left★原文・現代語訳★
「古文現代語訳ノート」(普通クラス)
   清少納言「枕草子/
      鳥は(能因本48段・三巻本41段)」


〈作品=『枕草子』〉
〇平安中期1001年頃成立
 →日本最古の随筆(文学)
 →三大随筆の一つ
  ・清少納言『枕草子』(11C)
  ・鴨 長明『方丈記』(13C)
  ・兼好法師『徒然草』(14C)
〇一条天皇の中宮定子を中心とする後宮に出仕
 していた頃の見聞・体験・感想などを記す
 →政治的な事には触れず、天皇・中宮への賛嘆と
  後宮文化の華やかさを表現することに終始
〇約300段
 ・類聚的章段(ものづくし)
 ・随想的的章段
 ・回想(日記)的章段
〇書名の由来→最終段「枕にこそ侍らめ」が参考
 →「枕」=身辺座右に置いていた冊子
     (草子・草紙・双紙=綴じ本)
 →「備忘録」「身辺の随想」

〈概要〉
〇類聚的章段
〇様々な鳥についての感想を雑然と述べながら、特に
 鶯とホトトギスに焦点を当てていて、期待に反する
 思いも語っている。         (→要旨)

right★補足・文法★
(随筆)2020年3月



〈作者〉
・965〜1025年頃
・曾祖父清原深養父と父元輔は著名な学者・歌人








→自然・人事を項目によりまとめた「すさまじき物」
 「うつくしき物」「にくき物」「鳥は」「虫は」等
→「春は曙」「月のいとあかきに」等
→宮廷生活での体験







・感想は、必ずしも作者独自のものと言う訳でなく、
 当時の一般的な美意識であろう


left★原文・現代語訳★
〈全体の構成〉 (→要約→要旨)

【一】<様々な鳥…渡り鳥・山鳥・水鳥>
鳥は、こと所のものなれど、鸚鵡(あふむ)いとあはれ
なり。人の言ふらむことをまねぶらむよ。時鳥(ほと
とぎす)。くひな。鴫(しぎ)。宮古鳥。ひは。火たき
=鳥は、異国のものだけれど、オウムがたいそう趣深
 い。人の言うようなことを真似るということだよ。
 ホトトギス・くいな・しぎ・都鳥・ひわ・ひたき(
 もよい)



山鳥。友を恋ひてなくに、鏡を見すれば慰むらむ、心
わかう、いとあはれなり。谷隔てたる程など心苦し。
=山鳥は、友を恋しがって鳴くが、鏡を見せると(鏡
 に映る自分の姿を友だと思って)安心するという。
 純情で、とても可愛い。谷が隔てて(雌雄が別々に
 寝て)いる時などは可哀想だ。

鶴は、いとこちたきさまなれど、なく声雲居まで聞ゆ
る、いとめでたし。かしら赤き雀。斑鳩(いかるが)の
雄鳥。たくみ鳥。
=鶴は、とても仰々しい姿だけれど、鳴く声が天まで
 聞こえる(と言われるのは)、とても素晴らしい。
 頭が赤い雀・斑鳩の雄・たくみ鳥(もいい)。

鷺はいと見目も見苦し。まなこゐなども、うたてよろ
づになつかしからねど、ゆるぎの森に「一人は寝じ」
と争ふらむ、をかし。
=鷺はひどく見た目も見苦しい。目付きなんかも嫌な
 感じで、全て親しみを覚えないけれど、ゆるぎの森
 で「一人寝はしない」と言って(歌にもある通り、
 妻を巡って雄同士)争うという(のが)、面白い。

水鳥、鴛鴦(をし)いとあはれなり。かたみにいかはり
て、羽の上の霜払ふらむ程など。千鳥いとをかし。
=水鳥では、おしどりがとても心打たれる。(夜に)
 雌雄が互いに居場所を代わり合って、(相手の)羽
 の上に置く霜を払ってやるという(様子などが、と
 ても心が打たれる)。千鳥もとてもいい。

right★補足・文法★
・異所=異国・外国
・らむ=現在推量(…ているだろう)・婉曲
 (…ような)・伝聞(…という・…そうだ)
・鸚鵡=ヨーロッパで飼われ、朝鮮を経て渡来した鳥
・水鶏(くいな)=アジア東・南部に分布し、夏鳥と
 して日本に渡来する水鳥。声が戸を叩く音に似る
・鴫(しぎ)=春と秋に日本に来る渡り鳥
・都鳥=シベリアで繁殖して水辺に棲む、白い冬鳥
・ひわ=広くユーラシア・アフリカ・南北アメリカに
 分布するスズメ目の鳥。秋の季語になる
・火焼=ユーラシア・アフリカに分布する夏鳥。火打
 石を打つ音に似た鳴き声

・山鳥=日本特産のキジ目の鳥。雄は尾が長い。鏡を
 見て心慰む、夜は雌雄が谷を隔てて寝る習性がある
 という言い伝えがあり、『無名抄』『奥義抄』など
 にも話がある



・こちたし(言痛し)=仰々しい・大げさだ・煩い
・鶴=鶴は沼に鳴き声は天に届く、と言い伝えられる
・頭の赤い雀=ベニスズメ・ベニヒワなどか(?)
・斑鳩=東アジアに分布する体長20cm位の灰色の鳥
・巧み鳥=巣を作るのが巧みなキツツキ・ミソサザイ


・まなこゐ=目付き
・うたて=嫌だ・ひどい
・なつかし=親しみを覚える・心惹かれる
・「高島や ゆるぎの森の さぎすらも
 ひとりは寝じと 争ふものを」(古今六帖)による
 →ゆるぎの森=滋賀県高島郡万木(よろぎ)


・かたみに=互いに
・「羽の上の 霜うちはらふ 人もなし
 をしの一人寝 けさぞ悲しき」(古今六帖)による




left★原文・現代語訳★
【二】<春の鶯>
鶯は、文などにもめでたきものにつくり、声よりはじ
めて様かたちも、さばかりあてにうつくしき程よりは
、九重の内に鳴かぬぞいとわろき。
=鶯は、漢詩文などでも素晴らしいものとして作り、
 声をはじめとして、姿・形もあんなに上品で可愛い
 (ものはない程だ。その)割には、宮中で鳴かない
 のは本当によくない。

人の、さなむあると言ひしを、さしもあらじと思ひし
に、十年ばかりさぶらひて聞きしに、まことにさらに
音せざりき。
=誰かが「そうな(鶯は宮中では鳴かない)のだ」と
 言ったのを、「そんなこともないだろう」と思った
 が、十年ほど宮仕えして聞いていたが、本当に全く
 鶯の声がしなかった。

さるは、竹近き紅梅も、いとよく通ひぬべきたよりな
りかし。
=そうではあるが、(宮中は)竹に近い紅梅も(あっ
 て、鶯が)とてもよく通って来れそうな都合のいい
 所だよ。

まかでて聞けば、あやしき家の見所もなき梅の木など
には、かしがましきまでぞなく。
=(しかし)宮中を退出して里で聞くと、卑しい民家
 の何の見所もない梅の木なんかでは、(鶯が来て)
 喧しい位まで鳴くのだ。

夜なかぬもいぎたなき心地すれども、今はいかがせむ
。夏秋の末まで老い声に鳴きて、虫くひなど、良うも
あらぬものは名をつけかへて言ふぞ、くちをしくすご
き心地する。
=夜に鳴かないのも眠たがり屋な感じがするけれど、
 (元々そういう習性だから)今更どうにもしようが
 ない。夏や秋の終わりまで年寄り臭い声で鳴いて、
 (そんな鶯を)虫食いなどと下々の者が名を付け替
 えて呼ぶのは、残念で物寂しい気がする。

それもただ雀などのやうに、常にある鳥ならばさも覚
ゆまじ。春なくゆゑこそはあらめ。
=それもただの雀などのように、普通にいる鳥ならば
 そう(残念に)も思われないだろう。(鶯は)春に
 鳴く(特別の鳥なのに、いつまでも鳴いているのは
 未練がましく感じられる)からこそ残念に思われる
 のであろう。

「年立ちかへる」など、をかしきことに歌にも文にも
作るなるは。なほ春のうちならましかば、いかにをか
しからまし。
=「年が改まる(新年となった朝から待ち遠しいのは
 鶯の声だ)」などと、情趣あることとして和歌にも
 漢詩にも詠むというの(だなあ。それ)は、やはり
 (鶯の鳴くのが)春の間だけであったなら、どれ程
 風情があったことだろうに。

人をも、人げなう、世のおぼへ悔らはしうなりそめに
たるをば、謗(そしり)やはする。鳶(とび)、鳥などの
うへは、見いれ聞きいれなどする人、世になしかし。
=人間でも、人並みに扱われずに世間の評価が侮られ
 始めた者を、非難したりはしない。(平凡な)鳶や
 鳥などについては、姿に見入ったり声に聞き入った
 りなどする人は、世間にはいないよ。

さればいみじかるべきものとなりたれば、と思ふも心
ゆかぬ心地するなり。
=だから、(鶯は)素晴らしい筈のものだという評価
 に定まっているので、(期待外れの事があれば謗ら
 れたりする)と思うにつけても、納得の行かない気
 がするのだ。

祭のかへさ見るとて、雲林(うり)院、知足院などの前
に車を立てたれば、郭公(ほととぎす)も忍ばぬにやあ
らむ、鳴くに、いとようまねび似せて、木高き木ども
の中にもろ声になきたるこそ、さすがにをかしけれ。
=賀茂祭(葵祭)の斎王が斎院にお帰りになる行列を
 見ようとして、雲林院や知足院などの前に牛車を立
 てかけて停めていると、ホトトギスも(季節がら)
 我慢できないのかのように鳴くが、すると(鶯が)
 とてもよくその声を真似て、木高い木立の茂みの中
 で声を合わせて鳴いているのは、やはり趣があって
 よいものだ。

right★補足・文法★

・九重=宮中
・「宮の鶯暁天に囀る」(『和漢朗詠集』菅原時文)
 という漢詩も、内裏で鳴く鶯を詠んでいるように、
 宮中でも鶯は鳴く












・さるは=そうは言うが、そうではあるが
・宮中の清涼殿の東には呉竹と河竹、凝華舎の南には
 紅梅と白梅があった









・いぎたなし=寝坊だ・眠たがり屋だ

















・「あらたまの 年たちかへる あしたより 待たる
 るものは 鶯の声」(拾遺和歌集・春 素性法師)
 =年が改まる新年の朝から待たれるのは鶯の声だ。






・あなづらわし=侮ってよい・軽んじやすい














・祭のかへさ=葵祭の翌日、斎王(いつきのみこ)が
 上賀茂神社から紫野の斎院に帰ることや、その行列
・斎王=天皇に代わりに。天照大神に奉仕した未婚の
 皇女で、天皇の即位時に選ばれる。伊勢神宮の斎王
 は「斎宮」、賀茂神社の斎王は「斎院」と呼ばれる
 →斎院=斎王の居所も指す
・雲林院・知足院=京都市北区紫野にあった寺





left★原文・現代語訳★
【三】<夏の郭公>
郭公はなほ、さらに言ふべき方なし。いつしかしたり 顔にも聞こえたるに、卯の花、花橘などにやどりをし て、はた隠れたるも、ねたげなる心ばへなり。
=ホトトギスはやはり、今さら言いようがない(ほど
 良い)。(初夏ともなると)いつの間にか得意顔に
 (鳴いているように)も聞こえているのに、卯の花
 や花橘などに止まって姿が見え隠れしているのも、
 憎らしいほど素晴らしい風情である。

五月雨(さみだれ)の短き夜に寝覚めをして、いかで人 よりさきに聞かむと待たれて、夜深くうちいでたる声 の、らうらうじう愛敬づきたる、いみじう心あくがれ 、せむかたなし。
=梅雨時の短い夜に目が覚めて、何とかして人より先
 に(鳴き声を)聞こうと待ち遠しく思っていると、
 夜が更けて鳴き出した声が上品で素晴らしく可愛い
 のは、とても心惹かれてどうしようもない。

六月になりぬれば、音もせずなりぬる、すべて言ふも おろかなり。
=(だが)六月になってしまうと、声もしなくなって
 しまうのは、全く口に出して言うのも愚かなくらい
 素晴らしい。

【四】<作者のユーモア>
夜なくもの、何も何もめでたし。ちごどものみぞ、さ しもなき。
=夜鳴くものは、何でもみんな素晴らしい。ただ赤ん
 坊だけは、そうでもない。


right★補足・文法★

・ホトトギス=見た目も他の鳥の巣に卵を産む行動も
 カッコウにそっくりで、夏の到来を告げる渡り鳥。
 春の鶯と並び、季節の初音として鳴き声が待たれ、
 万葉集にもある。5月に渡来して、秋に南へ去る。
 平安初期から「郭公」がホトトギス表記する文字と
 して用いられる
・ねたげなり=憎らしいほど素晴らしい


・らうらうじ=気品があって素晴らしい、上品だ
・愛敬づく=魅力がある、可愛い
・心あくがる=心惹かれる






☆春が過ぎて、夏や秋の終わりになっても年寄り臭い
 声で鳴く鶯は、未練がましい?





・ちご=乳児・子供





貴方は人目の訪問者です。