left★原文・現代語訳★
「古文現代語訳ノート」(普通クラス)
「宇治拾遺物語(巻3)
/小式部内侍定頼卿の経にめでたる事」
〈作品=『宇治拾遺物語』〉
〇中世・鎌倉前期(1213)〜(1219)頃成立
→12C末までに原型→増補・加筆
〇説話集15巻(197話)→庶民文学
→80話が『今昔物語集』と重複
→『江談抄』『打聞集』『古事談』『十訓抄』
と類似の説話も含まれる
〇内容→本朝(日本)天竺(インド)震旦(中国)を
舞台とする説話を収録
@仏教説話・A世俗説話・B民間伝承
→当時の人々の生活や人間性が生き生きと描かれる
〇平易な和文体
→漢語・俗語の使用と語の繰り返し→口承性
〇書名→『宇治大納言物語』に漏れた物を拾い集めた
とする説などがある、と序文にある
〈概要=「小式部内侍定頼卿の経にめでたる事」〉
〇公卿の多くに思いを寄せられていた小式部内侍は、
藤原道長の三男である関白が来訪していたその夜、
かねてから情を通じていた定頼中納言が通って来て
も追い返してしまうしかなく、申し訳なくて堪らず
「うゎ」と後ろ向きに泣き伏してしまった
(→要旨)
〈全体の構成〉 (→要約→要旨)
【一】<中納言と關白が通う小式部内侍>
小式部内侍定頼卿の経にめでたる事
=小式部内侍が定頼卿の経に心惹かれた事
今は昔、小式部内侍に定頼中納言物(もの)いひわたりけり。
=今となっては昔のことだが、小式部内侍に(藤原)
定頼中納言が情を通わせ続けていた。
それに又時の關白かよひ給けり。
=それなのに、また時の關白も通っておられた。
【二】<關白来訪中に来て経を詠む中納言>
局に入て臥し給ひたりけるを、知らざりけるにや、中納言よりきてたたきけるを、
=關白と内侍が部屋でお休みになっていたのに、知ら
なかったのだろうか、中納言から来て戸を叩く合図
があったので、
局の人「かく」とやいひたりけん、沓をはきて行けるが、少し歩みのきて経をはたと打あげて読みたりけり
=部屋の侍女が「このような事情で」と言ったのだろ
うか、中納言は沓を履いて出て行ったが、少し歩み
去ってからお経をいきなり声を上げて読み始めた。
【三】<「うゎ」とうつ伏す小式部内侍>
二声ばかりまでは小式部内侍きと耳を立つるやうにしければこの入りて臥し給へる人怪しと思しけるほどに
=聞こえるお経に一声二声までは内侍がさっと耳を傾
けるようにしたので、この部屋でお休みなっていた
関白は不審にお思いになっていたところ、
少し声遠うなるやうにて四声五声ばかり行きもやらで読みたりける時 「う」と云ひてうしろざまにこそ伏し反りたれ
=少しお経の声が遠くなるようで四声五声と立ち去り
もせず読んでいるのが聞こえた時、内侍は「うゎ」
と言って後ろ向きに反り返りうつ伏したのだった。
【四】<後日談>
この入り臥し給へる人の 「さばかり堪へ難う恥かしかりし事こそなかりしか」と後に述給ひけるとかや
=この部屋でお休みになっていた関白は、「あれほど
堪え難く恥ずかしかったことはなかったなあ」と、
後に述懐なさったとかいう。
★大江山 いく野の道の 遠ければ
まだふみも見ず 天の橋立
(小式部内侍『金葉集』)
=大江山を越えて生野を通って行く道が遠いので、
まだ天の橋立を踏んでみたことはなく、母からの
手紙も見てはいません
→「いく野」(生野・行く野)・「ふみ」(踏み・
文))は掛詞。「ふみ」「橋」は縁語
→歌合で、中納言定頼から丹後国にいる母に使いを
立てたかと言われた際に、返事とした詠んだ歌
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right★補足・文法★
(説話)2018年1月
〈作者〉
〇編者未詳
→源隆国の説
〈参考〉
※小式部内侍=平安中期の女流歌人(〜1025)
父は陸奥守の橘道貞、母は有名な歌人の和泉式部
母と共に上東門院彰子に仕え、藤原公成の子を生み
間もなく26・7歳で病死
『小倉百人一首』にある「大江山…」の歌が有名
他にも後拾遺集・金葉集などの勅撰集に入集
多くの逸話が歌論書や説話集に見える
※(藤原)定頼卿=有名な歌人(995〜1045)
大納言藤原公任の子で、中納言
『小倉百人一首』にある「朝ぼらけ…」が有名
※関白=藤原道長の三男・教通(996〜1075)
「今物語/桜木の精」では「大二条殿」と記される
15歳で従三位、以後は内大臣・右大臣・左大臣に
進み、兄の頼通に譲られ関白となるが、
外孫の皇子が誕生せず、外戚関係のない後三条天皇
の即位したことから、権勢は下り坂となる
・愛づ=(めづ・下二段)心惹かれる・魅せられる
感動する・賞美する・称賛する・褒める
・物言ふ=口をきく・気の利いたことを言う
男女が情を通わせる・懇ろにする
・それに=(接続詞)(逆接)しかるに・それなのに
(順接)それによって・その結果
(添加)その上
・はたと=ぴしゃり/ぱしっ/どしん/ぽんと
きっと(きつく睨みつける)
急に・突然
・のく=(退く)立ち去る・後方へ引っ込み離れる
・きと=素早く・さっと・しっかりと・必ず
・耳立つ=注意して聞く・耳を傾ける
・行きもやらで=(すっかり)立ち去りもせず
→通って来た定頼を追い返してしまうのが申し訳なく
て堪らず、内侍は「うゎ」と後ろ向きにうつ伏して
しまったのだろうか
★朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに
あらはれわたる 瀬々の網代木
(権中納言藤原定頼『千載集』)
=夜明け方、宇治川に立ち込める霧が途切れ途切れ
に一面に晴れていって、あちこちの瀬で仕掛けた
網代の杭が見えてくることだ
→「たえだえに」(川霧が途切れ途切れに・網代木
が切れめ切れめに)は掛詞
→「網代」=魚を捕る木の杭の仕掛け
→宇治で早朝に見た実景
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