left★原文・現代語訳★
「古文現代語訳ノート」(普通クラス)
「竹取物語/五人の貴公子の求婚」
〈作品=『竹取物語』〉
〇平安前期(中古)成立(未詳→9世紀?)
→口承文学(語り継がれる)→漢文体→平仮名文体
〇「物語の祖」=現存最古の作り物語
→伝奇物語(虚構と現実)
→写実主義の小説以上に
人間的真実を語る幻想的物語
→平安以降の物語に大きな影響
〇書名→『源氏物語』に「竹取の翁の物語」とある
〇貴族社会を風刺
→竹取の翁に竹の中から見出されたかぐや姫が、帝
や五人の貴公子たちの求婚を全て拒絶し、最後に
月の都に帰ってしまうという昔話
〈概要=「五人の貴公子五人の貴公子の求婚」〉
〇世の男全てが惑わされるかぐや姫
五人の貴公子たちが求婚するかぐや姫
(→要旨)
〈全体の構成〉 (→要約→要旨)
【一】<世の男が心を乱すかぐや姫の美しさ>
世界の男、あてなるもいやしきも、いかでこのかぐや
姫を得てしかな、見てしかなと、音に聞きめでて惑ふ。
=世の男たちは身分が高い者も低い者も、何とかして
このかぐや姫を手に入れたいものだ妻にしたいもの
だと、噂に聞き心惹かれて思い乱れていた。
そのあたりの垣にも家の門にも、をる人だにたやすく
見るまじきものを、夜は安きいも寝ず、闇の夜にいで
ても、穴をくじり、垣間見、惑ひあへり。さる時より
なむ、「よばひ」とはいひける。
=その周辺の垣根でも家の門でも、住む人でさえ容易
に見ることが出来そうにないのに、夜は安らかに寝
ることもせず闇夜に出かけて行って、穴をこじ開け
覗き見ては、互いに心を乱していた。そんな時から
男が夜に女の家に行って求婚することを「よばひ」
と言ったそうだ。
人の物ともせぬ所に惑ひ歩けども、何のしるしあるべ
くも見えず。家の人どもに物をだにいはむとて、いひ
かくれども、ことともせず。あたりを離れぬ君達、夜
を明かし、日を暮らす、多かり。おろかなる人は、「
用なき歩きは、よしなかりけり」とて来ずなりにけり。
=誰も行こうとしない所で心が乱れ歩き回るが、何の
効果もありそうに見えない(かぐや姫を見ることは
できない)。せめて家の者に何か言おうとして話し
かけるが、相手にもしてくれない。家の周辺を離れ
ない貴公子たちは、そのまま眠らないで夜を過ごし
昼は日暮れまで時を過ごす者が多い。求婚の思いが
十分でない人は「用もなく歩き回るのはつまらない
ことだ」と言って来なくなってしまった。
【二】<求婚する五人の貴公子>
その中に、なほいひけるは、色好みといはるるかぎり
五人、思ひやむ時なく、夜昼来たりけり。
=その中で、依然として言い寄ったのは色好みと言わ
れる者だけの五人、思ひが止む時なく夜も昼も来て
いたのだった。
その名ども、石作の皇子、くらもちの皇子、右大臣阿
倍御主人、大納言大伴御幸、中納言石上磨足、この人
々なりけり。
=その者たちの名は、石作の皇子、車持の皇子、右大
臣阿倍御主人、大納言大伴御幸、中納言石上磨足、
この人々であった。
世の中に多かる人をだに、すこしもかたちよしと聞き
ては、見まほしうする人どもなりければ、かぐや姫を
見まほしうて、物も食はず思ひつつ、かの家に行きて
、たたずみ歩きけれど、甲斐あるべくもあらず。
=世に多くいる女性でさえ少しでも容貌が美しいと聞
いては妻にしたがる人たちであったので、かぐや姫
を妻にしたくて物も食べず思い続けて、その家に行
って立ち止まったり歩き回ったりしたが、その甲斐
はありそうにもない。
文を書きて、やれども、返りごともせず。わび歌など
書きておこすれども、甲斐なしと思へど、十一月、十
二月の降り凍り、六月の照りはたたくにも、障らず来
たり。
=手紙を書いて送るが、かぐや姫は返事もしない。思
い通りにならないのを嘆く思いを詠んだ歌などを書
いて寄こすのだが。甲斐はないと思うが、陰暦十一
月・十二月の雪が降り氷が凍ったり、六月の日が照
り雷鳴が轟いたりする時にも、差し支えずにやって
来た。
この人々在る時は、たけとりを呼びいでて、「娘を我
に賜べ」と、伏し拝み、手をすりのたまへど、「おの
が生さぬ子なれば、心にもしたがはずなむある」とい
ひて、月日すぐす。
=この人々は、ある時は竹取の翁を呼び出して、「娘
を私に妻として下さい」と伏し拝み手を擦り合わせ
ておっしゃるが、「自分が生んだ子ではないので、
私の心にも従わないでいるのだ」と言って、月日を
過ごす。
かかれば、この人々、家に帰りて、物を思ひ、祈りを
し、願を立つ。
=こんな状態であるので、この人々は、家に帰って物
思いにふけり神仏に祈り願を立てる。
思ひ止むべくもあらず。「さりとも、つひに男あはせ
ざらむやは」と思ひて頼みをかけたり。あながちに心
ざしを見え歩く。
=思いが止みそうにもない。「そうは言っても、結局
は男と結婚させないことがあろうか、そんな事はな
いはずだ」と思って期待していた。ひたむきにかぐ
や姫を思う心を見せるように歩き回る。
【三】<かぐや姫に結婚を勧める翁>
これを見つけて、翁、かぐや姫にいふやう、「我が子
の仏。変化の人と申しながら、ここら大きさまでやし
なひたてまつる心ざしおろかならず。翁の申さむこと
、聞きたまひてむや」といへば、
=この様子を目にして、翁がかぐや姫に言うことには
「私の子という大切な人よ。天人か神仏が人間の姿
となりこの世に現れた変化の人と申すものの、これ
程の大きさまで養育し申し上げる愛情は並一通りの
ものではない。翁の申すようなことをきっと聞こう
として下さるか」と言うと、
かぐや姫、「何事をか、のたまはむことは、うけたま
はらざらむ。変化(へんぐゑ)の者にてはべりけむ身
とも知らず、親とこそ思ひたてまつれ」といふ。翁、
「嬉しくものたまふものかな」といふ。
=かぐや姫は「何事を、翁が仰る事はお受け申し上げ
ない事があろうか。変化の者でありましたという身
の程とも知らず、親とばかり思い申し上げている」
と言う。翁は「嬉しい事を仰るものだな」と言う。
「翁、年七十に余りぬ。今日とも明日とも知らず。こ
の世の人は、男は女にあふことをす。女は男にあふこ
とをす。その後なむ門広くもなりはべる。いかでかさ
ることなくてはおはせむ」。
=「翁は年が七十歳を過ぎてしまった。命の程は今日
明日とも知れぬ。この世の人は、男は女と結婚をし
女は男と契る事をする。その後は子宝に恵まれ一族
も栄えます。どうしてそのように結婚する事をしな
いでいられましょうか」。
かぐや姫のいはく、「なんでふ、さることかしはべら
む」といへば、
=かぐや姫の言うには、「どうして、そういう事をす
るのでしょうか」と言うと、
「変化の人といふとも、女の身持ちたまへり。翁の在
らぬかぎりはかうてもいますかりなむかし。この人々
の年月を経て、かうのみいましつつのたまふことを、
思ひさだめて、一人一人にあひたてまつりたまひね」
といへば、
=「変化の人と言っても女の身でいらっしゃいます。
翁が生きている限りはこうしていらっしゃる事もで
きましょうよ。この人々が長い年月このようにばか
りいらっしゃって仰る事を心で判断して、一人一人
にお会い申し上げて下さいよ」と言うと、
かぐや姫のいはく、「よくもあらぬかたちを、深き心
も知らで、あだ心つきなば、後くやしきこともあるべ
きを、と思ふばかりなり。世のかしこき人なりとも、
深き心ざしを知らぬでは、あひがたしとなむ思ふ」と
いふ。
=かぐや姫が言うには、「良くもない容貌なのに、深
い愛情も分からないまま浮気心が付いてしまったな
ら、後で悔やむ事もあるはずなのに、と思うばかり
である。非常に素晴らしい人であっても、深い愛情
が分からなくては結婚するのは難しいと思う」と言
う。
翁のいはく、「思ひのごとくものたまふかな。そもそ
も、いかやうなる心ざしあらむ人にかあはむと思(お
ぼ)す。かばかり心ざしおろかならぬ人々にこそあめ
れ」。
=翁が言うには、「私の思いと同じ事を仰ることです
ね。そもそもどのような心がある人と結婚したいと
お思いですか。それ程にいい加減でなく立派な心の
人々であるようだ」。
かぐや姫のいはく、「なにばかりの深きをか見むとい
はむ。いささかのことなり。人の心ざしひとしかんな
り。いかでか、中におとりまさりは知らむ。五人の中
に、ゆかしき物を見せたまへらむに、御心ざしまさり
たりとて、仕うまつらむと、そのおはすらむ人々に申
したまへ」といふ。
=かぐや姫が言うには、「どれほど深い愛情か見たい
と言うのは、些細な事なのである。人の心は等しい
ようで、どうして中に優劣があるのを知る事ができ
ようか。五人の中で、心惹かれる物を見せて下さる
ような人に、ご愛情が勝っているとして、お仕え申
し上げましょうと、そこにいらっしゃる人々に申し
上げて下さい」と言う。
「よきことなり」と受けつ。
=翁は「結構な事である」と翁は承知した。
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【四】<全てが心惑わされるかぐや姫>
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right★補足・文法★
(物語)2017年12月
〈作者〉
・未詳→学者または僧侶
・いかで=@(疑問)どうして…か
A(反語)どうして…か(いや…ない)
B(願望)何とかして
・てしかな=(終助詞・願望)…(し)たいものだ
・愛づ=(めづ・下二段)心惹かれる・魅せられる・
感動する・賞美する・称賛する・褒める
・見る+まじき(不可能推量)+ものを(逆接)
・さる時=「夜は安きいも寝ず、闇の夜にいでても、
穴をくじり、垣間見、惑ひあへり」を指す
・「よばひ」と+は+いひ+ける(過去伝聞)
=妻を呼び続け求婚すること(呼ばひ)・夜に男が
女の家に忍び込むこと(夜這い)を、「よばひ」
と言うようになったそうだ
・物=出かけて行く場所・ある所・
取り立てて言うべきもの(=物の数)
→物ならず=問題にならない
→物(事)とす=問題にする
・疎かなり=粗くて不十分だ・いい加減だ
→…とは疎か・言ふも(言へば)疎か
=言葉ではとても本当の事を言い尽くせない程だ
→…は疎か(のこと)=…は言うまでもなく
・由無し=理由や根拠がない・手段や方法がない
関係がない・利益がない・つまらない
良くない・都合が悪い
・限り=限界・期限・最期・全部・それだけ・最高
・佇む=暫く止まる・立ち止まる
・詫び言=愚痴・恨み言・辞退の言葉・断り
・詫ぶ=自分の思いのままにならないで嘆いたり悩ん
だりする・悲観する・寂しい思いでいる・
心細く暮らす・困る
・はたたく=雷が鳴りとどろく
・障る=差し支える・差し障りがある・障害がある
・強ちなり=強引/無理矢理/身勝手だ・ひたむきだ
→強ち…ず(打消)=必ずしも/決して…ない
・仏=大切に思う者・純真で正直な人
・変化=天人や神仏などが神通力によって仮に人間
などの姿になってこの世に現れること・化身
絶えず移り変わること・化け物・妖怪
動物などが人間などに姿を変えて現れること
・ここら=(副詞)これほど多く・これほど大変に
・聞き+ たまひ(尊敬)+て(強意)
+む(意思)+や(疑問)
=聞いて下さろうか
・「翁、今年は年五十ばかりなりけれども」と矛盾が
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