left★原文・現代語訳★
「古文現代語訳ノート」(普通クラス)
   「古本説話集/観音様のご加護」

〈作品=『古本説話集』〉
〇成立未詳
 →平安後期(1126)〜鎌倉初期(1201)頃
〇前半は和歌説話46話(女流歌人の逸話)
 後半は仏教説話24話(観音霊験譚)
 →風雅の世界への回顧と仏菩薩の霊験・救済
〇『今昔物語集』・『宇治拾遺物語』と共通の説話

〈概要=「観音様のご加護」〉
〇通って来た男を十分にもてなすことができたのは
 信仰していた仏様の加護によるものだったという話
                   (→要旨)

right★補足・文法★
(説話)2017年12月(2020年5月改)


〈作者〉
・編者未詳











left★原文・現代語訳★
〈全体の構成〉 (→要約→要旨)

【一】<貧乏に過ごす女>
今は昔、身いとわろくて過ごす女ありけり。
=今となっては昔のことだが、身の上がたいそう貧乏
 に過ごしている女がいた。

right★補足・文法★



・わろし=良くない・貧しい



left★原文・現代語訳★
【二】<男をもてなせず嘆く女>
時々来る男来たりけるに、雨に降りこめられて居たるに、「いかにして物を食はせむ」と思ひ歎けど、すべき方もなし。日も暮れ方になりぬ。
=偶に通って来る男が来た時に、雨が降って外に出ら
 れず男が家に居たので、「どのようにして男に食事
 させようか」と女は心で歎くが、どうすることもで
 きない。日も暮れてきた。

いとほしくいみじくて、「わが頼み奉りたる観音、助け給へ」と思ふ程に、わが親のありし世に使はれし女従者、いときよげなる食物を持て来たり。
=女はそんな自分が気の毒に思われてたまらず、「私
 が頼みにし申し上げている観音様、お助け下さい」
 と思っていると、自分の親が生きていた頃に使われ
 ていた侍女が、たいそう美味しそうな食べ物を持っ
 て来た。

right★補足・文法★

・雨に降りこめられる=雨が降って外に出られない







・いとほし=気の毒だ
・程(名詞)+に(格助詞)=…すると・するうちに
・清げなり=きちんと整って美しい様子だ
      (食べ物が)美味しそうだ





left★原文・現代語訳★
【三】<御馳走を準備した昔の侍女>
うれしくて、よろこびに取らすべき物のなかりければ、小さやかなる紅き小袴を持ちたりけるを、取らせてけり。我も食ひ、人にもよくよく食はせて、寝にけり。
=嬉しくて、お礼に与えられる物がなかったので、い
 かにも小さな紅い小袴を持っていたのでそれを与え
 た。自分も食べ男にも十分に食べさせてから、寝た
 のだった。

暁に男は出でて往ぬ。
=夜明け前に男は家を出て帰って行った。

つとめて、持仏堂にて、観音持ち奉りたりけるを、見奉らむとて、丁立て、据え参らせたりけるを、帷子引きあけて見参らす。
=早朝、女は持仏堂で観音様をお祭りしていたのをお
 参りしようとして、几帳を立てて安置し申し上げて
 いたのを、几帳の布を引き開けてお参りした。

right★補足・文法★

・喜び=祝いの言葉・祝辞・祝い事・慶事・
    お礼・謝礼
・小さやかなり=いかにも小さい










・持仏堂=仏・位牌を安置する堂や部屋
・帷子=(かたびら)几帳の布




left★原文・現代語訳★
【四】<御馳走は仏様の仕業>
この女に取らせし小袴、仏の御肩にうち掛けておはしますに、いとあさまし。昨日取らせし袴なり。あはれにあさましく、おぼえなくて持て来たりし物は、この仏の御しわざなりけり。
=すると、この侍女に与えた小袴を仏様が肩に掛けて
 いらっしゃるので、たいそう驚いた。昨日、侍女に
 与えた袴である。しみじみと驚くことに、思いがけ
 ず持って来てくれた物は、この仏様のなさった仕業
 であったのだ。

right★補足・文法★

・あさまし=驚き呆れる
・覚え=自分の心に思われること・知覚・心当たり
 →おぼえなし=思いがけない







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