left★原文・現代語訳★
「古文現代語訳ノート」(普通クラス)
   「いろは歌」

〈作品〉
〇成立 平安時代中期(10世紀後半)
空海の作と称せられる
〇仮名を並べた「五十音図」のように
 発音の異なる四十七の仮名を全て一回ずつ用い
 七五調・四句(「今様」)の形式で作られた歌
 →初歩に習得すべき手習いの手本とされた

〈概要〉
〇全ての仮名を一回ずつ用いて作られた歌であるが、
 仏教的な無常観を詠んだ、奥深い内容となっている
                   (→要旨)

right★補足・文法★
(和歌)2019年4月(2021年5月改)








・「いろは」は初歩に習得すべき事との意味を持つ


釈迦の入滅前後を描いた涅槃経「雪山偈」(四行詩)
「諸行無常、是生滅法、生滅滅己、寂滅為楽」の意を
 表すとも言われる

left★原文・現代語訳★
〈授業の展開〉

いろはにほへと  ちりぬるを
(色は匂へど   散りぬるを)
=(咲き誇る)桜の花の色は美しいけれど、
 (いつかは)散ってしまうものなのだから、

わかよたれそ   つねならむ
(我が世誰そ   常ならむ)
=(同じように)我々の人の世も誰が、
 永遠(にずっと生き続けられること)であろうか
 (いや、永遠ではなく、全ては無常なのである)。

うゐのおくやま  けふこえて
(有為の奥山   今日越えて)
=(変わり易く儚い)様々な物事のある人の世の
   (無常であるのは永遠普遍の真理なのだから)
 奥深き山(のような悩ましい迷いや煩悩)を、
 今日も越えて(悟りの境地に至れば)


あさきゆめみし  ゑひもせす
(浅き夢見じ   酔ひもせず)
=浅く儚い夢は、見(て惑わされ)たりする
 ことがないようにし、
 (酒に)酔いしれ(るように心を奪われ)たりする
 こともしない (安らかな心境である)。
                (「いろは歌」)

right★補足・文法★


・散り(「散る」連用)ぬる(完了助動詞=してしまう)
 を(詠嘆助詞=だなあ)



・なら(断定助動詞=である)む(推量助動詞=だろう)
★必ず全てと別れて、一人で死んで行かねばならない
→地位も財産も全ては儚い夢のように消えて行くのだ

・有為(ウイ)=(人為の有る)無常なこの世(の様々に
      生じては滅する、全ての存在や現象)

 →無為=手(人為)を加えずに、自然なままのこと
 →有為転変=全ては常に移り変わり無常であること
・奥山=生じては滅びる苦悩に満ちた人の世のたとえ
・煩悩=自己愛や欲望に起因して人を悩ませ煩わせる
 心の迷い。これを乗り越えることが、悟りの境地
 至る(心の安らぎを得る)方法とされる

・見(「見る」未然形)じ(打消意思=…ないつもりだ)



☆栄華を誇った豊臣秀吉も、臨終に際して全ては夢の
 ように消えて行く儚い人生
だったと辞世の歌を詠む


left★原文・現代語訳★
〈要約1〉
全てのものは無常で、永遠なるものは何もないが、
煩悩を離れて悟りの境地に至れば、初めて真の安楽が
得られる。

right★補足・文法★
〈要約2〉
全ては無常で、永遠なるものは何もないというのは、
永遠普遍の真理であることを悟って、煩悩を乗り越え
れば、本当の幸せになることができる



left★原文・現代語訳★
〈参考1〉涅槃経「雪山偈(せつせんげ)」

諸行無常(しょぎょうむじょう)
(諸行は無常なり)
=全てのものは無常で、永遠なるものは何もない。

是生滅法(ぜしょうめっぽう)
(是れ生滅の法なり)
=全ては生じたら必ず滅するのは、真理であるのだ。

生滅滅己(しょうめつめつい)
(生滅滅しおわりぬ)
=生じたら滅するのが滅し止む(世界がある)のだ。

寂滅為楽(じゃくめついらく)
(寂滅をもって楽と為す)
=煩悩の境地を脱し、悟りの境地に至って
 初めて真の安楽が得られる。


〈参考2〉豊臣秀吉の辞世の句

露と落ち 露と消えにし 我が身かな
     難波のことも 夢のまた夢

=露のように生まれ(て、この世に身を置き)
 露のようにこの世から消えてしまった
 私の(儚い)人生であったことよ。
(あの)難波の(天下人として大坂城を築いて
 栄華を誇った)ことも(何事も全てが)
 夢の中の夢のようだった。

right★補足・文法★
・涅槃経(ネハンキョウ)=釈迦の晩年から入滅前後までを
 伝記的に述べ、仏教の基本的な立場を明らかにする
・行=善悪すべての行い、一切の無常な存在
 →諸行=この世のもの全て(地球・大宇宙も全て)
・無常=常が無い、永遠なるものはない、続かない
 →この世の一切は続かない

・法=永遠普遍の真理、法則、基準、規範、掟


・已=すでに、やむ(終わる)
・生滅滅已→「生滅」が滅しおわった世界があること
       ことを意味する→「寂滅」と言う
 →寂滅=煩悩の境地を離れ悟りの境地に入ること、
     涅槃、死ぬこと
・寂=仏道の修行により、生死を超越した悟りの境地
   に入ること
・為楽= 本当の楽しみとすること
 →寂滅為楽=煩悩の境を脱し、悟りの境地に至って        初めて真の安楽が得られるということ




☆権力・地位・名誉・金銀を手に入れて、栄耀栄華を  極めた豊臣秀吉の、目が覚めれば何も残らない夢の  ように、死んでいく時は全てが儚く消えて行くもの  ばかりの儚い幸せだったという、臨終に際して後悔  する心情が伝わってくる


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