left★原文・現代語訳★
「古文現代語訳ノート」(普通クラス)
   紫式部「源氏物語/光源氏の誕生@」

〈出典=「源氏物語」〉
〇成立 平安時代中期(1008年頃)
〇作者 紫式部(当時30歳位)
    一条天皇の中宮彰子(に女房として)出仕
    女流文学が開花した宮廷サロンの才女の一人
先行文学の集大成
 『竹取物語』『伊勢物語』『古今集』『土佐日記』
 (作り物語)(歌物語) (和歌集)(日記)
            ↓
        物語文学として完成
            ↓
        後世への影響(物語・謡曲・小説)
〇内容
 ・54巻から成る長編
 ・主人公(前半)は光源氏
 ・和歌の叙情性を生かした流麗な文体で
  宮廷社会の人間模様を描く
  →人間心理の機微を写実的に描写し、社会と人生
   の真実を追究し、理想の世界を描こうとする
〇主題 「もののあはれ」の情趣
 →儒教的倫理観にとらわれない男女の恋情や
  人間の自然と生じる心の働き
〇書名 主人公の光源氏から命名

〈概要〉
(→要旨)


〈全体の構成〉         (→要約→要旨)

【一】<桐壺更衣への帝の寵愛>

いづれの御時にか、女御、更衣あまた候ひ給ひける中 に、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時め き給ふありけり。
=どの帝の御代だった(ろう)か、女御や更衣(が)
 多くお仕え申し上げていらっしゃった中に、あまり
 高貴な身分ではない(方)で、格別に帝のご寵愛を
 受けていらっしゃる(方or后)がいた。

【二】@<寵愛の周囲への波紋(と白眼視)@>

はじめより我はと思ひ上がり給へる御方方、めざまし きものにおとしめ嫉み給ふ。
=(后として入内した)当初から我こそは(帝の寵愛
 を受けよう)と自負していらっしゃった(女御の)
 方々(は)、(この寵愛を受けていた女性を)目に
 余る不快な者として蔑み妬み(軽蔑嫉妬)なさる。

同じほど、それより下臈の更衣たちは、まして安から ず。
=(この女性と)同じ身分やそれより低い身分の更衣
 たちは、(女御の方々以上に)なおさら心穏やかで
 はない。

朝夕の宮仕へにつけても、人の心をのみ動かし、恨み を負ふ積もりにやありけむ、いと篤しくなりゆき、も の心細げに 里がちなるを、
=朝夕の帝のお側仕えに際しても、(この女性は)他
 の人の心を動揺させてばかりで、恨みを身に受ける
 事が積もり重なった結果だったのだろうか、とても
 病気がちになってゆき、何となく心細そうに実家に
 下がりがちである(の)を、

いよいよあかずあはれなるものに思ほして、人のそし りをもえ憚らせ給はず、<世のためしにもなりぬべき 御もてなし>なり。
=(帝は)ますます限りなく気の毒な(満ち足りる事
 がなくしみじみと愛おしい)者にお思いになって、
 周囲の人が悪口を言うのに対しても気兼ねする事が
 お出来になれない(程)、後世の語り草にもきっと
 なってしまいそうなご待遇(感心しないのなさりよ
 う)である。

【二】A<寵愛の周囲への波紋(と白眼視)A>

上達部、上人なども、あいなく目をそばめつつ、<い とまばゆき人の御おぼえ>なり。
=上達部や殿上人なども、(その様子を)感心しない
 事と(思って)いつも目を背けており、とても見て
 いられない(程の人の)ご寵愛の受け方(ご寵愛ぶ
 り)である。

唐土にも、かかる事の起こりにこそ、世も乱れ、悪し かりけれと、やうやう天の下にもあぢきなう、人のも てなやみぐさになりて、楊貴妃の例も引き出でつべく なりゆくに、
=中国でも、こういう事が原因で世の中も乱れて悪く
 なったのだと、次第に国中でも道理に外れた(具合
 の悪い)事として人々の悩みの種になって、楊貴妃
 の例も引き合いに出してしまいそうになってゆくの
 で、

いとはしたなきこと多かれど、かたじけなき御心ばへ のたぐひなきを頼みにてまじらひ給ふ。
=(この方は)とても決まりが悪い事(が)多いが、
 勿体ない帝のご愛情(寵愛)が類なく強い(の)を
 頼りにして(他の方々と交じって)宮仕えなさる。

【三】@<更衣の母(の支え)>

父の大納言は亡くなりて、母北の方なむ古の人の由あ るにて、
=(この方の)父の大納言は亡くなって(いて)、母
 (の)北の方は昔風の人で由緒ある家柄(の人)で
 あって、

親うち具し、さしあたりて世のおぼえ華やかなる御方 々にもいたう劣らず、なにごとの儀式をももてなし給 ひけれど、
=両親が揃っており今のところ世間の評判(が)華や
 かで時めいている(女御の)方々にもあまり見劣る
 事なく、どんな儀式も取り計らいなさっていたが、

とりたててはかばかしき後ろ見しなければ、事ある時 は、なほ拠り所なく心細げなり。
=取り上げる程のしっかりとした後見人(も)いない
 ので、何か事ある時はやはり頼るあて(が)なくて
 心細そうである。

【三】A<玉の男御子の誕生>

前の世にも御契りや深かりけむ、世になく清らなる玉 の男御子さへ生まれ給ひぬ。
=(帝とこの方は)前世でもご縁(が)深かったのだ
 ろうか、世にまたとない(程の)清らかで美しい玉
 のような皇子までもお生まれになった。

いつしかと心もとながらせ給ひて、急ぎ参らせて御覧 ずるに、めづらかなる稚児の御容貌なり。
=(帝は)早く(見たい)と待ち遠しくお思いになら
 れていて、(皇子を)急いで参内させて御覧になる
 と、めったにない程の(美しい)赤ん坊のご容貌で
 ある。

【四】<帝の皇子への思い>

一の皇子は、右大臣の女御の御腹にて、寄せ重く、疑 ひなき儲の君と、世にもてかしづき聞こゆれど、
=第一皇子は、右大臣(家出身)の女御からお生まれ
 になった方であって、後ろ盾(が)重々しく、疑い
 なく皇太子(となられる人)として、世間で大事に
 お世話し申し上げるが、

この御にほひには並び給ふべくもあらざりければ、お ほかたのやむごとなき御思ひにて、
=この(新たにお生まれになった皇子の)美しさには
 お並びになる事が出来そうもなかったので、(帝は
 第一皇子に対して)一応(皇太子候補である)高貴
 な方として(通り一遍)のお愛情であって、

この君をば、私物に思ほしかしづき給ふこと限りなし。
=この(新たにお生まれになった)皇子は、自分の宝
 物にお思いになりこの上もな大事になさった。

〈人物系図〉
右大臣
 |―――弘徽殿女御
 女    |――一の皇子(皇太子→朱雀帝)
      |――皇女たち
    <桐壺帝>
大納言(故)|――玉の男御子(光君→光源氏)
 |――<桐壺更衣>
北の方


〈各段落まとめ〉
    ↓
〈150字要約〉


right★補足・文法★
(物語)2018年12月


〈作者→補足〉978〜1015年頃
・受領階級の藤原為時の娘、漢学・和歌・音楽の教養
 →勅撰和歌集に60余首が入集
 →有名な歌人・学者などが出た家系
 →縁者に『蜻蛉日記』『更級日記』の作者
・幼時に母を失い、22歳で結婚、一女を生む
・2年後の夫の死後(1001年)『源氏物語』執筆
・1007年中宮彰子に出仕、翌年に大部分が完成
・名前は『源氏物語』で「紫上」を描いた事による
 →「若紫やさぶらふ」と藤原公任に問われる
 →父・兄が「式部丞」→式部(?)

※3部構成
 ・第1部(1桐壺〜33藤裏葉)源氏の誕生〜恋の
  遍歴〜不遇な時〜准太政大臣(栄華)の40年間
 ・第2部(34若菜上〜41幻)過ちの因果の苦悩
  〜傷つけ合う内面〜出家の決意(晩年14年間)
 ・第3部(42匂宮〜54夢浮橋=宇治十帖)宿命
  の子・薫の世代〜宇治を背景〜恋に揺れ動く姿
・本居宣長『源氏物語玉の小櫛』


・「(光)源氏の物語」「紫の(ゆかりの)物語」等
 とも呼ばれる(←「紫式部日記」「更科日記」))








・御時=帝の御代・ご治世
・…に(断定「なり」連用形)か(疑問)
 +あり()けむ(過去推量)=…であっただろうか
・女御・更衣=天皇の妃の位→皇后・中宮が最高位
・やむごとなし=高貴な身分だ・並大抵でなく格別だ
・際(身分)…あら()ぬ(打消)が(同格=…で)
・ときめく=帝からの寵愛を受け(て栄え)る



・入内(じゅだい)=帝の妃として内裏に入ること
               (宮中)
・…給へ(尊敬・補助動詞)る(存続)
・目覚まし=気にくわない・目に余る
 →身の程を越えて意外と感じる意

★女御は、大臣家の出身である故に帝に寵愛される
 だとの余裕と誇りがあった。だが、父の身分が高く
 ない更衣はその機会が期待できず、身分が高い女御
 なら納得できるが、何故あの更衣だけがという羨望
 と嫉妬が生じた(←身分が全ての世の中)
 →更衣の身分と分かる(→桐壺更衣と呼ばれる)

・宮仕へ→ご奉公・お側仕え・更衣や食事のお供?
・…に(断定)や(疑問)あり()けむ(過去推量)
 =…であっただろうか
・篤(あつ)し=病気が重い・病気がちだ(熱し?)
・里がちなり=実家に帰っていることが多い




・飽かず=満ち足りない・飽きる事がない
・思(おも)ほす=「思ふ」の尊敬語(←す=尊敬)
・謗り=悪口・非難
・え(副詞)…ず(打消)=…できない
・世のためし=後世の語り草(世間での良くない例)
・なり()ぬ(強意)べき(推量)→桐壺帝の溺愛






・上達部=大臣や大納言など三位以上の公卿
・上人=宮中の殿上の間に上れる五位以上の殿上人
・あいなし=不都合/無益だ・感心しない・訳もなく
・側(そば)む=横を向く・すねる・道をそれる
 →正視しない、目を背ける
・まばゆし=まぶしい(ほど美しい・立派だ)
      恥ずかしい・度が過ぎて見ていられない
★帝が(道理を考えずに)一人の女性を溺愛する事
・事の起こり=その事が起こった原因・事の発端
・悪しかり(「悪し」連用形)けれ(詠嘆)
・あぢきなし=道理に外れた/合わない・つまらない
☆楊貴妃が唐の玄宗皇帝の寵愛を受け、国を傾けた
 →安史の乱(755〜763年)
・引き出づ=(ダ行下二段)例として引き合いに出す



・はしたなし=中途半端/不似合いだ・決まりが悪い
・交じらふ=交際する・宮仕えする






・北の方=(大納言の)正妻・正室・奥方
・古の人=古風な人・昔風な家柄の人(←連語)
・由有り=由緒(訳)がある・奥ゆかしい趣がる



・さしあたりて=今のところ
・うち具す=備わっている・伴う・連れている





・はかばかし=てきぱき事が進む・しっかりしている
・後ろ見=世話をする人・後見人・後ろ盾
・…し(強意・副助詞)なけれ(形容詞)ば(接助)





・契り=前世からの宿縁・約束
・世になく=世にまたとない(程の)
・…さへ=(その上)…までも(添加・副助詞)



・いつしか=早く・いつの間にか・いつ…だろうか
・心もとながる=待ち遠しく(じれったく)思う
・参らす=参上させる・(…して)差し上げる
 →参内=内裏(宮中)に参上する事
・御覧ず=(サ変)「見る」の尊敬語
・めづらかなり=めったにない程(美しい)



・寄せ=後ろ盾・後見人・信望・心を寄せる事
・儲の君=皇太子
・かしづく=大切に世話をする/育てる




・匂ひ=(輝くような)美しさ・つややかな美しさ











〈周囲への同心円的波紋・白眼視〉
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 ||||更衣=帝→女御 →上達部→天の下|
 ||||(寵愛)|更衣 |上人 |=国中|
 ||||――――|=後宮|=宮中| 世間|
 |||―――――――――| 女官|   |
 ||――――――――――――――|   |
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