<舞台設定>…(枠組み)5W1H
    ※英語を習い始めた頃(中1)を
     大人になってから回想
 (いつ)   ある夏の宵
 (どこで)  寺の境内にて
 (誰が)   少年(僕)が
 (何を)  (行き過ぎる)身重の白い女の腹から
         (→幽霊のイメージ、母の亡霊)
 (どうした) 目を離さなかった
   ↑            (→父に気兼ね)
   ↑
 (なぜ)  (腹の中の)胎児を連想して
               (想像)
      <<生まれることの不思議>>を覚えた                       から

▼〈まとめ〉
英語を習い始めた頃、ある夏の宵の寺の境内で、身重
の白い女を見て腹の中の胎児を想像し、生まれること の不思議を思った

right★発問☆解説ノート★   
※(全体の構成 ← 時間・場面・情景・心情)



・別の言語体系は、その民族の感じ方・考え方が反映
    ↓
 今までとは違う世界に目覚めた、少年の頃

・青い夕靄の奥から、普通ではなく怪しい感じ
 =薄暗い宵の光を映して、ぼうっと白っぽく見えた
 →蜉蝣・母・白い僕の肉体へとイメージが繋がる
                (母の死の伏線)
・妊娠している女性をじろじろ見て、叱られるかも
 知れない
 or死んだ母を思い出していると思われたくなかった
・柔軟なうごめき
    ↓(照応)
 @拡大鏡で父が見た、蜉蝣の腹の中に詰まった卵
 A母の胎内=母の胸までふさぐ白い僕の肉体


left★板書(+補足)★   
【第二連】<生の受身形の発見>

I was born. → 自分の意志ではない
    ↓       (生まれさせられるのだ)
  <<生の受身形の発見>> (諒解)
        ↑
      (怪訝そうに…)父の驚き
        ↑
      それを察するには
      まだ幼かった
    ↓
  =文法上の単純な発見   (に過ぎなかった)

▼〈まとめ〉
生まれることが受身形であることを発見した少年に、
父は驚いたが、生命の誕生や生死のあり方などという
奥深い意味を考えたのではなく、文法上の単純な発見
であった

right★発問☆解説ノート★   




・諒解(了解)=意味をはっきり理解する
・怪訝=合点がいかない、不思議に思う
生命の誕生・生死のあり方などの奥深い意味を考え
 たり、母の死と自分の誕生の関係に気づいたりする
 ほど、<息子は成長したのか>という驚き
☆父の受け取り方(驚きの中身)→→理解できず

生命の誕生・生死のあり方などの
 奥深い意味を捉えたものではない
 →身重の白い女を見た実感として
  人間は生まれさせられるのだ、と気づいただけ。
 =文法的知識と自分の感性が結びついて感激



left★板書(+補足)★   
【第三連】<父の語る蜉蝣の話と母の死>

父は無言で暫く…
    ↓
    思いがけない話
    ↓
(1)蜉蝣の話
  @2・3日の命
  A口・胃の退化
  B体いっぱいの卵
    ↓
    何のために世の中へ出て来るのか
    ↓
  <<生死の悲しみ>>
    ↓
    ↓
    <冷たい光の粒々>だった
                (あわれっぽい)
                (せつなげ)

(2)父の語る母の死
  少年を出産して直ぐに死んだ母

▼〈まとめ〉
父は蜉蝣の話を通して、生と死は生物の宿命で様々な
形があるが、そうして生命が受け継がれていくことを
教えようとした後、少年を出産した母の死を語った。

right★発問☆解説ノート★   

☆人間の誕生や生死について考えるほど成長したので  あれば、息子の誕生と母の死の関係をもう話しても  よいか、罪の意識を与えずに話せるか、と考えた。
☆少年には理解を超えた内容である、と感じられた。

・蜉蝣=儚い命のたとえ
★@僅かな命で、
 A身体の器官は、生命の維持が初めからできない
  ようになっていて、
 B自分のためというよりは、卵を産むためだけに
  生まれ出てきた、ような生と死である
    ↓
<生きることは子孫を残すためだけに>あって、
 <子孫を産めば後は死>しか残されていない、
 という、生と死である。     (…僅かな命)
輝かしい生命の誕生は、悲しい母の死を伴うもの
      →ほっそりとした胸……
      →僕を妊娠した母の死のイメージに発展
    ↓
<生と死は生物が逃れることのできない宿命>で、
 <様々な形がある>。そうして生命は受け継がれて
 いく
のだ。(例…鮭などは産卵すれば直ぐに死ぬ)
      →(つくづくと複雑な悲しみを覚える)




left★板書(+補足)★   
【第四連】<生死の悲しみの具体的なイメージ化>

後は、もう覚えていない
  →痛み
    ↓
脳裏に灼きついたもの
    ↓
  母の胸までふさぐ僕の白い肉体
    ↓
 =<<生死の悲しみの具体的なイメージ化>>
                (思い浮かべた)
      (初めての経験=少年の精神的な成長

▼〈まとめ〉
父の話は、自分の生が母の死につながったと知って、
ショックであったが、自分を胎内に宿して死んだ母の
生き死にの悲しみを、具象化したイメージとして思い
浮かべることができ、脳裏に灼きついた

right★発問☆解説ノート★   


自分の誕生が、母を死に追いやった
 ことを知ってショック
 =自分の生が母の死に繋がった→自分が母を殺した

(父の話)
蜉蝣のイメージから発展して、自分を胎内に宿して
 死んだ母の生き死にの悲しみを具体的にイメージ化
 して思い浮かべる
ことができた  →精神的な成長


left★板書(+補足)★   
〈主題〉
英語の受身形から、生まれることが受身であることに
気づいた少年が、
父の語る蜉蝣の話と少年の誕生が母の死に結びついた
事実から、
<生死の悲しみ>自分の中でイメージ化するに至る
<精神的な成長>を描く(ドラマ)


right★発問☆解説ノート★   
・「白い女」のイメージ(母の亡霊)の展開
   生まれることの不思議
    ↓(考えさせる契機)
   生まれることが受身である
    ↓(発見)
   生き死にの悲しみを具象化した蜉蝣のイメージ
    ↓(発展)
   少年を生んで死んだ母のイメージ

left★板書(+補足)★   
〈補足1〉蜉蝣の話に込められた父の気持ち
人間の生は、本人の意志によるものではなく、受身で
あるのだ、という少年の発言を受けて、
母の死が少年の生と因果関係があったことの意味を、
今こそ話すべき機会かも知れないと考え、
蜉蝣の話を通して少年に罪の意識を与えず、生と死は
生物の宿命で様々な形
があるが、そのようにして貴い
生命が受け継がれていくことを教えようとした。

〈補足2〉生き死にの悲しみ…冷たい光の粒々
目まぐるしく繰り返される生き死にの悲しみ…冷たい
光の粒々だった
    ↓
蜉蝣は僅かな命であって、身体の器官は生命の維持が
初めからできないようになっている。自分のためでは
なく、子孫を残すためだけに生まれてきたような生物
である。子孫を残すためだけに生きて、子孫を産めば
後は死しか残されていない
のである。光り輝く生命の
誕生は、冷たくなる母の死を伴う
ものだったのだ。
そう考えると、生と死は生物が逃れることができない
宿命で、様々形があるもので、そのようにして生命は
受け継がれていくにせよ、つくづくと複雑な悲しみを
覚えるものだった
            ヘンデル「協奏曲ト短調」

right★発問☆解説ノート★   
〈補足3〉最後の部分についての補足説明
父は少年に、蜉蝣の話と母の死について語った。繰り
返される生き死にの悲しみは、どの生物も逃れること
のできない宿命で、様々な形がある。そのような生と
死を通し、貴い命は受け継がれていくのだ。その意味
を少年に理解して欲しい、と父は思った。
少年は父の話を聞き、生き死にの悲しみを具象化した
蜉蝣を、イメージ化して思い浮かべた。そして、自分
を胎内に宿して死んだ母を、その蜉蝣と重ねるように
して思った
。蜉蝣の体いっぱいの卵のように、母の胸
までふさぐ僕の白い肉体という生き死にの悲しみを、
具体的なイメージとして思い浮かべ、その脳裏に灼き
ついたのだった。
こういう経験は初めてのことで、少年の精神的な成長
を意味した。


写真は、ネット上のものを無断で借用しているものも あります。どうぞ宜しくお願い致します。

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