(先生の現代文授業ノート)浅田次郎「鉄道員(ぽっぽや)」
left★板書★
「現代文授業ノート」(普通クラス)
   浅田次郎「鉄道員(ぽっぽや)」

〈出典〉
○「鉄道員」(8つの短編。作品初出は1995年
  →直木賞受賞
〇文体 会話体で語られる

〈概要〉
〇1999年映画化→日本アカデミー賞で多数の受賞
 →高倉健・太竹しのぶ・小林稔侍・広末涼子が出演
 →北の果ての小さな終着駅・JR幾寅駅を舞台
〇愛する妻子の臨終の時にも立ち会う事なく、職務を
 果たして仕事一筋に生きてきた定年間近の鉄道員
 人生を紹介して、死の前に(?)意識が朦朧とする
 中で見た奇蹟(幻影・幽霊)とその翌朝の3日間を
 描く短編              (→要旨)

〈全体の構成〉       (→要約→要旨)

【序】(前半)老駅長の人生と正月明け
                    (序段)
【一】おさげ髪の女子高生の出現(幻影)
                     (起)
【二】老駅長の思い出話と最終列車
                     (承)
【三】娘の命日に判明した少女の正体
 @<娘の命日に夕食を支度する少女>
 A<和尚からの電話で事実が判明>
                     (転)
【四】駅長の死(と集まる多くの人々)
                     (結)

〈授業の展開〉

【序】(前半)老駅長の人生と正月明け
                    (序段)
〇枠組の設定
 ・時代 1950(昭和25)?
     〜1995年(平成7)?   …鉄道員
 ・場所 道央部の幌舞線の終着駅・幌舞駅 …架空
     →かつては鉱山の町として栄えたが、
      閉山と共に寂れる
 ・主人公 (人物像)佐藤乙松 60歳
      →小さな駅の鉄道員(一人だけの駅長)
      →17年前に一人娘を、2年前に妻を
       亡くした、その日も駅に立ち続ける
           (仕事一筋・真面目・誇り)
      →3月に廃線となる幌舞線と共に定年
 ・登場人物 妻・娘(雪子)・親友の仙次と家族
       若い機関士・みっちゃん・和尚と娘
       駅の乗降客(高校生、他)

〇前半の粗筋(と省略部分の補足)
 @1/4夜 お節料理と酒を持ち幌舞駅に向かう親友
  の仙次
と気動車を運転する若い機関士の会話
 A1/4夜 幌舞駅舎内で酒を飲みながら二人で正月
  気分の親友の仙次と主人公の乙松
    ↓
▼B1/4夕 赤いランドセルを背負い駅で遊んでいた
  少女が人形を忘れて帰った、と仙次に語る乙松
 C1/4深夜 妹の人形をと中学入学前の少女が来て
  いたと言う乙松に、呆けたのではと目覚めた仙次
    →缶コーヒーを口移し=「キスしちゃった」

▼(段落まとめ)
妻子を亡くした定年前の老駅長の所に、不思議な二人 の少女が次々と現れては、人形を置き忘れて帰る。

【一】おさげ髪の女子高生の出現(幻影)
                     (起)
正月明けの翌日(1/5)の午後
 ・ボタ山を隠すほど
  繁くなった雪  (…音のない世界)
              (→情景描写の効果)
 ・<頭を抱えるほどに耳鳴り>
    ↓
  意識が朦朧とする中で見る奇蹟(幻影・幽霊)
    (混濁)      (→近い死を暗示?)
    ↓
〇夕方、おさげ髪の<女子高生の出現>(…3人目)
 ・前日に2人の妹が置き忘れた人形の事
    ↓
〇乙松の受け止め方
 ・前日来た2人の少女の姉
 ・円妙寺の和尚の孫(良枝の子)  ←親の里帰り
    →いい正月だなあ   (和尚…孫が3人)
    →美寄高校の生徒会長だった良枝にそっくり
 ・昔の美寄高校のセーラー服姿     (伏線)
鉄道に興味を示す少女の行動
 ・六十のやもめ暮らし
    ↑
 ・「制服かっこいい」と
  じっと見つめる           (伏線)
     →いつの間にか座敷に上がり  (伏線)
     →コレクションに見入る(…鉄道同好会)
 ・勝手知った家のように…台所に…   (伏線)
    ↑        →「もっと話聞かせて」
 ・<嬉しく浮き浮き>と説明する乙松
    ↓
    和尚の気配り・仙次の慰めが嬉しい

▼(段落まとめ)
翌日、昨日の少女達の姉という和尚の孫の女子高生が 現れて鉄道の話をし、皆の気配りを嬉しく思う。

【二】老駅長の思い出話と最終列車
                     (承)
○その日(1/5)時も場所も分からぬ程の吹雪
        (…音も光もない純白に埋もれた)
〇老駅長の(語る)思い出話
             →感動を込めて聞く少女
 ・半世紀分の愚痴と自慢
 =<胸深く…凝り固まった記憶>
    ↓    ・特需景気・炭鉱事故
    ↓    ・労働争議・閉山(…時代背景)
    ↓  →語ると心が軽くなる
一番辛かった事
 ・娘の死、二番目は妻の死
  =<私事だから語らず>
    ↓↑
 ・一番悲しい思いをした事      (…公務)
  =集団就職の中卒の子達をホームから送り出す事
    ↓
  ポッポヤは、どんな時も涙の代わりに笛を吹き
  旗を振り、喚呼の裏声を絞る(ポッポヤの苦労)

〇(ラッセルに牽かれる)最終列車    (7時)
 ・雪の帳を突き…噴き上げながら走って…
    ↓
 ・ホームの先頭に立つ駅長
  (俺のわがまま→退職金・恩給も受け取れず)
 ・若い機関士となじみの操作員
    ↓
  <仏壇の供物>を差し出す   (雪子の命日)
    ↓            →餞別ではない

▼(段落まとめ)
話を聞きたがる少女に、生涯の愚痴と自慢を語り心が 軽くなる時、最終の乗務員が来て供物を差し出す。

【三】娘の命日に判明した少女の正体
                     (転)
@<娘の命日に夕食を支度する少女>

雪子の命日だった     (17年前の1/5)

〇最終を送り出し、事務所に戻って
 <ぎょっとした…おっかあ>
    ↓
〇夕食を支度する少女との会話
 ・勝手に冷蔵庫あけちゃった…(伏線→乙松の娘)
      →「かまど持ちの良い子だ」(…魔法
      →「鉄道員の嫁になるのが夢」
      →死んだ妻の味      (不思議
    ↓
〇乙松の心情の推移
 ・<胸がいっぱい>
    ↓
 ・雪子が生きていたら…と思う
    ↓
 ・みんな良くしてくれ
  本当に幸せ者だ       (…幸せな正月)
     (好き勝手ばかりで妻子も死なせたのに)
    ↓
    いつ死んでもいい位(幸せ)(伏線→翌朝)

▼(段落まとめ)
雪子の命日、事務室に戻り死んだ妻かとぎょっとする が、少女との夕食や会話で胸が一杯で幸せだと思う。

A<和尚からの電話で事実が判明>

〇円妙寺の和尚からの電話
 ・とんちんかんな(やりとり)
    ↓
 ・呆けたのか    (…孫も誰も帰っていない
    ↓   →和尚の声が耳の奥でぐるぐる回る
    ↓   →机上の人形を手に取って…
 ・少女は和尚の孫ではない
    ↓
〇少女の正体が判明      (幻影という事実)
 ・<死んだ娘雪子> (の幽霊)
  17年間成長する姿を父に見せに来た
        (3人→小中の入学前と女子高生)
      →娘も死んで何一つ良い事がなかった父
       …だから(親孝行するつもりで)
      →少女の声は降り積む雪のように静か
    ↓
〇亡き娘の幽霊との心の交流
 ・人形を胸に抱き…「思い出した…」
 ・娘が死んだ時も、ホームに立ち続けて
  「本日異常なし」と日報に書いていた
    ↑
 ・<ぽっぽやだから仕方がない>
               何とも思っていない
          →ユッコ悲しい笑い方をした
        ↓
 ・「めし食って風呂入って一緒に寝よう、ユッコ」
          →日報に「異常なし」と書いた
    ↓
〇夜半に雪が止むと
 ボタ山に銀色の満月

▼(段落まとめ)
和尚の電話で死んだ娘と正体が判明した少女は、臨終 にも鉄道員として駅に立った父の生き方を認める。

【四】駅長の死(と集まる多くの人々)
                     (結)
翌朝(1/6)
 雪だまりのホーム端での駅長の死
 ・朝一番の列車の乗務員が発見
    ↓
 ・柩を乗せた列車、
  親友の仙次が運転
 ・多くの人々が(葬式で)集まる駅と列車

▼(段落まとめ)
翌朝、雪だまりのホームで職務に就いていた老駅長の 姿が発見された。

〈要約350字=24×14〉
略→概要




right★発問・解説ノート★
(小説)2018年12月


〈作者〉1951(昭和26)年〜 小説家
・大学浪人後、自衛隊に入隊→ギターの弾き語り→
 婦人服業界→小説を書き続ける
・著書『地下鉄に乗って』(吉川英治文学新人賞)
   『プリズンホテル』『蒼穹の昴』(歴史小説)




・妻子の事は私事として二の次にし、人々の為に鉄道
 員としての職務に誇りを持って全てを捧げて生きて
 来た孤独な男が、最期を迎えようとする時に死んだ
 筈の娘が現れて交流する様を描く短編
 →人間としての在り方(肯定or否定?)




















・朝鮮戦争・特需景気→1950〜53年
・労働争議→1960(昭和35)〜70年代前半
・集団就職→第二次大戦後〜高度経済成長期
     (1945年) (1980年?)
 →※特需景気→炭鉱事故→労働争議→閉山


(結婚14年後)17年前→→→→→→2年前→現在
               (鉄道員45年間)
(29歳)→佐藤乙松(43歳)→→→→(60歳)
  |    |―雪子(11/10〜1/5死、2ケ月)
(24歳)→ (38歳)→→→→→→(死)





@雪の降りしきる零下20度のホームに立ち5分遅れ
 の列車を誘導する主人公と幌舞駅、他の人物の紹介
A札幌から帰省した息子や嫁と年越しをした仙次と、
 妻子を亡くした乙松の説明
    ↓
B(正月明け)「駅長さん」と懐いてくる小学校入学
 前の不思議な少女

C帰省した寺の和尚の孫らしいが、亡くした一人娘の
 雪子に似ているとも思う乙松    (…二人目)
    →駅のトイレを怖がる少女に付き添う乙松








☆少女が他から切り離された非現実の世界から訪れる
 事を予感させる効果      (異常の前触れ)
 →死んだ人間が出現し生きた人間と交流する不思議
  な状況を導く      (→幻影or夢を見る)
・1/5朝 前日に二人で正月気分を味わった仙次が駅
 から帰り、一人残されて幻影を見る乙松
 →一人で酒を飲み?、頭痛がして夢でも見たか?
 →発着する列車は1日に3本、昼間はする事もない

・失礼(少女)←→遊んで貰ったのはこっち(乙松)

           |―小学入学前の少女
 円妙寺の和尚―良枝―|―中学入学前の少女
           |―おさげ髪の女子高生

・勉強も出来て、可愛い
・鉱山があった頃の喧噪、汁粉をふるまう妻の思い出

・定年間近、妻子もいず、希望がなく孤独な老人


娘である事を予感させる<伏線>



・古き良き国鉄の話を語るのは、無上の楽しみ
 →誇りを持って鉄道一筋に生きて来た
・少女が来なければ、昼間から酒をくらって、夕方の
 列車まで眠りこけていただろう…
 →少女の来訪・前日の仙次との正月気分




(心境・人物像)

☆非現実的な幽霊と人間の交流する状況で、半世紀分
 の愚痴と自慢を話す
・鉄道員としての45年間(15〜60歳)を語る


★身体に染み付いて離れないものと共にある
 鉄道員としての職務に専念してきた誇りと、私事と
 して二の次にし抑えてきた胸深くにある辛い思い出


・胸深く仕舞い込んで来たが、生後すぐに死んだ娘が
 生きていたらどんなだろうと常に心では思っていた

・2〜3つも小さい子供が、泣きながら村を出て行く
 →辛くても泣かず、気張れと肩叩いて笑い、ホーム
  の端にいつまでも立って、敬礼
 →中学卒業の子供     (→少女は高2・3)
 →機関士の仙次は警笛(現在は美寄中央駅の駅長)

・雪掻き用の機関車
☆幻影の事実が判明する時が近づく

・右手にカンテラ、左の指を線路に、喚呼の声
・同僚達の力添え→幌舞線の廃線が自分の定年と一緒
 →実直・一徹で人が良い鉄道員

・機関士・操作員・機関区の人達から慕われて、尊敬
 される(定年は3か月後)





(心情の推移・判明した幻影の事実)



・機関区の古顔たちは覚えてくれていた→感謝


☆座敷に座る後姿が2年前に死んだ妻の背中に見えた

・雪子の丁寧語が方言に変化→娘として父に接する


☆鉄道員という生き方が認められて誇らしい
・魔法・愕く・不思議

・最終を送り出した後、母から教わった味噌汁や夕餉
 がいつも自分を待っている、と思う
 →もし雪子が生きていたらどんなだろうと、今まで
  にもいつも心の奥底では
思っていた
 →その願望が幻影となって実現(死の直前の夢)?

★幸せ→<奇蹟>










・ホーム・待合室と改札口・事務室・二間の座敷
・「明けましておめでとう」→正月明け(1/5)



・人形には霊が宿る?
☆生後すぐ死んだ娘が成長した姿で現れることがある
 のだろうか

・嘘(…孫)←おっかながるといけないから(幽霊)
・呼び方の変化…「おめえ=自分の娘」「お父さん」
★雪子が生きていれば今頃はどんな姿だろう、という
 常に胸の奥深くあった思いが、亡き娘の幽霊を出現
 させ、その<幻影を見させる>事になった
☆(だから…)生きていたらこんな風に育っていたと
 いう事を夕べから見せに来た

・母が泣きながら棺桶に…レースの服編んで
・母も娘も死に目に会えず
私事は二の次にし、職務を優先する仕事一筋の不器
 用な鉄道員
だったが、胸深く辛い思いはあった
★鉄道員としての<父の生き方を認める>
 →父は不器用な自分が認められ慰められる思い
・人形のある事務室にいる乙松と座敷にいる雪子が、
 現実世界でこれから共に生きて行く事は出来ない?

・大事な事だが、駅長の業務とは無関係の私事である

・亡き娘の幽霊も姿を消した老駅長の、生き方を認め
 られ
ながらも定年前で希望がある訳でもない明日を
 暗示?










・乙松より一つ年下で、美寄中央駅の駅長に出世し、
 翌年は11階建ての駅ビルの役員に内定している
      (地下街もある美寄は、帯広あたり?)





×〈要約100字〉(参考)
妻子を亡くした定年前の鉄道員、佐藤乙松のもとに3
人の不思議な少女が次々と現れる。少女は死んだ娘雪
子であった。乙松は翌朝ホームで死んでいた。私事を
顧みずに一徹に生きた鉄道員の人生の潔さ、美しさを
描く

貴方は人目の訪問者です。