(先生の授業ノート)「竹取物語/くらもちの皇子と蓬莱の玉の枝」  
left★原文・現代語訳★   
(先生の授業ノート…普通クラス)
   「竹取物語/くらもちの皇子と蓬莱の玉の枝」

〈出典…作品〉
〇平安前期(中古)成立(未詳→9世紀?)
 →口承文学(語り継がれる)→漢文体→平仮名文体
「物語の祖」=現存最古の作り物語
 →伝奇物語(虚構と現実)
 →写実主義の小説以上に
  人間的真実を語る幻想的物語
 →平安以降の物語に大きな影響
〇書名→『源氏物語』に「竹取の翁の物語」とある
〇貴族社会を風刺
 →竹取の翁に竹の中から見出されたかぐや姫が、帝
  や五人の貴公子たちの求婚を全て拒絶し、最後に
  月の都に帰ってしまうという昔話

〈作者〉
・未詳→学者または僧侶(推定)

〈概要〉
〇かぐや姫に求婚した貴公子の一人のくらもちの皇子
                   (→要旨)


right★補足・文法★   
(物語)2018年9月(2023年4月改)





「竹取物語1−名はかぐや姫」動画
「竹取物語2−蓬莱の珠の枝」動画
「竹取物語3−右大臣阿倍御主人」動画


全体の構成 【一】(起)くらもちの皇子の謀略
    第一節 
    第二節 
【二】(承)くらもちの皇子の偽りの苦労談
    第三節 
    第四節 
【三】(転)
    第五節 
    第六節 
    第七節 
    第八節 
【四】(結)
    第九節 




全体の構成 【一】(起)くらもちの皇子の謀略 【二】(承)くらもちの皇子の偽りの苦労談
【三】(転) 【四】(結)
left★原文・現代語訳★    
〈授業の展開〉

【一】(起)<くらもちの皇子の謀略>

くらもちの皇子は、こころたばかりある人にて、朝廷 (おほやけ)には、「筑紫(つくし)の国に湯あみに まからむ」とて暇(いとま)申して、かぐや姫の家に は、「玉の枝取りになむまかる」といはせて、下りた まふに、仕うまつるべき人々、みな難波(なには)ま で御送りしける。
=くらもちの皇子は、心に計略がある人で、朝廷には  「筑紫の国に湯治に参るつもりです」と休暇を願い  出ながら、かぐや姫の家には「玉の枝を取りに参り  ます」と家来に伝言させて、都から下向なさるが、  その時に、お仕えすべき人々はみな難波まで皇子を  お見送りした。

皇子、「いと忍びて」とのたまわせて、人もあまた率 (ゐ)ておはしまさず。近う仕うまつるかぎりしてい でたまひぬ。御送りの人々、見たてまつり送りて帰り ぬ。
=皇子は「とても人目を忍んで(いる旅で)」と皆に  言わせなさって、人もたくさん連れていらっしゃら  ない。身近に仕える者だけをお供に出立なさった。  お見送りの人々は、お見送りをし終わってから都へ  帰っ(て行っ)た。

「おはしましぬ」と人には見えたまひて、三日ばかり ありて、漕ぎ帰りたまひぬ。
=「(旅に出立なさった」と人には見え(るように)  なさっていて、三日ほど経ってから、舟を漕いで都  に帰っていらっしゃった。

かねて、事みな仰せたりければ、その時、一の宝なり ける鍛冶工匠(たくみ)六人を召し取りて、たはやす く人寄り来(く)まじき家を作りて、竈(かまど)を 三重(みへ)にしこめて、工匠らを入れたまひつつ、 皇子も同じ所に籠りたまひて、領(し)らせたまひた るかぎり十六所(そ)をかみに、蔵をあげて、玉の枝 を作りたまふ。
=予てから事は全て命令なさっていたので、その時、  当時一流であった鍛冶工匠六人を呼び付け集めなさ  って、簡単に人が寄って来れない家を作って、竈を  三重の囲い(の中)にしつらえて、(その家に)工匠  らをお入れになりながら、皇子も同じ所にお籠りに  なって、領有なさる全て十六ヶ所の荘園を初めに、  蔵の財産全てを投じて、玉の枝をお作りになる。

かぐや姫ののたまふに違(たが)はず作りいでつ。い とかしこくたばかりて、難波にみそかに持ていでぬ。 「船に乗りて帰り来にけり」と殿に告げやりて、いと いたく苦しがりたるさましてゐたまヘリ。迎へに人多 く参りたり。
=(このようにして)かぐや姫が仰るのに(寸分)違う  事なく作り上げてしまった。(そして)とても上手に  計略を巡らして、難波(の浦)に密かに持ち出した。  「船に乗って帰って来たよ」と(自分の)屋敷に使い  をやって告げて、とてもひどく苦しがっている風を  装って座っていらっしゃっる。(皇子を)迎えに人が  多くやって参った。

玉の枝をば長櫃(ながびつ)に入れて、物おほいて持 ちて参る。いつか聞きけむ、「くらもちの皇子は優曇 華(うどんぐゑ)の花持ちて上(のぼ)りたまへり」 とののしりけり。
=玉の枝を長櫃に入れて、覆いを被せて(都へ)持って  参る。(人々は)いつ聞いたのだろうか、「くらもち  の皇子は優曇華の花を持って上京なさっている」と  大声で騒いでいた。

これをかぐや姫聞きて、我はこの皇子に負けぬべしと、 胸つぶれて思ひけり。
=これをかぐや姫は聞きつけて、自分はこの皇子には  きっと負けてしまいそうだと、胸がつぶれるような  思いであった。

▼(段落まとめ)
くらもちの皇子は蓬莱の珠の枝を偽造した。

right★補足・文法★        




・たばかり=はかりごと、相手をだます企み、計略
・まかる=高貴な人の所から退出する・都から地方へ  下向する・参る(「行く」謙譲語)・行きます・参り  ます(丁寧語)・…ます・致します(謙譲・丁寧)
・暇申す=休暇を願い出る・お別れを申し上げる
・筑紫…湯あみ→福岡県太宰府市近くの武雄温泉は
        『万葉集』の時代にあったという






・見たてまつり送る=お見送り申し上げる















☆秘密を守るため、厳重に警戒した
・仕込む=工夫して中に納め入れて作る
・知る=所有する・領有する












・かしこし=上手だ・立派だ・巧みだ・盛大に






























left★原文・現代語訳★    
【二】(承)<くらもちの皇子の偽りの苦労談>

かかるほどに、門を叩きて、「くらもちの皇子おはし たり」と告ぐ。「旅の御姿ながらおはしたり」といへ ば、あひたてまつる。
=こうしているうちに、(皇子の従者が)門を叩いて、  「くらもちの皇子がいらっしゃいました」と(かぐ  や姫に)告げる。「旅のお姿のままお出でになりま  した」と言うので、(翁が)お会いする。

皇子ののたまはく、「命を捨ててかの玉の枝持ちて来 たるとて、かぐや姫に見せたてまつりたまへ」といへ ば、翁持ちて入りたり。この玉の枝に、文ぞつけたり ける。
=皇子が仰るには、「命を捨て(るほどの苦労をし)  て、あの玉の枝を持ち帰って来たと言って、かぐや  姫にお見せ下さいませ」と仰るので、翁が(それを)  持って(姫の部屋に)入った。この玉の枝に、(皇子  は)手紙を付けてあった。(その手紙は)

いたづらに 身はなしつとも    玉の枝(え)を
      手折(たを)らでさらに 帰らざらまし
=(危機に会って)我が命を捨てたとしても、玉の枝を  手に入れなくては決して帰って来なかったでしょう

これをもあはれとも見でをるに、たけとりの翁、走り 入りて、いはく、「この皇子に申したまひし蓬莱の玉 の枝を、一つの所あやまたず持ておはしませり。何を もちて、とかく申すべき。旅の御姿ながら、わが御家 (おほんいへ)へも寄りたまはずしておはしましたり。 はや、この皇子にあひ仕うまつりたまへ」といふに、
=(玉の枝も)この歌も(姫は)心を打つとも思って  見ないでいると、竹取の翁が(姫の部屋に)走って  入って(来て)言うには、「(あなたが)この皇子に  申し上げなさった蓬莱の玉の枝を、(皇子は)何一つ  違う事なく持っていらっしゃった。どういう理由で  あれこれ申すことができましょうか。(しかも)旅の  お姿のまま、ご自身のお屋敷へもお寄りにならずに  いらっしゃった。早く、この皇子の妻としてお仕え  申し上げなさい」と言うので、

物もいはず、頬杖(つらづゑ)をつきて、いみじく嘆 かしげに思ひたり。
=(姫は)何も物を言わず、頬杖をついて、たいそう  嘆かわしそうに物思いに沈んでいる。

▼(段落まとめ)
くらもちの皇子は竹取の翁の家を訪れた。

right★補足・文法★        




















・身を徒らになす=命を捨てる・死ぬ
 →徒らになす=無駄にする・命を棄てさせる
・さらに(決して、絶対に…)帰ら()ざら(打消)  まし(反実仮想)

























left★原文・現代語訳★    
【三】(転)<くらもちの皇子の偽りの苦労談A>

この皇子、「今さへ、なにかといふべからず」といふ ままに、縁(えん)に這(は)ひのぼりたまひぬ。
=この皇子は、「今(となって)までも、(あれこれ)  何かと言うべきではない」と言うと、そのまま縁側  に這い上がりなさる。

翁理(ことわり)に思ふ。「この国に見えぬ玉の枝な り。このたびは、いかでか辞(いな)びまうさむ。人 ざまもよき人におはす」などいひゐたり。
=翁はもっともだと思う。「(これは)この国では見る  事の出来ない玉の枝である。今度は(もう)どうして  お断り申せましょうか。人柄も(身分教養のある)  良い方でいらっしゃる」などと言って(姫の前に)  座っている。

かぐや姫のいふやう、「親ののたまふことをひたぶる に辞びまうさむことのいとほしさに」と、取りがたき 物を、かくあさましく持て来ることを、ねたく思ふ。
=かぐや姫が言うことには、「親が仰る事をひたすら  お断りすることが気の毒で(あのように申しました  のに)」と言って、取るのが難しい物をこのように  意外なほど違わずに(ちゃんと皇子が)持って来た  事を、いまいましく思う。

翁は閨(ねや)のうち、しつらひなどす。
=翁は(もうその気になって)寝室の中で、調度類を  整え飾り付けたりなどする。


翁、皇子に申すやう、「いかなる所にかこの木はさぶ らひけむ。あやしくうるはしくめでたき物にも」と申 す。
=翁が皇子に申し上げる事には、「どんな所にこの木
 はあったのでしょうか。不思議なほど麗しく素晴ら
 しい物ですね」と申し上げる。

皇子、答へてのたまはく、「一昨々年(さをととし) の二月(きさらぎ)の十日ごろに、難波より船に乗り て、海の中にいでて、行かむ方(かた)も知らずおぼえ しかど、思ふこと成らで世の中に生きて何かせむと思 ひしかば、ただ、むなしき風にまかせて歩(あり)く。
=皇子が答えて仰る事には、「三年前の二月の十日頃  に、難波から船に乗って、海の中に出て、行くべき  方角も分からなく思えたが、(自分の)思う事が成就  できないで世の中で生きていても仕方ないと思った  ので、ただ、(どちらに吹くか考えても)無駄な風に  (身を)任せてあちらこちらを(船で)回った。

命死なばいかがはせむ、生きてあらむかぎりかく歩き て、蓬莱といふらむ山にあふやと、
海に漕ぎただよひ歩きて、我が国のうちを離れて歩き まかりしに、ある時は、浪荒れつつ海の底にも入りぬ べく、ある時には、風につけて知らぬ国に吹き寄せら れて、鬼のやうなるものいで来て、殺さむとしき。
=命がなくなったならどうしようもない(が)、生きて  いる限りはこのようにあちらこちらを船で回って、  (そうすれば、いつか)蓬莱とかいう山に出会えるか  と思い、
 海で船を漕いであちらこちらと漂い、我が国内から  離れてあちらこちらを廻りましたところ、ある時は  浪が荒れ続けて海底にも沈んでしまいそうになり、  ある時には、風の吹くままに知らない国に吹き寄せ  られて、(更に)鬼のような怪物が現れて来て、自分  を殺そうとした。

▼(段落まとめ)
くらもちの皇子は蓬莱の珠の枝を入手した経緯を語り 出した。

right★補足・文法★        


★かぐや姫に命じられた玉の枝を、命を捨てるほどの  大変な苦労をしながら、持ち帰って来たのだから、  今更、かぐや姫や翁は何も言うべきではない(?)
・…さへ=その上…までも(添加の副助詞)
・…ままに=…の通りに、…につれて、…ので
      …とすぐに(…とそのまま)
・いなぶ=(辞ぶ)拒む・断る・辞退する(バ上二)








・妬し=憎らしい・いまいましい・悔しい・残念だ
★翁が可愛そうだから、結婚の意志はないのに難題を
 出してしまった
と後悔






・しつらひ=設備や調度類を整え室内を飾り付ける事




・めでたき物にも(+あるかな)







































left★原文・現代語訳★    
【四】(結)<偽りの苦労談B>

ある時には、来(き)し方行く末(すゑ)も知らず、 海にまぎれむとしき。
=(また)ある時には、来た方角もこれからの行先も  分からず、海の中に紛れ(て行方不明になり)そうに  なった。

ある時には、糧(かて)つきて、草の根を食物(くひ もの)としき。ある時は、いはむ方なくむくつけげな る物来て、食ひかからむとしき。ある時には、海の貝 を取りて命をつぐ。
=ある時には、食料が尽き果てて(島に生える)草の  根を食べ物とした。ある時は、言いようもなく気味  悪い感じの化け物が出て来て、自分に食いかかろう  とした。ある時には、海の貝を取って命をつないだ  (こともある)。

旅の空に、助けたまふべき人もなき所に、いろいろの 病をして、行く方そらもおぼえず。
=(頼りなく心細い)旅先の地で、助け下さるような  人もいない所なのに、色々の病気をして、行く方角  ですらも分からなくなった。

船の行くにまかせて、海に漂ひて、五百日といふ辰の 時ばかりに、海のなかに、はつかに山見ゆ。船の楫を なむ迫(せ)めて見る。海の上にただよへる山、いと 大きにてあり。その山のさま、高く、うるはし。
=船が行くのに任せて、海を漂流して五百日目という  日の午前八時頃に、海の上に、僅かに山が見える。  船の楫を(操作して山に)近づき迫って見る。海の  上に漂っている山はとても大きい。その山の様子は  高く麗しい。

これや我が求むる山ならむと思ひて、さすがに恐ろし くおぼえて、山のめぐりをさしめぐらして、二三日ば かり、見歩
くに、天人のよそほひしたる女、山の中よ りいで来て、銀(しろかね)の金鋺(かなまる)を持 ちて、水を汲み歩く。
=これが私が求めている山だろうと思うが、それでも
 やはり恐ろしく思われて、山の周囲を船で漕ぎ巡り
 二三日程あちらこちららと見て回ると、天人の服装
 をした女が山の中から現れ出て、銀の金鋺を持って
 水を汲んで歩き回っている。

これを見て、船より下りて、「この山の名を何とか申 す」と問ふ。女、答へていはく、『これは蓬莱の山な り』と答ふ。
=これを見て、船から下りて「この山の名を何と申す
 か」と尋ねる。女が答えて言う事には『これは蓬莱
 の山である』と答える。

これを聞くに、嬉しきことかぎりなし。この女、『か くのたまふは誰(たれ)ぞ』と問ふ、『我が名はうか んるり』といひて、ふと、山の中に入りぬ。
=これを聞いた時、嬉しい事この上なかった。『この
 ように仰る貴方は誰か』と尋ねると、この女は『我
 が名はうかんるり』と言って、さっと山の中に入っ
 た。













right★補足・文法★        


















・旅の空=(頼りなく心細い様の)旅先の地
→空なり=心が虚ろだ・いい加減だ・そらんじている
・そら=「すら」(漢文訓読)→(例)「心ばせある
  人そら物につまづきて倒るること常のことなり」
 (配慮の行き届いた人ですら物につまずいて倒れる
  る事は当たり前の事である)
・迫む=(マ下二)近づき迫る・差し迫る
    ぴったりと身に付ける



























































left★原文・現代語訳★    
【五】(結)<偽りの苦労談C>

その山、見るに、さらに登るべきやうなし。
=その山は、見ると全く登る事が出来るようでない程
 険しい。
その山のそばひらをめぐれば、世の中になき花の木ど もたてり。金(こがね)、銀(しろかね)、瑠璃色 (るりいろ)の水、山より流れいでたり。それには、 色々の玉の橋わたせり。そのあたりに照り輝く木ども 立てり。
=その山の側面を巡ると、この世にはない花の木々が
 立っている。金・銀・瑠璃色の水が山から流れ出て
 いる。その水には様々な色の玉で造った橋を渡して
 いて、その橋の辺りに照り輝く木々が立っている。

その中に、この取りて持ちてまうで来たりしはいとわ ろかりしかども、のたまひしに違わましかばと、この 花を折りてまうで来たるなり。山はかぎりなくおもし ろし。
=その中で、この取って持ち帰って参ったのはあまり
 良くなかったが、姫が仰ったのに違うならよくない
 だろうと、この花を折って帰って参ったのである。
 その山はこの上なく素晴らしい。

世にたとふべきにあらざりしかど、この枝を折りてし かば、さらに心もとなくて、船に乗りて、追風(おひ かぜ)吹きて、四百余日になむ、まうで来にし。
=この世で譬える事の出来るものではなかったが、こ
 の枝を折ってしまったので全く落ち着かなくて、船
 に乗ると追風が吹いて四百日余りで帰って参りまし
 た。

大願力(だいぐわんりき)にや。難波より、昨日なむ  都のまうで来つる。
=仏にお願いした故のお蔭であろうか。昨日、難波か
 ら都に帰って参りました。

さらに、潮に濡れたる衣だに脱ぎかへなでなむ、こち まうで来つる」とのたまへば、
=更に、潮で濡れたる衣服さえ脱いで着替えもしない  で、こちらに参上しました」と仰ると、

翁、聞きて、うち嘆きてよめる、
=翁はそれを聞いて、ちょっと嘆息して歌を詠んだ
(その歌は)、

くれたけの  よよのたけとり  野山にも        さやはわびしき  ふしをのみ見し


これを、皇子聞きて、「ここらの日ごろ思ひわびはべ りつる心は、今日(けふ)なむ落(お)ちゐぬる」と のたまひて、返し、


我が袂(たもと) 今日かわければ   わびしさの
        千種(ちぐさ)の数も 忘られぬべし


とのたまふ。















right★補足・文法★        















left★原文・現代語訳★    
【六】(結)<工匠の訴えにより万事は露見@>

かかるほどに、男(をのこ)ども六人、つられて、庭に
いでたり。


一人の男、文挟(ふんばさ)みに文(ふみ)をはさみて、 申す、「内匠寮(たくみづかさ)の工匠(たくみ)、あや べの内麻呂(うちまろ)申(もう)さく、玉の木を作り仕
(つか)うまつりしこと、五穀(ごこく)を断(た)ちて、 千余日に力(ちから)をつくしたること、すくなからず 。


しかるに、禄(ろく)いまだ賜(たま)はらず。これを 賜ひて、わろき家子(けこ)に賜はせむ」といひて、さ さげたり。


たけとりの翁(おきな)、この工匠らが申すことは何 ごとぞとかたぶきをり。


皇子(みこ)は、我にもあらぬ気色にて、肝(きも) 消えゐたまへり。


これをかぐや姫聞きて、「この奉る文を取れ」といひ て、見れば、文に申しけるよう、皇子(みこ)の君( きみ)、千日、いやしき工匠らと、もろともに、同じ ところに隠れゐたまひて、かしこき玉の枝(えだ)を 作らせたまひて、官(つかさ)も賜はむと仰(おほ) せたまひき。


これをこのごろ案ずるに、御使とおはしますべきかぐ や姫の要(えう)じたまふべきなりけりとうけたまは りて。


この宮(みや)より賜はらむ。


と申して、「賜はるべきなり」といふを、聞きて、か ぐや姫、暮るるままに思ひわびつる心地(ここち)、 笑ひさかえて、翁を呼びとりていふやう、「まこと蓬 莱の木かとこそ思ひつれ。かくあさましきそらごとに てありければ、はや返(かへ)したまへ」といへば、 翁答(こた)ふ、「さだかに作らせたる物と聞きつれ ば、返さむこと、いとやすし」と、うなづきをり。








置く露の   光をだにも   やどさまし
       小倉の山にて  何求めけむ
=置く露のように、せめて流れたという涙の光だけで
 も宿していればよいのに。古くから光がなくて暗い
 という小倉の山で、何を求めたのだろうか

とて、返しいだす。
=と歌に詠んで、その石鉢を外に出して返した。


right★補足・文法★        















left★原文・現代語訳★    
【七】(結)<工匠の訴えにより万事は露見A>

かぐや姫の心ゆきはてて、ありつる歌の返し、
=かぐや姫の心ゆきはてて、ありつる歌の返し、

まことかと  聞きて見つれば  言(こと)の葉を
       かざれる玉の   枝にぞありける
=まことかと聞きて見つれば言(こと)の葉を(は)かざれる玉の枝にぞありける

といひて、玉の枝も返しつ。
たけとりの翁さばかり語らひつるが、さすがにおぼえ て眠(ねぶ)りをり。
=といひて、玉の枝も返しつ。 たけとりの翁(おきな)さばかり語らひつるが、さすがにおぼえて眠(ねぶ)りをり。

皇子(みこ)は立つもはした、ゐるもはしたにて、ゐた まへり。日の暮れぬれば、すべりいでたまひぬ。
=皇子(みこ)は立つもはした、ゐるもはしたにて、ゐたまへり。日の暮れぬれば、すべりいでたまひぬ。

かの愁訴(うれへ)せし工匠(たくみ)をば、かぐや姫呼 びすゑて、「嬉(うれ)しき人どもなり」といひて、 禄(ろく)いと多く取らせたまふ。
=かの愁訴(うれへ)せし工匠(たくみ)をば、かぐや姫呼びすゑて、「嬉(うれ)しき人どもなり」といひて、禄(ろく)いと多く取らせたまふ。

工匠らいみじくよろこびて、「思ひつるやうにもある かな」といひて、帰る。
=工匠らいみじくよろこびて、「思ひつるやうにもあるかな」といひて、帰る。

道(みち)にて、くらもちの皇子(みこ)、血の流るるま で打(ちょう)ぜさせたまふ。
=道(みち)にて、くらもちの皇子(みこ)、血の流るるまで打(ちょう)ぜさせたまふ。

禄得し甲斐(かひ)もなく、みな取り捨てさせたまひて ければ、逃げうせにけり。
=禄得(え)し甲斐(かひ)もなく、みな取り捨てさせたまひてければ、逃げうせにけり。

かくて、この皇子は、「一生の恥、これ過ぐるはあら じ。女を得ずなりぬるのみにあらず、天下の人の、見 思はむことのはづかしきこと」とのたまひて、ただ一 所(ひとところ)、深き山へ入りたまひぬ。宮司(みや つかさ)、さぶらふ人々、みな手を分(わか)ちて求め たてまつれども、御死(おほんし)にもやしたまひけ む、え見つけたてまつらずなりぬ。
=かくて、この皇子(みこ)は、「一生(いっしょう)の恥(はぢ)、これ過ぐるはあらじ。女(をんな)を得ずなりぬるのみにあらず、天下(てんか)の人の、見思(おも)はむことのはづかしきこと」とのたまひて、ただ一所(ひとところ)、深き山へ入りたまひぬ。宮司(みやつかさ)、さぶらふ人々、みな手を分(わか)ちて求めたてまつれども、御死(おほんし)にもやしたまひけむ、え見つけたてまつらずなりぬ。

皇子の、御供(おほんとも)に隠したまはむとて、年 ごろ見えたまはざりけるなりけり。これをなむ、「た まさかに」とはいひはじめける。
=<皇子の、御供(おほんとも)に隠したまはむとて、年ごろ見えたまはざりけるなりけり。これをなむ、「たまさかに」とはいひはじめける。br>

right★補足・文法★        















left★原文・現代語訳★    
〈要約100字=24×4+4〉(…参考資料)

〈要約〉
竹取の翁が、光る竹の中からを見出したかぐや姫は、
三か月で美しく成人して、成人の儀式をしたところ、
世の男たち全ては惹かれて心を乱された。









right★補足・文法★        
「竹取物語1−名はかぐや姫」動画
「竹取物語2−蓬莱の珠の枝」動画
「竹取物語3−右大臣阿倍御主人」動画













写真は、ネット上のものを無断で借用しているものも あります。どうぞ宜しくお願い致します。

貴方は人目の訪問者です