left★原文・現代語訳★
「古文現代語訳ノート」(普通クラス)
   「竹取物語/かぐや姫の嘆き」

〈作品=『竹取物語』〉
〇平安前期(中古)成立(未詳→9世紀?)
 →口承文学(語り継がれる)→漢文体→平仮名文体
「物語の祖」=現存最古の作り物語
 →伝奇物語(虚構と現実)
 →写実主義の小説以上に
  人間的真実を語る幻想的物語
 →平安以降の物語に大きな影響
〇書名→『源氏物語』に「竹取の翁の物語」とある
〇貴族社会を風刺
 →竹取の翁に竹の中から見出されたかぐや姫が、帝
  や五人の貴公子たちの求婚を全て拒絶し、最後に
  月の都に帰ってしまうという昔話

〈概要〉
〇かぐや姫が月に帰るという八月十五夜が近づき、
 翁と媼も侍女たちもみんな嘆かわしい思いでいた。

right★補足・文法★
(物語)2021年5月


〈作者〉
・未詳→学者または僧侶(推定)
















全体の構成 【一】(起)月を見て泣くかぐや姫 【二】(承)かぐや姫の月へ帰る宿命に泣き騒ぐ翁
【三】(転)懐かしい翁や媼との別離を嘆くかぐや姫 【四】(結)翁や媼と同様に別離を嘆く侍女たち
left★原文・現代語訳★
〈授業の展開〉

【一】月を見て泣くかぐや姫
八月十五日ばかりの月に出でゐて、かぐや姫いといた
く泣き給ふ。人目も今はつつみ給はず泣き給ふ。
=八月十五日ごろの月(の夜)に(縁側に)出て座って、
 かぐや姫はとてもひどくお泣きになる。人目も今は
 憚りなさらずお泣きになる。

これを見て、親どもも「何事ぞ。」と問ひさわぐ。
=これを見て、親たちも「どうしたのか。」と尋ね
 動揺する。

right★補足・文法★



・出でゐる=縁側に出て座る









left★原文・現代語訳★
【二】かぐや姫の月へ帰る宿命に泣き騒ぐ翁
かぐや姫泣く泣く言ふ、「さきざきも申さむと思ひし
かども、必ず心惑ひし給はむものぞと思ひて、今まで
過ごし侍りつるなり。さのみやはとて、うち出で侍り
ぬるぞ。
=かぐや姫が泣きながら言うことには、「以前も申し
 上げようと思いましたけれども、(お父様たちが)
 きっと取り乱しなさるに違いないと思って、今まで
 (何も言わず)過ごしていたのです。(しかし)その
 ように(黙って)ばかりいられようか(いや、いられ
 ない)と思って、打ち明けてしまうのです。

おのが身はこの国の人にもあらず。月の都の人なり。
それを、昔の契りありけるによりなむ、この世界には
まうで来たりける。
=私の身はこの国の人間でもありません。月の都の人
 です。それを、前世からの宿命があったために、
 この(地上の)世界にやって参ったのです。

今は帰るべきになりにければ、この月の十五日に、
かのもとの国より、迎へに人々まうで来むず。
=今は帰らねばならない時になってしまったので、
 今月の十五日に、あの元の国から、(私を)迎えに
 人々がやって参りましょう。

さらずまかりぬべければ、思し嘆かむが悲しき
ことを、この春より思ひ嘆き侍るなり。」と言ひて、
いみじく泣くを、
=やむを得ず(月の都へ)お暇しなければなりません
 ので、(お二人が)嘆き悲しみなさるなら、それが
 (私には)悲しいことを、この春から嘆き悲しんで
 いるのです。」と言って、ひどく泣くので、

翁、「こは、なでふことのたまふぞ。竹の中より見つ
け聞こえたりしかど、菜種の大きさおはせしを、我が
丈たち並ぶまで養ひたてまつりたる我が子を、何人か
迎へ聞こえむ。 まさに許さむや。」と言ひて、
=竹取の翁は、「これは、何ということをおっしゃる
 のか。竹の中から見つけ申し上げたけれど、菜種の
 大きさ(のような小ささ)でいらっしゃったのを、
 私の背丈と同じ位になるまで養い申し上げた我が子
 を(引き離して)、誰がお迎え申し上げられようか
 (いや、できるはずがない)。どうして許せようか
 (いや、許せない)。」と言って、

「我こそ死なめ。」とて、泣きののしること、 いと
堪へがたげなり。
=「(姫がいないならば)私が死のう。」と言って、
 泣き騒ぐ様子は、とても堪え難そうである。

right★補足・文法★

・…ものぞ=…ものだ、…にちがいない(強い断定)
・さのみやは=「さのみやはあらむ」の略









・まうで来=やって参る(謙譲)






・…むず=(…むとす)…(とする)だろう





・…ぬ(強意)べし(義務)







・なでふ=なにといふ
・…聞こえ(謙譲)む(可能推量)
・まさに=間違いなく、ちょうど、ぜひとも、今にも
     どうして…しようか(反語)













left★原文・現代語訳★
【三】懐かしい翁や媼との別離を嘆くかぐや姫
かぐや姫のいはく、「月の都の人にて、父母あり。
片時の間とて、かの国よりまうで来しかども、かく
この国にはあまたの年を経ぬるになむありける。
=かぐや姫が言うことには、「(私は)月の都の人で
 あって、父母がいます。ほんの僅かな間ということ
 で、あの(月の)国からやって参りましたけれど、
 このようにこの国(地上)では長い年月を過ごした
 のでありました。

かの国の父母のこともおぼえず、ここには、かく久し
く遊び聞こえて、ならひ奉れり。いみじからむ心地も
せず。悲しくのみある。されど、おのが心ならずまか
りなむとする。」と言ひて、
もろともにいみじう泣く。
=あの(月の)国の父母のことも思い出されず、ここ
 では、このように(お二人と)長い間楽しい時間を
 過ごし申し上げて、慣れ親しみ申し上げています。
 (だから月に帰るのは)あまり嬉しいような気持ち
 もせず、悲しいだけです。しかし、自分の気持ちに
 反してお暇しようとしているのです。」と言って、
 一緒に激しく泣く。

right★補足・文法★










・遊ぶ=楽しい時間を過ごす、詩歌・管弦を楽しむ
・…聞こゆ=…し申し上げる(敬意の対象は翁と媼)











left★原文・現代語訳★
【四】翁や媼と同様に別離を嘆く侍女たち
使はるる人々も、年ごろならひて、たち別れなむこと
を、心ばへなどあてやかにうつくしかりつることを見
ならひて、恋しからむことの堪へがたく、湯水飲まれ
ず、同じ心に嘆かしがりけり。
=(かぐや姫の身辺の世話に)召し使われている人々
 も、長年の間慣れ親しんで(いながらも、このまま)
 別れてしまうようなことを、
 (かぐや姫の)気立てなどが優雅で愛らしかったこと
 を見慣れていて、(かぐや姫が帰ってしまったら)
 恋しく思うようなことが堪え難く、
 湯水さえ飲むこともできず、(翁や媼と)同じように
 嘆かわしい思いであった。

right★補足・文法★

・貴(アテ)やかなり=優雅だ、上品だ












left★原文・現代語訳★
〈要約〉
八月十五日が近づく頃、かぐや姫は月を見て泣くこと
があった。自分は月の都の人間であって月に帰る宿命
があり、やがて迎えが来ると言う。それを知らされた
竹取の翁は死ぬ思いで泣き騒ぎ、媼や侍女たちも皆、
堪え難いほどく嘆かわしい思いであった。



right★補足・文法★


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