left★原文・現代語訳★  
「古文現代語訳ノート」(普通クラス)
   「平家物語/祇園精舎」

〈出典=『平家物語』〉
鎌倉前期(中世)1219〜1243年頃成立
軍記物語
 →栄華と権勢をを極めた平家一門だったが、
  源氏に追われ西海に滅亡する栄華盛衰の物語
 →第一部は平清盛、第二部は木曽義仲、
  第三部は源義経、最後は建礼門院を中心に描く
〇仏教的無常観(諸行無常・盛者必衰・因果応報)
 →無常な人間と常住(永遠)の自然
和漢混交文(文体)
 →合戦場面は漢文体
 →哀調を伴う王朝的な場面は、繊細優美な和文体
 →七五調(韻律)、対句・縁語・掛詞
琵琶法師の琵琶の伴奏「平曲」
 によって語られた
〇後の軍記物語・能・狂言・浄瑠璃・歌舞伎にも影響

〈時代背景〉
〇平安末期、混乱
 平家が衰退、滅亡へと進む

right★補足・文法★        
(軍記物語)2018年4月(2022年2月改)


〈作者〉
・未詳
信濃前司行長が作り、生仏(琵琶法師)に語らせた
 と『徒然草』にあるが、異説も多い
・原型が、多くの人を経て、現在のものが成立
 →語られるに従って異同が生じ、
  巻数・内容の差異から多くの異本





全体の構成 【一】(起)諸行無常と盛者必衰の理 【二】(承)遠き異朝の例
【三】(転)近き本朝の例 【四】(結)想像と形容を絶する平清盛公
left★原文・現代語訳★
〈授業の展開〉

【一】諸行無常と盛者必衰の理

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
=(釈迦が人々に説法した)祇園精舎(という寺)の  鐘の音は、諸行無常の(全ての物は変遷・生滅して  永遠なるものはないという)響きがある。

沙羅双樹の花の色、盛者(ジョウシャ)必衰の理(コトワリ)
をあらはす。
=(釈迦が入滅した時、花が白色に変わり二本の樹が  合わさって一本となったと伝えられる)沙羅双樹の  花の色は、(どんなに勢いが)盛んな者も必ず衰える  という道理を表している。

おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
=(世に栄え)驕り高ぶっている人(の栄華)も長くは
 続かず、まるで(覚め易いと言われる)春の夜の夢
 のよう(にはかないもの)である。

猛(タケ)き者も遂には滅びぬ、 ひとへに風の前の塵
(チリ)に同じ。
=勢いが盛んな者も最後には滅び(去っ)てしまう、
 全く風の前の(吹き飛ばされる)塵と同じである。

▼(段落まとめ)
冒頭に「諸行無常」「盛者必衰」とあるように、この
世の全ては移り変わって行き、永遠であるものは存在
しない。

right★補足・文法★        
・祇園精舎=釈迦の(説法の)為に資産家(須達長者)が
 寄進した寺   →精舎=僧が居住する僧院・寺院
★諸行無常=万物は絶えず変遷・生滅するものであり
      不変なものはないということ
 →諸行=この世の全ての事物・現象・存在・行為
鐘をつくと段々と小さくなっていく音には、永遠に
 続くものはない、と悟らせるような響きがある
→祇園精舎の無常堂の鐘は、病者の臨終の際に「諸行
 無常」と聞こえるように響いたという。
・沙羅双樹=釈迦が入滅(死)を迎えた時、最後の説法  をして涅槃(無我の悟りの境地)に入ったとされる  聖木。入滅の時、床の四方にあった一双(二本)の  沙羅の樹がそれぞれ合わさって一本となり、釈迦の  床を覆い、(花の色が淡黄色から)白色になったと  伝えられる       →入滅=釈迦や高僧の死

・おごれ(四段、已然)+る(存続「り」連体)
 →おごる=驕り高ぶる・贅沢をする
・ただ=まるで(…のようだ)・ただもう・単に(だけ)
☆春の夜に見る夢は覚め易く、はかない

・猛し=勢いが盛んだ
・遂には=最後には・結局は
・滅び(バ上二・連用)+ぬ(完了)







left★原文・現代語訳★    
【二】遠き異朝の例

遠く異朝をとぶらへば、
秦の趙高、漢の王莽、梁の朱忌(シウイ)、唐の禄山、
=遠く外国(の例)を探し求めると、秦の趙高、漢の  王莽、梁の朱忌、唐の禄山(などがあるが)、

これらは皆、旧主先皇の政(マツリゴト)にも従はず、
楽しみを極め、諫(イサ)めをも思ひ入れず、
天下の乱れんことを悟らずして、民間の愁ふるところ
を知らざつしかば、
=これらは皆、元の主君や先代の皇帝の政治にも従は
 ず、(栄華を)楽しみ極め、(周囲が)諫めるのも  聞き入れ(ようとせ)ず、天下の乱れる(ような)  ことを悟らないで、民衆たちが嘆き苦しむのを知ら  なかったので、

久しからずして、亡じにし者どもなり。
=(その栄華が)長続きしないで、滅んでしまった者  たちである。

▼(段落まとめ)
遠く外国に探し求めると、栄華が長続きせずに滅んで しまった「盛者必衰」の例が多い。

right★補足・文法★        


・異朝=外国・異国
・とぶらふ=尋ねる・訪れる・探し求める



・乱れ(ラ行下二未然)+ん(婉曲…ような)+こと
・憂ふ=嘆き悲しみ(苦しさ・辛さ・不安)を訴える
    心を悩ます・心配する・病気になる
・知ら+ざつ(ざり促音便)+しか(過去已然)+ば






・亡じ(サ変,用)+に(完了,用)+し(過去,体)







left★原文・現代語訳★
【三】近き本朝の例

近く本朝をうかがふに、
承平の将門、天慶の純友、康和の義親、平治の信頼、
=身近な我が国(の例)を調べてみると、承平の乱の
 将門、天慶の乱の純友、康和の乱の義親、平治の乱
 の信頼(などがあるが)、

これらはおごれる心もたけきことも、
皆とりどりにこそありしかども、
=これらは驕り高ぶる心も勢いが盛んなことも、皆そ
 れぞれであったけれども、(遂には滅んでしまった  者たちである。)

▼(段落まとめ)
身近な我が国も調べてみると、皆それぞれではあった (が、同じように「盛者必衰」の例が多い)。

right★補足・文法★        


・本朝=我が国(の朝廷)
・うかがふ=調べてみる・尋ね求める














left★原文・現代語訳★    
【四】想像と形容を絶する平清盛公

間近くは、
六波羅の入道前(サキノ)太政大臣 平朝臣清盛公と申しし
人のありさま、伝え承るこそ、心も詞も及ばれね。
=(そして)最近(の例として)は(調べてみると)、
 六波羅の入道で前の太政大臣だった平朝臣清盛公と  申した人(がいるが、そ)の有様は、伝え承っても  (伝え承ることは)、心で想像することも言葉で表現  することも(全く)できないほどである。

▼(段落まとめ)
最近では(「盛者必衰」の例として)平清盛がいるが、 その有様は想像や形容を絶するほどであった。

right★補足・文法★        


・入道=(皇族や公卿で)在俗のまま剃髪(ていはつ)
    して、僧衣をつけ仏道に入った人
・朝臣=(平安時代以降)五位以上の人につけた敬称と
    しての姓(かばね)。三位以上は氏の下につけ
    四位・五位は諱(いみな)の下につけた
・及ば()れ(可能「る」未然)ね(打消「ず」已然)
 →及ばず=〜する所まではいかない、〜できない






left★原文・現代語訳★
〈100字要約=24字×4行〉
〇この世の全ては諸行無常で盛者必衰であることは、
 遠い外国や我が国でも幾つもの例が示しているが、
 最近の平清盛公は想像と形容を絶するものがある。

〈参考…祇園精舎〉
前6世紀頃、インドのコーサラ国王プラセーナジット には、太子ジェータ(祇陀太子)がいたが、国の首都 舎衛国に祇陀太子の園林があった。この園林を資産家 のスダッタ(須達)が買い取り、釈迦とその弟子たち の(居住・説法などの)ために僧院を建てて寄進した という。この僧院(寺院)が祇園精舎と呼ばれた。


right★補足・文法★    
「平家物語−祇園精舎」(YouTube 琵琶弾き語り)
「源平を語る」(YouTube 琵琶弾き語り)



〈参考…沙羅双樹〉
『平家物語』にある「沙羅双樹の花の色」とは、
釈迦が入滅(死)を迎えた時、最後の説法をして涅槃 (無我の悟りの境地)に入ったとされる聖木である。 その時、花の色が淡黄色から純白に変化し、東西南北 の四方に生える二本の樹がそれぞれ合わさって一本と なり、釈迦の床を覆った奇跡の樹と伝えられている。
だが、四方にある「サラノキ」が2本ずつ合したから 「沙羅双樹」なのであって、実は沙羅双樹という木は なく、花の色も変わった訳ではなく、花は落って木の 皮が白く変わったのだという。
「サラノキ」は、ネパールからインド北部に自生し、 花は甘い香りがする淡黄色で、小さく大量に集まって 木を包むように咲くそうだ。
            ヘンデル「協奏曲ト短調」

写真は、ネット上のものを無断で借用しているものも あります。どうぞ宜しくお願い致します。

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