left★原文・現代語訳★
「古文現代語訳ノート」(普通クラス)
   「竹取物語/貴公子への難問提示」

〈作品=『竹取物語』〉
〇平安前期(中古)成立(未詳→9世紀?)
 →口承文学(語り継がれる)→漢文体→平仮名文体
「物語の祖」=現存最古の作り物語
 →伝奇物語(虚構と現実)
 →写実主義の小説以上に
  人間的真実を語る幻想的物語
 →平安以降の物語に大きな影響
〇書名→『源氏物語』に「竹取の翁の物語」とある
〇貴族社会を風刺
 →竹取の翁に竹の中から見出されたかぐや姫が、帝
  や五人の貴公子たちの求婚を全て拒絶し、最後に
  月の都に帰ってしまうという昔話

〈概要=「貴公子への難問提示」〉
〇世の男全てが惑わされるかぐや姫
 五人の貴公子たちが求婚するかぐや姫
                   (→要旨)


〈全体の構成〉         (→要約→要旨)

【一】<>
日暮るるほど、例の集(つどひ)ぬ。あるいは笛を吹 き、あるいは歌をうたひ、あるいは声歌(しゃうが) をし、あるいは嘯(うそ)を吹き、扇(あふぎ)を鳴 らしなどするに、
=日が暮れる頃、例の求婚者たちが集った。ある者は
 笛を吹き、ある者は歌を歌い、ある者は楽譜の旋律
 を口ずさみ、ある者は口笛を吹き扇を鳴らして拍子
 をとったりなどする時に、

翁、いでて、いはく、「かたじけなく、穢(きたな) げなる所に、年月を経てものしたまふこと、きはまり たるかしこまり」と申す。
=翁が出て来て言うには、「勿体なくも、穢らしい所
 に長い年月お通い下さる事、この上なく恐縮です」
 と申し上げる。

「『翁の命、今日明日とも知れぬを、かくのたまふ君 達(きんだち)にも、よく思ひさだめて仕うまつれ』 と申せば、『ことわりなり。いづれも劣(おと)り優 (まさ)りおはしまさねば、御心ざしのほどは見ゆべ し。仕うまつらむことは、それになむさだむべき』と いへば、『これよきことなり。人の御恨みもあるまじ 』」といふ。
=(翁は続けて)「私が姫に『この翁の命は今日明日
 とも知れないのに、このように仰ってくれる若殿達
 に、よく判断してお仕え申し上げよ』と申すと、姫
 は『もっともである。どの方も優劣を付ける事がお
 出来にならないので、ご愛情の深さを見せてくれる
 べきだ。お仕え申し上げる事は、それによって決め
 よう』と言うので、私も『これは良いことだ。誰も
 お恨みになる事はないだろう』と言った」と言う。


【二】<>
五人の人々も、「よきことなり」といへば、翁入りて いふ。
=五人の若殿達も「良い事だ」と言うので、翁は中に
 入ってそれを姫に言う。

かぐや姫、石作(いしつくり)の皇子(みこ)には、 「仏の御石の鉢(はち)といふ物あり。それを取りて 賜へ」といふ。
=かぐや姫は、石作の皇子には、「仏の御石の鉢とい
 ふ物がある。それを取って来て下さい」と言う。

くらもちの皇子には、「東(ひんがし)の海に蓬莱と いふ山あるなり。それに、銀(しろかね)を根とし、 金(こがね)を茎とし、白き玉を実として立てる木あ り。それ一枝折りて賜はらむ」といふ。
=くらもちの皇子には、「東の海に蓬莱という山があ
 るそうだ。そこに、銀を根とし金を茎とし白い玉を
 実として立っている木がある。その枝を一本折って
 来て頂きたい」と言う。

いま一人には、「唐土(もろこし)にある火鼠(ひね ずみ)の皮衣(かはぎぬ)を賜へ」。
=もう一人には、「唐土にある火鼠の皮衣を取って来
 て下さい」と言う。

大伴の大納言には、「龍(たつ)の頸(くび)に五色 (ごしき)に光る玉あり。それを取りて賜へ」。
=大伴の大納言には、「龍の頸に五色に光る玉がかか
 っている。それを取って来て下さい」と言う。

石上(いそのかみ)の中納言には、「燕(つばくらめ )の持(も)たる子安の貝取りて賜へ」といふ。
=石上の中納言には、「燕が持っている子安貝を取っ
 て来て下さい」と言う。


【三】<>
翁、「難きことにこそあなれ。この国に在る物にもあらず 。かく難きことをば、いかに申さむ」といふ。
=翁は、「難しい事であるようだ。この国に在る物で
 もない。このように難しい事をどのように申そうか
 」と言う。

かぐや姫、「なにか難からむ」といへば、翁、「とま れ、かくまれ、申さむ」とて、いでて、「かくなむ。 聞ゆるやうに見せたまへ」といへば、
=かぐや姫は、「何が難しい事があろうか」と言うの
 で、翁は、「とにかく、申し上げてみよう」と言っ
 て、外に出て、「このように申しています。姫が申
 すようにお見せ下さい」と言うと、

皇子たち、上達部聞きて、「おいらかに、『あたりよ りだにな歩きそ』とやはのたまはぬ」といひて、倦( う)んじて、皆帰りぬ。
=皇子や公卿たちはそれを聞いて、「率直になぜ『こ
 の辺りをさえ通って歩くな』と仰って下さらないの
 か」と言って、うんざりして皆帰ってしまった。


【四】<石作の皇子と、仏の御石の鉢>
なほ、この女見では世にあるまじき心地のしければ、 「天竺に在る物も持て来ぬものかは」と思ひめぐらし て、
=それでもやはり、この女と結婚しないでは世に生き
 ている事ができない心地がしたので、「天竺にある
 物でも持って来ないものか、いや持って来れるだろ
 う」と思いを巡らして、

石作の皇子は、心のしたくある人にて、天竺に二つと なき鉢を、百千万里のほど行きたりとも、いかでか取 るべきと思ひて、
=石作の皇子は、事をするに当たり心積もりをする人
 であって、天竺に二つとない鉢を、百千万里の距離
 を行ったとしても、どうして取る事ができようかと
 思って、

かぐや姫のもとには、「今日なむ天竺に石の鉢取りに まかる」と聞かせて、
=かぐや姫の所には、「今日、天竺に石の鉢を取りに
 行かせて頂きます」と使者を通して伝えておき、

三年ばかり、大和の国十市(くにとをち)の郡(こほ り)にある山寺に賓頭盧(びんづる)の前なる鉢の、 ひた黒に墨つきたるを取りて、錦の袋に入れて、作り 花の枝につけて、かぐや姫の家に持て来て、見せけれ ば、
=三年程してから、大和の国十市の郡にある山寺で、
 賓頭盧の前にある鉢で真っ黒に墨の付いたのを取っ
 て、錦の袋に入れて造花の枝に付けて、かぐや姫の
 家に持って来て見せたところ、

かぐや姫、あやしがりて見れば、鉢の中に文あり。ひ ろげて見れば、
=かぐや姫が不思議に思って見ると、鉢の中に手紙が
 ある。広げて見ると、

海山の    道に心を    つくしはて
       ないしのはちの 涙ながれき
=筑紫から果てしない海山の道に心を尽くし果てて、
 石の鉢を取ろうと泣いた私は、血の涙が流れた

かぐや姫、光やあると見るに、蛍ばかりの光だになし。
=かぐや姫が、光があるかと思って見ると、蛍ほどの
 光さえない。

置く露の   光をだにも   やどさまし
       小倉の山にて  何求めけむ
=置く露のように、せめて流れたという涙の光だけで
 も宿していればよいのに。古くから光がなくて暗い
 という小倉の山で、何を求めたのだろうか

とて、返しいだす。
=と歌に詠んで、その石鉢を外に出して返した。

鉢を門(かど)に捨てて、この歌の返しをす。
=(石作の皇子は)鉢を門口に捨てて、この歌の返歌
 をした。

白山に    あへば光の    失すると
       はちを捨てても  頼まるるかな
=白山のように光り輝く姫に会うと、光がなくなるの
 のだと鉢を捨てた。だが恥を捨ててでも、姫の良い
 返事を心当てにしてしまうことだ

とよみて、入れたり。
=と歌に詠んで、中に入れた。

かぐや姫、返しもせずなりぬ。耳にも聞き入れざりけ れば、いひかかづらひて帰りぬ。
=かぐや姫は返歌もしなくなった。耳に聞き入れる事
 もしなかったので、皇子は口であれこれ言いながら
 帰ってしまった。

かの鉢を捨てて、またいひけるよりぞ、面(おも)な きことをば、「はぢをすつ」とはいひける。
=あの偽の鉢を捨ててからもまた「頼まるるかな」と
 言った事から、恥を知らない事を「恥を捨てる」と
 言うのだった。


right★補足・文法★
(物語)2018年9月


〈作者〉
・未詳→学者または僧侶





















・声歌=楽譜の旋律を口ずさむこと
・嘯=口笛を吹くこと





































・仏の御石の鉢=釈迦が使っていたという青色に光る
        石の鉢




・蓬莱の山=古代中国で東方海上の遥かな所にあると
      考えられていた理想郷
・白き玉=真珠か水晶の玉という






・火鼠の皮衣=火鼠の皮で作った衣で、火の中に入れ
       ると燃えないで綺麗になるという想像
       上のもの







・子安の貝=安産・子孫繁栄のお守りとされ、この貝
      を握っていると安産であると信じられた











・とまれ、かくまれ=「ともあれ、かくもあれ」の略







・上達部=公卿(大臣・大納言・中納言・参議)
 →皇子以外の三人の求婚者はいずれも上達部
・おいらかなり=あっさりしていてこだわらない
        穏やかだ・率直だ
・あたり()より(…を通って)だに(類推)
 な(禁止)歩き()そ(強意)



・見る=結婚する







・したく=(事をする為の)計画・目論み・見積もり
     準備・用意・心づもり











・国十市の郡=奈良県磯城郡の辺りで桜井市の近く
・賓頭盧=釈迦の弟子で、十六羅漢の第一尊者。食堂
     に安置して前に鉢を置き、毎日食べ物を供
     えたという
・作り花…=貴人には、草木や造花の枝に付けて物を
      贈ったという
・錦=金・銀などの糸を用いて模様を織り出した豪華
   な絹織物







・ないし=「泣きし」の音便と「石」の掛詞
・はち=「鉢」と「血」の掛詞
・下の句(ないしのはちの涙ながれき)
 →「な」の頭韻が三つ






・小倉の山=奈良県桜井市の南に位置し、中大兄皇子
      と中臣鎌足が蘇我氏打倒の密談をした事
      で知られる談山神社がある多武峰の上方
      の倉橋山の峰
 →「小倉」に「古暗」の意味を掛ける

















・いひかかづらふ=口に出して関わる・あれこれ口で
         言ってまつわる




・面なし=恥ずかしくて人に会わせる顔がない・恥を
     知らない・厚かましい




















































































































































・いかで=@(疑問)どうして…か
     A(反語)どうして…か(いや…ない)
     B(願望)何とかして
・てしかな=(終助詞・願望)…(し)たいものだ
・愛づ=(めづ・下二段)心惹かれる・魅せられる・
    感動する・賞美する・称賛する・褒める


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