left★原文・現代語訳★
〈全体の構成〉 (→要約→要旨)
【一】<様々な鳥…渡り鳥・山鳥・水鳥>
鳥は、こと所のものなれど、鸚鵡(あふむ)いとあはれ
なり。人の言ふらむことをまねぶらむよ。時鳥(ほと
とぎす)。くひな。鴫(しぎ)。宮古鳥。ひは。火たき
=鳥は、異国のものだけれど、オウムがたいそう趣深
い。人の言うようなことを真似るということだよ。
ホトトギス・くいな・しぎ・都鳥・ひわ・ひたき(
もよい)
山鳥。友を恋ひてなくに、鏡を見すれば慰むらむ、心
わかう、いとあはれなり。谷隔てたる程など心苦し。
=山鳥は、友を恋しがって鳴くが、鏡を見せると(鏡
に映る自分の姿を友だと思って)安心するという。
純情で、とても可愛い。谷が隔てて(雌雄が別々に
寝て)いる時などは可哀想だ。
鶴は、いとこちたきさまなれど、なく声雲居まで聞ゆ
る、いとめでたし。かしら赤き雀。斑鳩(いかるが)の
雄鳥。たくみ鳥。
=鶴は、とても仰々しい姿だけれど、鳴く声が天まで
聞こえる(と言われるのは)、とても素晴らしい。
頭が赤い雀・斑鳩の雄・たくみ鳥(もいい)。
鷺はいと見目も見苦し。まなこゐなども、うたてよろ
づになつかしからねど、ゆるぎの森に「一人は寝じ」
と争ふらむ、をかし。
=鷺はひどく見た目も見苦しい。目付きなんかも嫌な
感じで、全て親しみを覚えないけれど、ゆるぎの森
で「一人寝はしない」と言って(歌にもある通り、
妻を巡って雄同士)争うという(のが)、面白い。
水鳥、鴛鴦(をし)いとあはれなり。かたみにいかはり
て、羽の上の霜払ふらむ程など。千鳥いとをかし。
=水鳥では、おしどりがとても心打たれる。(夜に)
雌雄が互いに居場所を代わり合って、(相手の)羽
の上に置く霜を払ってやるという(様子などが、と
ても心が打たれる)。千鳥もとてもいい。
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right★補足・文法★
・異所=異国・外国
・らむ=現在推量(…ているだろう)・婉曲
(…ような)・伝聞(…という・…そうだ)
・鸚鵡=ヨーロッパで飼われ、朝鮮を経て渡来した鳥
・水鶏(くいな)=アジア東・南部に分布し、夏鳥と
して日本に渡来する水鳥。声が戸を叩く音に似る
・鴫(しぎ)=春と秋に日本に来る渡り鳥
・都鳥=シベリアで繁殖して水辺に棲む、白い冬鳥
・ひわ=広くユーラシア・アフリカ・南北アメリカに
分布するスズメ目の鳥。秋の季語になる
・火焼=ユーラシア・アフリカに分布する夏鳥。火打
石を打つ音に似た鳴き声
・山鳥=日本特産のキジ目の鳥。雄は尾が長い。鏡を
見て心慰む、夜は雌雄が谷を隔てて寝る習性がある
という言い伝えがあり、『無名抄』『奥義抄』など
にも話がある
・こちたし(言痛し)=仰々しい・大げさだ・煩い
・鶴=鶴は沼に鳴き声は天に届く、と言い伝えられる
・頭の赤い雀=ベニスズメ・ベニヒワなどか(?)
・斑鳩=東アジアに分布する体長20cm位の灰色の鳥
・巧み鳥=巣を作るのが巧みなキツツキ・ミソサザイ
・まなこゐ=目付き
・うたて=嫌だ・ひどい
・なつかし=親しみを覚える・心惹かれる
・「高島や ゆるぎの森の さぎすらも
ひとりは寝じと 争ふものを」(古今六帖)による
→ゆるぎの森=滋賀県高島郡万木(よろぎ)
・かたみに=互いに
・「羽の上の 霜うちはらふ 人もなし
をしの一人寝 けさぞ悲しき」(古今六帖)による
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