(先生の授業ノート)「蜻蛉日記/うつろひたる菊」  
left★板書(+発問)★   
(先生の授業ノート…普通クラス)
   藤原道綱母/うつろひたる菊」

〈作品・出典〉
〇成立 平安時代中期(974年頃)
 →最古の女流日記文学
〇作者 (右大将)藤原道綱母
〇内容 自伝的回想、全3巻
    上巻は、権勢家であった藤原兼家との恋愛
        道綱の誕生を書く
    中下巻は、不実な夫との結婚の不安や苦悩
         道綱への母としての愛情を綴る

〈作者〉
〇藤原道綱母(936?〜995年)
〇太政大臣の藤原兼家の妻となり、一子道綱を生む
〇『更級日記』の作者である菅原孝標女は姪に当たる

〈概要→要約〉
〇1年前に結婚した夫の藤原兼家が、不実にも他の人  の所へも通っていこうとするのに対し、和歌の贈答  をしたりする不安や苦悩を書いている

right★補足(+解説)★   
(日記文学)2023年9月(2024年3月改)



・「日記」では、主語が省略されている場合は、
 作者の動作・行為・心情だと判断すべきである
・一夫多妻が認められていた時代に、不実な夫である  兼家との21年にわたる夫婦仲に苦悩するが、その  作者の姿に対し、兼家は悪びれる様子はあまりない






全体の構成 【一】(起)(夫)兼家の浮気の疑惑 【二】(承)町の小路の女の邸からの朝帰り
【三】(転)兼家との歌の贈答 【四】(結)平然と不実を続ける不愉快な兼家
left★板書(+発問)★    
〈授業の展開〉

【一】(起)(夫)兼家の浮気の疑惑

さて、九月ばかりになりて、出でにたるほどに、箱の あるを手まさぐりに開けて見れば、人のもと遣(や)ら むとしける文あり。
=そうして、九月頃になって、(夫の兼家が家から)  出て(自宅に帰って)しまっていた時に、文箱があ  るのを何気なく開けて見ると、他の人(=女)の所  に書き送ろうとした手紙がある。

あさましさに、見てけりとだに知られむと思ひて、書 きつく。
=驚きあきれて、(せめて私がその手紙を)見てしま  ったと(いうこと)だけでも(兼家に)知られたい  と思って、(紙の余白に歌を)書きつける。

うたがはし  ほかに渡せる  ふみ見れば
       ここやとだえに ならむとすらむ
=疑わしいこと。他(の女の方)に送ろうとする手紙  を見ると、こちら(の私の所に貴方が通って来るの)  は、もう途絶える事になるのでしょうか。

など思ふほどに、むべなう、十月つごもりがたに、
三夜(みよ)しきりて見えぬ時あり。
つれなうて、「しばしこころみるほどに」など、気色 あり。
=などと思っているうちに、案の定、十月の末頃に、  三晩繰り返して姿を見せない時がある。
 (兼家は)平然として、「暫く(貴方の気持ちを)  試しているうちに(三日も経ってしまった)。」など  と、思わせぶりな言い訳をする。

▼〈段落まとめ〉
九月頃、(夫)兼家が出て行った時、箱の中に他の女 宛ての手紙を見つけた。疑わしく思っていると、十月 末に三晩続けて姿を見せないことがあった。そして、 私の邸に来ると、貴方の気持ちを試していたなどと、 言い訳をする。

right★補足(+解説)★        




・手弄り=(手先で)何気なく(もてあそぶこと)







・…だに=せめて…だけでも(副助詞)
☆夫の兼家に訴えようとする強い心情が表れている




・うたがはし→シク活用形容詞の語幹用法=詠嘆?
・渡せ(サ四、已)る(存続)




・むべ(うべ)=本当にそうだ、 もっともだ
 →むべなし=案の定、思った通り、はたして、予想        していた通りである、(形容詞)
☆夫の気持ちが他の女に移ったらしいことを感づいて  いたが、思った通りそうだった
・頻りて=繰り返して、しきりに
・三夜しきりて見えぬ時あり=当時は結婚する際に、
 三晩続けて通う風習があった
・つれなし=素知らぬふうだ、平然としている、
      さりげない
・気色有り=趣がある、怪しい、不気味だ






left★板書(+発問)★    
【二】(承)町の小路の女の邸からの朝帰り

これより、夕さりつかた、「内裏(うち)の方ふたがり けり。」とて出づるに、心得で、人をつけて見すれば 、「町の小路(こうじ)なるそこそこになむ、とまり給 ひぬる。」とて来たり。
=こちら(私の家)から、夕方頃、「宮中が禁忌の方角  に当たっていたよ(方違えのために出かけよう)。」
 と言って出かけるので、納得できないで、召し使い  (に後)を付けさせて見届けさせると、「町の小路  にあるどこそこに、(兼家様の牛車が)お止まりに  なりました。」と言って(召使は帰って)来た。

さればよと、いみじう心憂しと思へども、言はむやう も知らであるほどに、二日三日(ふつかみか)ばかり ありて、暁方(あかつきがた)に門をたたく時あり。
=思った通りだと、たいそう情けないと思うけれど、  どう言えばよいか(方法も)分からずにいるうちに、  二、三日ほど経って、夜明け頃に門をたたく(音が  する)時があった。

さなめりと思ふに、憂くて、開けさせねば、例の家と おぼしきところにものしたり。
=そうであるようだ(兼家が訪れたようだ)と思うと、  気が進まなくて、(門を)開けさせないでいると、  例の(町の小路の女の)家と思われる所に行ってし  まった。

▼〈段落まとめ〉
宮中が禁忌の方角に当たるからと出かけて行くので、 納得できずに後を付けさせると、町の小路のある邸に 牛車を止めたと言う。二三日後、夜明け頃に門を叩く 音がして兼家だろうと思ったが、開けないでいると、 例の女の所に行ってしまった。

right★補足(+解説)★        


・小路()なる(にある=存在)










・然ればよ=やっぱり、果たして、思った通りだ
      「よ」は間投助詞






・さ()な(←なん←なる=断定)めり(推定)
 =(夫)兼家が訪れたようだ
・憂し=気が進まない。憂鬱だ、情けない、辛い
・ものし(サ変、代動詞)たり(完了)=行ってしまった










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【三】(転)兼家との歌の贈答

つとめて、なほもあらじと思ひて、
=翌朝、やはりこのままではいられまいと思って、

嘆きつつ  ひとり寝る夜の  あくる間は
      いかに久しき   ものとかは知る
=嘆きながら独りで寝る夜が明けるまでの間が、どん  なに長(くて辛)いものか、お分かりですか。
 (いや、お分かりになりますまい)

と、例よりはひき繕ひて書きて、うつろひたる菊に挿 したり。返り言、
=と、いつもよりは体裁を整えて書いて、色変わりの  した菊に挿し(て贈っ)た。(その)返事は、

「あくるまでも試みむとしつれど、とみなる召し使ひ の来あひたりつればなむ。いと理(ことわり)なりつる は。
=「夜が開けるまで(待って)様子をみようとしたが、  急な(用件を伝える)召し使いが来あわせていたので  (引き返してしまいました)。(あなたが怒るのも)  全くもっともですよ

げにやげに  冬の夜ならぬ  真木(まき)の戸も
       おそくあくる わびしかりけり
=全く本当に(冬の夜はなかなか明けないが、その)  冬の夜ではない(貴方の邸の)真木の戸の門も遅く  開けるのは(私には)辛いことですよ。

▼〈段落まとめ〉
翌朝、独り寝の嘆きを詠んだ歌を、色変わりした菊に 挿して贈ると、兼家から無神経な歌が返されてきた。

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・なほ(さ)もあらじ=やはりそのようにもあるまい、
 やはりこのままではいられまい







・引き繕ふ=身なり・体裁を整える、気を配る
・うつろふ=色変わりする



・とみなり=急である
・理なり()つる(完了)は(詠嘆)






・げにやげに=全く本当に
 →男の訪問を待って一人寝る夜が長くて辛いこと
 →切実な思いを訴える作者の歌に対して、言葉尻を   捉えて冗談めかした返歌をした
・おそくあくる=「夜が遅く明ける」のと「戸を遅く  開ける」を掛けている。




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【四】(結)平然と不実を続ける不愉快な兼家

さても、いとあやしかりつるほどに、ことなしびたり 。しばしは、忍びたるさまに、「内裏に。」など言ひ つつぞあるべきを、いとどしう心づきなく思ふことぞ 、限りなきや。
=それにしても、全く不思議だったくらい素知らぬ  ふりをしている。暫くは、人目を避けている様子で  「宮中に。」などと言いながら(他の所に通って)  いるのが当然であるのに、ますます不愉快に思うこ  と、この上ないよ。

▼〈段落まとめ〉
その後も、人目を避けるように他の女の所に通うべき なのに、兼家は素知らぬ顔をして不実を続けるので、 ますます不愉快に思うことは、この上もないことだ。

right★補足(+解説)★        


・事無しぶ=(上二段)何気ないふりをする、素知らぬ       顔をする
☆人目を忍ぶことなく、平然としている












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〈主題〉
夫・兼家の心変わりに対する作者の不快な心情

ヘンデル「協奏曲ト短調」

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「うつろひたる菊」超訳マンガ

写真は、ネット上のものを無断で借用しているものも あります。どうぞ宜しくお願い致します。

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