left★原文・現代語訳★
守覚法親王、五十首歌よませ侍りけるに
藤原定家
=守覚法親王が、五十首の歌を詠ませました時に
(詠んだ歌)
春の夜の 夢の浮橋 とだえして
峰に別るる 横雲の空
(巻一 春歌上38)
=春の夜の浮橋のような儚く短い夢が途切れて(外を
眺めると)、山の峰に吹き付けられた横に棚引く雲
が、左右に別れて曙の空に流れて行くことだ。
or春の夜の浮橋のような儚く短い夢から覚めて(外を
眺めると)、山の峰に(ぶつかって左右に)別れて
行く、横に棚引く雲が、曙の空に見えることだよ。
(離れ離れのあの人とは短く儚い恋だったのだな?)
〈成立日時〉
〈主題〉(感動の中心・心情)
春の夜の空を眺め<短く儚い恋を嘆く>思いを詠む。
〈鑑賞〉(感想・補足)
・(修辞法)三句切れ、縁語、体言止め、「の」反復
・下の句に「横雲の空」とあり、春の曙の空が浮かぶ
が、自然の美を詠もうとした歌ではない。
「春の夜の夢」「浮橋」「とだえ」「別るる」など
の上の句は、短く儚い恋への悩ましさを感じさせる
趣きがある。
・恋に思い悩む短い春の夜、浅い眠りから目覚めて空
眺めると、横に棚引く雲が左右に分かれていくのが
見えて、離れ離れになって行く恋人の事が思われ、
その短く儚い恋を嘆く思いを詠んでいるのである。
・『源氏物語』「夢の浮橋」における浮舟と薫の悲恋
のイメージも連想されたりもする。
・重層的で幻想的・妖艶な恋の歌となっているのだ。
・幽玄(言外の深い余情美)有心(妖艶で風雅な美)
の歌風の、『新古今』を代表する歌である。
・また、これは「本歌取り」の歌だが、
本歌としては次の3つが挙げられる。
〈参考…本歌〉
@風ふけば 峰にわかるる 白雲の
たえてつれなき 君が心か
(壬生忠岑『古今集』)
=風が吹くと、峰にぶつかり左右に別れて消えて行く
白い雲ように、
(私たちが離れ離れになっても)全く素知らぬ風で
冷淡な貴方の心(を思うと寂しいものだ)よ。
A霞たつ 末の松山 ほのぼのと
波に離るる 横雲の空
(藤原家隆『新古今集』)
=春霞の立ち込める末の松山は、(津波が来ても波
が越えることは絶対ありえないと言われるが、)
ほのぼのと(夜が明けてゆくと)、(彼方に見える
水平線の)波に別れて(は霞んで消えて)ゆく、
横に長くたなびく雲の浮かぶ、曙の空だよ。★?
B春の夜の 夢ばかりなる 手枕に
かひなく立たむ 名こそ惜しけれ
(周防内侍『千載集』)
=短い春の夜の儚い夢のような(戯れの貴方の腕の)
手枕(で共寝してしまったため)に、つまらない
浮いた噂が立つようなことになれば、 まことに
口惜しいことです。
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right★補足・文法★
・守覚法親=後白河天皇の皇子
・(短い)春の夜←→「秋の夜長」と対比的
→恋に悩み眠りも浅い
・浮橋=水に筏や舟を並べ上に板を渡して橋のように
したもの →夢の浮橋=夢の中の不安定な通い路。
・夢の浮橋とだえして=儚く短い夢が途切れて。
→「とだえ」は「橋」の縁語
・峰に別るる=@雲が峰に分断されて左右に別れる
A峰から雲が遠ざかって
峰と雲とが離れ離れになる
・横雲=横に(長く)棚引く(ように広がる)雲

ヘンデル「協奏曲ト短調」
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