(先生の授業ノート)「蜻蛉日記/ゆする坏の水」  
left★板書(+発問)★   
(先生の授業ノート…普通クラス)
   藤原道綱母/ゆする坏の水」

〈作品・出典〉
〇成立 平安時代中期(974年頃)
 →最古の女流日記文学
〇作者 (右大将)藤原道綱母
〇内容 自伝的回想、全3巻
    上巻は、権勢家であった藤原兼家との恋愛
        道綱の誕生を書く
    中下巻は、不実な夫との結婚の不安や苦悩
         道綱への母としての愛情を綴る

〈作者〉
〇藤原道綱母(936?〜995年)
〇太政大臣の藤原兼家の妻となり、一子道綱を生む
〇『更級日記』の作者である菅原孝標女は姪に当たる

〈概要→要約〉
〇夫の藤原兼家が、些細な事で邸を出て行き、五六日  通って来ず、ゆする坏の水に塵が浮くほどであった  頃の、心細く辛い思いを記す。

right★補足(+解説)★   
(日記文学)2023年11月(2024年3月改)



・「日記」では、主語が省略されている場合は、
 作者の動作・行為・心情だと判断すべきである
・一夫多妻が認められていた時代に、不実な夫である  兼家との21年にわたる夫婦仲に苦悩するが、その  作者の姿に対し、兼家は悪びれる様子はあまりない






全体の構成 【一】(起)口論して邸を出て行った夫の兼家 【二】(承)五・六日も音沙汰のない兼家
【三】(転)ゆする坏に浮く塵と兼家の来訪 【四】(結)兼家との不安定な夫婦仲
left★板書(+発問)★    
〈授業の展開〉

【一】(起)口論して邸を出て行った夫の兼家

心のどかに暮らす日、はかなきこと言ひ言ひの果てに 、我も人もあしう言ひなりて、うち怨じて出づるにな りぬ。
=心穏やかに過ごす日、たわいないことの言い合いの  末に、私もあの人も相手を悪しざまに言うようにな  って、(兼家が)恨み言を言って(邸を)出ていく  ことになってしまった。

端の方に歩み出でて、をさなき人を呼び出でて、「我 は今は来じとす。」など言ひ置きて、出でにける
=(兼家が)縁の方に歩み出て、幼い子(道綱)を呼び  出して、「私はもう来ないつもりだ。」などと言い  残して、出ていってしまった

▼〈段落まとめ〉
(夫の兼家が訪れて)のどかに過ごしていた日、たわ いない事から口論になり、兼家が腹を立てて帰り際に 「私はもう来ない」と幼い子に八つ当たりして、邸を 出て行った。

right★補足(+解説)★        




・はかなし=たわいない、ちょっとした、つまらない       頼りない
・出づる(ダ行下二段「出づ」連体形)
・なり()ぬ(完了の助動詞「ぬ」終止形)




・来(カ変・未然)じ(打消意思)と(格助詞)す(サ変)
・出で(下二)に(完了)ける(過去)










left★板書(+発問)★    
【二】(承)五・六日も音沙汰のない兼家

すなはち、はひ入りて、おどろおどろしう泣く。
=その時、(道綱が中に)這って入って来て、驚くほど  激しく泣く。

「こはなぞ、こはなぞ。」と言へど、いらへもせで、 論なう、さやうにぞあらむと、おしはからるれど、人 の聞かむもうたてものぐるほしければ、問ひさして、 とかうこしらへてあるに、
=(私は)「これはどうしたのか、これはどうしたの  か。」と言うけれども、(道綱は)返事もしないで  (泣くので)、無論、そういうことだろうと、推量  されるけれども、人(侍女)が聞くのも嫌で狂おしい  気持ちがするので、尋ねるのを止めて、あれこれと  (子を)なだめて(兼家の訪れを待って)いるうちに、

五、六日ばかりになりぬるに、音もせず。
=(兼家が出て行って)五・六日ほどになったのに、  (兼家からは)音沙汰もない。

▼〈段落まとめ〉
大声で泣く道綱をあれこれとなだめて(兼家の訪れを 待って)いたが、五・六日経っても(兼家からは)何 の音沙汰もない。

right★補足(+解説)★        


・すなはち=直ぐに、その時
・おどろおどろし=大袈裟だ


・せ(サ変)で(打消・接続助詞)
・論なう=無論だ
☆作者への腹立ちまぎれで、子供に対して八つ当たり  したのだろう
・おしはから()るれ(自発)ど(逆接)
・ものぐるほし=狂おしい気持ちだ、馬鹿げている、         気持ちが高ぶる
・…の()聞か()む(婉曲・仮定)も()
・うたて(副詞)=嫌に、不快に
・…さす=(途中で)…するのを止める
・こしらふ=なだめる、とりなす、慰める









left★板書(+発問)★    
【三】(転)ゆする坏に浮く塵と兼家の来訪

例ならぬほどになりぬれば、あなものぐるほし、たは ぶれごととこそ我は思ひしか、はかなき仲なれば、か くてやむやうもありなむかしと思へば、
=いつものようでない程になったので、ああ狂おしい  気持ちがすることだ、冗談だと私は思っていたが、  (自分と兼家との夫婦仲は)頼りない仲なので、この  ようして終わることもきっとあるだろうよと思うの  で、

心細うてながむるほどに、出でし日使ひしゆする坏の 水は、さながらありけり。
=心細くて物思いにふけりながらぼんやり見ているう  ちに、(兼家が)出て行った日に使ったゆする坏の  水(が見えたが、それ)は、そのままあるのだった。

上に塵ゐてあり。かくまでと、あさましう
=(水の)上に塵が浮いている。このようになるまで  (兼家は通って来ないのか)と、呆れて、

絶えぬるか  影だにあらば  問ふべきを
       かたみの水は  水草ゐにけり
=(二人の仲は)絶えてしまったのか。(水面に兼家の)  影さえ映っていたなら、尋ねることができるのに、 (兼家の残して行った)形見の(ゆする坏)水は水草が浮いていたのだった。

などと思ひし日しも、見えたり。例のごとにてやみに けり。
=などと思ったちょうどその日に、(兼家が)姿を見  せた。いつもの調子でうやむやになってしまった。

▼〈段落まとめ〉
これほどの途絶えは今までになく、心細くてぼんやり 物思いをしていると、ゆする坏に塵が浮いているのに 気づき、呆れて「絶えぬるか」と歌を詠んだその日、 兼家は通って来たが、いつも通りであった。

right★補足(+解説)★        


・例ならず=いつもと違っている(…のようでない)
★五・六日も兼家が通って来ないことはなかった
★「私はもう来ないつもりだ」と兼家が言ったのは、
  冗談だと思っていた
・…こそ(強意)我()は()思ひ()しか(過去「き」已然)
 →「こそ+已然形」で文が続く場合は、逆接になる
・あり()な(強意)む(推量)かし(詠嘆)


・ながむ(下二段)=ぼんやりと物思いにふける
・出で(下二)し(過去「き」体)日()使ひ()し(過去)
・ゆする坏=(平安時代に用いられた)調髪のための      米のとぎ汁、白水(しろみず)を入れる容器
・さながら=そのまま
・あり()けり(詠嘆)




・だに(副助詞、最低限度=せめて…だけでも)
・問ふ()べき(可能)を(逆接)
・ゐ(上一)に(完了)けり(詠嘆)
☆心細く呆れる思い



・思ひ()し(過去)日()しも(強意=ちょうど…)
・見ゆ=見える、見せる。見られる









left★板書(+発問)★    
【四】(結)兼家との不安定な夫婦仲

かやうに胸つぶらはしき折のみあるが、よに心ゆるび なきなむ、わびしかりける。
=このように(心配で)胸が押し潰されそうな時ばかり  あるが、少しも気の休まる事がないのは、やりきれ  ない(辛い)ことだった。

▼〈段落まとめ〉
兼家とは、胸が潰れそうな事ばかりで安心できずに、 辛い夫婦仲であった。

right★補足(+解説)★        


・潰らはし=(心配などで胸が)圧し潰されそうだ
      胸が)圧し潰されそうだ
・心弛ぶ=緊張が弛みほっとする、気が休まる
     気持ちがくつろぐ、安心できる
・侘びし=辛い、やりきれない





left★板書(+発問)★    
〈要約〉(24×9=220字)
夫の兼家とのどかに過ごしていた日、些細な事で口論 になり、兼家は「もう来ない」と幼い子に八つ当たり して邸を出て行った。大声で泣く子をなだめながら、 五・六日経っても兼家からは音沙汰がない。
これほどの途絶えは今までになく、心細くぼんやりと 物思いをしていると、ゆする坏の水に塵が浮いている のに気づき、「絶えぬるか」と歌を詠んだ。その日に 兼家は通って来たが、いつも通りで、胸が潰れそうで 安心できない事ばかりが多く、辛い夫婦仲であった。


ヘンデル「協奏曲ト短調」

right★補足(+解説)★        
〈主題〉
胸が潰れそうな事ばかりで安心できない夫婦仲を辛く 思う気持ちを記す。






「ゆする坏」解説
「うつろひたる菊」超訳マンガ
「百人一首物語第六十首(小式部内侍)」超訳マンガ

写真は、ネット上のものを無断で借用しているものも あります。どうぞ宜しくお願い致します。

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