「戦国策/蛇足」
left★原文・現代語訳★
「古典現代語訳ノート」(普通クラス)
   「戦国策/蛇足」

〈出典=『戦国策』〉
〇中国の史書
〇前漢末の学者・劉向(リュウキョウ)の編
〇内容
 →中国の戦国時代における12の国々の出来事や
  遊説家の説いた策略を、国ごとにまとめた書物

<時代背景>
 ・中国の戦国時代(前403〜前221年)
           (〜秦の始皇帝による統一)
〈概要=「蛇足」〉
〇主人から酒を与えられた使用人たちが、量に限りが
 あるので最初に蛇の絵を描き上げた者が一人で全て
 飲める事にしようと相談して決めたが、最初に描き
 上げて権利を得た者が、調子に乗って余計な足まで
 描いた為に酒を飲み損ねてしまった
、との故事成語
 「蛇足」の来歴を記した話      (→要旨)

right★補足・文法★
(史書)2018年11月(2021年5月改)


〈編者=劉向〉
・紀元前77〜前6年
・前漢(紀元前206−8年)





・「秦」→china(英語)→支那(日本語)
 →東シナ海・南シナ海








left★原文・現代語訳★
〈全体の構成〉         (→要約→要旨)

【一】(起)主人から与えられた酒
【二】(承)酒は先に蛇を描いた者の物
【三】(転)本来ない筈の足を描いた蛇の絵
【四】(結)余計な事をして飲み損ねた者

right★補足・文法★







left★原文・現代語訳★
〈授業の展開〉

【一】(起)主人から与えられた酒
                    (導入)
 ニ リ ル
楚 有 祠 者。
   二   一
(楚に祠(マツ)る者有り。)
 =楚の国に祭礼を司(ツカサド)る者がいた。

 フ ノ   ニ   ヲ
賜 其 舎 人 卮 酒。
 二         一
(其の舍人に卮酒(シシュ)を賜(タマ)ふ。)
 =(ある時)自分の使用人たちに大きな杯についだ
   酒をお与えになった。

right★補足・文法★





・祠(まつ)る=祭礼を司る
 →供え物を捧げて儀式を行い、神を招いて祈願する
・司(つかさど)る=役目としてその仕事をする



・賜ふ=「与ふ」の尊敬語
・舎人=使用人・家来
・卮(し)=取っ手やふたのある大杯(たいはい)
 →4升(8リットル)程度


left★原文・現代語訳★
【二】(承)酒は先に蛇を描いた者の物
                   (展開@)
      ヒテ ハク
舎 人 相 謂 曰、
(舍人相謂(アイイ)ひて曰(イ)はく、)
 =使用人たちは相談して言った、

    ニテ マバ ヲ    ラ
「 数 人 飲  之  不 足、
       レ     レ
(数人にて之を飲まば足らず、)
 =「数人でこれを飲むなら足りない(が)、

  ニテ  マバ ヲ  リ リ
一 人  飲  之 有 余。
       レ   レ
(一人にて之を飲まば余り有り。)
 =一人でこれを飲むなら余るほどある。

 フ キテ ニ リ ヲ
請 画 地 為 蛇、
   レ   レ
(請ふ地に画(ウェガ)きて蛇を為(ツク)り、)
 =(ひとつ)地面に蛇の絵を描いて、

 ヅ ル   マント  ヲ
先 成 者 飲   酒。」
       レ
(先づ成る者酒を飲まん。」と。
 =真っ先に出来上がった者が酒を飲むことにしよう
  ではないか。」と。

   ノ   ヅ ル
一 人 蛇 先 成。
(一人の蛇先づ成る。)
 =(やがて)一人の者の描いた蛇が最初に出来上が
  った。

 キテ ヲ  ニ マント ヲ
引  酒  且 飲  之。
 レ     レ レ
(酒を引きて且に之を飲まんとす。)
 =(その者は)酒を引き寄せて今にもそれを飲もう
  とした。

 チ  ニ チ  ヲ
乃 左 手  持  卮、
       レ
(乃ち左手に卮(シ)を持ち、)
 =そこで左手で大きな杯を持ち、

  ニ キテ ヲ ハク
右 手 画  蛇  曰、
    レ
(右手に蛇を画きて曰く、)
 =右手で蛇に描き加えながら言った、

    ク  ルト  ガ  ヲ
「 吾 能  為   之  足。」
       二     一
(吾能(ヨ)く之が足を為(つく)る。」と。)
 =私は蛇の足を描くことも出来る」と。

right★補足・文法★



・相=互いに(→相談=互いに話をする)
・曰は(「曰ふ」未然)く(接尾語=…ことには)
 →言うこと(には)・(次のように)言った


・之→大きな杯についだ酒










・請ふ=(ひとつ)…しようではないか
    …してほしい・どうか…をお許し下さい
・地に画きて蛇を為る=地面に絵を描いて蛇を作る
          →地面に蛇の絵を描く



・成る=出来上がる・完成させる












・且=「まさニ…セント」と読む再読文字
  →「今にも…しようとする」の意





乃=(すなはチ)そこで、なんと、やっと
      (一つの事を終え、間を置いて次へ及ぶ)
   (なんぢ)あなた、お前



☆蛇に(元々ある筈がない)足を描き加える




能(よ)く…できる(「あたフ」とも読む)
・為(つく)る=ここでは「描き加える」ことになる
 (「なル」「なス」「す」「ためニ」とも読む)
☆せっかく酒を独り占め出来る権利を得たのに、
 調子に乗って<余計な事をして損をする>事になる

left★原文・現代語訳★
【三】(転)本来ない筈の足を描いた蛇の絵
                   (展開A)
 ダ    ラ         ル
未    成、一 人 之 蛇 成。
ザルニ レ
(未だ成らざるに、一人の蛇成る。)
 =(その足の絵が)まだ完成しないうちに、
  (他のもう)一人の蛇が出来上がった。

 ヒテ ノ ヲ ハク
奪  其 卮 曰、
 二    一
(其の卮を奪ひて曰く、)
 =(もう一人の者は)その大杯を奪って言った、

    ヨリ シ
「 蛇 固 無 足。
       レ
(蛇固(モト)より足無し。)
 =「蛇にはもともと足がない。

   ンゾ ク  ランヤト ガ ヲ
子 安  能  為    之 足。」
         二      一
(子安(イヅク)んぞ能く之が足を為らんや。」と。)
 =あなたはどうしてその足を描けるというのか、い
  や、決して描けまい」と。

 ニ ム ノ ヲ
遂 飲 其 酒。
   二   一
(遂(ツヒ)に其の酒を飲む。)
=(そして)そのままその酒を飲んでしまった。

right★補足・文法★



・未=「いまだ…セ」と読む再読文字
  →「まだ…しない」の意
  →(例)未来(いまだ来たらず)










・固(もと)より=元々・本来





・子(し)=あなた・先生
・安=「いづクンゾ…ンヤ」と読む
  →「どうして…か、いや…でない」(反語)の意
・為(つく)る=ここでは「描く」意


☆蛇はもともと足がないのに、足がある蛇を描いても
 蛇の絵を描き上げた事にならないので、
 最初の男は酒を飲む事は出来ない
 →せっかく権利を得たのに、調子に乗って
  余計な事をし、損をして(成果を失って)しまう

left★原文・現代語訳★
【四】(結)余計な事をして飲み損ねた者
                    (結び)
 ル ノ ヲ
為 蛇 足 者、
 二   一
(蛇の足を為る者、)
 =蛇の足を描いた者は、

 ニ  ヘリ ノ ヲ
終  亡  其 酒。
    二    一
(終(ツヒ)に其の酒を亡(ウシナ)へり。)
 =とうとうその酒を飲み損ねたのだった。

right★補足・文法★









・終(つひ)に=とうとう・結局・最後には
 ←→遂(つひ)に=そのまま
・亡(うしな)ふ=酒を飲む機会を失う
☆余計な事はしない方が良い、という教訓

left★原文・現代語訳★
〈要約1〉
〈要約〉
略(→概要)

故事成語「蛇足」の意味
(調子に乗って)余計な事(無駄な事)(をして
 かえって損をする)

 or最初の者が失敗すれば、次の者が特に何もしなく
  ても得をする(との解釈もある)





right★補足・文法★
〈「蛇足」の背景となる歴史〉

戦国時代、戦国七雄の一つである楚は秦に次ぐNo2 の大国で、魏を滅ぼし更に斉まで討とうとしていた。 そこで、楚の進撃を止めさせる為、斉の遊説家が楚の 将軍を説得する際に用いた例え話が「蛇足」である。 調子に乗って斉を討っても、今より高いNo1の官職 は既に他の者が就いているので与えられる訳はなく、 戦って勝てなかったら、命を落とすか、今のNo2の 官職を下位の者に奪われるだけで何の利益もないので ある。即ち、止まるという事を忘れると、身は滅び、 官職も次の者のものになるだけで、斉を討つ事は無駄 であると悟した。

left★原文・現代語訳★
〈参考1〉


right★補足・文法★
〈参考2〉


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