left★原文・現代語訳★   
「古典現代語訳ノート」(普通クラス)
   「新古今和歌集」 藤原定家

〈出典=『新古今和歌集』〉
〇成立 鎌倉時代前期 1205年頃(中世)
    8番目の勅撰和歌集(後鳥羽院の院宣による)
〇撰者 源通具(ミチトモ)・藤原有家・藤原定家
    藤原家隆・藤原雅経・寂蓮の6人
               (→成立後も改訂)
〇内容 歌数2100首、20巻
    部立(ブダテ)の体裁は『古今集』を範とする
〇歌風 幽玄・有心(ウシン)・余情美を重視した独特の
    歌風(心象を象徴的に表現し、華麗・夢幻的)
   (『万葉集』は「ますらをぶり」…男性的)
   (『古今集』は「たおやめぶり」…繊細優雅)
    →本歌取り・体言止めなどの技巧を用いる
    →(韻律)七五調中心、初句切れ増加
〇歌体 短歌のみ

〈時代背景〉
〇王朝貴族社会から武家社会への変遷


right★補足・文法★   
(和歌集)2022年7月(8月改)


〈勅撰和歌集〉
   (天皇や上皇の命令により編集された和歌集)
三代集
 ・「古今」「後撰集」「拾遺」
八代集
 ・三代集
 +「後拾遺」「金葉」「詞花」「千載」「新古今」





left★原文・現代語訳★   
〈和歌の修辞など〉
〇枕詞=上に置き、特定の語句を導く五音の修飾語
                (口語訳しない)
〇序詞=上に置き特定の語句を導く七音以上の修飾語
                (口語訳する)
〇掛詞=同音なので、一語に二つの意味を持たせた語
       (限られた字数で表現を豊かにする)
〇縁語=ある語を中心に関係の深い語を用いる技巧
              (連想を膨らませる)
〇本歌取り=和歌・連歌で、古歌の語句・趣向などを       取り入れて作歌すること(内容に奥行)
〇韻律・句切れ
※詞書=歌を作った時・所・背景などを述べた前書き
right★補足・文法★   

 ・あしひきの→山・峰  ・あらたまの→年・月
 ・くさまくら→旅・露  ・しろたへの→衣・袖
 ・ぬばたまの→黒・闇  ・ひさかたの→天・光

 ・かる→離る・枯る   ・きく→聞く・菊
 ・ふる→降る・古る   ・まつ→待つ・松

 ・衣→着る・張る・袖  ・露→消ゆ・結ぶ・玉
 ・月→傾く・入る・影  ・涙→流る・袖・水



left★原文・現代語訳★   
〈授業の展開〉

〈作者=藤原定家〉
・1162〜1241年(平安末期〜鎌倉初期)
・俊成の子。『新古今集』『新勅撰集』の撰者。
 幽玄・有心の、華麗な歌風の中世歌壇の第一人者
・家集『拾遺愚草』、歌論『近代秀歌』『毎月抄』、  秀歌撰に『小倉百人一首』、日記に『明月記』が  ある。
right★補足・文法★   

        
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left★原文・現代語訳★   
  守覚法親王、五十首歌よませ侍りけるに
                    藤原定家
  =守覚法親王が、五十首の歌を詠ませました時に                   (詠んだ歌)

春の夜の   夢の浮橋    とだえして
       峰に別るる   横雲の空
             (巻一 春歌上38)
=春の夜の浮橋のような儚く短い夢が途切れて(外を  眺めると)、山の峰に吹き付けられた横に棚引く雲  が、左右に別れて曙の空に流れて行くことだ。
or春の夜の浮橋のような儚く短い夢から覚めて(外を  眺めると)、山の峰に(ぶつかって左右に)別れて  行く、横に棚引く雲が、曙の空に見えることだよ。 (離れ離れのあの人とは短く儚い恋だったのだな?)

〈成立日時〉

〈主題〉(感動の中心・心情)
春の夜の空を眺め<短く儚い恋を嘆く>思いを詠む。

〈鑑賞〉(感想・補足)
・(修辞法)三句切れ、縁語、体言止め、「の」反復
・下の句に「横雲の空」とあり、春の曙の空が浮かぶ  が、自然の美を詠もうとした歌ではない。
 「春の夜の夢」「浮橋」「とだえ」「別るる」など  の上の句は、短く儚い恋への悩ましさを感じさせる  趣きがある。
・恋に思い悩む短い春の夜、浅い眠りから目覚めて空  眺めると、横に棚引く雲が左右に分かれていくのが  見えて、離れ離れになって行く恋人の事が思われ、  その短く儚い恋を嘆く思いを詠んでいるのである。
・『源氏物語』「夢の浮橋」における浮舟と薫の悲恋  のイメージも連想されたりもする。
・重層的で幻想的・妖艶な恋の歌となっているのだ。
・幽玄(言外の深い余情美)有心(妖艶で風雅な美)  の歌風の、『新古今』を代表する歌である。 ・また、これは「本歌取り」の歌だが、
 本歌としては次の3つが挙げられる。

〈参考…本歌〉
@風ふけば   峰にわかるる   白雲
        たえてつれなき  君が心か
             (壬生忠岑『古今集』)
=風が吹くと、峰にぶつかり左右に別れて消えて行く  白い雲ように、
 (私たちが離れ離れになっても)全く素知らぬ風で  冷淡な貴方の心(を思うと寂しいものだ)よ。

A霞たつ   末の松山   ほのぼのと
       に離るる  横雲の空
            (藤原家隆『新古今集』)
 =春霞の立ち込める末の松山は、(津波が来ても波   が越えることは絶対ありえないと言われるが、)   ほのぼのと(夜が明けてゆくと)、(彼方に見える   水平線の)波に別れて(は霞んで消えて)ゆく、   横に長くたなびく雲の浮かぶ、曙の空だよ。★?

B春の夜の   夢ばかりなる   手枕に
        かひなく立たむ  名こそ惜しけれ
             (周防内侍『千載集』)
 =短い春の夜の儚い夢のような(戯れの貴方の腕の)   手枕(で共寝してしまったため)に、つまらない   浮いた噂が立つようなことになれば、 まことに   口惜しいことです。

right★補足・文法★   
・守覚法親=後白河天皇の皇子




・(短い)春の夜←→「秋の夜長」と対比的
         →恋に悩み眠りも浅い
・浮橋=水に筏や舟を並べ上に板を渡して橋のように
 したもの →夢の浮橋=夢の中の不安定な通い路。
・夢の浮橋とだえして=儚く短い夢が途切れて。
 →「とだえ」は「橋」の縁語
・峰に別るる=@雲が峰に分断されて左右に別れる
       A峰から雲が遠ざかって
        峰と雲とが離れ離れになる
・横雲=横に(長く)棚引く(ように広がる)雲













ヘンデル「協奏曲ト短調」

        
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left★原文・現代語訳★   
  西行法師、勧めて、百首歌よませはべりけるに
                    藤原定家
  =西行法師が私に勧めて百首の歌を詠ませました    時に(詠んだ歌)

見渡せば   花も紅葉も   なかりけり
       浦の苫屋の   秋の夕暮れ
             (巻四 秋歌上363)
=見渡してみると、 美しい春の桜の花も秋の紅葉も  (見あたら)ないことだよ。海辺の(漁師の)苫で  屋根を葺いた(粗末な)小屋(だけが見える辺り)  の(寂しい)秋の夕暮れであることよ。

〈成立日時〉

〈主題〉(感動の中心・心情)
春の花や秋の紅葉という、伝統的な色彩美がない
「浦の苫屋」での<秋の夕暮れの寂しさ>を詠む。

〈鑑賞〉(感想・補足)
・(修辞法)三句切れ、体言止め、倒置法
・有名な「三夕の歌」の一つで、最も人気がある歌。
 他の二つは、
※さびしさは その色としも なかりけり
       まき立つ山の 秋の夕暮れ
              (寂連・秋上361)
 =(この)寂しさは、特にこれといった色(のせい)   でもなかったのだなあ。(紅葉することもない杉   や檜などの)槙が茂る(だけである)山の(全体   から寂しさが感じられる)秋の夕暮れよ。
※心なき 身にもあはれは 知られけり
     鴫立つ沢の 秋の夕暮れ
               (西行・秋362)
 =(世を捨てて法師となり)ものの情趣などを理解   できない(私のような)者にも、このしみじみと   した趣は、自然と感じられることだ。(この)鴫   が飛び立って行く沢の秋の夕暮れ(の景色)よ。

right★補足・文法★   
・百首歌=百首で一組になるように構成を整えて歌を      詠んだもの。ここは、1186(文治2)年の      「二見浦百首」。


・苫屋=菅・茅などを粗く編んだ「苫」(むしろ)で     屋根を葺いた小屋




















ヘンデル「協奏曲ト短調」

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