left★原文・現代語訳★
〈授業の展開〉
【一】<食物が今ないのに後で千金と言われた荘子>
今は昔、唐(もろこし)に荘子(さうし)といふ人あり
けり。家いみじう貧しくて、今日の食物絶えぬ。
=今(となっては)は昔のことだが、唐に荘子という
人がいた。家がひどく貧しくて、今日の食物もなく
なってしまった。
隣に監河候(かんかこう)といふ人ありけり。それが
もとへ今日(けふ)食ふべき料(れふ)の粟(ぞく)を
乞ふ。
=隣に監河候という人がいた。その人の所へ今日食べ
る(べき)入用な(食料の)粟(あわ)をもらいに
行った。
河候が曰(いは)く、「今五日ありておはせよ。千両の
金を得んとす。それを奉らん。いかでかやんごとなき
人に、今日参るばかりの粟をば奉らん。返す返すおの
が恥なるべし」と言へば、
=(すると)河候が言うことには、「もう五日経って
からお出で下さい。千両の大金を手に入れることに
なっています。それを差し上げましょう。どうして
高貴なお方に、今日召し上がるだけの(僅かな)粟を
差し上げることができましょうか。 どう考えても
私の恥である(となる)でしょう」と言うと、
▼(段落まとめ)
貧しくてその日の食べ物もなかった荘子は、隣に住む
監河候に粟を貰いに行ったところ、五日後に千両の金
が手に入る予定で、それを差し上げようと言われた。
(そこで、荘子は次のように言った。)
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right★補足・文法★
・荘子=戦国時代の思想家(前365〜290)。楚の人。
老子の思想を受けて、儒教の人為的な礼教を
否定し、無為自然・自然回帰を主張。
(何物にもとらわれない自由な生き方を説く)
・絶え(ヤ行下二段「絶ゆ」未然形)ぬ(完了・助動詞)
・粟=中国では稲・きびなどの皮のついたままの実の
こと。五穀の総称で、後には「あわ」の意
・食ふ()べき(当然=…はずだ、…べきだ)
・料=入用(必要)の品、材料(食料)、費用、目的
・おはす=(サ変、「あり・をり・行く・来」の尊敬)
いらっしゃる
・得(ア行下二段「得」未)ん(推量)と(助詞)す(サ変)
・奉る(「与ふ・遣る」の謙譲=差し上げる)ん(意思)
・いかでか…ん=どうして…か、いや…ない(反語)
・やんごとなし=高貴だ、貴い、捨てて置けない
・参る(「食ふ」の尊敬=召しあがる) ・
・ん(可能推量=…できるだろう)
・返す返す=どう考えても(やはり)、繰り返し 〃
(※ある問題集の前書き)貧しくてその日の食べ物も
ない荘子は、隣に住む監河候に粟(あわ)をもらいに
行った。監河候が五日後に千金が手に入るのでそれを
差し上げようと言うと、荘子は次のように言った。
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