(先生の現代文授業ノート)森本哲郎「日本人と桜」
left★板書(+補足)★
「現代文授業ノート」(普通クラス)
   森本哲郎「日本人と桜」

〈出典〉
○雑誌『毎日が発見』(2001年4月号)

〈概要〉
○心を悩ませ、深い感慨に浸らせる
 桜への日本人の思い         (→要旨)

〈全体の構成〉         (→要約→要旨)

【一】「しづ心なく」と桜を詠む紀友則
                    (序論)
【二】同様に「三日見ぬ間に」と詠む蓼太
                   (本論@)
【三】「桜のなかりせば」と詠む業平と対する友人
                   (本論A)
【四】「盛りにのみ」「さまざまの」との兼好と芭蕉
                (本論B…結論)

〈授業の展開〉

【一】「しづ心なく」と桜を詠む紀友則
                    (序論)
〇紀友則(『古今集』…900頃)

 久方の 光のどけき 春の日に
     しづ心なく 花の散るらむ
      ↓
    (残念で仕方がない)
      ↓
      ↓
そのためだろう→日本人はそわそわ
 ・いつ花開くか
 ・ 〃 満開
 ・瞬く間に花吹雪(散る)
      ↓〈だから〉
 <桜の季節は心休まる暇がない>

【二】同様に「三日見ぬ間に」と詠む蓼太
                   (本論@)
〇蓼太(江戸期の俳人…1750頃)

 世の中は 三日見ぬ間に 桜かな
      ↓
 世の中は 三日見ぬ間に 落花かな
    →とも
     同じように言える
      ↓
      ↓
      ↓〈しかも〉
 <「しづ心」を保てない>(=歌「しづ心なく」)
      ↓ (風に心を痛め、雨に気を労す)

【三】「桜のなかりせば」と詠む業平と対する友人
                   (本論A)
いっそ、桜などなければいい
      ↓
 在原業平(『伊勢物語』…平安初期850頃)

 世の中に 絶えて桜の なかりせば
      春の心は のどけからまし
    =<桜さえなければ>…のんびり
      ↓↑
      ↓↑
      ↓↑〈すると…歌の応答〉
      ↓↑
〇傍らの友人  (→そうではない)

 散ればこそ いとど桜は  めでたけれ
       うき世に何か 久しかるべき
    =<すぐ散るからこそ素晴らしい>
      ↓↓
      ↓↓
      ↓↓
【心を悩ませ、深い感慨に浸らせる】
 【桜への日本人の心】
      ↓
【四】「盛りにのみ」「さまざまの」との兼好と芭蕉
                (本論B…結論)
〇兼好法師(『徒然草』…鎌倉末期1330頃)

 花は盛りに、月は隈なきを
       のみ見るものかは

  =<まだ咲かぬ梢、散った落花の庭>の方が風情
      ↓
 そうした思いを込める
 =日本人の魂のありかを示唆
      ↓
〈そして〉
〇芭蕉(『笈の小文』…江戸期1690頃)の俳句

 さまざまの 事おもひ出す 桜かな
      ↓
 桜に托す日本人の心を…吐露     (→結論)



〈要約200字=24×8〉
▼平安の頃、紀友則は「しづ心なく花の散るらむ」と
心休まる暇がない桜への思いを『古今集』に詠んだ
▼同様に、江戸期の蓼太も「三日見ぬ間に」と「しづ
心を保てない」桜への特別の思いを俳句に詠んだ
▼平安の業平と友人は「なかりせば」「散ればこそ」
と歌で応答し、心悩ます桜への日本人の心を告白した
▼後の兼好と芭蕉も「盛りにのみ」「さまざまの」と
言うように、日本人は桜に托す様々な心を表現した
right★発問☆解説ノート★
(評論)2018年4月


〈筆者〉1925(大正14)〜2014(平成26)
・評論家
・著書→『文明の旅』『生きがいへの旅』など

〇日本の古典と日本の伝統・文化の特質


〈各段落まとめ〉

▼平安の頃、紀友則は「しづ心なく花の散るらむ」と
心休まる暇がない桜への思いを『古今集』に詠んだ
▼同様に、江戸期の蓼太も「三日見ぬ間に」と「しづ
心を保てない」桜への特別の思いを俳句に詠んだ
▼平安の業平と友人は「なかりせば」「散ればこそ」
と歌で応答し、心悩ます桜への日本人の心を告白した
▼後の兼好と芭蕉も「盛りにのみ」「さまざまの」と
言うように、日本人は桜に托す様々な心を表現した







★(天から差す日の光が)のどかな春の日に
 どうして桜はあわただしく散ってしまうのか
 →久方の=「天・雨・月・雲・光」に掛かる枕詞
 →しづ心=静かな/落ち着いた心 (→保てない)
 →らむ=(助動詞)現在推量(…しているだろう)
     原因推量(どうして…だろうか)
★そのため=「しづ心なく花の散る」のが残念…










〇世の中は、いつ桜が花開くかと思っていたら、
 三日見ない間にいつの間にか満開になっている事だ
〇世の中は、桜が満開だと思っていたら、
 三日見ない間にいつの間にか散ってしまった事だ
★桜を愛する特別の思いを詠んでいる点で同じだから
 →紀友則と同様、桜の季節は心休まる暇がない事を
  詠んでいる点では同じ(→特別に心惹かれる)
 =いつ花開き満開になるかと思うのも、いつ散るか
  と思うのも、桜を気にかけている点で同じ
・労する=苦労させる・骨を折らせる
 →気を労する=気遣いして苦労する



六歌仙在原業平・小野小町・僧正遍照
     大伴黒主・文屋康秀・喜撰法師
・桜狩り=山野に桜を訪ね歩き観賞すること・桜見物
桜さえなければ、そんなにやきもきすることも
 なく、のんびりとした気分でいられるだろうに
 →絶えて(副詞・全く)…なかり(形「なし」用)
  せ(過去「き」未)ば(接助・仮定=…ならば)
 →やきもき=気をもんで、いらいらする様
 →のどけから(形「のどけし」未)
  まし(反実仮想=もし…ならば…のに)


★桜はすぐに散るからこそ、素晴らしいのだ
 この憂き世に長くとどまっているものなどあろうか
 →だから短い盛りの美しさを愛でるべきなのだ
 →憂き世=(定めない)無常なこの世・辛い世の中
 →愛づ=(めづ・下二段)心惹かれる・魅せられる
     感動する・賞美する・称賛する・褒める
・桜は百花の王
★筆者の主張





★花は満開の時に、月は澄み切った夜にばかり眺める
 ものではない
    (→花の後先に寄せる情感)
 →隈なし=光のささない所(陰・影・片隅)がない
 →風情=風流・風雅な趣。味わい。情趣
★心を悩ませ、深い感慨に浸らせる桜への日本人の心
・示唆=それとなく知らせる



★今までに多くの歌人や文人たちが、心を悩ませ深い
 感慨に浸らせる桜への日本人の思いを、様々に詠ん
 だりしてきたものだなあ
・托(託)す(る)=他にかこつける・ことよせる
 →かこつける=他のものに無理に結びつける
・吐露=心の思いを包み隠さないで全部述べること

〈要旨50字=24×2〉
日本人は、心を悩ませ深い感慨に浸らせる桜に托する 特別の思いを抱き、詩文で様々な表現をしてきた。






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