(先生の授業ノート)辺見庸「食と想像力」  
left★板書(+発問)★   
(先生の授業ノート…普通クラス)
   辺見庸「食と想像力」

〈出典〉
・『もの食う人々』(1993年)による

〈筆者〉
・1944(昭和19)年〜
・早大出身、記者(共同通信社の特派員)
 1991年『自動起床装置』で芥川賞を受賞して
 小説家デビュー
・感情を交えない淡々とした筆致
          (所々にユーモアとペーソス)

〈概要→要約〉
・「食」についての想像と考えを記した随想
 (何気ない世界の日常をあるがまま表現)

right★補足(+解説)★   
(随想)2017年5月(2023年4月改)

※随筆=自己の感想・意見・見聞・体験などを
    筆に任せて自由な形式で書いた文章(随想)
 評論=物事の善悪・価値・優劣などを
    批評し論じた文章
〈場面背景〉(…枠組み)
・時(+後日談)…1993年以前(枠組み)
・所…「私」の家(日本)→バンコク(タイ)


全体の構成 【一】(起)我が家のグルメ猫の猫缶の真実
          (導入…話題提示・問題提起)


【二】(承)猫缶とタイ人労働者の実態
 @猫缶とタイの実情      (具体的考察1)
 A工場見学とタイ人労働者の実態
 Bタイ人労働者の安い賃金と生活
【三】(転)★一人の女子労働者の実態★
                (具体的考察2)


【四】(結)猫缶に関する想像と考えるべき事
                 (結論…課題)


left★板書(+発問)★    
〈授業の展開〉

【一】(起)我が家のグルメ猫の猫缶(の真実)
          (導入…話題提示・問題提起)
○「私」の家のトラ猫
 ・ノラ時代→人間の残飯なら何でも食う
    ↓〈しかし〉
 ・飼い猫の現在
  →猫缶のみを生きがいとするグルメ猫
    ↓
    ↓
 ・食費 月5400円は
  製造労働者の月収の三分の一以上
    ↓
   背景に<経済格差と「食」の問題>の存在
      (貧困)
    ↓
    ↓
    (未だしも=不十分ではあるが、それでも)
○猫ならまだしも我々まで
 作り手の苦労には想像が及ばない
    ↓        (想像ができていない)
    ↓
 ・猫ともどもタイの工場に
  足を向けては寝られない
            (受けた恩恵を忘れない)

▼〈段落まとめ〉
我が家のグルメ猫は食費が月五千四百円で、製造労働 者の月収の三分の一以上になるが、我々は申し訳ない 真実を想像できていない。


right★補足(+解説)★        




・所(場面)
  「私」の家(日本)→バンコク(タイ)
・野良猫→実にたくましい
<筆者の皮肉>(嘆き)を込めた表現
 →自然に生きる力を失った動物
 →ペット産業を生み出す現代日本

・一日120円×一つ半→180円×30日
・5400円×3=月収1万5千円
・猫缶の値段と製造労働者の月収の比較
 →日本の猫缶製造を担うタイに異常な状況


猫は動物なので想像できなくても仕方ないが、
 グルメ猫のための<食糧を、タイが安い労働力で
 生産>
してくれていることについて、
 人間である自分たちも<想像できないでいる>。
 →自分達の食糧がどのように作られているか
  考えない、日本人の愚かしさへの筆者の皮肉
☆タイの苦労に対して申し訳ない
 恩を忘れてはいけない。
※文章表現…だじゃれ的、擬人法、軽妙で風刺
(参考資料…まとめ)
私の家の飼い猫は、一缶120円の猫用缶詰を日に一 つ半食うので、月の食費が約5400円だ。これが猫 缶製造労働者の平均月収の三分の一以上に当たること を、タイに来て初めて知った。食べ物の作り手の苦労 にはとかく想像が及ばないものだ。

left★板書(+発問)★    
【二】(承)猫缶とタイ人労働者(の実態)
                (具体的考察1)
@<猫缶とタイの実情>

○工場取材をあっさり拒否
      ↑
 (理由)日本から注文が減れば
     労働者二万人への影響
      ↑           (死活問題)
     日本の猫缶反省論の社会問題化を警戒
     =人と動物がひっくり返った
      生産・消費構造への反省

▼〈小段落まとめ〉
人と動物が逆転した生産・消費構造に対する猫缶反省 論の社会問題化への警戒から、工場の取材を断られた
A<工場見学とタイ人労働者の実態>

〇(匿名を条件に)缶詰工場の見学
    ↓
 生身の労働者が想像の及ばない程の苦労
 ・女性が立ちづめの手作業(苛酷な労働
 ・臭気と熱気が充満   (劣悪な環境
 ・電子部品でも作るよう (労働者の真剣さ
 ・日本の猫の高級志向に応じる

▼〈段落まとめ〉
匿名を条件に缶詰工場を見学したが、タイ人労働者の 苦労は想像が及ばない程だった。

B<タイ人労働者の安い賃金と生活>

〇八時間労働、月収1万5千円
 →我が家の猫の食費の3倍以下
 →それでもタイでは恵まれた方

〇包装はギリシア人向けより立派
    ↑(日本の消費のあり方が他国に比べて特殊)
 汗の結晶が堕落猫の口に入るのか
      (人間が汗を流し努力して作った結果)
 想像すると腹が立つ
    ↓
 ・気抜けするような味だった

▼〈段落まとめ〉
猫の食費の3倍に満たない月収で、人間が苦労して立 派に作ったものが、何もしない堕落猫の餌になるのを 想像すると腹が立つ。



right★補足(+解説)★        
(タイのペットフード産業の実態)



・元は、ジャーナリスト(記者・編集者)

貴重な資源をむやみに捕り安い労働力で加工
 したものを、日本のペットはただ食うだけ
 →昔は人間が牛馬を働かせて生活
 →矛盾した構造が人の生活を支える現状
 →地球の資源の問題・労働状況・人権問題・
  ペットのあり方









☆たかが動物の餌という人間軽視
 だが、生活のために、品物・背景に疑問を抱かず
☆白身・エビ・シラスも加え、まるで人間用
 →筆者の批判的視点(日本の傲慢さ







☆グルメ猫の食費は月5400円
 →問題=タイの貧困・経済格差

★タイの労働者が、安い賃金苛酷な労働条件のもと  で真剣に作った缶詰が、何も苦労せずに食うだけの  堕落猫の餌になる、という人と動物が逆転した生産  ・消費構造を想像すると、申し訳なくて腹が立つ
☆どれほど労力を払っても結局は味もなく、動物の餌  に過ぎないと実感して脱力した

(参考資料…まとめ)
貴重な水産資源を捕るだけ捕り、安い労働力で加工さ せ、日本のペットはそれを食うだけという、人と動物 がひっくり返った生産、消費構造への反省論が日本の 一部で出始めている。これに、タイのペットフード関 連企業全体が、神経質になっている。日本からの注文 が減ったら、労働者約2万人の明日に影響するからだ 。すべて匿名を条件に、ある工場の見学にこぎつけ、 立ちづめの手作業を参観した。

left★板書(+発問)★    
【三】(転)★一人の女子労働者の実態
                (具体的考察2)
○一人のタイ人女子労働者と話
    ・十六歳、名前はティン、肉詰め係
    ・タイ東北部の稲作農家出身、無口
     →工場は農業よりずっと楽
    ・食べ物の話はニコニコ
      ↓
  一人に焦点を当てた具体的な記述で
  労働者の<実態を身近に考えさせる>

〇タイ独特の大衆食品(ソムタム)が好き
 →日本の猫缶の値段が頭にちらつく
  =食費は、日本の猫缶と同じ
〇「猫を飼っているか」(質問)
    ↓
 「猫も犬も飼ってなんかいない」(答え)
 つまらない事を聞かないで(という表情)
    ↓
    ↓
 ・会話は気詰まりなまま終わる
    ↓

▼〈段落まとめ〉
タイ東北部の稲作農家出身の女子労働者は、食費は日 本の猫と同じで、猫を飼う事はつまらないという表情 をした。




right★補足(+解説)★        




貧困→故郷に帰らず、工場で仕事

倹(ツマ)しい生活の中での楽しみ




☆一日も欠かさず食べる→豊かでない
☆食費の金額の低さと、日本の猫の餌の高価さとの
 ギャップ→グルメ猫の食費は1日180円
☆猫や犬は飼うものでなく、いないのは当然。
 またペットを飼う余裕もない。
安い賃金と苛酷な労働条件のもとで真剣に、
 外国の動物の贅沢な餌を作るという、
 人と動物が逆転した実情への複雑な思い
・猫缶製造の工場労働者と、消費するだけの贅沢な猫  の飼い主と、立場が違うため、共通認識がない

(参考資料…まとめ)
工場で働く16歳の女子従業員と話をした。稲作農家 の出身で、缶詰工場は農業よりずっと楽だという。彼 女の食費は一日に40バーツ(約2百円)だそうだ。 日本の猫缶の値段が頭にちらついた。私は「日本の猫 のための缶詰を作っていること、どう思う?」ときい た。彼女は陳沈黙した。目が怒っていた。「関係ない 。ただ働いているだけよ。」と吐き捨てた。

left★板書(+発問)★    
【四】(結)猫缶に関する想像と考えるべき事
                 (結論…課題)
〇後日、(勇気を奮い起こし)
 勇を鼓してソムタムを食べ、思い出す
    ↓        →何とも奥行きのある味
    ↓
◎「日本の猫のための缶詰を作っていることを、
  どう思うか」と(ずいぶん失敬な)ひどい質問

  をして、止めておけばよかった(と思う)
    ↓↑
    ↓↑
    ↓↑
    ↓↑
 ・「関係ない、ただ働いているだけ
  女子労働者は、沈黙し目が怒っていた
    ↓
〇自分が拵えた缶詰を誰が食うのか
 <想像しない権利がある>
      →ソムタムを食べて故郷を思う方がいい
    ↓↑
    ↓↑
質問されなければならないのは私たちの方なのだ
 「あなたの家の猫が食べている缶詰が
  どうやってできたものか
  <想像>してみたことはありますか?」」と

▼〈段落まとめ〉
日本向けの贅沢な猫缶の製造について、タイ人女子労 働者は想像しない権利があるが、私達は想像して問題 があることを考える力を持つべきである。
right★補足(+解説)★        


☆火を通さず、清潔でない(生活環境の違い)

☆女子労働者の故郷を思う気持ちや、その背景にある  タイの文化や大衆の生活が窺われる
安い賃金と苛酷な労働条件の下、外国の動物の贅沢
 な餌
を作るという、人と動物が逆転した仕事に従事
 して複雑な思いを抱きながらも、ささやかな楽しみ
 を支えとして懸命に生きる彼女に対して、
    ↓
 自分の貧しさを思い知らせる<屈辱感を与え>
 傲慢に高い所から見下すような質問をした
☆問題を自覚しながら、生活のためと割り切るが、
 日本の豊かさに対し、自分の貧しさを見下すような  質問をされ、屈辱を覚えて不快である
☆猫缶の贅沢さに対して、置かれた状況を想像せずに  何も知らない方が、自分の貧しさに惨めな劣等感を  抱き、仕事や生活を空しく感じることなくいること  ができて、幸せであるから。

★人間と動物が逆転した<生産・消費構造を想像>し  て、背景に、<経済格差や貧困の問題があることを  考える>べきである。
「飽食の時代」と言われるが、それは低開発諸国の  厳しい労働状況に支えられているのだ。それを想像  して考えようとしないのは傲慢である。
 我々は、「食」のあるべき姿やアジアの国内事情や  日本との経済的関係、現代日本のあり方について、  広い視野と想像力を持って考えるべきである

left★板書(+発問)★    
〈要約100字=24×4+4〉
日本のペットのグルメな食べ物を、外国人の労働者が 低賃金で立ちづめの手作業という苦労をしながら製造 していることに対して、我々はそれを想像し、背景に 経済格差や「食」の問題があることを考える力を持つ べきだ。

〈要約250字=24×10〉
タイの猫缶製造工場で、立ちづめの手作業をしている 労働者の月給は、我が家の贅沢な猫の月の食費の三倍 にも満たない。それでもタイでは恵まれた方である。 一人の女子労働者に「外国の猫のための缶詰を作って いる事をどう思うか」などと質問した事があったが、 彼女には自分の作った缶詰を誰が食うかを想像しない 権利がある。「猫の缶詰がどのようにしてできたもの か想像した事があるか」と質問されなければならない のは我々の方だ。「食」の問題や背景にある経済格差 に対し、我々は想像して考える力を持つべきである。






right★補足(+解説)★        
〈補足〉
  <タイ>    ←←→→    <日本>
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・貧困     | 屈辱←→見下す |・富裕、裕福
・依存     |        |・傲慢
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・安い賃金   | ←経済格差→ |・贅沢、飽食
・苛酷な労働  |        |・動物の餌
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〈補足〉
○一人の女子労働者との話の全体の構成における役割
 ・具体的記述により、日本と異なるタイ人労働者の   生活の実態を身近に考えさせる
○「質問されるべきは私達の方だ」に対する生徒感想
 ・ペットの食費が、製造労働者の食費と変わらず、   その賃金の三分の一以上であり、人間と動物とが   逆転した生産・消費の構造に驚いた。
 ・日本の豊かな「食」のために海外の多くの人々が   苦労して働いており、贅沢な食生活を送っている   のは一部の先進国の人間だけに限られていること   が分かった。
 ・南北の経済格差と貧困、人間の自尊心というもの   について改めて考えた。
 ・人間に劣らない程の飽食や贅沢さをペットにまで   させている、現在の日本の無知・傲慢さ・歪んだ   あり方に気づかされた。
○『食と想像力』と、「力」が付いた題名について
 ・日本のグルメ猫と、タイ人労働者の賃金や「食」   とを比較することで、背景にある経済格差や現代   日本社会が抱える問題を想像して考える力を持つ   べきであることを述べようとした。

写真は、ネット上のものを無断で借用しているものも あります。どうぞ宜しくお願い致します。

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