(先生の現代文授業ノート)三好達治「甃のうへ」
left★板書(+補足)★
「現代文授業ノート」(普通クラス)
   三好達治「甃のうへ」

〈出典〉
 ・初出 大正15年(1926)7月(作者26歳)
     梶井基次郎との同人誌「青空」
 ・後に 昭和5年(1930)12月処女詩集「測量船」
     所収

〈作者〉
 ・明治33年(1900)〜昭和39年(1964)
 ・大阪府出身の詩人
 ・格調高い叙情で、日本的伝統の美を受け継ぎつつ
  西欧的近代意識による清新さも追求して、昭和の
  代表的叙情詩人
とされるが、後に戦争詩に変貌と
  批判される
 ・詩集 「測量船」「艸千里」
     「駱駝の瘤にまたがって」(芸術文学賞)

〈表現〉
 ・文語自由詩五七調が基調のリズム(→音楽性)
 ・a音(一行目)i音(二行目)の反復
    →(母音の響き)耳に快いリズムを生み出す
 ・語句の繰り返し(…ながれ・をみなご)
 ・文語の使用
    →春に溶け込めない閉ざされた孤独感
 ・古典和歌の情緒と区別
    →難しい漢字の使用→日常性を排除
    →五七調に統一せず

〈概要→主題〉
 ・流れる桜の花とそこを歩む「をみなご」に対し、   距離感を抱く私」の孤独な姿を詠む

right★発問☆解説ノート★
(詩)2015年10月(2020年10月改)










・萩原朔太郎の妹と結婚…のはずだったが…
・「詩と詩論」に参加の後、昭和9年(1934)堀辰雄・
 丸山薫らと「四季」を創刊
・出発期は、青春のみずみずしい感性と、青春ゆえの
 叙情が込められる



・定型詩ではない














left★板書(+補足)★
〈全体の構成〉    (←時系列・場面・心情)
【一】(前半)<春の寺の境内の情景と青春>
  ・静かな春の寺の境内で、桜の花が散り、
   「をみなご」がゆっくりと語らい歩く情景

【二】(後半)<自らの孤独な影>
  ・春の麗らかでゆったりとした時間の流れと、
   溶け込めない静かで孤独な「わが身」の姿


〈枠組み〉(…設定)
 (いつ)   春
 (どこで)  静かな古寺の境内で
 (誰が)   20代の青年が
 (何を)   散策を
 (どうした) していた
   ↑
 (なぜ)   美しい情景に惹かれて、溶け込めず

right★発問☆解説ノート★
〈教材〉

    甃のうへ            三好達治

【一】(前半)
あはれ花びらながれ
をみなごに花びらながれ
しめやかに語らひ
うららかの跫音(アシオト)空にながれ
をりふし瞳を……
翳(カゲ)りなきみ寺の春をすぎゆくなり

【二】(後半)
み寺の甍(イラカ)みどりにうるほひ
廂々(ヒサシビサシ)に
風鐸(フウタク)のすがたしづかなれば
ひとりなる
わが身の影をあゆまする甃(イシ)のうへ

left★板書(+補足)★
〈授業の展開〉
【一】(前半)<春の寺の境内の情景と青春>
                 (青年の視点)
あはれ(=ああ) <花びら>(=桜の花弁)ながれ
  ・ああ、桜の花びらが(静かに次々と散っては)
   (春の風にゆったりと舞うように)流れ
<をみなご>(=少女)に 花びらながれ
  ・(参道を歩む初々しい)少女たちに、花びらが
   (舞うように)流れ(ているのが見える)
しめやかに(のどやかに) 語らひ
  ・(そこを少女たちは)のどやかに語り合い
うららかの 跫音空に ながれ
  ・(春の陽の)麗らかな(中を歩く少女たちの)
   足音が(響いて)空に(消えて)流れてゆき
をりふし(時々)瞳を……
  ・時々、(円らな)瞳を(上げて、青空に映えた
   桜を眺める少女たちの顔が見える?)……
翳りなき <み寺の春を すぎゆくなり>
  ・一点の曇りもない春の(陽射しの中の)お寺を
   通り過ぎてゆく   (少女たちは、今まさに
   青春の真っ只中を歩んで行こうとしている
   のである。

▼〈まとめ〉
静かな春の寺の境内で、桜の花が散り、「をみなご」
がゆっくりと語らい歩く情景

right★発問☆解説ノート★



・母音(あ・は・は・な・な・が)の反復
☆連用中止→静かにゆったり移り行く、春の時の流れ

・をみなご=少女、女学校の生徒(15〜16歳)
・母音(み・に・び)・「ながれ」の反復

・春のしっとりとした雰囲気・少女の美の初々しさ
・語らひ→2人以上
・うららか=春の日が柔らかくのどかに照っている様
・跫音=人の歩く足音




・翳りなき=一点の曇りもない→若々しい人生を暗示
☆み寺=お寺、上品な感じのする春の古寺のイメージ
 春=輝かしい青春→「春のみ寺」ではない
・なり=断定の助動詞→文語詩



☆青年は、春の美しさと、それを体現する少女たちに
 魅せられているが、溶け込めない孤独感も窺える。

left★板書(+補足)★
【二】(後半)<自らの孤独な影>
          (視点の変化→青年自身の姿)
み寺の甍(屋根の瓦) みどりにうるほひ
  ・お寺の屋根の瓦は、(古寺らしく苔が生えて)
   緑色にしっとりとし
廂々(建物上部で外側に張り出した軒々)に
  ・(建物上部で外側に張り出した)幾つかの軒に
風鐸(大型の風鈴)の すがたしづかなれば
  ・(大型の)風鐸の姿(が見えるが、今は鳴って
   いず)静かなので
ひとりなる
  ・(同じように静かでもの言うことなく、ただ)
   一人(情景を眺めているだけ)である
<わが身の影>を あゆまする 甃(石畳)のうへ
  ・「わが身」の影を見つめつつ、(春の美しさに
   心惹かれながらも溶け込めずに、孤独感を胸に
   抱いて)石畳の上を歩いていることだ。

▼〈まとめ〉
春の麗らかでゆったりとした時間の流れと、溶け込め
ずに静かで孤独な「わが身」の姿

right★発問☆解説ノート★


・母音(み・い・み・り・に・ひ)、ハ行(ほ・ひ)
 の反復

・母音(ひ・し・び・し・に)の反復

☆鳴らない風鐸→静かな青年の孤独感を提示
 →風鐸が視覚で強調されるが、その視点は、石畳の
  上に自分の孤独な影を捉えて終わる
一行表記・連体止め→閉ざされた孤独感を強調
             (春の情景とは対照的)

・母音(わ・が・か・あ・ま・が)の反復
・影→孤独感  ・あゆまする→主語は「私」
・甃のうへ→視線が下を向く






left★板書(+補足)★
〈主題〉
(古寺の境内における)桜の花びらと、初々しい少女
に象徴される美しい春の情景と、それに溶け込めない
孤独な青年の思い

right★発問☆解説ノート★








left★板書(+補足)★
〈補足1…「をみなご」と「わが身」の違い〉
(視線)   上     ←→下
(人間関係) 複数    ←→一人下
       楽しそう    孤独
(動作)   ゆっくり歩き←→石畳の上を
       寺を通り    寂しく歩く
       過ぎてゆく
(互いの関心)「わが身」に←→「をみなご」に
       関心がない   関心を払う


花びら=をみなご  ←→ しづか、ひとり=わが身
  (一体化)            ↓
    ↓              ↓
   美しい             ↓
   流れる             ↓
    ↓              ↓
  春を過ぎ行く         石畳の上の
 (美しい春の象徴)         影

〈補足2…「わが身」の心情〉
「あはれ」=<情景に感動>
    ↓
  「をみなご」に関心
    ↓
  「散る花」と「をみなご」を重ねる
   (春の情景の象徴→女性の美も一瞬)
    ↓
  直ぐに散ってゆく(=春を過ぎ行く→美意識)
    ↓↑
後半の<孤独感>
    ↓
  春という季節、それに暗示される恋に対する
  距離感
   (美に心惹かれながらも、
    単純に溶け込めない意識)

right★発問☆解説ノート★
〈補足3…音感とリズム〉
@五音七音が基本(音数律)
A連用中止法
B連体止め
C繰り返し法(印象・音楽性を強める)
D母音の響き(「ア」音「イ」音)

※「流れ」の繰り返し
 桜の花びらが次々と散って流れる様子
 →少女の歩みが花の流れと一体化
    ↓
 全て春のゆったりとした時間の流れの中にある
    ↓↑
 しかし、「わが身」は春の流れに溶け込めずに重い



XX〈補足4…粗筋〉(参考資料)
春の寺の境内に、散り始めた桜の花が、微風にのって
流れを作っている。
そこへ大人になりかけた少女たちが、静かに語らいな
がら、ゆっくり歩いてくる。その上へ桜の花びらが流
れてくる。

少女たちの下駄の音が、軽やかに空に響いて流れてゆ
く。少女たちは時々つぶらな瞳を空に向ける。曇りの
ない春の日ざしの下の寺
を、こうして少女たちは歩い
て過ぎている。

寺の瓦は緑色にしっとりとし、廂々に下げられた風鐸
は鳴ることもなく静かである。

こうした情景を見ている「わが身」は孤独であり、そ
<孤独な自分の影を、甃の上に歩ませるだけ<である。


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