left★原文・現代語訳★
「古典現代語訳ノート」(普通クラス)
   張彦遠「歴代名画記/画竜点睛」

〈出典=『歴代名画記』〉
時代(847〜854年頃)に成立した画論
・十巻。張彦遠(チョウゲンエン)の著
・絵画の技法・理論、画家の伝記などをまとめる

〈作者〉
・張彦遠。生没年未詳。晩唐の書家・画家

〈概要〉
〇竜の瞳を書き入れたら天に飛び去ったという話>

right★補足・文法★
(画論)2024年1月




〈大意〉…参考資料
有名な画家である張僧?は、武帝の命を受けて安楽寺の 壁に四匹の竜を描いたが、その竜には瞳が入っていな かった。彼は、「瞳を描き入れると竜が飛び去るから 入れないのだ」と言っていたが、人々はそれを信じな かった。強く頼んで瞳を描き入れさせたところ、彼の 言葉どおりに、竜が壁から踊り出て、天に昇ってしま った。

全体の構成 【一】(起)両頭の蛇を見たと泣く孫叔敖 【二】(承)他人のために蛇を埋めた孫叔敖
【三】(転)陰徳は天が福を与えると言う母 【四】(結)陰徳により宰相となった孫叔敖
left★原文・現代語訳★
〈授業の展開〉

【一】(起)両頭の蛇を見たと泣く孫叔敖
                    (導入)
張僧?厭、呉中人也。
 張僧?(ちょうそうよう)は、呉中の人なり。
 =張僧?は、呉中の人である。

武帝崇飾仏寺、多命僧?画之。
 武帝仏寺を崇飾(すうしょく)するに、多くを僧?
 に命じて之を画かしむ。
 =武帝は仏寺を立派に装飾するとき、
  その多くを僧?に命じて絵を描かせていた。

金陵安楽寺四白竜、不点眼睛。
 金陵の安楽寺の四白竜は、眼睛(がんせい)を点ぜ  ず。
 =金陵の安楽寺の四匹の白龍には、
  (僧?は)瞳を描かなかった。

毎云、「点睛即飛去。」
 毎(つね)に云ふ、「睛(ひとみ)を点ぜば即ち
 飛び去らん。」と。
 =(僧?は)いつも言う。「瞳を描いたら(四匹の
  白龍は)すぐに飛び去ってしまうだろう。」と。

人以為妄誕、固請点之。
 人以て妄誕(もうたん)と為し、固く之に点ぜんこ  とを請ふ。
 =人々はあり得ない話だと思い、なんとしても
  これに(眼を)描くことを頼んだ。

須臾雷電破壁、両竜乗雲、騰去上天。
 須臾(しゅゆ)にして雷電(らいでん)壁を破り、
 両竜雲に乗り、騰去(とうきょ)して天に上る。
 =(僧?が、頼まれて龍に眼を描くと)たちまち
  稲妻が壁を破り、二匹の龍は雲に乗って、
  躍り上がって天に上っていった。

二竜未点眼者、見在。
 二竜の未だ眼を点ぜざる者は、見(げん)に在り。
 =もう二匹の龍で(まだ眼を描いていない)ものは、
  現在も(絵の中に)残っている。


right★補足・文法★




・張僧?=南北朝時代の梁の画家。生没年未詳。
・呉中=現在の江蘇省蘇州市


・武帝=(南朝)梁(りょう)の初代皇帝
    在位502〜549年

・崇飾=立派に飾る
・金陵=梁の都。現在の江蘇省南京市
・眼睛=瞳



・妄誕=でたらめ



・須臾=少しの間、たちまち























left★原文・現代語訳★
【二】(承)他人のために蛇を埋めた孫叔敖
                   (展開@)
母曰、「今、蛇安在。」
 母曰はく、「今、蛇安(いづ)くにか在る。」と。
 =母が言うことには、「今、蛇はどこにいるのか。   」と。

曰、「吾聞、『見両頭蛇者死。』吾恐他人又見、已埋 之矣。
 曰はく、「吾聞く、『両頭の蛇を見る者は死す。』  と。吾他人の又見んことを恐れ、已(すで)に之を  埋(うづ)む。」と。
 =(孫叔敖が)言うことには、「私は聞いている、   『頭が二つある蛇を見た者は死ぬ。』と。私は他   の人がまた(その蛇を)見ることを恐れ、もうこれ   を埋めた。」と。

right★補足・文法★


・安=いずくにか…(どこに…か)




・矣=断定の置き字。書き下し文では書かない









left★原文・現代語訳★
【三】(転)陰徳は天が福を与えると言う母
                   (展開A)
母曰、「無憂。汝不死。吾聞之、『有陰徳者、天報以 福。』」
 母曰はく、「憂ふる(こと)無かれ。汝(なんじ)  死せず。吾之を聞く、『陰徳有る者は、天報ゆるに  福を以てす。』」と。
 =母が言うことには、「心配してはいけない。お前   は死なない。私はこう聞いている、『隠れた良い   行いのある者は、天は幸福をもって報いてくれる   (のだ)。』」と。

right★補足・文法★


・…すること無かれ=禁止の命令文
・死す=サ変動詞
・陰徳=人の知らない所で良い行いをすること
    誰にも知られず行う良い行為
 →「恐他人又見、已埋之矣」(←指示内容)
☆人の知らない所で良い行いをした者には、天が幸福  を与えてくれる



left★原文・現代語訳★
【四】(結)陰徳により宰相となった孫叔敖
                    (結び)
人聞之、皆喩其為仁也。
 人之を聞き、皆其の仁たるを喩(さと)るなり。
 =人はこれを聞き、彼の行為が人を思いやる仁徳に   よるものであることを皆が理解したのである。

及令尹、未治而国人信之。
 令尹(れいいん)たるに及び、未だ治めずして国人  之を信ず。
 =(だから、後に孫叔敖が)宰相へと出世した時に   は、まだ政治をしないのに国中の人は彼のことを   信じた(のだった)。

right★補足・文法★

・喩(さと)る=判断の基準にする(すぐに考える)
 →物事の道理を詳らかに知る、明らかに理解する
・仁徳=(儒教の説く)他人に対する思いやりの心
☆自分は死ぬことになっても、第二・第三の犠牲者は  出すまいと蛇を埋めた行為が知れ渡った結果、叔敖  は仁者だと理解されたということである。
・令尹=神官職の長。政治と祭事が一体だった古代は     宰相の位に相当する
 →「陰徳有る者は必ず陽報(はっきり現れる報い)    有り」という故事があった



left★原文・現代語訳★
〈要約〉
子供の頃、孫叔敖は「見た者は死ぬ」という両頭の蛇 を見たと泣いた事があったが、他人が見て死ぬことを 恐れて蛇は埋めていた。それに対して、「隠れた所で 良い行いをした者は、天は福をもって報いてくれる」 と母は言った。後に、宰相となるに至った孫叔敖は、 仁徳ある人として人々の信望が厚かった。

 
right★補足・文法★
〈参考〉
「画竜点睛を欠く」の意味
大体良くできているが、最後の仕上げが不十分である ため、全体が不完全になってしまっている



 


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