left★原文・現代語訳★
【二】<中陰の間の人々の様子と心情>
中陰のほど、山里などに移ろひて、便悪しく、狭き所
にあまたあひ居て、後のわざども営み合へる、心慌た
たし。日数の早く過ぐるほどぞ、ものにも似ぬ。
=中陰(四十九日)の間、山里などに移って、不便で
狭い所に(遺族など)大勢が寄り集まって、死後の
様々な仏事を一緒に行っているのは、気ぜわしい。
(その間の)日数の早く経つ様子は、譬えようもない
ことだ。
果ての日は、いと情けなう、互ひに言ふこともなく、
我賢げに物ひきしたため、散り散りに行きあかれぬ。
=(四十九日の)最後の日は、あまり人情味もなく、
(やっと終わったと)互いに言う事もなく、分別顔
で物を整理して、散り散りに別れて行ってしまう。
もとの住みかに帰りてぞ、さらに悲しきことは多かる
べき。
=(法事が終わり)元の我が家に帰ってからこそ、一層
(故人を偲び)悲しいことは多いだろう。
「しかしかの事は、あなかしこ、あとのため忌むなる
事ぞ」など言へるこそ、かばかり中に何かはと、人の
心はなほうたておぼゆれ。
=(そんな折)「これこれしかじかの事は、ああ縁起
の悪い事だ、後(に残された人)のために、忌み嫌う
ような事だよ。」などと言っているのは、これ程の
(悲しみの)中で何という事(を言うの)かと、人の心
というものは、やはり情けなく思われることだ。
▼(段落まとめ)
中陰の間は、気ぜわしく日が経って行き、最後の日は
あまり人情味もないが、法事が終わって我が家に帰る
と一層悲しくなる一方、人の心が情けなく思われたり
もする。
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right★補足・文法★
・中陰=仏教で、日ごとに冥土の裁判を受け、四十九
日目に仏になるとされている、その四十九日間。
その間に、故人の魂が良い裁きを受けられるように
祈って催される追善供養を「中陰供養」と言う
・心慌たたし=気ぜわしい、落ち着かない
・ほど=程度、様子、具合、時間、距離、身分、年齢
☆仏事が長く続く間に、弔意よりもようやく義務から
解放されたという開放感が強くなる→「情なう」
・我賢=(形動)自分だけが賢そうにしている様、利口
ぶっている様、分別顔でいる様、自分本位
・ひきしたたむ=片付ける、整理する、とりまとめる
・あなかしこ=ああ恐れ多い、ああ慎むべきだ
(禁忌をおかした者をたしなめる)
・忌む()なる(推定) ・言へ(已然形)る(存続)
・うたてし=嫌だ、情けない
☆かばかり中に=これほどの悲しみの中に
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