left★板書(+補足)★
「現代文授業ノート」(普通クラス)
梶井厚志 「『わらしべ長者』の経済学」
〈出典〉
○雑誌「経 Kei』(2007年7月号)
〈概要〉
○昔話の「わらしべ長者」は、
勤勉の美徳を否定する有害な話ではなく、
<双方の自発的な交換が価値を創造する>
という、経済原則の普遍性を表現したものである
(→要約)
〈全体の構成〉 (→要約→要旨)
【一】「わらしべ長者」の一般的解釈と問題提起
(序論…問題提起)
【二】筆者の主張
@経済の基本原則を表現する話
(本論@…主張の提示)
A市場の非完備性(という幸運)
(本論A…主張の補足)
B正当な経済活動によるもの
(本論B…主張の補足)
C有害な話でなく地道な勤労の美徳の結果
(本論C…問題提起の回答)
【三】人生の幸福と経済学的な考え方の普遍性
(結論…まとめ)
〈授業の展開〉
【一】「わらしべ長者」の一般的解釈と問題提起
(序論…問題提起)
〇昔話「わらしべ長者」のあらすじ
・元は、仏教説話 (観音信仰)
・物々交換で裕福に
アブを縛ったわら屑→子供のミカン→半端な反物
→道に倒れた馬→旅に出る人の(高価な)屋敷
↓
〇一般的な解釈
特段の努力をせずに、大儲けする
幸運な男の話
↑
↑〈…が、そうではない〉
◎筆者の<問題提起>
<実直な勤労の美徳と価値を否定する有害な話
と解すべきではない>
【二】筆者の主張
@<経済の基本原則を表現する話>
(本論@…主張の提示)
〈なぜなら〉
(取引) (利益)
◎<自発的な交換>が<経済学的価値を創造>する
(全員に利益がある)
(という経済の基本原則を表現する話)
↓
〈詳しい説明〉
=自発的な交換による価値創造の原則
・双方の合意
・双方に利益
↓
・この原則が成り立つ
↓ (具体的説明)
・取引に貨幣が媒介しても同じ
(物々交換に限らず)
〈より本質的なのは〉
A<市場の非完備性>(という幸運)
(本論A…主張の補足)
(皆が直接に取引できる場が備わっていない)
↓
・取引を媒介できる唯一の人物 だから大儲けした
(「わらしべ男」の役割)
→眠る経済的価値を引き出すことできた
↓
(儲けるべくして儲けた)
B<正当な経済活動によるもの>
(本論B…主張の補足)
〈それでは〉
…そのような役回りを、運だけで手に入れたのか
↓ (そうではない)
◎無視できない<重要な経済活動>による
1.創造的なアイデア (人を喜ばせる虻の
おもちゃを生産)
2.リスクを伴う事業に投資 (死にかけた馬)
(見逃せない要点)
3.欲する人の元に物の移動 (運送・小売業)
↓↓
=運もあった
<しかし>
他人を喜ばす正当な経済活動による(富貴の実現)
↓
(「わらしべ長者」の味わうべき点)
C<有害な話でなく地道な勤労の美徳の結果>
(本論C…問題提起の回答)
〈思うに〉
…ある種の嫌悪感 (が伴う原因は)
↓
1.「わらしべ男」の幸運だけが突出
(しているのではない)
・取引に関与した他の人も豊かになった
(ことが書き込まれていない)
・我々もわらしべ長者的な生活を営む
↓
…この点についても…
↓
2.僅か4回の取引で長者になった
(のではない)
・簡潔明瞭であるべき昔話としての制約
(実は、細かな取引を繰り返して
利益を積み重ねた結果)
↓↓
↓↓
◎「わらしべ長者」は
<地道な勤労の美徳の結果>として称賛されるべき
↓↓
★「わらしべ長者」の昔話は
自発的な交換が価値を創造するという
経済の原則を表現するもので、
<勤労の美徳を否定する有害な話ではない>
【三】人生の幸福と経済学的な考え方の普遍性
(結論…まとめ)
〇同様の昔話は世界各国にあり
<経済学的な考え方の普遍性>がある
↓
<例>ブータンの話
・宝石(価値が高い?)→馬→牛→羊
→鳥→歌一つ(価値が低い?)
(口ずさみつつ、幸せな顔=利益)
↓
〇<人生で本当に大きい利益>を得られる
↓↓
★人生で本当に大きい利益が得られるなら
客観的価値が低くても
自発的な交換が価値を創造するという
<経済の原則の普遍性>は成立しているのだ
〈要約360字=24×15〉
▼昔話「わらしべ長者」は、少ない元手で大儲けする
話であり、勤勉の美徳を否定する有害なものだと解釈
されることもあるが、そうではない
▼市場が完備していず、取引を媒介できる人物が他に
いないという幸運があるが、自発的な交換が経済的な
価値を創造するという経済の原則を表現する話である
▼「わらしべ長者」は、確かに運もあったが、他人を
喜ばすという正当な経済活動によって富貴を実現した
のである
▼取引に関与した他の人々も豊かになり、地道な経済
活動を重ねることにより富貴になったのだから、勤労
の美徳を否定する有害な話でなく、称賛されるべきだ
▼同様の話は世界各国にあり、客観的価値が低くても
人生の本当の利益があるなら、自発的な交換が価値を
創造するとの経済の原則の普遍性は成立しているのだ
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right★発問☆解説ノート★
(評論)2019年9月(12月改)
〈筆者〉1963(昭和38)〜
・(ミクロ)経済学者
・身近な行動・言葉を、経済学的視点から捉えて
一般読者向けに論じた著作も多い
・著書『戦略的思考の技術−ゲーム理論を実践する』
『故事成語でわかる経済学のキード』など
〈各段落まとめ〉
▼昔話「わらしべ長者」は、少ない元手で大儲けする
話であり、勤勉の美徳を否定する有害なものだと解釈
されることもあるが、そうではない
▼市場が完備していず、取引を媒介できる人物が他に
いないという幸運があるが、自発的な交換が経済的な
価値を創造するという経済の原則を表現する話である
▼「わらしべ長者」は、確かに運もあったが、他人を
喜ばすという正当な経済活動によって富貴を実現した
のである
▼取引に関与した他の人々も豊かになり、地道な経済
活動を重ねることにより富貴になったのだから、勤労
の美徳を否定する有害な話でなく、称賛されるべきだ
▼同様の話は世界各国にあり、客観的価値が低くても
人生の本当の利益があるなら、自発的な交換が価値を
創造するとの経済の原則の普遍性は成立しているのだ
<一般的解釈に対する問題提起>
・『今昔物語集』『宇治拾遺物語』『古本説話集』…
・観音様にお願いすれば良い事がある
・相手の要求に応じて物々交換
・特段=特別・格別
☆少ない元手で楽して大もうけすると解釈することは
話に面白みをつけるが、
「(苦)労せず大儲けする」ことは
半面では、「勤労の美徳を否定する」ことになる
・実直=正直で真面目(誠実)なこと
★交換による経済学的価値の創造という、経済の基本
原則が美しく表現された、経済学の視点では非常に
興味深い話であるから。
<経済学的視点からの意義>
・同一内容の繰り返し
☆@自発的→双方の合意→全員に利益
A取引(交換)→利益(価値)→好ましい状況
★(この話も、交換後の方が好ましいという)
自発的な交換による価値創造の原則が成り立つ
☆「わらしべ長者」の話での「より本質的」な問題は
「貨幣の媒介」ではなく、「市場の非完備性」の方
☆他の人物も取引できる場や機会が備わっていれば、
利益を得ることが出来たような、価値
=市場が完備していればふさわしい利益が得られる
のに、市場が完備していなかったため利益を得る
ことができないような、価値
<具体的な経済活動>
★人々が揃って直接に取引できる場が備わっていない
状況の中で、取引を媒介できる唯一の人物であった
(ために大儲けできた)という役回り
・交換による価値創造は、経済活動に支えられる
→対価が支払われるべきだ
☆死ぬかもしれないリスクごと馬を買い取ったから、
成果を享受すべきで、労せず富を得るのとは大違い
・相互に利益をもたらす経済活動→経済の大切な役割
・利益を積み上げて富貴を得る
<経済活動の内容…結果の評価>
☆何か悪どい事をしたのでは、という否定的な感情
→実直な勤労の美徳と価値を否定する子供には有害
な話、として嫌悪感を抱く
・特定の個人に話の焦点が当てられる
(何か悪どい事をしたのでは、と推測される)
・労力を割いて交換により少しずつ利益を積み重ねる
☆一度の取引で得られる儲けの程度と質
(人によって差がある)
・価値の釣り合わないものも、場の状況によっては
交換が成立
☆経済活動の本質を見誤る原因
→度を越した幸運の持ち主と見做すべきではない
★<冒頭の問題提起に対する明確な回答>
→幸運は偶然ではなく、正当な経済活動をした結果
富を得た
<同様の昔話における経済学的普遍性>
☆自発的な交換が経済的価値を創造するという考え方
が、どの時代・どの地域でも存在する
☆ブータンの話では、逆に客観的に市場価値の高い物
から低い物へと交換(取引)している
★自発的に他者と交換を行った結果、交換前より幸福
な状態になったから
→交換後の方が幸福な状態であることが大事で、
幸福であれば利益を得たことになる
★我々にとって、価値とは物質的・金銭的なものとは
限らず、人生を生きる上で本当に大事なものは何か
という精神的なものも含むものであるから、
客観的価値が低くても、人生での本当に大きい利益
があるなら、自発的な交換が価値を創造するという
経済の原則の普遍性は成立しているのである
(物質文明全盛社会に対する、精神生活の豊かさ)
〈要旨70字=24×3〉
「わらしべ長者」の話は、勤勉の美徳を否定する有害
な話ではなく、双方の自発的な交換が価値を創造する
という、経済原則の普遍性を表現したものである
X〈要約100字=24×3〉…参考資料
昔話「わらしべ長者」は、自発的交換による経済的価
値の創造の話であり、その行動は他人を喜ばす点で正
当な経済活動と言える。同様の話は各国にあり、人生
で大きな利益を得る点で経済学的な普遍性を持ってい
る。
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