left★板書(+発問)★
【三】(転)ゆする坏に浮く塵と兼家の来訪
例ならぬほどになりぬれば、あなものぐるほし、たは
ぶれごととこそ我は思ひしか、はかなき仲なれば、か
くてやむやうもありなむかしと思へば、
=いつものようでない程になったので、ああ狂おしい
気持ちがすることだ、冗談だと私は思っていたが、
(自分と兼家との夫婦仲は)頼りない仲なので、この
ようして終わることもきっとあるだろうよと思うの
で、
心細うてながむるほどに、出でし日使ひしゆする坏の
水は、さながらありけり。
=心細くて物思いにふけりながらぼんやり見ているう
ちに、(兼家が)出て行った日に使ったゆする坏の
水(が見えたが、それ)は、そのままあるのだった。
上に塵ゐてあり。かくまでと、あさましう、
=(水の)上に塵が浮いている。このようになるまで
(兼家は通って来ないのか)と、呆れて、
絶えぬるか 影だにあらば 問ふべきを
かたみの水は 水草ゐにけり
=(二人の仲は)絶えてしまったのか。(水面に兼家の)
影さえ映っていたなら、尋ねることができるのに、
(兼家の残して行った)形見の(ゆする坏)水は水草が浮いていたのだった。
などと思ひし日しも、見えたり。例のごとにてやみに
けり。
=などと思ったちょうどその日に、(兼家が)姿を見
せた。いつもの調子でうやむやになってしまった。
▼〈段落まとめ〉
これほどの途絶えは今までになく、心細くてぼんやり
物思いをしていると、ゆする坏に塵が浮いているのに
気づき、呆れて「絶えぬるか」と歌を詠んだその日、
兼家は通って来たが、いつも通りであった。
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right★補足(+解説)★
・例ならず=いつもと違っている(…のようでない)
★五・六日も兼家が通って来ないことはなかった
★「私はもう来ないつもりだ」と兼家が言ったのは、
冗談だと思っていた
・…こそ(強意)我()は()思ひ()しか(過去「き」已然)
→「こそ+已然形」で文が続く場合は、逆接になる
・あり()な(強意)む(推量)かし(詠嘆)
・ながむ(下二段)=ぼんやりと物思いにふける
・出で(下二)し(過去「き」体)日()使ひ()し(過去)
・ゆする坏=(平安時代に用いられた)調髪のための
米のとぎ汁、白水(しろみず)を入れる容器
・さながら=そのまま
・あり()けり(詠嘆)
・だに(副助詞、最低限度=せめて…だけでも)
・問ふ()べき(可能)を(逆接)
・ゐ(上一)に(完了)けり(詠嘆)
☆心細く呆れる思い
・思ひ()し(過去)日()しも(強意=ちょうど…)
・見ゆ=見える、見せる。見られる
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