left★原文・現代語訳★
「古文現代語訳ノート」(普通クラス)
   「宇治拾遺物語/(巻1)伴大納言の事」

〈作品=『宇治拾遺物語』〉
〇中世・鎌倉前期(1213)〜(1219)頃成立
 →12C末までに原型→増補・加筆
〇説話集15巻(197話)→庶民文学
 →80話が『今昔物語集』と重複
 →『江談抄』『打聞集』『古事談』『十訓抄』
  と類似の説話も含まれる
〇内容→本朝(日本)天竺(インド)震旦(中国)を
    舞台とする説話を収録
 @仏教説話・A世俗説話・B民間伝承
 →当時の人々の生活や人間性が生き生きと描かれる
〇平易な和文体
 →漢語・俗語の使用と語の繰り返し→口承性
〇書名→『宇治大納言物語』に漏れた物を拾い集めた
    とする説などがある、と序文にある

〈概要=「伴大納言の事」〉
〇伴善男は、佐渡国郡司の従者だった頃に特別な夢を
 見て人相見であった郡司に打ち明けるが、その予言
 通りに大納言まで昇進するが、最後には罪を蒙って
 しまうこととなった、という話    (→要旨)

〈全体の構成〉 (→要約→要旨)

【一】<佐渡国郡司の従者だった伴善男>
これも今は昔、伴大納言善男は佐渡國郡司が從者なり。
=これも今となっては昔のことだが、大納言の伴善男
 は、(元々は)佐渡国の郡司の従者である。

【二】<伴善男の見た夢>
彼國にて善男夢にみるやう、西大寺と東大寺とをまたげてたちたりと見て、妻の女にこのよしをかたる。
=その佐渡国で善男が夢に見るには、西大寺と東大寺
 とを跨いで立っているという夢を見て、妻にこの事
 を語る。

めのいはく、「そこのまたこそさかれんずらめ。」とあはするに、
=妻が言うことには、「貴方の股が裂かれるだろう」
 と善男の言葉に合わせて(ひどく)言うので、

善男おどろきて「よしなきことをかたりてけるかな」とおそれおもひて、しうの郡司が家へ行むかふ所に、
=善男はびっくりして「つまらないことを喋ってしま
 ったことだ」と心配に思って、主人の郡司の屋敷へ
 出かけて行ったが、そこで、

【三】<人相見である郡司の予言>
郡司きはめたる相人也けるが、日來はさもせぬにことのほかに饗應して、わらふだ〔円座〕とりいでむかひてめしのぼせければ、
=郡司は人相見を極めた名人であったが、(人相を見
 たからか)日頃はそんな事もしないのに格別に丁重
 にもてなしてくれて、円座(座布団)を取り出し向
 かい合ってその上に座らせてくれたので、

善男あやしみをなして、「我をすかしのぼせて妻のいひつるやうにまたなどさかんずるやらむ。」とおそれ思ほどに、
=善男は不審に思って、「私をおだてて高い所へ上が
 らせて、妻が言ったように股裂きでもしようとする
 のだろうか」と心配に思っていると、

郡司がいはく、「汝やんごとなき高相の夢みてけり。それによしなき人にかたりてけり。かならず大位にはいたるとも、こといできてつみをかうぶらんぞ。」といふ。
=郡司が言うことには、「おぬしはこの上なく高貴な
 将来の運命を表す夢を見た。それなのにつまらない
 人に喋ってしまった。必ずや相当に高い位には昇る
 であろうが、ある事件が起こって罪を蒙るに違いな
 い」と言う。

【四】<予言通り罪を蒙った伴善男>
しかるあひだ善男縁につきて上京して大納言にいたる。されども犯罪をかうぶる。郡司が詞にたがはず。
=そんな訳で善男は縁があって上京し、大納言にまで
 昇進する。そうではあるが、罪を蒙ることとなる。
 郡司の予言に違わなかったのだ。

right★補足・文法★
(説話)2017年12月


〈作者〉
〇編者未詳
 →源隆国の説

〈参考〉
※伴善男(809〜868)
 古代に大和朝廷の軍事を担った名門豪族・大伴氏の
 末裔。平安初期の公卿、国道の五男。政務に精通し
 仁明天皇に信任され大納言となり権勢を振るう。
 866年応天門が炎上した際、権力を争った源信の
 放火と主張して陥れようとしたが、逆に藤原良房に
 妨げられて、犯人とされ伊豆に流された。
 この応天門の変は、藤原義房が摂関政治の障害とな
 る名門である大伴氏 (淳和天皇の諱を避けて伴と改
 めた) の失脚を狙ったと言われている。事の経過は
 『伴大納言絵詞』に詳細に描かれている。









・生誕地は、父の佐渡国配流中に生まれたとする説、
 京で出生したとする説がある。
 また元々、佐渡の郡司の従者で、後に伴氏の養子に
 なったとの説もある








・さか(「裂く」未然形)+れ(受身)
 +んず(推量)+らめ(現在推量・已然形)
 →「んずらむ」=「む」「んず」とほぼ同意


・由無し=理由や根拠がない・手段や方法がない
     関係がない・利益がない・つまらない
     良くない・都合が悪い
・驚く=はっとする・びっくりする・目を覚ます


・相人=(さうにん)人相を見る人・人相見
・わらふだ=円座・当時の座布団
・饗応=(響きが声に応じるように直ぐに応じる意)
    (下心があって)丁重にもてなすこと
    調子を合わせ取り入ること・ごちそう
    飲食物を準備してもてなすこと
・めし(召し)+上せ+けれ+ば(確定条件)
 =その円座の上に座らせて対座してくれたので

・あやしむ=不思議だと思う・疑う・いぶかる
      不審に思う・見とがめる
・すかす=騙す・欺き誘う・機嫌をとる・おだてる
・さか(裂か)+んずる(推)+や+(あ)ら+む



・やんごとなし=打ち捨てておけない・この上なく特
 別だ・二つとない・身分が第一級である・尊貴だ
・相=将来の運命を表していると信じられた特徴
   姿・形・様子
・それに=(逆接)しかるに・それなのに
     (順接)それによって・その結果





・しかるあひだ=そうしている間・そのうちに
        それだから・そんな訳で
・応天門の変



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