left★板書(+発問)★   
(先生の授業ノート……普通クラス)
   新納泉「原始社会像の真実」

〈作品〉
○出典 雑誌「世界思想」(2011年春)(59歳)

〈作者〉
〇昭和27(1952)〜
〇考古学者
 日本の古墳時代を中心に遺物・遺構に即して、コン  ピュータ考古学の手法で社会の動態や特性の解明と  いった研究をする。
○主な著書 『鉄器時代のブリテン』『定東塚・西塚       古墳』『考古学のためのGIS入門』など

〈概要〉
〇社会論
〇時間的に変遷して異なる社会の在り方を述べる。

right★補足(+解説)★   
(小説)2025年2月










全体の構成 【一】(起)戦争がなかったと理想化される原始社会
【二】(承)女性の地位が高かったとされる原始社会
【三】(転)環境を破壊する過ちをした原始古代の人々
【四】(結)現代の見方と異なり多様だった原始社会
left★板書(+発問)★   
〈授業の展開〉

【一】(起)戦争がなかったと理想化される原始社会
                  (導入例1)
@原始社会は<戦争がなかった>と言われる
    ・(そして)戦争は歴史的な産物だから、
     戦争のない社会を実現できると言われる
  ↑
 ・日本列島の旧石器時代や縄文時代の遺跡から、
  例を見いだすことはできない
    ・その意味で今紹介した主張は誤っていない
 <しかし>違和感は拭い去ることができない
    ↓
A何が問題なのか
 ・客観的な事実だけが語られるのではでなく、
  原始社会は平和な(良い)社会だったという評価
  が言外に付加されている
からだ
    ↑
    ・戦争がなかったのは、平和的だったから
     ということとは異なる問題で、
     <集団の規模>や<道具の発達段階>から
     戦争と呼ばれるものに達してなかった

Bでは、実際は
    ・他者を殺すという行為が行われていた
     可能性は排除しておかない方がよい
    ↓
 ・自らの命より平和的であることを優先させた
  と考えるのは難しい
(狩猟採集社会でも)

C大量の殺戮がなかったから、いい社会か
    ↓
 ・<原始社会>はありのままに捉えるべきで、
  現代人の都合で<理想化すべきではない>


▼〈まとめ〉
原始社会は戦争のない平和な社会だったとと言われる が、旧石器時代や縄文時代の遺跡から例を見いだす事 はできないにせよ、集団の規模や道具の発達段階から 戦争と呼ばれるものに達してなかっただけで、実際は 自らの命より平和的であることを優先させたと考える のは難しい。ありのままに捉えるべきで、いい社会だ ったと現代人の都合で理想化すべきではない。

right★補足(+解説)★   





☆人間はより良き社会の実現を目指して生きてきたの  であり、その歴史の中で戦争も起こったのだから、  人間の努力によって戦争はなくす事ができる(?)







☆昔は良かったとよく言われるが、実際はそうでない







☆戦争のない平和な社会だったのか
★他者を殺すという行為は行われていた







☆現代人の視点・価値基準・眼鏡で考えるべきでない
 →文章全体の結論である










left★板書(+発問)★   
【二】(承)女性の地位が高かったとされる原始社会
                  (考察例2)
<もう一つの例>
@原始古代社会の女性の地位
 ・原始古代の<女性の地位が高かった>
  ことを強調する傾向がある
    ・平安時代以前の女性の地位や役割が高く論      じられがちである
    ・背景には、女性が殆ど登場せず、不当に低      く描く歴史があふれていた。
     そのアンチテーゼとして……
    ↑
 ・…水を差す意図はない
 =一つの方向に向かっていたベクトルの向きを修正   するには、望ましい方向に力を加えるのでなく、   元の方向の反対側に力を加えるのが運動の鉄則だ

<しかし>
A最近の考古学・古代史研究は少し異なるニュアンス
 ・古墳の副葬品から、古墳時代に男性支配が大きく   進んだ状況が、時間的・階層的に明らかに
 ・古代戸籍に基づく人口シミュレーションからは、   女性史の通説とはやや異なる社会像が浮かぶ
    ・男性の戸主は配偶者の死とともに、何回も      次第に年の離れた者と再婚を重ねてるが、      女性は年齢を重ねると再婚を避ける傾向
 ・一つの説に過ぎない考え方なので、学術的議論を   戦わせる必要はある

▼〈まとめ〉
原始古代の女性の地位が高かったことを強調する傾向 があるが、最近の考古学・古代史研究は古墳の副葬品 や古代戸籍からなど、少し異なるニュアンスで進んで いる。学術的議論を戦わせる必要はある。

right★補足(+解説)★        




・元始(ゲンシ)=(物事の)始め、起こり、初期の段階
           「元始女性は太陽であった」
 cf原始=自然のまま、未開、おおもと



・アンチテーゼ=ある理論・主張に対する、反対の理         論・主張

☆原始古代の女性の地位が高かったと強調する傾向が  あるのに対して、現代人の価値基準で修正するので  なく、反対の考え方があることも考慮すべきだ(?)


☆原始古代の女性の地位が高かったことを強調する傾  向があるのとは、少しニュアンスが異なる

・シミュレーション=ある状況の動きのモデルをもと           実際の状況を実験的に作り出す           こと











left★板書(+発問)★   
【三】(転)環境を破壊する過ちをした原始古代の人々
                  (考察例3)
@ダイアモンドの著書『文明崩壊』
 〇<環境>の負荷に対する対応を誤ると深刻な結末
  =栄華を極めた<文明が崩壊>
    ・現代の社会の対する警告
    ・古代の人々は環境を守り<豊かな自然>に
     包まれ調和的な生活
を送っていた
  ↓  というのは<誤解>
 モアイ像を建てたイースター島の人々
       島を覆う森林を次々と伐採→滅亡

A<例A>イギリスの景観
 ・かつてはほぼ全土が豊かな森林に覆われていた
 <だが>
 ・緑豊かだったにイギリスの現代の景観は
  新石器時代以来、人々が開発に開発を重ねてきた
  著しい環境改変の産物である
    ・森林の面積は国土の1割以下←日本は7割
 〇原始古代の人々も(現代の私たちと同じように)
  <環境を破壊>し過ちを犯してきた

▼〈まとめ〉
古代の人々は環境を守り豊かな自然に包まれ調和的な 生活を送っていたというのは誤解である。環境の負荷 に対する対応を誤ると深刻な結末をもたらし、栄華を 極めた文明も崩壊するのである。 モアイ像を建てたイースター島の人々は島を覆う森林 を次々と伐採して滅亡した。イギリスもかつてはほぼ 全土が豊かな森林に覆われていたが、新石器時代以来 、人々が開発に開発を重ねてきた著しい環境改変の産 物として森林の面積は国土の1割以下と、日本の7割 に比べるとあまりにも低い。原始古代の人々も、現代 の私たちと同じように、環境を破壊する過ちを犯して きたのだ。

right★補足(+解説)★   
(環境を守り豊かな自然に包まれて、調和的な生活を  送っていた、とされる古代の人々)

・負荷=(義務や責任な)任務を(身に)負うこと





※17世紀まで独自の文明が栄えていたが、森林伐採に  伴う環境破壊により、滅亡に向かったという





・新石器時代=1万年前〜


















left★板書(+発問)★   
【四】(結)現代の見方と異なり多様だった原始社会
                    (結び)
@<実態とは少し異なる>形で描かれた
 <原始社会の姿>
の三つの例
    ↑(ナゼ描カレタカ)
 ・これらは現代の社会を変革していこうという運動   に関わる             (→産物)
 =現在のありようは、不可避のものではなく、
  人類の歴史で存在していたのではないから、
  自分たちの力で変革できるという<論理の産物>
  である。
 ・「近代批判」で古い社会に肯定的な議論があり、   「神話時代」に人間らしさの根源を求める哲学者
   がいる
    ↓↑
<だが>
A原始社会は
 <現代社会の価値基準で位置づけるのではなく>
 <原始社会そのものとして取り扱われるべきだ>

 ・長所や短所、様々な個性を客観的に見つめる
    ・戦争に明け暮れ、性差別が著しい、
     環境を激しく破壊した原始社会も存在した
    ・人類の祖先である類人猿の社会も
     ユートピアではなかった訳だから
  ||
B原始社会は実際には著しく多様であり
 その多様性の中から次の社会が形作られていった

 ・ユートピアではなく、また逆に野蛮でもなかった
      ↑
   ・モノトーンで描かれるのは、
    現代のメガネで見ているから
   ・あまりに極端なシステムを採用した社会は
    生存のための適合性を低下させ、
    システムを将来に残すことができなかった

▼〈まとめ〉
原始社会の姿が実態と少し異なる形で描かれた三つの 例は、現代社会を変革していこうという運動に関わる ものである。即ち、現在のありようは、不可避のもの ではなく人類の歴史で存在していたのではないから、 自分たちの力で変革できるという論理の産物である。 古い社会に肯定的で、人間らしさの根源を求める所が あるからだ。
だが、原始社会は現代社会の価値基準で位置づけるの ではなく、そのものとして客観的に取り扱われるべき だ。実際には著しく多様で、長所や短所や様々な個性 があり、その中から次の社会が形作られていったので ある。

right★補足(+解説)★   



☆戦争・女性の地位・環境

☆戦争がない・女性の地位が高い・環境を守る
 という(実態とは異なる)原始社会の姿
☆戦争・女性・環境問題が存在する現在のありよう
★原始社会から人類の歴史を通じて何も問題はなく、  現在だけが戦争・女性・環境問題が存在するのだ。  だから自分たちの力で変革できるはずだという考え  が背景にあるから、原始社会は肯定的なものになる
・近代批判=合理主義・進歩主義という近代以降の価       値観を批判し、乗り越えようとすること
・神話時代=人間・家族・社会の在り方を乗り越える       可能性を孕む、有史以前の原始社会













・袋小路=行き止まり・詰まり
・モノトーン=単純で、一本調子なさま










left★板書(+発問)★   
〈要約〉
原始社会は戦争のない平和な社会だったとと言われる が、旧石器時代や縄文時代の遺跡から例を見いだす事 はできないにせよ、ありのままに捉えるべきで、良い 社会だったと現代人の都合で理想化すべきではない。
原始古代の女性の地位が高かったことを強調する傾向 もあるが、最近の考古学・古代史研究は古墳の副葬品 や古代戸籍からなど、少し異なるニュアンスで進んで いて、学術的議論を戦わせる必要はある。
また、古代の人々は環境を守り豊かな自然に包まれ、 調和的な生活を送っていたとされるのも誤解である。 環境に対する対応を誤ると深刻な結末をもたらして、 栄華を極めた文明が崩壊する事もあるが、その例が、 モアイ像を建てたイースター島や、かつては森林に 覆われていたイギリスである。原始や古代の人々も、 現代の私たちと同じく、環境を破壊する過ちを犯して きたのだ。
原始社会の姿が実態と少し異なる形で描かれた三つの 例は、現代社会を変革していこうという運動に関わる もので、(問題ある)現在のありようは、人類の歴史 を通じて存在していたのではないから、自分たちの力 で変革できるという論理の産物であり、古い社会に肯 定的で、人間らしさの根源を求める所があるからだ。 だが、原始社会は現代社会の価値基準で位置づけるの ではなく、そのものとして客観的に取り扱われるべき だ。実際には著しく多様で、長所や短所や様々な個性 があり、その中から次の社会が形作られていったので ある。

right★補足(+解説)★   
〈補足…参考資料〉

鈴木孝雄『相手依存の自己規定』(YouTube解説)
         ヘンデル「協奏曲ト短調」
         バッハ「平均律1−24ロ短調」
         温泉旅館「不死王閣」CM

写真は、ネット上のものを無断で借用しているものも あります。どうぞ宜しくお願い致します。

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