left★原文・現代語訳★  
「古文現代語訳ノート」(普通クラス)
   「伊勢物語/23段筒井筒」

〈出典=「伊勢物語」〉
〇平安前期(中古)成立(未詳→10世紀初め)
 →原型(業平の歌と歌にまつわる物語)は9世紀末
 →幾人かの増補修正
〇日本最古の<歌物語>
 →125段(長短様々な独立した物語から成る)
 →全体は在原業平らしき男の一代記のような構成
 →各段冒頭は「昔、男ありけり」「昔、男…」
 →各段は、情趣や主題を表す和歌と、作歌の
  事情を解説した詞書の膨らんだ散文から成る
〇内容
 →男女の愛や肉親の情→一途で雅愛の遍歴→理想的
  人間像=「もののあはれ」を知る貴族を描く
 →平安中期、『源氏物語』の光源氏が生み出される
〇書名→『源氏物語』に「伊勢物語」「在五が物語」
    他に「在中将物語」「在五中将の日記」
〇評価→『源氏』や中世・近世・近代に大きな影響

〈概要」〉
〇互いに惹かれる幼馴染の男女が、成人してから念願  叶って結婚するが、後に男は通って行く別の女性の  所ができるようになるものの、再び元の女性の所に  戻る、という二人の関係を描く (→要約・要旨)

right★補足・文法★        
(物語)2018年4月(2022年12月改)


〈作者〉
・未詳→原型は、在原業平(825〜880)     に縁のある人物



・『古今和歌集』の六歌仙の一人
 →初冠(成人式)から死の直前の辞世の歌まで






・在原業平は五男だった→「在五…」「在五中将…」

・近代→谷崎潤一郎など


・当時は、一夫多妻制の通い婚(招婿婚)で、
 男が女の所に通って行くものであった
 →男の食事・着物の世話などは女の家の親がした


全体の構成 【一】(起)一緒に遊んだ幼馴染の恋 【二】(承)念願叶い結婚した二人
【三】(転)新たに通う高安の女 【四】(結)通わなくなった高安の女
left★原文・現代語訳★
〈授業の展開〉

【一】<一緒に遊んだ幼馴染の恋>

昔、田舎わたらひしける人の子ども、井のもとに出で て遊びけるを、
=昔、田舎を回って生計を立てていた人の子たちが、
 井戸の傍に出て遊んでいたが、

大人になりにければ、男も女も恥ぢかはしてありけれ ど、男はこの女をこそ得(え)めと思ふ。
=大人になったので、男も女も互いに(相手を意識し  て)恥ずかしがっていたけれど、男はこの女をぜひ  妻にしようと思う(or思っていた)。

女はこの男をと思ひつつ、親のあはすれども、聞かで なむありける。
=女は(女で)この男を(夫にしたい)と思い続けて  いて、 親が(他の男と)結婚させ(ようとす)る  けれど、聞き入れないでいた(のだった)。

▼(段落まとめ)
幼い頃、井戸の傍でよく一緒に遊んだ男女が、大人に なって互いに恥ずかしながらも相手との結婚を望んで いて、親が他の縁談を勧めても承諾しないでいた。

right★補足・文法★        




・田舎渡らひ=地方を回って生活する事・地方の行商
 →全体のモデルとされる業平は奈良に旧領があった
・し(サ変・用)ける(過去・体)
・出で(ダ下二「いづ」用)て(接続助詞)

・大人になる=成人になり、元服・裳着をする
・に(完了「ぬ」用)けれ(過去・已)ば(ので、接助)
★『この女をこそ得め。』→心中語(男の心中思惟)
 →こそ(強意)得(ア行下二段「む」未→え・え・う・   うる・うれ・えよ)め(意思「む」已)→係り結び

☆『この男を(得む)。』→心中語(女の心中思惟)
・…つつ=いつも…しては、…し続けて(継続)
・合はすれ(サ下二段「合はす」已)=結婚させる
・…で(打消・接続助詞)なむ(係助・強意)あり(ラ変)
 ける(過去・連体形)→係り結び






left★原文・現代語訳★    
【二】<念願叶い結婚した二人>

さて、この隣の男のもとより、かくなむ、
=そうして、(ある時)この隣の男の所から、
 このように(歌を詠み贈ってきた)。

筒井筒  井筒にかけし  まろがたけ
     過ぎにけらしな 妹見ざるまに
=筒のように円い井戸の囲い(の辺りで、幼い頃よく  一緒に遊んだこと)だなあ。(その)井戸の囲いと  (高さを)測り比べた私の背丈は(もう囲いの高さを)  越して(私も大人になって)しまったようですね。  (暫く大事な)貴方を見ないでいる間に。(もう大人  になったので、私と結婚して下さい

女、返し、
=女も、(男に)返歌(した)、

比べ来(こ)し  振り分け髪も  肩過ぎぬ
        君ならずして  誰か上ぐべき
=(貴方と長さを)比べ(合っ)て来た(私の)振り分け髪  も肩を過ぎ(るほど長くなって、私も大人になり)  ました。貴方(の為)でなくて、誰が髪を結い上げ  (て結婚することがあ)るでしょうか(いや、髪上げ  をして結婚するのは、貴方以外にはいません)。

など言ひ言ひて、つひに本意(ほい)のごとくあひに けり。
=などと互いに(何度も)言い交わして、 とうとう  かねてからの望み通り(二人は)結婚した。

▼(段落まとめ)
成人して「筒井筒…」などと歌を詠み交した二人は、 かねてからの念願が叶って結婚した。

right★補足・文法★        


・かくなむ→「詠みけるorありける」などが省略
               (係り結びの省略)

・筒井筒=筒のように円い 井戸の(上に設けた)囲い
・かけ(カ下二「かく」用、測り比べる・賭ける)
 し(過去「き」体)
・まろ(私、男子の名)が(の)たけ(背丈)
・過ぎ(ガ上二「過ぐ」用)に(完了「ぬ」用)け(過去・
 体「ける」)らし(推定)な(詠嘆・終助詞、だなあ)
 =過ぎてしまったらしいなあ
・妹(妻・恋人・貴方)見(マ上一「見る」未)
 ざる(打消「ず」体)

・比べ来(カ変「くらべく」未)し(過去「き」体)
・振り分け髪=子供の頃の男女共通の髪形
 →髪を結い上げるのは、女性が成人した印である
・過ぎ(ガ上二「過ぐ」用)ぬ(完了「ぬ」終)
・…なら(断定「なり」未)ず(打消「ず」用)して(助)
・…か(反語)上ぐ(ガ下二「上ぐ」終)
 べき(推量「べし」体)→係り結び
 =…(髪を)上げよういや上げはしない
→「誰が髪を…」は、「誰の為に髪を…」との解釈も  可能だが、文法的には「誰が髪を…」が正しいか

・つひに=とうとう、結局
・本意=本来の意思・志、かねてからの望み
・…ごとく(比況「ごとし」用、…ようだ・と同じだ・
 の通りだ)あひ(結婚する)に(完了)けり(過去)





left★原文・現代語訳★
【三】<新たに通う高安の女>

さて、年ごろ経るほどに、女、親なく、頼りなくなる ままに、もろともに言ふかひなくてあらむやはとて、 河内の国高安の郡に、行き通ふ所出で来にけり。
=そうして、何年か経つうちに、女は親が亡くなり、  (生活の)拠り所がなくなるにつれて、(男は、この  妻と)一緒に惨めな様でいてよいだろうか(いや、  よくはない)と思って、 河内の国の高安の郡に、  通って行く(女の)所ができてしまった。

さりけれど、このもとの女、悪(あ)しと思へる気色も  なくて、出(い)だしやりければ、
=そうであったけれど、この元の女は(男の行動を)  不快に思っている様子もなくて、(男を新しい女の  所へ)送り出してやったので、

男、異心ありてかかるにやあらむと思ひ疑ひて、前栽 の中に隠れゐて、河内へ往ぬる顔にて見れば、
=男は、(女も)浮気心があるから、このようである  のだろうかと疑わしく思って、庭の植え込みの中に  隠れていて、 河内(の女の所)へ行ったふりをして  (家の中の女を)見ていると、

この女、いとよう化粧じて、うち眺めて、
=この女は、たいそうよく身繕いして、 ぼんやりと  物思いしながら外を眺めて、

風吹けば  沖つ白波   たつた山
      夜半にや君が ひとり越ゆらむ
=風が吹くと沖の白波が立つ、(その「たつ」という  名の)竜田山を、この夜中に貴方は一人で今越えて  いるのでしょうか(何事も無いか、心配です)。

と詠みけるを聞きて、限りなくかなしと思ひて、河内 へも行かずなりにけり。
=と(歌を)詠んだのを聞いて、 (男はこの女を)  この上なく愛しいと思って、河内(の女の所)へも  行かなくなったのだった。

▼(段落まとめ)
女の親が亡くなり生活の拠り所がなくなると、男には 通って行く別の女性ができた。しかし、身だしなみを 心がける貴族らしさと自分を思う真心を再認識して、 再び元の妻の所に戻った。

right★補足・文法★        


・経る(ハ下二「ふ」体、時が経つ)
・頼り=生活の拠り所・手段、当てにするもの
・もろともに=一緒に
・いふかひなく()て()あら()む(適当)やは(反語)
 =不甲斐ないままでいられようか、いやいられない
 →言ふ甲斐無し=言っても仕方がない、情けない
・河内の国(現在の大阪府東部) 高安の郡(八尾市)
・出で来(カ変「いでく」用)に(完了)けり(過去)

☆通って行く別の女の所が出来たけれど
・思へ(ハ四段「思ふ」已)る(存続「り」体)
 =思っている
・出だしやり(複合動詞、ラ四段・用)

・異心(浮気心・二心)……かかる(ラ変「かかり」体)
 に(断定「なり」用)や(疑問)あら(ラ変「あり」未)
 む(推量「む」体)→係り結び、心中語
★「かかる」=不快に思っている様子もなく、自分を
       新しい女の所に送り出してくれること
・前栽(せんざい)=庭の植え込み
・隠れゐ(ワ上一「隠れゐる」用)
・往ぬる(ナ変「往ぬ」体)

・化粧ず=身繕いor化粧する(サ変)
・うち眺む=ぼんやりと物思いして外を眺める(下二)

★序詞・掛詞という2つの修辞法が用いられている
・「風吹けば沖つ白波」は「たつ」を導き出す序詞
・「たつ」は掛詞→@「白波が立つ」A「たつた山」
・…や(疑問)…超ゆ(ヤ下二・終)らむ(現在推量、体)
                 (→係り結び)
☆当時、航海の際に海の沖で白波が立つのは、非常に  危険だった→山賊の出現などの危険を暗示している

・かなし=愛おしい、切なく悲しい、不憫だ
・行か()ず(打消)なり()に(完了)けり(過去)
★常に身だしなみを怠らない雅やかさと、別の女の所  に通う自分を心配する真心があるのを再認識する。






left★原文・現代語訳★    
【四】<通わなくなった高安の女>

まれまれかの高安に来てみれば、初めこそ心にくくも つくりけれ、今はうちとけて、手づから飯匙(イヒガヒ) 取りて、笥子(ケコ)のうつはものに盛りけるを見て、 心憂がりて行かずなりにけり。
=ごく稀に例の高安(の女の所)に来てみると、(通い)  初め(のうち)は奥ゆかしく装っていたが、今は気を  許して(侍女ではなく)自分の手でしゃもじを取って  飯を盛る器に(飯を)盛っていたのを見て、心で嫌に  なって行かなくなってしまった。

さりければ、かの女、大和の方を見やりて、
=そうであったので、あの(高安の)女は、(男がいる)  大和の方を見やって、

君があたり  見つつを居らむ  生駒山
       雲な隠しそ    雨は降るとも
=貴方の(いる大和の)辺りを(いつも)見続けて居  よう。生駒山(の向こうに貴方はいるの)だなあ。 (だから、あの生駒山を)雲よ、隠さないでおくれ、 (たとえ)雨が降ったとしても。

と言ひて見出だすに、からうじて、大和人「来む。」 と言へり。
=と(歌に)詠んで(家の)外を見ていると、やっと  のことで、大和(にいる)男が「(会いに)来よう」  と言っ(て来)た。

喜びて待つに、たびたび過ぎぬれば、
=(高安の女は)喜んで待つが、その度ごとに(男は  来ないまま時が空しく)過ぎてしまうので、

君来(こ)むと 言ひし夜ごとに 過ぎぬれば        頼まぬものの  恋ひつつぞ経(ふ)る
=貴方が来ようと言った夜がいつも(来ないまま時が)  過ぎてしまうので、 当てにはしていないものの、  (貴方を)恋しく思い続けて過ごしていることです。

と言ひけれど、男住まずなりにけり。
=と(歌に)詠んだが、男は(この高安の女の所に)  通わなくなってしまった。

▼(段落まとめ)
高安の女は、初めの頃はあった奥ゆかしい貴族らしさ がなくなり、歌が贈られて来たりすることはあるが、 男は通って行かなくなってしまった。

right★補足・文法★        


・まれまれ=ごく稀に   ・心にくし=奥ゆかしい
★「…こそ…已然形」で文が続く時は、逆接になる
・つくる=装う、ふりをする  ・笥子=飯を盛る器
・器物=容器・入れ物・お椀・皿
・心憂がる=嫌になる・うんざりする
貴族としてあるまじき行為にうんざりする思い




☆さりければ=男が来なくなったので



・見(上一・用)つつ(継続)を(間投助詞、詠嘆・語調)
・居ら(ラ変「居り」未)む(意思) → 二句切れ
な…そ=(禁止)…するな、…しないでおくれ




・来(カ変「く」未然形)む(意思)
・言へ(四段「言ふ」已然形)り(完了)




・過ぎ(上二「過ぐ」用)ぬれ(完了「ぬ」已)



・来(カ変「く」未)む(意思「む」終)
・言ひ()し(過去「き」体)
・頼ま(頼みにする・当てにする)ぬ(打消「ず」体)
 ものの(逆接・接続助詞)
・恋ひ(上二「恋ふ」用)つつ(継続)ぞ(強意・係助詞)
 経る(ハ下二「ふ」体)→係り結び









left★原文・現代語訳★
〈150字要約=24字×6行〉
幼い頃、井戸の傍でよく遊んだ男女が、大人になって 歌を詠み交し、念願叶って結婚するが、女の親が亡く なり生活の拠り所がなくなると、男は通って行く別の 女ができた。だが、身だしなみを心がける貴族らしさ と自分を思う真心を再認識した男は、再び元の妻の所 に戻り、高安の女に通って行かなくなった。

ヘンデル「協奏曲ト短調」

right★補足・文法★    

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