left★原文・現代語訳★
「古文現代語訳ノート」(普通クラス)
荀子「荀子/勧学」
〈出典=『荀子』〉
〇荀子の思想書 二十巻(中国の儒家)
〇作者 荀子
→前漢末の思想家である劉向(前77〜前6)
がまとめたという
〇内容 「天論」「勧学」「礼論」などが中心
〈概要〉
〇人の性は悪であり、人は学問によって矯正できる。
だから、学問をやらなければならない、と述べる
→「出藍の誉れ」「青は藍より出でて藍より青し」
という成語は荀子のこの文章に由来する
(→要旨)
〈全体の構成→授業の展開〉 (→要約→要旨)
【一】(起)<学問の継続の重要性>
君子曰、
君子曰(い)はく、
=(昔の)君子が言っている、
「学不可以已。」
「学は以(もっ)て已(や)むべからず。」と、
=「学問は(途中で)止めてはいけない。」と。
【二】(承)<出藍の誉れ>
青、取之於藍、而青於藍、
青は、之を藍より取りて、藍より青く、
=青(の染料)は、藍草(という植物)から取って
作るが、(その色は元の)藍草よりも青い。
氷、水為之、而寒於水。
氷は、水之を為して、水より寒し。
=氷は、水からできるが、(その冷たさは元の)水
よりも冷たい。
【三】(転)<教育について木などの比喩>
木直中縄、?以為輪、其曲中規、
木直なること縄に中(あた)るも、?(たわ)めて
以て輪と為さば、其の曲なること規に中る。
=木の真っ直ぐなものは(大工が直線を引くのに用
いるピンと張った)墨縄に(当てると)ぴたりと
合ったとしても、(これを)曲げて(車の)輪に
(加工)すると、其の曲がり具合はコンパス(で
描き計測できる円形の曲線)にぴたりと合う(よ
うになる)。
雖有槁暴不復挺者、?使之然也。
槁暴(こうばく)有りと雖も復た挺(の)びざるは、
?(たわ)むること之をして然らしむるなり。
=(こうなったら)たとえ枯れて乾くことがあって
も、二度と(元の真っ直ぐな形に)伸びないが、
(それは)曲げる(力を加えた)ことがそのよう
にさせたのである。
故木受縄則直、金就礪則利、
故に木縄を受くれば則ち直(なお)く、
金礪(れい)に就けば則ち利(するど)く、
=故に、木は墨縄を当て(て加工す)れば真っ直ぐ
(な木材)になり、金属は砥石(といし)に掛け
て研(みが)けば鋭くなり、
【四】(結)<君子の学問>
君子博学而日参省乎己、
君子博く学びて日に己を参省せば、
=立派な人は、広く学んで、
毎日何度も自己を反省するならば、
則智明而行無過矣。
則ち智明らかにして行ひに過ち無し。
=知恵は明らかになって(輝き)(物事に通じ)、
行いに誤りがなく(ない人材に)なるのである。
【補@】<学問の効果の大きさ@>
故不登高山、不知天之高也、
故に高山に登らざれば、天の高きを知らざるなり。
=故に、高い山に登らなければ、
天の高さは分からない。(登って知るべきだ)
不臨深谿、不知地之厚也、
深谿(しんけい)に臨まざれば、地の厚きを知らざ
るなり。
=深い谷を(下りて間近に)見なければ、
大地の厚さも分からない。(下りて知るべきだ)
不聞先王之遺言、不知学問之大也。
先王の遺言(いごん)を聞かざれば、
学問の大なるを知らざるなり。
=(即ち、歴史と文明を作り出した)古代の聖王が
残した言葉(と業績)をよく学び取らなければ、
学問の効果が大きいことを知ることができないの
である。
【補A】<学問の効果の大きさA>
干越夷貉之子、生而同声、
干越夷貉(かん・えつ・い・ばく)の子、
生まれて声を同じくするも、
=干・越・夷・貉(といった異民族)の子は、
生まれた時は(中国の赤ん坊と)同じように産声
を上げるが、
長而異俗、教使之然也。
長じて俗を異にするは、
教へ之をして然らしむるなり。
=成長して異なる習俗を身に付けてしまうのは、
教育がそうさせたのである。
【補B】<詩経の言葉と正道>
詩曰、
詩に曰はく、
=詩経にこの言葉がある、
「嗟、爾君子、無恒安息。
「嗟(ああ)、爾(なんじ)君子よ、
恒(つね)に安息すること無かれ。
=「ああ、おまえたち君子よ、
常に安息をむさぼることがあってはならぬ。
靖共爾位、好是正直、
爾の位を靖共(せいきょう)し、
是の正直(せいちょく)を好み、
=自らの地位に慎み励み、
その正しく嘘がない所を好み、
神之聴之、介爾景福。」
之を神(しん)とし之を聴き(之にしたがひ)、
爾の景福を介(おお)いにせよ(たすけよ)」と。
=これに精神を働かせて尊び、(見聞して)従い、
おまえの大きな幸福をさらに大きくせよ。」と。
神莫大於化道、福莫長於無禍。
神(は)道に化するより大なるは莫(な)く、
福(は)禍無きより長なるは莫し。
=「精神を働かせて尊ぶ」には、(聖人の学問の)
正道に教化される(正道と共に歩む)ことよりも
大きなものはなく、「幸福」とは、(正道と共に
歩む知恵によって)禍のないことより良いものは
ないのである。
〈要約〉
略(→概要)
〈背景となる歴史〉
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right★発問☆解説ノート★
(思想)2019年5月
〈作者〉
・紀元前313〜前238年?(戦国時代末期)
・孟子に次ぐ儒家の思想家
→孔子の学を受け継ぎ、<性悪説>を主張
→孟子の性善説に対し、人間の本姓は利欲の追求に
あるとする (→法家の韓非は門人)
・道徳規範としての礼の重視 ・学問教育の重視
→人為である礼儀と道徳による教育を重んじる
☆「青は藍より出でて、藍より青し」という諺の意味
は、「弟子が師匠を超える」と解釈されているが、
荀子の主張は異なる。そんなことには関心はなく、
全体を通して、後天的な教育の重要性・学問の方法
論(信用できる教師と書籍に学ぶこと)を主張して
いるのである。
・君子=徳を修めた立派な人物(具体的には孔子)
・藍=染料の青を採る草(アイグサ)(あい)
☆「青は藍より出でて、藍より青い」ように、勉強を
真面目に続ければ、師匠を超えられることもある。
但し、自分一人で考えるよりも、信頼できる教師や
書籍から学ぶ(教えてもらう)べきである。
→学問を継続すれば、師をも超えられるのだから、
努力を怠るべきではない
☆ところで、教育を受けることは、木に例えることが
できる。それはどういうことか、以下に述べる
・中=ぴったり合う・適合する(あたル)
・縄=大工が直線を引く際に用いる道具の墨縄・墨糸
定規のようなもの
・?=曲げる・湾曲させる(たわム)
・規=ぶん回し(文房具のコンパスの古い言い方)
コンパス
・槁暴(こうばく)=枯れて乾燥する
→槁=枯れる・暴=乾く
・不復=(部分否定)二度とは〜ない
→復不=(全部否定)二度とも〜ない
・挺=真っ直ぐになる・伸ばす
・礪=粗い砥石(と・れい)
・利=鋭い(するどシ・とシ)
☆良い力を加えれば真っ直ぐに伸び、
そうでなければ曲がったままになってしまう
→良い力を加えれば真っ直ぐに伸び、鋭くなる
・参省=「三省」数多く振り返る・何度も反省する
→論語「学而」にある曾参の言葉を受けているか
・明=物事に通じている
・先王=(堯舜禹などの)古代の優れた王・聖王
・遺言=残した言葉(いごん・いげん)
→「ゆいごん」(死の間際の言葉)とは読まず
・干=呉に併合された国(かん)中華周辺の諸族の一
・越=南方の異民族の国(えつ)。呉と抗争を繰り返
し、「臥薪嘗胆」「呉越同舟」「会稽の恥」等
の語を生み出した
・夷=東方の異民族(い)
→例えば「魏志東夷伝倭人伝」に日本の記事がある
・貉=北方の異民族(ばく)
☆生まれつきではなく、後天的な教育の結果である
→学び教えられることが、人間形成に大きく関わる
・詩=儒家の本では「詩経」を指す
孔子が周代の詩を編集したもので、五経の一つ
・安息=何の煩いもなく、くつろいで休む
・安逸=何もせずに、ぶらぶらと遊び暮らす
気楽に過ごす
・靖共=仕事を真面目に勤め慎む
・正直=正しくて嘘が無い
・神(かみトス)=畏敬する・尊ぶ・重んじる
・聴=聴(ゆる)あう・意見に従う
・介=おおいにす・大きい。「小さい」の意味もある
・景福=大きな幸い
・化=教化される・感化される
・道=聖人の学問
☆正道と共に歩む知恵こそが最上なのである
(参考)
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