left★原文・現代語訳★
【三】もう我慢ができなかった児
この児、定めて驚かさむずらむと待ちゐたるに、僧の
「もの申しさぶらはむ。驚かせたまへ。」と言ふを、
=この児は、きっと(誰かが自分を)起こそうとする
だろうと待っていたところ、僧が「もしもし(申し
上げることがあります)。目をお覚まし下さい。」
と言うのを、
うれしとは思へども、ただ一度にいらへむも、待ち
けるかともぞ思ふとて、今一声呼ばれていらへむと、
念じて寝たるほどに、
=嬉しいとは思うけれども、すぐに一度で返事をする
(ような)のも、待っていたと(僧たちが)思うと
困ると思って、もう一声呼ばれてから返事をしよう
と我慢して寝ていると、
「や、な起こしたてまつりそ。幼き人は寝入りたまひ
にけり。」と言ふ声のしければ、
=「これ、お起こし申し上げるな。幼い人は寝入って
おしまいになったよ」と言う声がしたので、
あなわびしと思ひて、今一度起こせかしと、思ひ寝に
聞けば、ひしひしとただ食ひに食ふ音のしければ、
=ああがっかりだと思って、もう一度起こしてくれよ
と思いながら寝て聞いていると、 むしゃむしゃと
(僧たちがぼた餅を)ただどんどんと食べる音がした
ので、
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right★補足・文法★
・定めて=(副詞)きっと、必ず
・驚かす=目を覚まさせる、起こす
→驚く=(はっと)目を覚ます、起きる
・…むず(意思=…とする))らむ(現在推量=だろう)
・待ちゐる(ワ行上一段活用動詞)
・申し(申し上げる、謙譲語)さぶらは(…です・ます
丁寧語)む(意思=…しよう)
・…せ(尊敬)たまへ(尊敬)=お…下さい / なさい
・ただ=わずかに、すぐに(副詞)
・いらふ=答える、返事をする(ハ行下二段動詞)
・…もぞ=…したら困る / 大変だ、…かも知れない
・念ず=祈る、願う、我慢する(サ行変格活用動詞)
・程(名詞)+に(助詞)=…すると・するうちに
・や=(感動詞=呼びかけ)おい・これ・あれ
・な…そ=(禁止)…するな
・…たてまつる=…し申し上げる(謙譲語)
・…に(完了)けり(詠嘆or過去)=…してしまったよ
・あな=ああ、あれ(感動詞)
・わびし=がっかりする・困る・辛い・心寂しい
・…かし=…よ、…ね(念を押す、終助詞)
・思ひ寝に=思いながら横になって
・食ひに食ふ=次々と(どんどん)食べる
・…し(サ変)けれ(過去)ば(助詞=…ので)
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