left★原文・現代語訳★
〈授業の展開〉 (→要約→要旨)
【一】<夫が発病した悲しみ>
(作者の邸を訪ねていた夫、藤原兼家は病気になり、
本邸に帰ろうと考えていた。)
三月ばかり、ここに渡りたるほどにしも苦しがりそめ
て、いとわりなう苦しと思ひ惑ふを、いといみじと見
る。
=三月頃のこと、(夫が)ちょうどこちらに来ていた
時に苦しがりはじめて、本当にどうしようもなく苦
しいと思ってもがいているので、とても大変なこと
になったと思う。
言ふことは、「ここにぞ、いとあらまほしきを、何ご
ともせむに、いと便なかるべければ、かしこへものし
なむ。つらしとな思しそ。
=(夫が)言うことには、「ここに本当に居たいとは
思うが、何をするにも、とても不都合だろうから、
あちら(本邸)へ帰ってしまおうと思う。薄情だと
お思いにならないでくれ。
にはかにも、いくばくもあらぬ心ちなむするなむ、い
とわりなき。あはれ、死ぬとも思し出づべきことのな
きなむ、いと悲しかりける。」とて、泣くを見るに、
ものおぼえずなりて、またいみじう泣かるれば、
=急に、(私の命も)あといくらもないような気がす
るのが、本当にどうしようもなく辛い。ああ、(私
が)死んだとしても(貴方が私を)思い出しなさり
そうなことがないのが、本当に悲しいことだ」と言
って、泣くのを見ると、(私も)ものが考えられな
くなって、またひどく泣けてくると、
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right★補足・文法★
・…しも=(強意の副助詞)ちょうど…
・わりなし=道理に合わない、どうしようもない
・いみじ=程度が甚だしい、大変だ
・…む=…ならば、…ような(仮定・婉曲)
・便(びん)なし=不都合だ
・…べし=…だろう、…ようだ(推量・婉曲)
・ものす=(代動詞do.be)文脈で適当な意味に訳す
・…な(強意「ぬ」未)む(意思)=…てしまおう
・つらし=薄情だ
・思(おぼ)す=お思いになる(「思ふ」の尊敬語)
・な(副詞)…そ(終助詞)=…ないでくれ(禁止)
・あはれ=感動詞
・…けり=…ことだ(なあ)(詠嘆)
・泣か()るれ(自発「る」已然形)=泣けてくる
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