left★原文・現代語訳★
「古文現代語訳ノート」(普通クラス)
鴨長明『方丈記/ゆく河の流れ』
〈作品=『方丈記』〉
〇三大随筆の一つ
・清少納言『枕草子』(1001年頃→平安中期)
・鴨 長明『方丈記』(1210年頃→鎌倉初期)
・兼好法師『徒然草』(1330年頃→鎌倉末期)
〇鎌倉時代初期1212年成立(58歳)
〇作者=鴨長明
→他の著書→歌論『無名抄』説話『発心集』
〇内容
・都の郊外・日野山に方丈の庵を建てて住む
に至った背景→一丈(3m)四方=四畳半の広さ
・方丈の庵での生活に対する思い(閑居・安静)
・隠者文学→(仏教的)無常観の思想
・400字詰め原稿用紙20数枚の短い作品
〇書名→日野山に方丈の庵を結ぶ
〇表現→流麗で詠嘆的な和漢混交文
・漢文訓読調+和文 ・対句表現 ・比喩
〈概要〉
世の中の全てのものは、いつもあるように見えるが、
実は無常で、生滅を繰り返しており、永遠に存在する
のではない。 (→要旨)
〈全体の構成〉 (→要約→要旨)
【一】<常住でない河の流れやうたかたとその比喩>
【ゆく河の流れ】は絶えずして、しかも、もとの水に
あらず。
=流れて行く河の流れは絶えることがなくて、しかも
(そこにあるのは)元の水ではない。
淀みに浮かぶ【うたかた】は、かつ消えかつ結びて、
<久しくとどまりたる例(ためし)なし>。
=水が淀んだ所に浮かぶ水の泡は(いつもそこにある
るように見えるが)、(実は)一方で消えたかと思
うとまた一方で(新たに)出来て(いて)、(同じ
ものが)長くとどまっている例はない。
<世の中にある【人と栖(すみか)】と、またかくのごとし>。
=世の中に存在する人間と住まいも、またこのような
もの(これと同じ)である。
(段落まとめ)
▼全ていつも変わらずあるように見えるが、実は生滅
を繰り返していて、永遠に存在しているのではない
【二】<常住でない住まいと人の具体的説明>
@たましきの都のうちに、棟(むね)を並べ甍(いら
か)を争へる、高き卑しき人の【住まひ】は、世々を
経て尽きせぬものなれど、これをまことかと尋ぬれ
ば、昔ありし家はまれなり。
=(玉を敷き詰めたように)美しい都の中で、棟を並
べて屋根(の高さ)を競(うように建)っている、
(身分の)高い人と(身分の)低い人の住まいは、
時代が経っても無くならないものであるが、これを
本当かと尋ね調べてみると、昔(から)あった家は
稀である。
あるいは去年(こぞ)焼けて今年作れり。あるいは大
家(おほいへ)滅びて小家(こいへ)となる。
=あるものは去年(火事で)焼けて今年作った(ので
ある)。(また)あるものは大きな家(だったの)
が滅んで小さな家とな(っているのであ)る。
A【住む人】もこれに同じ。
=住む人もこの家(の在り方)と同じ(だ)。
所も変はらず人も多かれど、古(いにしへ)見し人は
二、三十人が中(うち)にわづかに一人、二人なり。
=所も変わらず(同じ所で)人も多く住んでいるが、
昔見た事がある人は、二・三十人の中で僅かに一人
か二人である。
朝(あした)に死に夕(ゆふ)べに生まるるならひ、
ただ水の泡(あは)にぞ似たりける。
=朝に(誰かが)死に夕方に(誰かが)生まれるこの
世の常は、全く水の泡に似ていることだ。
(段落まとめ)
▼いつも変わらず存在するように見える都の住まいと
人も、実は時間の推移と共に入れ替わっているのだ
【三】<仮の宿りでしかない住まいと人>
知らず、生まれ死ぬる人、いづかたより来(き)たり
て、いづかたへか去る。
=(私には)分からない、生まれ(そして)死んでい
く人が、どこから(この世に)やって来て、どこへ
去っていくのか(が)。
また知らず、<仮の宿り>、誰(た)がためにか心を
悩まし、何によりてか目を喜ばしむる。
=また(私には)分からない、(無常なこの世での)
仮の住まい(でしかない家を)、誰のために心を悩
まし(て立派に建てるのか)、何のために(出来た
家を)見て喜ぶのか。
(段落まとめ)
▼全て生滅を繰り返しているのであり、住まいも人の
命もこの世に存在する時だけの仮の宿りでしかない
【四】<無常を争うような朝顔と露の比喩>
その、あるじと住みかと<無常>を争ふさま、いはば
【朝顔の露】に異ならず。
=その主(である人間)と住まいとが無常を争う(よ
うに滅んでいく)様子は、言わば朝顔の花と(その
上に置く)露(との関係)と異なる何も所はない。
あるいは露落ちて花残れり。残るといへども朝日に枯
れぬ。
=あるものは露が(先に)落ちて(消え)花が残って
いる。残っていると言っても朝日(と共に)に枯れ
てしまう。
あるいは花しぼみて露なほ消えず。消えずといへども夕べを待つことなし。
=あるものは花が(先に)しぼんで露は依然として消
えない(でいる)。消えないと言っても夕方を待つ
(ほど長くある)ことはない。
(段落まとめ)
▼住まいと人間も、無常を争うように滅び去っていく
朝顔と露と同じで、常住(永遠)の存在ではない
〈各段落まとめ〉
↓
〈250字要約〉
河の流れと淀みに浮かぶ水の泡や朝顔と露と同じよう
に、世の中に存在する人間と住まいもいつも変わらず
そこに存在するように見えるが、実は消えたり新たに
出来たりという生滅を繰り返しているのであって同じ
ものが長くとどまっているのではない。時間の推移と
共に入れ替わり変化しているのである。住まいも人の
命も、前世・現世・後世と推移していくこの世に存在
する時だけの仮の宿りでしかないのだ。全ては無常を
争うように滅び去っていくのであり、永遠の存在では
ない(常住ではない)のである。
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right★補足・文法・参考★
(随筆)2018年9月
〈作者について補足〉
・京都下鴨神社の神官の家の生まれ(1155〜1216)
・琵琶・和歌などの芸道に精進
→勅撰和歌集『千載集』にも入集
→後鳥羽院の恩顧を受け、和歌所の寄人
・神官の望みを絶たれると、50歳で出家し隠者生活
→鎌倉へ下り源実朝の歌の相手役を志すが、失敗
〇慶滋保胤『池亭記』(閑居の理想)の影響
@<世の無常>
A悲惨な天変地異と人間
(安元の大火・福原遷都・養和の飢饉…)
B方丈の庵を結ぶまで
C隠居生活と静寂
D内面の矛盾
※第一段→繰り返し音読して、暗唱!
☆比喩→住まひは世々を経て尽きせぬものなれど…
昔ありし家はまれなり
・…に(断定「なり」用)あら(ラ変)ず(打消)
☆比喩→住む人……朝に死に夕べに生まるる
・うたかた=水の泡 ・結ぶ=出来る・生じる
・かつ…かつ…=一方で…し、また一方で…し
→生滅の繰り返し(二つの事柄の同時並行)→対句
・とどまり()たる(存続=…ている)
☆常住(永遠の存在)ではない
★この世の人と住まいは、河の流れや水の泡のように
<常に変化>し続けていて、<常住ではない>
→いつも変わらずに存在しているように見えるが、
実は時間と共に入れ替わっていて、永遠ではない
・栖(すみか)=住まい・家
・かく(このように)の()ごとし(比況=ようだ)
・玉敷の=玉を敷いたように美しく立派な(枕詞的)
・棟=屋根の最も高い所 ・甍=瓦の屋根
・争へ(已然形)る(存続「り」連体形=…ている)
☆「河の流れは絶えずして…」に照応
★これ(…まことか)=時が経ち代が変わっても
住まいは無くならないものである事
→いつまでもあるように見える(実はそうでない)
・尽きせ(サ変)ぬ(打消)=なくならない
・尋ぬ=(ナ行下二段)尋ね調べる・探し求める
・…あり(ラ変)し(過去「き」体)
・あるいは…=あるものは・ある時は →対句表現
・作れ(四段・已然形)り(存続=…ている)
☆「かつ消えかつ結びて」に照応
★これに同じ=世の中における家の在り方とに同じ
→いつも変わらずに存在しているように見えるが、
実は時間と共に入れ替わっている
☆「河の流れは絶えずして…」に照応
★いつまでも変わらずにいるように見える都の人も、
実は時間と共に入れ替わっている
・朝死ぬ人がいるかと思えば、夕方生まれる人がいる
☆「かつ消えかつ結びて」に照応 →対句表現
→淀みに浮かんでは消えて行く
・生まる(下二段)…ならひ(=世の常・きまり)
・似(上一段「似る」用)たり(存続)ける(詠嘆)
☆「かつ消えかつ結びて」に照応
☆表現→倒置法・対句
・死ぬる(ナ変・体)…来(カ変・用)たり(完了)
・前世・現世・後世と推移していく途中の「この世」
・…か(係助詞)…しむる(使役・連体=…させる)
★比喩表現
・朝顔→すみか
・露 →あるじ (→儚いもののたとえ)
・異なり(ナリ活用形容動詞)
・対句法(対句表現)
・残れ()り(存続=…ている)
・枯れ(ラ行下二段)ぬ(完了)
☆世の無常を争うように滅び去っていくものであり、
永遠の存在ではない(常住ではない)
1.いつまでも変わらず存在するように見えるが、
2.実は、消えたり新たに出来たりという生滅を繰り
返し、入れ替わっているのである。
=同じものが長くとどまっているのではない。
=時間の推移と共に、変化して無常を争うように
滅び去っていくのであり、永遠の存在ではない
(常住ではない)のである。
3.住まいも人の命(身体)も、前世・現世・後世と
推移していくこの世に存在する時だけの仮の宿り
でしかないのだ。
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