left★原文・現代語訳★
「古文現代語訳ノート」(普通クラス)
清少納言「枕草子/
223段 五月ばかりなどに」
(207段…「全集」)
〈作品=『枕草子』〉
〇平安中期1001年頃成立
→日本最古の随筆(文学)
→三大随筆の一つ
・清少納言『枕草子』(1001年頃)
・鴨 長明『方丈記』(1210年頃=鎌倉初期)
・兼好法師『徒然草』(1330年頃=鎌倉末期)
〇一条天皇の中宮定子を中心とする後宮に出仕
していた頃の見聞・体験・感想などを記す
→政治的な事には触れず、天皇・中宮への賛嘆と
後宮文化の華やかさを表現することに終始
〇約300段
・随想章段
→思ったまま記す「春は曙」「五月ばかり…」等
・日記(回想)的章段
→中宮定子に仕えた宮廷生活での体験・見聞を
記す「中納言参り給ひて」等
・類聚的章段(ものづくし)
→自然・人事を項目別にまとめた「にくき物」
「うつくしき物」「鳥は」「虫は」等
〇書名の由来→最終段「枕にこそ侍らめ」が参考
→「枕」=身辺座右に置いていた冊子
(草子・草紙・双紙=綴じ本)
→「備忘録」「身辺の随想」
〈概要〉
〇牛車に乗って外出した時の感想を記した
随想的章段の一つ (→主題)
〈全体の構成〉 (→要約→要旨)
【一】<五月頃の牛車での趣ある山里散策>
(導入)
【二】(三つの具体的な事例)
@<青々とした緑と水と従者の様>
(展開@)
A<牛車の窓に入り込む草木の枝>
(展開A)
B<牛車の車輪に引っ掛かった蓬>
(展開B)
〈授業の展開〉
【一】<五月頃の牛車での趣ある山里散策>
五月(さつき)ばかりなどに山里に歩(あり)く、いとをかし。
=五月の頃などに(牛車に乗って)山里にあちこちへ
外出する(のは)、とても趣がある。
【二】の@<事例=青々とした緑と水と従者の様>
草葉も水もいと青く見えわたりたるに、上はつれなくて草生(お)ひ茂りたるを、
=草の葉も(田などの)水も一面にとても青く見えて
いる中で、表面は(下に水があるようでなく)何気
ない様子で草が生い茂っている所を、
ながながとたたざまに行けば、下はえならざりける水の、深くはあらねど、
=長々と真っ直ぐに(牛車で)行くと、(その)下は
何とも言えないほど綺麗な水が(あって)、深くは
ないが、
人などの歩(あゆ)むに走り上がりたる、いとをかし。
=従者(供の者)などが歩くと(しぶきが)跳ね上が
ったりする(のは)、とても趣がある。
【二】のA<事例=牛車の窓に入り込む草木の枝>
左右(ひだりみぎ)にある垣にあるものの枝などの、車の屋形(やかた)などにさし入るを、
=(道の)左右にある垣根に生えている何かの枝など
で、牛車の屋形などに入り込んでくるのを、
急ぎてとらへて折らむとするほどに、ふと過ぎてはづれたるこそ、いと口惜しけれ。
=急いで(手で)捕まえて折ろうとするうちに、さっ
と(牛車が)通り過ぎて(枝が窓から)外れてしま
う(のが)、とても残念だ。
【二】のB<事例=牛車の車輪に引っ掛かった蓬>
蓬の、車に押しひしがれたりけるが、輪の回りたるに、近ううちかかりたるもをかし。
=蓬で牛車に押しつぶされていたのが、車輪の回って
いるのに、(窓の傍)近くで引っ掛かって(見えて
良い香りがして)いるのも趣がある。
〈主題〉
〇牛車の中からの、陰暦五月という季節特有の自然の
素晴らしさを見出した時の感動=「をかし」
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right★補足・文法★
(随筆)2018年5月
〈作者〉
・965〜1025年頃
・曾祖父清原深養父と父元輔は著名な学者・歌人
〈文学史まとめ→テスト〉
右の文の出典は、平安時代中頃(一〇〇一年)に成立
した『枕草子』という随筆で、作者は一条天皇の中宮
定子に仕えた清少納言である。
三百余りの章段から成り立っており、内容は宮廷生活
における体験や見聞を記した日記的章段、自然や人事
に対する感想を記した随想的章段、同じ種類のものを
並べた類聚的章段の三種類に分類される。
文章全体は作者の美意識や観察眼が鋭く展開した叙述
で、根底に流れる文学精神は『源氏物語』が「ものの
あはれ」なのに対して、「をかし」とされる。
随筆文学の先駆となって、後世『方丈記』(鴨長明)
と『徒然草』(兼好法師)が登場するに至って、三大
随筆と称されるようになった。
〇中宮定子に出仕する華やかな宮中での日常生活とは
異なる、牛車で山里に外出した際の新鮮で開放的な
思いを記す
・いとをかし
・新緑の草に隠れた水たまりのしぶきが跳ねる様
→(視覚)いとをかし
・窓から入り込んだのに手折り損ねた枝
→(触覚)いと口惜しけれ
・引っ掛かった蓬
→(視覚・嗅覚)をかし
★陰暦五月=現在では梅雨入りした六月頃〜七月上旬
→梅雨(雨上がりの晴れた初夏の風情を記す)
・ありく=歩き回る・あちこちへ外出する
→徒歩or車馬に乗っての移動
☆作者の位置=牛車の中(→限定的な視点)
・…わたり(一面に…)たる(存続=…している)
・つれなし=そ知らぬふりをする・冷淡である
関係がない・何気ない様子だ
→つれ=ゆかり・関係・頼りどころ・同伴者
・生ひ茂り()たる(存続「たり」連体形)
・えならず=なんとも言えないほど素晴らしい
→え…打消=不可能(…できない)
・あら(ラ変)ね(打消「ず」已然形)ど(逆接)
・走り上がり()たる(完了=…し(てしまっ)た)
★外見では草の緑だけであるが、従者の歩く足下から
水しぶきが跳ね上がった瞬間、思いがけず実はその
下に清らかな水が存在するのを知った
・屋形=牛車で人の乗る部分(室内)
・折ら(ラ行四段活用・未然)む(意思=…しよう)
・はづれ(ラ行下二段)たる(完了=…してしまう)
・口惜しけれ=残念だ(シク活用形容詞・已然形)
→…こそ(強意)+已然形=係り結び
・輪=牛車の車輪
・近う=「近く」のウ音便
・蓬→良い香りがする(視覚+嗅覚)
★牛車に押しつぶされた蓬が回る車輪に引っ掛かり、
近くで快く香ってくるのは趣がある
〈構成と要約〉
華やかな宮中での日常生活から離れて、牛車に乗って
山里に外出した新鮮で開放的な時の事で、陰暦五月と
いう雨上がりの晴れた初夏の季節特有の自然の素晴ら
しさを見出した感動を「をかし」と記した随想的章段
の一つである。
最初に牛車での趣ある山里散策について述べ、次いで
具体的には新緑の草に隠れた水たまりのしぶきが跳ね
る様子、窓から入り込んだのに手折り損ねた枝、牛車
の車輪に引っ掛かった蓬など、三つの事例が挙げられ
る構成となっている。
視覚・触覚・嗅覚で捉えた感覚的な描写が優れている
とするのが文章批評として適当であろう。
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