left★原文・現代語訳★  
「古典現代語訳ノート」(普通クラス)
   (漢詩) 李 白

〈出典=『唐詩選』〉
・明の李攀竜(1514〜1570)の編
・唐代の詩465首を詩体別に集めた書物

〈作者〉
・701〜762年 盛唐の代表詩人、字は太白
・並び称される杜甫(詩聖)に対し、詩仙と言われる
・酒と自然を愛した豪放磊落な人物
・著作 『李太白文集』(詩文)

right★補足・文法★        
(漢詩)2019年5月(2021年10月)



・『唐詩選』は李白・杜甫を初め
 初唐・盛唐の詩を重んずる

〈作者…補足〉
42歳の時、詩才を認められ天子の詔勅を起草する官 に任ぜられたが、酒に身を任せた自由奔放な振舞いに よって、3年足らずで長安から追放された。天才的な 詩風から「詩仙」と称される

left★原文・現代語訳★  
〈漢詩の基礎〉
〇漢詩(近体詩)の形式
 ・絶句(四句) 五言絶句 (五字の句×四句)
         七言絶句 (七字の句×四句)
 ・律詩(八句) 五言律詩 (五字の句×八句)
         七言律詩 (七字の句×八句)
〇漢詩の構成
 ・絶句(四句) 起・承・転・結
 ・律詩(八句) 首聯・頷聯・頸聯・尾聯

押印(韻を踏む)
 =句末に同じ響きの語を置き、リズム音楽性を出す
 ・五言詩→偶数句末
 ・七言詩→偶数句末と第一句末(但し、例外あり)

対句(表現)
 2つの句・文などで
 ・文法構造・字数が同じ ・内容・語感が対応
 ※律詩では頷聯(第三・四句)と頸聯(第五・六句)

right★補足・文法★        
〈参考〉…唐詩の歴史区分
初唐 唐成立 (618年)〜    (7世紀)
盛唐 玄宗皇帝〜安史の乱    (8世紀前半)
中唐 安史の乱〜  (8世紀後半〜9世紀初頭)
晩唐 〜唐滅亡 (907年)    (9世紀)


全体の構成 @(起句) A(承句)
B(転句) C(結句)
left★原文・現代語訳★
  静夜思    李白
   静夜思
   =静かな夜の思い

(起)牀前看月光
   牀前(しょうぜん)月光を看(み)る
   =寝台の前の(床に注ぐ)月の光を見る(と)

(承)
疑是地上霜
   疑ふらくは是(こ)れ地上の霜かと
   =(この白い光は、まるで)地面に降りた霜(の
    ようだ)と思われるほどである。

(転)
挙頭望山月  (←3・4句が対句)
   頭(こうべ)を挙げて山月を望み
   =(そして)頭を挙げて山(の上にある)月を     眺め(ていると)

(結)
低頭思故郷  (←3・4句が対句)
   頭を低(た)れて故郷を思ふ
   =頭をうなだれて(遥か彼方の)故郷(のこと)が
    (感慨深く)思われる(ことだ)。

right★補足・文法★        




・牀=寝台



・疑是=疑わしいことは…である、まるで…のようだ

    これは…と疑わしく思われることだ












left★原文・現代語訳★
〈要約〉
▼山の上に浮かぶ澄み切った月を眺めていて、郷愁が
 しみじみと染み入る思いを詠んだ詩である。

〈鑑賞〉
・25歳で故郷を出て、長江流域から湖北省の辺りを  放浪していた、作者31歳の頃の作とされる。
・静かな秋の夜、月光が辺り一面に白くさしていて、  その輝きは地上に置いた霜ではないかと思うほどで  あった。その山の上にある月を眺めていると、遥か  彼方の故郷のことがしみじみと思いやられて感慨に  耽っていたのであろう。

〈概要・表現〉
五言絶句(五字の句×四句)
押韻→光・霜・郷
対句→3句と4句


right★補足・文法★    
〈鑑賞2〉
人が寝静まった秋の夜更け、寝台の前に霜かと思う程 の白い光に、顔を挙げると遠くに山々が見え、その上 に澄んだ光を放つ満月が浮かんでいる。旧暦8月15日 の中秋節は、秋の満月を愛でる節句であるが、人々が 共に食事をし、灯籠に灯を点して祝うという家族団欒 の日でもある。円い形は何も欠けていず、幸福と理想 を意味するものであり、満月を見れば家族を思うのが 中国人の心性だという。また自分が月を見ていれば、 この同じ月を遥か彼方の友や家族も見ているだろうと 思うのも、定型的な発想の一つである。日本の『源氏 物語』でも、須磨に流された光源氏が月を眺めて都に 残してきた紫上を偲ぶ場面があった。
作者は、月を眺めて家族と故郷を思って、俯いて感慨 に耽っているのだ。
李白「静夜詩」(YouTube 詩吟)
コレルリ「ソナタト短調」


全体の構成 @(首聯=起) A(頷聯=承)
B(頸聯=転) C(尾聯=結)
left★原文・現代語訳★
  送友人    李白
   友人を送る
   =(別れを惜しんで)友人を見送る

(首聯)青山北郭  白水遶東城  (←対句)
   青山(せいざん) 北郭(ほっかく)に横たわり
   白水 東城(とうじょう)を遶(めぐ)る
   =青々とした山が街の北側に横たわっていて、
    白く輝く川が街の東側を巡って流れている。

(頷聯)
此地一為別  孤蓬萬里征  (←対句)
   此の地 一たび別れを為し
   孤蓬(こほう) 万里(ばんり)に征く
   =この地で(今)一たび君と別れてしまうと、
    風に吹き飛ばされる蓬のように
    君は一人で万里の彼方へ旅立って行くのだ。

(頸聯)
浮雲遊子意  落日故人情  (←対句)
   浮雲(ふうん) 遊子(ゆうし)の意
   落日(らくじつ) 故人(こじん)の情
   =空に浮かぶ(あの)雲は
    一人で旅立つ君の気持ちのようで、
    (その雲を照らしながら)沈んで行く夕陽は
    別れを惜しみ悲しく見送る私の気持ち
    そのものだ。

(尾聯)
揮手自茲去  蕭蕭斑馬鳴
   手を揮(ふる)ひて 茲(ここ)より去れば
   肅肅(しょうしょう)として 班馬(はんば)鳴く
   =(互いに握り合っていた)手を振り放って
    君がここから立ち去ろうとすると、
    もの悲しそうに
    別れ行く馬までがいなないていることだ。

right★補足・文法★        




・北郭=城壁で囲まれた、町の北方の外側
・白水=白く輝く川、清らかで澄んだ川の流れ
・東城=城壁で囲まれた、町の東側
 →川が城壁に沿って流れている様


・孤蓬=風に吹かれて飛んで行く蓬(→旅立つ友人)
 →日本の「ヨモギ」とは違うという





・遊子=旅をする人(→友人を指す)
・故人=昔なじみの人(→作者の李白自身を指す)







・揮手=手を振り放って(切って)
・蕭蕭=もの悲しい(寂しい)様
・班馬=列から離れた馬、別れて行く馬
 →班=集団を小分けにする(その一つ)、別れる

☆寂しく物悲しげな馬のいななきが耳に残る詩である
 →見送った場所、友人の名は明らかではない

left★原文・現代語訳★
〈要約〉
別れを惜しんで悲しみながら、旅立つ友人を見送る
 思いを詠む
 (遠くへただ一人で旅立つ友人を見送る惜別の情
〈概要・表現〉
五言律詩(五字の句×八句)
押韻→城・征・情・鳴
対句→首聯・頷聯・頸聯・尾聯のうち
 頷聯・頸聯だけでなく、首聯も対句となっている

right★補足・文法★    

李白「送友人」(YouTube 解説)
コレルリ「ソナタト短調」


全体の構成 @(起句) A(承句)
B(転句) C(結句)
left★原文・現代語訳★  
  黄鶴楼送孟浩然之広陵    李白
   黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之(ゆ)くを送る
   =黄鶴楼で孟浩然が広陵に行くのを見送る

(起句)故人西辞黄鶴楼
     故人西のかた黄鶴楼を辞し
     =古くからの友(孟浩然)は、
      西にある黄鶴楼に別れを告げ、

(承句)
煙花三月下揚州
     煙花三月揚州に下る
     =春霞が立ち花々が美しく咲く三月に
      揚州へと(長江を)下っていく。

(転句)
孤帆遠影碧空尽
     孤帆の遠影碧空に尽き
     =遠くに見える(友が乗る)一艘の舟の
      帆影も、青空の彼方に消えて行き、

(結句)
唯見長江天際流
     唯だ見る長江の天際に流るるを
     =今は唯だ、長江が遥か天の果てまで
      流れて行くのが見えるだけだ。

right★補足・文法★        
・孟浩然=官職に就かず漂白の旅に生きた自然詩人
・広陵=(今の江蘇省)揚州市(一帯の地域)。当時は、
 長江沿岸の交易で栄えて一番華やかだった経済都市

・故人=古くからの友人
・黄鶴楼=今の湖北省武漢市の長江南岸にある高楼。
 →仙人伝説の残る有名な酒場があった、長江の絶景
  を見下ろす楼閣
 →今までも何回か会って酒を酌み交わしたのだろう

・煙花=春霞の中で花々が咲き乱れる美しい光景
・三月→現在の太陽暦では(春爛漫の)四月頃
☆美しい季節に華やかな町に向かって旅立つ友を歌う

☆楼に登って見送ったのだろうか




☆もう二度と会えないかもしれない、という喪失感
 →遥か彼方にポツンと見えていたのに、忽ち碧空に
  消えて行って視野からは消え、見えるのは永遠に
  流れ続ける海のような大河

left★原文・現代語訳★
〈要約〉
旅立つ古くからの友人を見送る喪失感を詠む
              (虚無感・惜別の情
〈概要・表現〉
七言絶句(七字の句×四句)
押韻→楼・州・流
対句→絶句では必ずしも要求されない
・起承転結の構成

right★補足・文法★    

李白「黄鶴楼…」(YouTube 解説) ヘンデル「協奏曲ト短調」
写真は、ネット上のものを無断で借用しているものが あります。どうぞ宜しくお願い致します。

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