left★原文・現代語訳★  
「古文現代語訳ノート」(普通クラス)
   兼好法師「『徒然草(第170段)
       /さしたる事なくて」


〈作品=『徒然草』〉
三大随筆の一つ
 ・清少納言『枕草子』(1001年頃→平安中期)
 ・鴨 長明『方丈記』(1210年頃→鎌倉初期)
 ・兼好法師『徒然草』(1330年頃→鎌倉末期)
鎌倉時代末期1330年頃成立
〇作者=兼好法師
〇内容
 ・処世・趣味・自然・有職故実・仏教など
  →人生経験に基づいた人間・社会に対する省察
  →『枕草子』からの影響
 ・隠者文学→(仏教的)無常観の思想
 ・240余段
〇表現→漢文訓読調・王朝的な流麗な和文

〈概要〉
人を訪問して対座したりする場合はどうあるべきか、 その心がけなどについて具体的に述べている。
                (→要約・要旨)

right★補足・文法★        
(随筆)2021年8月



〈作者について補足〉
・伝記未詳
・歌人として活躍
 →「和歌四天王」の一人







全体の構成 【一】(起)用事がない訪問は良くない事だ 【二】(承)人との対座は無益である
【三】(転)同じ心で対座していたい人もいる 【四】(結)のどかな世間話や手紙も良い
left★原文・現代語訳★
〈授業の展開〉

【一】<用事がない訪問は良くない事だ>

さしたる事なくて人のがり行くは、よからぬ事なり。 用ありて行きたりとも、その事果てなば、とく帰るべ し。久しく居たる、いとむつかし。
=たいした用事がなくて人の所へ行くのは、良くない  事である。用事があって行ったとしても、その用事  が終わってしまったならば、直ぐに帰るのが良い。  長居しているのは、とても煩わしい。

▼(段落まとめ)
たいした用事がないのに人の所へ行くのは良くなく、 行ったとしても長居すべきではない。

right★補足・文法★        




・さしたる=(連体)取り立てて言うほどの、さほどの ・…の(助詞)がり(名詞)=…のもと/所(へ)
・むつかし=いやな感じだ、煩わしい、鬱陶しい









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【二】<人との対座は無益である>

人と向かひたれば、詞(ことば)多く、身もくたびれ、 心も閑(しづか)ならず、万(よろづ)の事障りて時を 移す、互ひのため益(やく)なし。
=(訪問客があって)人と対座していると、会話が多く  (なり)、身体も疲れ、心も落ち着かず、多くの事が  差し支えて時を(無駄に)過ごす(ことになるから)、  互いのために無益である。

いとはしげに言はんもわろし。心づきなき事あらん折 は、なかなかそのよしをも言ひてん。
=(かと言って、相手と)嫌そうに話をするようなの  も良くない。気の進まない事があるような場合は、  かえってその理由を言ってしまうのが良い。

▼(段落まとめ)
訪問客と対座していると、様々な支障があって無益で あるから、気の進まない時は言ってしまうのが良い。

right★補足・文法★        


・障りて=差し障りがあって、差し支えて







・厭はしげなり=面倒そうだ、嫌なようだ
・心づきなし=気に食わない、気の進まない
・言ひ()て(強意)ん(意思・適当)







left★原文・現代語訳★
【三】<同じ心で対座していたい人もいる>

同じ心にむかはまほしく思はん人の、つれづれにて、 「いましばし、今日は心閑(しづか)に」など言はん は、この限りにはあらざるべし
=(だが、自分と)気心が合って対座していたいと思う  ような人が、所在ない様子で、「もう暫く、今日は  心静かに(一緒に語り合いましょう)」などと言う  ような場合は、この限りではないだろう。

阮籍が青き眼、誰もあるべきことなり。
(気に入った客には青い目を向け、嫌いな相手には  白い目を向けた)「阮籍が青き眼」(という中国の  故事と同じような事)は、誰にもあるはずのことで  ある。

▼(段落まとめ)
自分と気心が合って対座していたいと思う人もいて、 用事がない訪問は良くないという限りではない。

right★補足・文法★        


☆用事がない訪問は良くない事であり、長く対座して  いると様々な支障があって無益である、ということ  は当てはまらない。
 →筆者の中には、孤独を好む心と、人を恋しく思う   気持ちと、二つが同居しているのである



※阮籍=(中国晋代の)竹林の七賢の一人。気に入った     客には青い目を向け、嫌いな客には白い眼を     向けたと言う(『晋書』列伝・十九)
 →「白眼視」の語源となる






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【四】<のどかな世間話や手紙も良い>

そのこととなきに人の来(きた)りて、のどかに物語り して帰りぬる、いとよし。また、文も、「久しく聞え させねば」などばかり言ひおこせたる、いとうれし。
=特に用事もないのに人が訪ねて来て、のどかに世間  話をして帰ってしまうのは、たいそう良い。また、  手紙も、「長い間お手紙を差し上げなかったので、  (お便りします)」などとぐらいに言って寄こした  のは、たいそう嬉しい。

▼(段落まとめ)
特に何もない時に、のどかに世間話をしたり、手紙を 言って寄こしたりするのも、たいそう良い。

right★補足・文法★        


・そのこととなきに=これという用事も無い時に
・聞こえ(謙譲)させ(敬意の高い謙譲)ね(打消)ば()











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〈110字要約〉
たいした用事がないのに人の所へ行くのは良くない。 対座していると支障が多くあり、時間が無駄に過ぎて 行き無益である。だが、自分と気心が合って対座して いたいと思う人もいて、何もない時ののどかな世間話 や手紙も良いものだ。



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