left★原文・現代語訳★  
「古文現代語訳ノート」(普通クラス)
   「宇治拾遺物語(巻4)
       /永超僧都、魚食ふ事」


〈出典 〉
〇(中世)鎌倉前期(13世紀初め)(1213〜1219)成立
 →12C末までに原型→増補・加筆
説話集15巻(197話)→庶民文学
 →80話が『今昔物語集』(1120)と重複
 →『江談抄』『打聞集』『古事談』『十訓抄』
  と類似の説話も含まれる
〇内容→本朝(日本)天竺(インド)震旦(中国)
    舞台とする説話を収録
 @仏教説話・A世俗説話・B民間伝承
 →当時の人々の生活や人間性が生き生きと描かれる
〇平易な和文体
 →漢語・俗語の使用と語の繰り返し→口承性
〇書名→『宇治大納言物語』に漏れた物を拾い集めた
    とする説などがある、と序文にある

〈概要〉
〇魚しか食べずに衰弱した永超僧都に魚を献上した人  は、村全体が疫病にかかって死者が多く出た時に、  自分たちだけが災難を免れて、僧都から褒美も賜る  ことができた。           (→要約)

right★補足・文法★        
(説話)2021年8月



〈作者〉
〇編者未詳→源隆国の説





芥川龍之介『羅生門』を初め多くの小説や漫画など
 が、『今昔物語集』『宇治拾遺物語』を素材として  書かれている
 →心理分析・脚色がなされ、話の流れが異なる



〈参考…僧の魚食について〉
※『日本霊異記』下第六には、「法の為にすれば……  食ふと雖も犯罪に非ず」とあるように、高僧の魚食  は容認されていたことが認められる。
 それにしても、永超僧都が魚のない限りは何も食べ  ないのは、「贄」とは「神に供える捧げ物、天子に  献上する魚や鳥などの食物」だからだろうか(?)

全体の構成 【一】(起)魚がない限り何も食べない永超僧都 【二】(承)衰弱した僧都のために民家で求めた魚
【三】(転)魚を奉った人が見た恐ろしい夢 【四】(結)災難を免れて褒美も賜った魚の主
left★原文・現代語訳★
〈授業の展開〉

【一】<魚がない限り何も食べない永超僧都>

これも今は昔、南京の永超僧都は、魚なき限りは、斎 (と))、非時(ひじ)もすべて食はざりける人なり。
=これも今(となって)は昔(の事だが)、奈良(南京)  の永超僧都は、魚が無い限りは、午前の食事の時も  それ以外の食事の時も全く食べなかった人である。

▼(段落まとめ)
永超僧都は、魚がない限り何も食べない人であった。

right★補足・文法★        




・南京=奈良。京都を「北京」というのに対して呼ぶ
・永超僧都=出羽守橘俊孝の子(1014〜95)。法隆寺
 別当、大僧都。「僧都」は僧の官職名
・斎・非時=僧侶の二度の食事のうち、午前の食事を  「斎」、それ以外の食事を「非時」と言った




left★原文・現代語訳★    
【二】<衰弱した僧都のために民家で求めた魚>

公請(くじやう)勤めて在京の間久しくなりて、魚を 食はで、くづほれて下る間、奈島(なしま)の丈六堂 の辺(へん)にて昼破子(ひるわりご)食ふに、弟子一人 近辺の在家(ざいけ)にて魚を乞ひて勧めたりけり。
=朝廷の法会を勤めて、京にいる期間が長くなって、  魚を食べないで、衰弱して(奈良へ)下る途中、奈島  にある丈六の仏堂の辺りで昼の弁当を食べる時に、  弟子の一人が、付近の民家で魚を求めて(永超僧都  に食べるように)勧め(て食べさせ)た。

▼(段落まとめ)
永超僧都が魚も何も食べず衰弱していたので、弟子の 一人が、ある民家で魚を求めて食べさせた。

right★補足・文法★        


・公請=(勅命により)朝廷の法会(に参勤すること)。
 →ここは京都の内裏での法会からの帰途
・くづほれて=衰え弱って
・奈島=現在の京都府城陽市奈島。その地の南の街道     沿いに丈六の御堂(仏堂)があった
・昼破子=昼の折詰弁当
・在家=民家
・乞ふ(請ふ)=頼み(望み)求める、与えてくれる         よう求める、もらう





left★原文・現代語訳★
【三】<魚を奉った人が見た恐ろしい夢>

件(くだん)の魚の主(ぬし)、後に夢に見るやう、 恐ろしげなる者ども、その辺の在家をしるしけるに、 我が家しるし除きければ、尋ねぬる所に、
=例の魚をさしあげた人が、後で夢に見ることには、  恐ろしそうな者どもが、その辺りの民家にしるしを  つけたが、自分の家はしるしをつけなかったので、  尋ねたところ(に)、

使ひの曰(いは)く、「永超僧都に魚を奉る所なり。 さてしるし除く」といふ。
=使いの者が言うことには、「(ここは)永超僧都に  魚をさしあげた所である。それでしるしをつけない  のだ」と言う。

▼(段落まとめ)
魚の主は、僧都に魚を差し上げた我が家以外の民家に 恐ろしい者たちが印をつけている、奇妙な夢を見た。

right★補足・文法★        


・件=前に述べたこと、例の(もの)、くだり

☆疫病にかかって死ぬ者を選ぶために「印を付けた」  のである




・奉る=さし上げる
★災難から逃れることができた








left★原文・現代語訳★    
【四】<災難を免れて褒美も賜った魚の主>

その年、この村の在家、ことごとく疫(えやみ)をして 死ぬる者多かりけり。その魚の主が家、ただ一宇(い ちう)、その事をまぬかるによりて、僧都のもとへ参 り向ひて、この由(よし)を申す。
=その年、この村の民家は、ことごとく疫病にかかっ  て、死ぬ人が多かった。(だが)その魚を差し上げた  人の家がただ一軒だけ、その災難から免れたので、  僧都の所へ参上して、この事を申しあげた。

僧都、この由を聞きて、被け物一重賜(かづけものひ とかさね)賜(た)びてぞ帰されける。
=(すると、)僧都は、この話を聞いて、褒美として  衣服一揃いをお与えになってお帰しになった。

▼(段落まとめ)
村では疫病にかかって死ぬ者が多かったが、夢の中で しるしを除かれた魚の主の家だけは災難を免れ、その 事を僧都に申し上げると褒美の衣服一揃いを賜った。

right★補足・文法★        


・疫をす=(流行の)疫病にかかる
・宇=(大きい)屋根(で覆った)家、軒(のき)







・被物一重=褒美としての一揃いの衣服
・賜ぶ=賜う(お与えになる)
★衰弱していた永超僧都に魚をさしあげたから
 (聖人に良い事を行えば、自分も良い事がある?)






left★原文・現代語訳★
〈150字要約〉
魚がない限りは何も食べない永超僧都が衰弱していた 時に、求めに応じて魚を献上する民家があった。その 年に魚の主は奇妙な夢を見たが、その夢の通り、村は 疫病にかかって死者が多く出る事があったが、魚の主 の家だけは災難から免れることができ、また僧都から 褒美として衣服一揃いを賜ることもできた。


right★補足・文法★    


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