left★原文・現代語訳★
「古典現代語訳ノート」(普通クラス)
   「戦国策/漁夫之利」

〈出典=『戦国策』〉
〇中国の史書
〇前漢末の学者・劉向(リュウキョウ)の編
〇内容
 →中国の戦国時代における12の国々の出来事や
  遊説家の説いた策略を、国ごとにまとめた書物

<時代背景>
 ・中国の戦国時代(前403〜前221年)
           (〜秦の始皇帝による統一)
〈概要〉
〇シギとドブガイが互いに争っているのを利用して
 第三者である漁夫が両方とも捕えた(という故事)

right★補足・文法★
(史書)2021年5月


〈編者=劉向〉
・紀元前77〜前6年
・前漢(紀元前206−8年)

・戦国時代=前403〜前221→「戦国七雄」の存在
・遊説家=知識を身に付けて国々を回り、諸侯に策謀
     を説いた人物。春秋戦国時代、自分の弁舌
     で政治を動かそうと諸国を巡った者

・「秦」→china(英語)→支那(日本語)
    →東シナ海・南シナ海



全体の構成 【一】(起)蚌と鷸の争い(を話す蘇代) 【二】(承)両者とも一歩も引かない蚌と鷸
【三】(転)蚌も鷸も得た漁師の譬え=強国の秦 【四】(結)蘇代により燕への攻撃を止めた趙王
left★原文・現代語訳★
〈授業の展開〉

【一】(起)蚌と鷸の争い(を話す蘇代)
                    (導入)
趙且伐燕。
(趙(チョウ)且(マサ)に燕(エン)を伐たんとす。)
=趙が今にも燕を攻めようとしていた。

蘇代、爲燕謂惠王曰、
(蘇代、燕の為に惠王に謂ひて曰(イ)はく、)
=(遊説家の)蘇代が、燕の為に(趙の)惠王に言う
 ことには、

「今者臣來、過易水。
(「今者(イマ)臣(シン)の来たるとき、易水を過ぐ。)
=「今、私が(趙に)来る時、易水を通り過ぎた。

蚌正出曝。
(蚌(ボウ)方(マサ)に出でて曝(サラ)す。)
=ドブガイが丁度(水面に)出て日に当たっていた。

而鷸啄其肉。
(而して鷸(イツ)其の肉を啄(ツイ)ばむ。)
=そして、シギがその(貝の)肉を啄もうとした。

蚌合而箝其喙。
(蚌合して其の喙(クチバシ)を箝(ハサ)む。)
=ドブガイも(殻を)合わせてその(鳥の)嘴を挟んだ。

right★補足・文法★




・趙・燕=いずれも強国「戦国七雄」の一つ
・且ニ…セントす=今にも…しようとする(=「将」)


・蘇代=戦国時代の遊説家
・惠王=趙の王
・…く(接尾語=ことには)→(次のように)言った


・臣=私(謙遜の自称)
・易水=趙と燕の国境沿いの川


・方に=ちょうど
・蚌=ドブガイorハマグリ。10cm程で、干潟に生息
・出曝=泥の中から出て日向ぼっこをする

・鷸=シギ。嘴と脚が長い鳥、河原・河口に生息







left★原文・現代語訳★
【二】(承)両者とも一歩も引かない蚌と鷸
                   (展開@)
鷸曰、『今日不雨、明日不雨、即有死蚌。』
(鷸曰く、『今日雨ふらず、明日雨ふらずんば、即ち
 死蚌有らん』と。)
=シギが言うことには、『今日、雨が降らず、明日も
 雨が降らなければ、その時は(干からびて)死んだ
 ドブガイがいる(ことになる)だろう。』と。

蚌亦謂鷸曰、『今日不出、明日不出、即有死鷸。』
(蚌も亦鷸に謂ひて曰はく、『今日出でず、明日出で  ずんば、即ち死鷸有らん』と。)
=ドブガイもまた同じようにシギに言うことには、
 『今日(嘴が挟まれたまま貝殻から)出ず、明日も
 出なければ、その時には死んだシギがいる(ことに
 なる)だろう。』と。

両者不肯相舎。
(両者相(アイ)舎(ス)つるを肯(ガエン)ぜず。)
=両者とも互いに放すことを承諾しなかった。

right★補足・文法★


・雨=文脈により、「雨ふる」と動詞として訓読する
・即ち=その時は、直ぐに





・亦=…もまた同じように







・肯んず=承諾する・同意する
・相=互いに     (→相談=互いに話をする)
☆両者は身動きできず、体力が消耗するばかりである

left★原文・現代語訳★
【三】(転)蚌も鷸も得た漁師の譬え=強国の秦
                   (展開A)
漁者得而并擒之。
(漁者得て之を并(アワ)せ擒(トラ)ふ。)
=(その時そこに現れた)漁師が(それを見つけて)
 これを両方とも一緒に捕らえてしまった。

今趙且伐燕。
(今趙且に燕を伐たんとす。)
=今、趙は今にも燕に攻めようとしている。

燕趙久相支、以敝大衆、臣恐強秦之爲漁父也。
(燕と趙久しく相支へ、以て大衆を敝(ツカ)れしめば、
 臣強秦の漁父と為らんことを恐るるなり。)
=燕と趙が長い間(互いに戦い合って)持ちこたえ、
 そのために(両国とも)民衆を疲弊させるならば、
 私は強国の秦が漁夫と(同じように燕と趙を一緒に  得ることに)なることを恐れるのである。

故願王之熟計之也。」
(故に王の之を熟計せんことを願ふなり。」と。)
=故に、王がこれ(燕に攻め入ること)をよく考える
 ことを願うのある。」と。

right★補足・文法★


・得而…(えて…す)=…することができる(?)




☆蘇代の話は、ドブガイ・シギ・漁師の譬え話から、
 抗争する燕・趙・秦の実際の国際関係となる


★燕と趙が戦って、両国の民衆が疲弊して国力が消耗
 しているすきを狙って、第三者の強国の秦が攻めて
 来て、燕と趙の両方を手に入れて我が物とすること
 を恐れている。




・「願はくば、王の之を熟計せんことを」とも読む。




left★原文・現代語訳★
【四】(結)蘇代により燕への攻撃を止めた趙王
                    (結び)
惠王曰、「善。」乃止。
(惠王曰く、「善し。」と。乃(スナワ)ち止む。)
=(蘇代の話を聞いた後、趙の)恵王が言うことには
 「わかった。」と。そこで(燕に攻め込むことを)  止めた。

right★補足・文法★


・乃=そこで・かくて・はじめて・かえって
 →則=(条件を受けて)…すれば直ぐに
 →即・便=直ぐに・容易く・取りも直さず
 →輒=そのたびに
 →載=(語調を整える)

left★原文・現代語訳★
〈要約〉
趙が燕を攻めようとしていた時に、ドブガイ・シギ・
漁師を例に出して、両者が争っていると、強国の秦が
利益を得るだけだと説き、趙に攻撃を取り止めさせた
際の、遊説家・蘇代の譬え話

right★補足・文法★
〈故事成語の意味〉
 両者が互いに争っているすきに
 第三者が労せずして利益を横取りすることの譬え



left★原文・現代語訳★
〈参考〉「漁夫の利」の背景となる歴史

中国の戦国時代、趙が燕を攻めようとした時に、燕の
昭王は重用していた遊説家の蘇代を通して攻撃を思い
止まるよう、趙の恵文王を説得させようとした。
蘇代は恵文王に「シギとドブガイが譲らず争っている
所に漁師が現れて容易く両方とも捕らえてしまった」
という譬え話をして、趙と燕が争っていれば強国の秦
が漁夫のようになり、いとも簡単に両国とも奪われて
しまうと説得した。


right★補足・文法★






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