left★原文・現代語訳★
「古文現代語訳ノート」(普通クラス)
   「宇治拾遺物語(巻1)/児のそら寝」

〈出典 『宇治拾遺物語』〉
〇(中世)鎌倉前期(13世紀初め)(1213〜1219)成立
 →12C末までに原型→増補・加筆
説話集15巻(197話)→庶民文学
 →80話が『今昔物語集』(1120)と重複
 →『江談抄』『打聞集』『古事談』『十訓抄』
  と類似の説話も含まれる
〇内容→本朝(日本)天竺(インド)震旦(中国)
    舞台とする説話を収録
   @仏教説話・A世俗説話・B民間伝承
 →当時の人々の生活や人間性が生き生きと描かれる
〇平易な和文体
 →漢語・俗語の使用と語の繰り返し→口承性
〇書名→『宇治大納言物語』に漏れた物を拾い集めた
    とする説などがある、と序文にある

〈概要=「児のそら寝」〉
〇比叡山の延暦寺で僧達がぼた餅を作った際、一人の
 稚児が寝たふりをして待つが、堪らなくなって随分
 経ってから返事をしたので、僧達が大笑いした話

right★補足・文法★
(説話)2018年3月(2022年4月改)


〈作者〉
〇編者未詳
 →源隆国の説














・空寝(ソラネ)=寝たふりをすること・うそ寝



全体の構成 【一】(起)ぼた餅を期待する比叡の児 【二】(承)空寝してぼた餅を待つ児
【三】(転)もう我慢ができなかった児 【四】(結)微笑ましさに大笑いする僧達
left★原文・現代語訳★
〈授業の展開〉

【一】ぼた餅を期待する比叡の児
これも今は昔、比叡(ヒエ)の山に児(チゴ)ありけり。
=これも今(となって)は昔(の事だが)、比叡山
 (の延暦寺)に(ある)稚児(チゴ)がいた。

僧たち、宵のつれづれに「いざ、かひもちひせむ。」
と言ひけるを、この児、心寄せに聞きけり
=(ある日、寺の)僧たちが、宵の特にする事がなく
 手持ち無沙汰な時に「さあ、ぼた餅を作ろう。」と
 言ったのを、この児は期待して聞いていた。

right★補足・文法★


・稚児=公家・武家などの子弟で、教育のために寺に
    預けられた幼い子供。寺社で雑務をする少年
・比叡の山=比叡山の延暦寺
・…けり・ける=過去(…した)の助動詞

・つれづれ=特にするこ事がなく手持ちぶさたなこと
・いざ=さあ(呼びかけの感動詞)
・せ(サ変動詞)む(意思の助動詞=…しよう)



left★原文・現代語訳★
【二】空寝してぼた餅を待つ児
さりとて、しいださむを待ちて寝ざらむも、わろかり
なむと思ひて、片方に寄りて、寝たるよしにて、出で
来るを待ちけるに、
=そうかと言って、(ぼた餅を)作り上げて出すのを
 待って寝ずにいる(ような)のも、(きっと)良く
 ないだろうと思って、(部屋の)片隅に寄って、寝た
 ふりをして、出来上がるのを待っていたところ、

すでにしいだしたるさまにて、ひしめき合ひたり。
=もう作り上げたようで、(僧たちが)大勢で一緒に
 騒ぎ立てている。

right★補足・文法★
・さりとて=そうかと言って・そうだから言って
・しいだす=(為出だす)して出す・作り上げて出す
・…む=婉曲(…のような)の助動詞
・寝(ナ行下二段動詞)ざら(打消の助動詞=…ない)
・わろかり=形容詞「わろし」(良くない)の連用形
・…な(強意=きっと)む(推量=…だろう)
・…たり・たる=完了(…した、…ている)の助動詞
・よし(由)=理由・手段・事情・縁・風情・ふり
・出で来る=出て来る・出来上がる(カ変動詞連体形)
・すでに=もはや、もう、既に
・ひしめく=大勢で押し合って騒ぎ立てる
 →…合ふ=一緒に…し合う

left★原文・現代語訳★
【三】もう我慢ができなかった児
この児、定めて驚かさむずらむと待ちゐたるに、僧の
「もの申しさぶらはむ。驚かせたまへ。」と言ふを、
=この児は、きっと(誰かが自分を)起こそうとする
 だろうと待っていたところ、僧が「もしもし(申し
 上げることがあります)。目をお覚まし下さい。」
 と言うのを、

うれしとは思へども、ただ一度にいらへむも、待ち
けるかともぞ思ふとて、今一声呼ばれていらへむと、
念じて寝たるほどに、
=嬉しいとは思うけれども、すぐに一度で返事をする
 (ような)のも、待っていたと(僧たちが)思うと
 困ると思って、もう一声呼ばれてから返事をしよう
 と我慢して寝ていると、

「や、な起こしたてまつりそ。幼き人は寝入りたまひ
にけり。」と言ふ声のしければ、
=「これ、お起こし申し上げるな。幼い人は寝入って
 おしまいになったよ」と言う声がしたので、

あなわびしと思ひて、今一度起こせかしと、思ひ寝に
聞けば
、ひしひしとただ食ひに食ふ音のしければ、
=ああがっかりだと思って、もう一度起こしてくれよ
 と思いながら寝て聞いていると、 むしゃむしゃと
 (僧たちがぼた餅を)ただどんどんと食べる音がした
 ので、

right★補足・文法★
・定めて=(副詞)きっと、必ず
驚かす=目を覚まさせる、起こす
 →驚く=(はっと)目を覚ます、起きる
・…むず(意思=…とする))らむ(現在推量=だろう)
・待ちゐる(ワ行上一段活用動詞)
・申し(申し上げる、謙譲語)さぶらは(…です・ます
 丁寧語)む(意思=…しよう)
・…せ(尊敬)たまへ(尊敬)=お…下さい / なさい
・ただ=わずかに、すぐに(副詞)
・いらふ=答える、返事をする(ハ行下二段動詞)
…もぞ=…したら困る / 大変だ、…かも知れない
・念ず=祈る、願う、我慢する(サ行変格活用動詞)
・程(名詞)+に(助詞)=…すると・するうちに



・や=(感動詞=呼びかけ)おい・これ・あれ
・な…そ=(禁止)…するな
・…たてまつる=…し申し上げる(謙譲語)
・…に(完了)けり(詠嘆or過去)=…してしまったよ

・あな=ああ、あれ(感動詞)
・わびし=がっかりする・困る・辛い・心寂しい
・…かし=…よ、…ね(念を押す、終助詞)
・思ひ寝に=思いながら横になって
・食ひに食ふ=次々と(どんどん)食べる
・…し(サ変)けれ(過去)ば(助詞=…ので)

left★原文・現代語訳★
【四】微笑ましさに大笑いする僧達
ずちなくて、無期(ムゴ)の後に、「えい。」といらへ
たりけれ
ば、
=(稚児は)どうしようもなくて、(呼ばれて)長い
 時間が経ってから、「はい」と返事をしたので、

僧たち笑ふことかぎりなし。
=(これを聞いた)僧たちが笑うことは この上も
 なかった。

right★補足・文法★

・術なし(ズチナシ)=どうしようもない / 方法がない
・無期(ムゴ)=長い時間が経つこと、久しいこと



・かぎりなし=この上ない、一通りでない
稚児のことを<微笑ましく>思った
   (思わず微笑んでしまうような好ましい様子)

left★原文・現代語訳★
〈要約〉
比叡山の延暦寺で、僧達がぼた餅を作った際に、預け
られていた一人の児が寝たふりをして待つが、ぼた餅
が出来上がって直ぐに起きるのも良くないと思って、
僧にもう一度声を掛けられてからと待っていて堪らな
くなり、随分と時間が経ってから返事をし、僧達が大
笑いするという、微笑ましい話



right★補足・文法★


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