left★板書(+補足)★
「現代文授業ノート」(普通クラス)
   (近代短歌) 北原白秋

〈作者〉
・明治18年(1885)〜昭和17年(1942)
明治40年代〜大正・昭和初期(「明星」廃刊後)
       鴎外を指導者とする「スバル」に拠り
 <浪漫的・耽美的>な歌を詠む
フランス象徴詩の影響を受けて、新鮮な西洋の近代
 感覚(異国情緒の特異な叙情)を取り入れるが、
 後に東洋的な静かな境地を求める歌風となる
・歌集 『桐の花』 ・詩集 『邪宗門』など
・雑誌 『多磨』創刊
・児童文学雑誌『赤い鳥』に創作童謡を多く発表

right★発問☆解説ノート★
(短歌)2015年2月〜16年6月
              (2020年2月改)


・〜57歳
・当初、与謝野鉄幹が主宰する「明星」に詩歌発表









left★板書(+補足)★
<春の鳥  な鳴きそ鳴きそ>| あかあかと
      外の面の草に    日の入る夕
=春の鳥(よ)、鳴くな、鳴かないでくれ。真っ赤に
 明るく、窓の外の草原に夕日が(照り映えて)射し
 ている(物悲しい春の)夕暮れ(に)。
 (それでなくても物悲しい春の夕暮れに、鳴き声を
  聞いたら、更に切ない思いになるから)

〈出典〉(…初出)
明治41年(1908)7月、鴎外の家で開かれた歌会
での作、「戸」という題で詠む(作者23歳)。
雑誌『スバル』(明42)では第二句が「な鳴きそな
鳴きそ」と掲載。第一歌集『桐の花』(大2)冒頭歌

〈主題〉(感動の中心・心情)
(夕日が照り映える)窓の外の風景を見ているだけで
物悲しいのに、鳴かないでという<青春の感傷>

      (耽美的でロマンチックな気分・哀愁)

〈鑑賞〉(感想・背景・補足)
・作者を感傷的な気分に誘う実際の風景は、夕映えを
 描いたフランス印象派の西洋画のイメージがある
・感傷的な気分に誘う視覚的な自然描写の下の句に、
 聴覚的な甘い哀愁を表出する上の句、という構成に
 なっている

right★発問☆解説ノート★
・春の鳥→美しい声→感傷(ロマンの薫る語)
・な(禁止・副詞)鳴き()そ(禁止・終助詞)
 →小刻みな同音の繰り返し→鳴き声と青春の切なさ
・あかあか→同母音の反復→聴覚と視覚が交錯して、
 春のもの憂い気分(青春の感傷)がそそられる
(色彩)赤=色彩の赤、明=光、あか=色と光の両方
・外(と)の面(も)=窓の外側、戸外(面=方角)
・表現の特色→二句切れ・反復・体言止め(倒置法)


春の情感を詠んだのであって、写実的な歌ではなく
 詳細な描写はない。白秋らしい浪漫主義的な哀感と
 色彩感がある歌だ


・夕映え=夕日の光を受けて物が美しく見えること。
 夕日に照り輝き鮮やかに美しく映えること(姿)。
・哀愁=寂しく物悲しい気持ち・ペーソス








left★板書(+補足)★
<君かへす>  朝の舗石   さくさくと
        雪よ林檎の  香のごとくふれ
=(平安時代の後朝の別れのように、一夜を共にして
 別れねばならない)
 君を帰らせる(辛くて悲しい)朝、(雪が降った)
 補石の道をさくさくと(君が踏んで行く。)雪よ、
 (どうかあの爽やかな)林檎の香りのように降って
 (別れを美しく清々しいものにして)くれ(と心に
 祈った)。

〈初出・出典〉
明治43年(1910)の作、(作者25歳
第一歌集『桐の花』(大正2)収録の「雪」17首中
の一首

〈主題〉(感動の中心・心情)
<一夜を共にした女性との翌朝の辛い別れと祈り>

〈鑑賞〉(感想・背景・補足)
・テーマは「後朝(きぬぎぬ)の別れ」
 『古今集』の時代からの伝統的テーマ
・近代以降の相聞歌の代表歌
・(参考)『古今集』637読み人知らず
 しののめの ほがらほがらと あけゆけば
 おのがきぬぎぬ なるぞかなしき
 =東の空が次第に白々と夜が明けていく。(一夜が
  過ぎたと言って、貴方と私は)めいめいの着物を
  着て別れていく。それは本当に悲しいことだ。

right★発問☆解説ノート★
・表現の特色→句切れなし(or三句切れ?)
・君→人目を忍んで逢って、一夜を共にした女性
   翌朝になって帰す→「後朝の別れ」
・舗石=玄関先の通路に敷き並べた石など
・さくさくと(擬音語)→歌の重要なポイント
 @雪を踏む音→雪の白さ・清潔さを暗示
 A林檎を噛む音→別れる人間の心の爽やかさを暗示
 →エデンの園の林檎(作者の西洋趣味)を思わせる
☆秘めた逢引と別れも、美しく清々しい純愛にしたい
 という、作者の祈りが込められた表現
 →「人妻と…」という歌があるように、
  実際は苦悩に満ちたものだった




・別れがたい心情



・当時、関係していた隣家の女性を家に帰らせる場面
 である。彼女は既婚者であり、不倫である。姦通罪
 があった時代だから、罪に問われて牢獄に入る恐れ
 もあり、覚悟が必要な関係であったのだ。だから、
 見咎められることを恐れて、雪に隠してもらいたい
 という思いは当然あっただろう。しかし、それ以上
 に葛藤しながらも、美しく清々しい純愛でありたい
 という、強く祈るような気持ちがあったのだろう。

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