left★原文・現代語訳★
「古文現代語訳ノート」(普通クラス)
   「蜻蛉日記/三月ばかり」

〈作品〉
〇成立 平安時代中期(974年頃)
 →最古の女流日記文学
〇作者 (右大将)藤原道綱母
〇内容 自伝的回想、全3巻
    上巻は、権勢家であった藤原兼家との恋愛と
        道綱の誕生を書く
    中下巻は、不実な夫との結婚の不安や苦悩と
         道綱への母としての愛情を綴る

〈全体の構成〉
▼通って来ている夫の兼家が、急に病気になり本邸に
 帰ろうとする
    ↓
▼夫は、このまま死んでしまったら、二度と逢えない
 かもしれないという気弱な言葉を残す
    ↓
▼本邸に戻った夫は、手紙を書き送るが、その容態は
 十日過ぎても良くならなかった

right★補足・文法★
(日記文学)2020年5月
(※出題校…立命館大・関西大・同志社大・岡山大)






・「日記」では、主語が省略されている場合は、
 作者の動作・行為・心情だと判断すべきである
・不実な夫である兼家との夫婦仲に苦悩する作者の姿
 に対して、兼家はそれに悪びれる様子はあまりない

〈概要〉
〇通って来ていた夫の兼家が急病になり、死後の事を
 言って本邸に帰ることになった時の、作者の悲しみ
                   (→要約)
 →不誠実な夫に苦悩する作者が、死にそうに苦しむ
  夫をいざ目にして心配して悲しむ様子が描かれる




left★原文・現代語訳★
〈授業の展開〉         (→要約→要旨)

【一】<夫が発病した悲しみ>
(作者の邸を訪ねていた夫、藤原兼家は病気になり、
 本邸に帰ろうと考えていた。)

三月ばかり、ここに渡りたるほどにしも苦しがりそめ
て、いとわりなう苦しと思ひ惑ふを、いといみじと見
る。
=三月頃のこと、(夫が)ちょうどこちらに来ていた
 時に苦しがりはじめて、本当にどうしようもなく苦
 しいと思ってもがいているので、とても大変なこと
 になったと思う。

言ふことは、「ここにぞ、いとあらまほしきを、何ご
ともせむに、いと便なかるべければ、かしこへものし
なむ。つらしとな思しそ。
=(夫が)言うことには、「ここに本当に居たいとは
 思うが、何をするにも、とても不都合だろうから、
 あちら(本邸)へ帰ってしまおうと思う。薄情だと
 お思いにならないでくれ。

にはかにも、いくばくもあらぬ心ちなむするなむ、い
とわりなき。あはれ、死ぬとも思し出づべきことのな
きなむ、いと悲しかりける。」とて、泣くを見るに、
ものおぼえずなりて、またいみじう泣かるれば、
=急に、(私の命も)あといくらもないような気がす
 るのが、本当にどうしようもなく辛い。ああ、(私
 が)死んだとしても(貴方が私を)思い出しなさり
 そうなことがないのが、本当に悲しいことだ」と言
 って、泣くのを見ると、(私も)ものが考えられな
 くなって、またひどく泣けてくると、

right★補足・文法★






・…しも=(強意の副助詞)ちょうど…
・わりなし=道理に合わない、どうしようもない
・いみじ=程度が甚だしい、大変だ





・…む=…ならば、…ような(仮定・婉曲)
・便(びん)なし=不都合だ
・…べし=…だろう、…ようだ(推量・婉曲)
・ものす=(代動詞do.be)文脈で適当な意味に訳す
・…な(強意「ぬ」未)む(意思)=…てしまおう
・つらし=薄情だ
・思(おぼ)す=お思いになる(「思ふ」の尊敬語)
・な(副詞)…そ(終助詞)=…ないでくれ(禁止)
・あはれ=感動詞
・…けり=…ことだ(なあ)(詠嘆)
・泣か()るれ(自発「る」已然形)=泣けてくる








left★原文・現代語訳★
【二】@<気弱なことを言う夫>
「な泣き給ひそ。苦しさまさる。よにいみじかるべき
わざは、心はからぬほどに、かかる別れせむなむあり
ける。いかにし給はむずらむ。ひとりはよにおはせじ
な。さりとも、おのが忌みのうちにし給ふな。
=(夫は、)「お泣きにならないでくれ。苦しさが増
 すことだ。本当に辛く大変に思うことは、思いがけ
 ない時に、こんな別れをするようなことがあること
 だ。(私が死んだら貴方は)どうしようとなさるの
 だろうか。独り身では決していらっしゃらないだろ
 うな。そうなったとしても、私の喪中(死後一周忌
 の間)には(再婚)しなさるな。

もし死なずはありとも、かぎりと思ふなり。ありとも
こちはえまゐるまじ。
=もし死なずに生きていたとしても、(これが)最後
 と思うのだ。(たとえ)生きていたとしても、こち
 らへは参上できないだろう。

おのがさかしからんときこそ、いかでもいかでももの
し給はめと思へば、かくて死なば、これこそは見たて
まつるべき限りなめれ」など、臥しながらいみじう語
らひて泣く。
=私が元気であるような時は、何としてでも側から離
 れずに一緒にいようとして下さいと思うので、この
 まま死んだならば、これこそが(貴方を)見申し上
 げることのできる最後となるようだ」などと、横た
 わったまま大変しみじみと語って泣く。

right★補足・文法★

・よに=本当に、非常に、決して
・心はからぬ=思いがけない
・…むず(意思)らむ(現在推量)
・おはす=…いらっしゃる、「あり・をり」の尊敬語
・…じ(打消推量・意思)な(詠嘆の終助詞)







・え…じ=…できないだろう(不可能の推量)





・さかし=しっかりしている。元気だ
・な(断定「なり」連体形「なる」撥音便「ん」無表  記)めれ(推量)







left★原文・現代語訳★
【二】A<泣く侍女たちと自分>
これかれある人々、呼び寄せつつ、「ここにはいかに
思ひきこえたりとか見る。かくて死なば、また対面せ
でや止みなむと思ふこそいみじけれ」と言へば、
=(夫は、)居合わせた侍女たちを、呼び寄せては、
 「(私が)ここでは(貴方たちを)どんなに(大切
 に)思い申し上げてきたと思うか。こうして死んだ
 ならば、再び会うことができないままになってしま
 うのだろうかと思うと悲しくてたまらなくことだ」
 と言うと、

みな泣きぬ。みづからはましてものだに言はれず、た
だ泣きにのみ泣く。
=皆泣いてしまう。私自身はまして物さえ言うことが
 できず、ただひたあすら泣くばかりだった。

right★補足・文法★

・・…な(強意)む(推量)=…てしまうだろう














left★原文・現代語訳★
【三】<抱えられて本邸に帰る夫>
かかるほどに、ここちいと重くなりまさりて、車さし
寄せて乗らんとて、かき起こされて、人にかかりても
のす。
=こうしているうちに、(夫の)病状が前にもまして
 とても重くなって、牛車を(邸に)寄せて乗ろうと
 として、供の者(従者)に抱え起こされて、人に寄
 りかかって乗り込む。

うち見おこせて、つくづくうちまもりて、いといみじ
と思ひたり。とまるはさらにもいはず。
=(夫は、)こちらに視線を向けて、(私を)じっと
 見つめて、とても悲しくたまらないと思っている。
 後に残る(私の辛さ)は言うまでもない。

この兄なる人なむ、「何か、かくまがまがしう。さら
になでふことかおはしまさん。はや奉りなむ」とて、
やがて乗りて、抱へてものしぬ。
=私の兄(である人)が、「どうして、こんなに縁起
 でもなく(泣くのか)。全くどのようなことがおあ
 りであろうか(いや、大したことではあるまい)。
 早く(牛車に)お乗せ申し上げてしまおう」と言っ
 て、(自分も)そのまま乗って、(夫を)抱きかか
 えて行った。

思ひやるここちいふかたなし。日にふたたびみたび文
をやる。人憎しと思ふ人もあらむと思へども、いかが
はせむ。
=(夫を)を心配する(私の)気持ちは何とも言いよ
 うもない。一日に二度三度と手紙を(書き)送る。
 (そうした人のことを)面白くないと思う人もいる
 だろうと思うが、どうしようもない。

right★補足・文法★









・見おこす=こちらを見る・視線を向ける(下二段)
・まもる=見つめる
・とまる=後に残る・とどまる
・さらにもいはず=言うまでもない


・何か=どうして…か
・まがまがし=縁起が悪い、不吉だ
・さらに=全く(…ない)
・奉る=尊敬語(お乗りになる)
    謙譲語(お乗せ申し上げる)
・やがて=そのまま












left★原文・現代語訳★
【四】<何もできない十余日の嘆き>
返りごとは、かしこなるおとなしき人して書かせてあ
り。「みづから聞こえぬがわりなきこと、とのみなむ
聞こえたまふ」などぞある。
=返事は、あちらにいる年配の侍女に書かせて(寄こ
 して)いる。「自分自身でお書き申し上げ(られ)
 ないのが不本意なことだ、とだけ(ご主人は)申し
 上げていらっしゃる」などと書いてある。

ありしよりもいたうわづらひまさると聞けば、言ひし
ごと、みづから見るべうもあらず、いかにせんなど思
ひ嘆きて、十余日にもなりぬ。
=以前よりもまして病状がひどく悪いと聞くと、(あ
 の時、夫が)言った(ように)、自分が世話するこ
 と(看病)もできず、どうしたらよいかなどと(心
 で)嘆いているうちに、十日以上にもなった。

right★補足・文法★

・なる=…に居る(存在)
・おとなし=思慮分別がある。年輩だ
・聞こゆ=申し上げる(「言ふ」の謙譲、ヤ下二段)





・ありし=以前
・見る=世話する、看病する






left★原文・現代語訳★
〈要約100字=24×4〉
通って来ていた夫が急に発病した。泣く作者にこれが
逢える最後かも知れないと気弱な事を言い、死んでも
喪中は再婚しないでくれという言葉を残して、本邸に
帰った。手紙を書き送るが、十日過ぎても病状は良く
ならなかった。

right★補足・文法★
XX〈要約100字=24×4〉…参考資料
兼家は作者の家に来ている時に発病する。泣いている
作者を見て、二度と逢えないかもしれないが、喪が明
けるまでは再婚しないでほしいと言い残す。本邸に帰
った後も心配で手紙を送るが、病気は快方に向かわな
かった。

貴方は人目の訪問者です。